<入寮(5):改善要求> [片いなか・ハイスクール]
東日本大震災被災地がんばれ!
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「片いなか・ハイスクール」連載第199回
<入寮(5):改善要求>
1月14日、木曜日。
学校。
裕美子の話を聞いたアロンは驚いた。
「そりゃひどいなあ。俺の方がよっぽどいい生活してるぞ」
「わたしこれからちょっと生活指導の先生のところに行ってきます」
「タバコの件も言うの?」
「それは今回は言いません。他の人に迷惑かけるなら考えますけど・・」
裕美子はアロンを指さした。
「その前にアロン君達も、たまにお酒飲んでるでしょ。一人暮らしで誰も見てないからって、あれだめですよ」
「そ、その件も言わないようにしてください」
生活指導の先生に、裕美子は寮のこと、特に食事面について訴えた。
「寮から食事って提供されるものじゃなかったんですか?・・育ち盛りの女の子が、自炊でしかも満足に料理指導も受けずにでは、勉強以前に成長に支障あります」
「そんなだったとは知らなかった。食事のことは・・・ちょっと校長と相談してみるよ。ただね・・・あの寮、理事長の親類が好意でやってることになっていて。あまり意見が言えないんだ。一ぺん入ってみても出ちゃう子多いのはそんなだからなんだ。ひどい言い方すれば改善要望もなかなか通らないし、管理監督も学校からはほとんど及ばないってのかな」
「そんな・・寮生を保護できないってことですか?」
「今いる連中はそんな中でうまくやっていけるのが残ってるんだろ」
「・・・うまくやってるってのは、誰が見て判断されてるんですか?」
「・・・」
生活指導の先生は何も言い返せなかった。
一緒についていったアロンが腕を組む。
「なんかめずらしく分校の闇の部分を見た気がするなあ」
「小泉君が中から改革してみてはどうだい?」
「学校側の援護も得られないかもしれないのに?・・・とにかく栄養失調者がでないうちに対策お願いします」
放課後、生活指導の先生がC組にやってきた。
「喜べ小泉、校長の計らいでカロリーバーが一人1日1本分毎月届くように寮の管理人と交渉成功したそうだ。これで栄養失調はなんとかクリアできそうだぞ」
裕美子は無表情のまましばらく固まると、ぺこりとお辞儀を一つした。当然あきれていたのだ。
アロンが去って行った生活指導の先生の背中へ向かって言った。
「本気で言ってるのか?あれ!」
「・・・校長先生でもそれで精いっぱいな干渉なんですよ、きっと」
「独立国家への内政干渉じゃあるまいし。門限なければ俺らと飯食っていけるのに。そんな生活させられた上に門限?」
「料理は好きだから自分の分作るなら構わないけど・・・寮生みんなのを、献立考えて、それもしょっちゅう当番させられたんじゃ、学生生活に支障ありますよ・・」
「次は保護者からクレームだな。お父さんお母さんから学校へ苦情言ってもらおうよ。今の寮生は文句ないのか?」
「そうですね・・あ、同好会行かなきゃ」
「俺も道場だ。じゃあ夜また電話かメールちょうだい」
「はい」
裕美子は同好会へ行く途中にB組のカミラと出会った。
裕美子はカミラに親経由でいろいろクレームと改善要望を出すのを考えてることを言った。すると・・・
「いや、やめて。その・・今の上級生はあの寮に不満なんてもってないのよ。あの人たちは現状維持を望むと思うわ。・・・そんな状況に寮管が頑固に出たら・・きっと意見も通らないし、あなたも寮での立場が悪くなるわ」
「カミラさんは不満ないんですか?・・なんか2年生達にいいようにされてませんか?」
「・・・いいえ。こういう形であっても、私を構ってくれるんだから・・」
裕美子はカミラの答えに少し驚いた。
「あなたがその環境でいいっていうならそれでもいいけど・・・でもそれは本当の仲間、友達じゃないと思いますよ」
「・・・・小泉さんて、もっと私に近い人かと思ってたけど・・全然違うのね。あなたは強いんだ・・」
「そんな・・こと、ないですよ・・」
この子はどこで歯車が狂ってしまったのだろう。なぜ自分はたくさんのいい友達にめぐり合えているのだろう。裕美子はそんな環境でしかアイデンティティを保てないというカミラが気の毒だった。
「あ、小泉さん、昨日はありがとう。今晩作ってみるね」
「ハイ。頑張って下さい。簡単だから大丈夫ですよ」
次回「入寮(6):自主作成ルール」へ続く!
前回のお話「入寮(4):もう一人の1年生」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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「片いなか・ハイスクール」連載第199回
<入寮(5):改善要求>
1月14日、木曜日。
学校。
裕美子の話を聞いたアロンは驚いた。
「そりゃひどいなあ。俺の方がよっぽどいい生活してるぞ」
「わたしこれからちょっと生活指導の先生のところに行ってきます」
「タバコの件も言うの?」
「それは今回は言いません。他の人に迷惑かけるなら考えますけど・・」
裕美子はアロンを指さした。
「その前にアロン君達も、たまにお酒飲んでるでしょ。一人暮らしで誰も見てないからって、あれだめですよ」
「そ、その件も言わないようにしてください」
生活指導の先生に、裕美子は寮のこと、特に食事面について訴えた。
「寮から食事って提供されるものじゃなかったんですか?・・育ち盛りの女の子が、自炊でしかも満足に料理指導も受けずにでは、勉強以前に成長に支障あります」
「そんなだったとは知らなかった。食事のことは・・・ちょっと校長と相談してみるよ。ただね・・・あの寮、理事長の親類が好意でやってることになっていて。あまり意見が言えないんだ。一ぺん入ってみても出ちゃう子多いのはそんなだからなんだ。ひどい言い方すれば改善要望もなかなか通らないし、管理監督も学校からはほとんど及ばないってのかな」
「そんな・・寮生を保護できないってことですか?」
「今いる連中はそんな中でうまくやっていけるのが残ってるんだろ」
「・・・うまくやってるってのは、誰が見て判断されてるんですか?」
「・・・」
生活指導の先生は何も言い返せなかった。
一緒についていったアロンが腕を組む。
「なんかめずらしく分校の闇の部分を見た気がするなあ」
「小泉君が中から改革してみてはどうだい?」
「学校側の援護も得られないかもしれないのに?・・・とにかく栄養失調者がでないうちに対策お願いします」
放課後、生活指導の先生がC組にやってきた。
「喜べ小泉、校長の計らいでカロリーバーが一人1日1本分毎月届くように寮の管理人と交渉成功したそうだ。これで栄養失調はなんとかクリアできそうだぞ」
裕美子は無表情のまましばらく固まると、ぺこりとお辞儀を一つした。当然あきれていたのだ。
アロンが去って行った生活指導の先生の背中へ向かって言った。
「本気で言ってるのか?あれ!」
「・・・校長先生でもそれで精いっぱいな干渉なんですよ、きっと」
「独立国家への内政干渉じゃあるまいし。門限なければ俺らと飯食っていけるのに。そんな生活させられた上に門限?」
「料理は好きだから自分の分作るなら構わないけど・・・寮生みんなのを、献立考えて、それもしょっちゅう当番させられたんじゃ、学生生活に支障ありますよ・・」
「次は保護者からクレームだな。お父さんお母さんから学校へ苦情言ってもらおうよ。今の寮生は文句ないのか?」
「そうですね・・あ、同好会行かなきゃ」
「俺も道場だ。じゃあ夜また電話かメールちょうだい」
「はい」
裕美子は同好会へ行く途中にB組のカミラと出会った。
裕美子はカミラに親経由でいろいろクレームと改善要望を出すのを考えてることを言った。すると・・・
「いや、やめて。その・・今の上級生はあの寮に不満なんてもってないのよ。あの人たちは現状維持を望むと思うわ。・・・そんな状況に寮管が頑固に出たら・・きっと意見も通らないし、あなたも寮での立場が悪くなるわ」
「カミラさんは不満ないんですか?・・なんか2年生達にいいようにされてませんか?」
「・・・いいえ。こういう形であっても、私を構ってくれるんだから・・」
裕美子はカミラの答えに少し驚いた。
「あなたがその環境でいいっていうならそれでもいいけど・・・でもそれは本当の仲間、友達じゃないと思いますよ」
「・・・・小泉さんて、もっと私に近い人かと思ってたけど・・全然違うのね。あなたは強いんだ・・」
「そんな・・こと、ないですよ・・」
この子はどこで歯車が狂ってしまったのだろう。なぜ自分はたくさんのいい友達にめぐり合えているのだろう。裕美子はそんな環境でしかアイデンティティを保てないというカミラが気の毒だった。
「あ、小泉さん、昨日はありがとう。今晩作ってみるね」
「ハイ。頑張って下さい。簡単だから大丈夫ですよ」
次回「入寮(6):自主作成ルール」へ続く!
前回のお話「入寮(4):もう一人の1年生」
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くぼたんさん、HAtA.さん、bitさん、xml_xslさん、F−USAさん、niceありがとうございます。
by TSO (2011-05-05 21:46)
あいか5drrさん、りたーむさん、ncieありがとうございます。
by TSO (2011-05-07 22:19)