<バレンタイン(6):俺には見せる顔> [片いなか・ハイスクール]
東日本大震災被災地がんばれ!
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「片いなか・ハイスクール」連載第225回
<バレンタイン(6):俺には見せる顔>
夕食の片付けも終わった後、4人はそのまま勇夫の部屋にいた。
勇夫の部屋にはコタツがあった。4人はそこに足を突っ込んでテレビの映画を見ていた。
テレビを正面にして勇夫。右となりにレソフィック。その向かいがアロンというのが定位置である。裕美子はアロンの横だが、少し遠慮して角のところにいた。
ふと気がつくと、裕美子がうとうとしている。
「アクション映画にも臆さず居眠りしてるぜ。マイペースなねーちゃんだな」
レソフィックが顎をしゃくって指した。
「裕美子、眠い?」
「ふわ?・・・あぁ、コタツって気持ちいいですね」
目の前の湯飲みを取ると、お茶を飲み干した。
「明日早いから、わたしもう戻ります」
立ち上がった裕美子にレソフィックが言った。
「まだ8時ちょっとだぜ」
「今からお風呂ゆっくり入ったら出るの9時頃だし、ちょうどいいです」
「小学生なみだな」
「アロン君は映画見てくんでしょう?」
「うん」
「終わるのは10時半頃か?。そうするともう小泉は夢の中だな」
裕美子は台所へ湯飲みを洗いに行った。
「2人きりって言っても、寝ちゃってるんじゃアロンも何もできねぇな」
「寝顔にキスでもしてやるさ」
「おっ、かっこいーじゃん。さすが同棲先駆者だな。で、そのまま横に潜り込んで?」
洗い終わった裕美子がアロンの横に戻ってきた。
「男の人ってそんな話ばかりですね。あの狭いベッドに2人で寝ること自体現実的じゃないの知ってるくせに」
「でも寝たことあるんだろ?」
「アロン君落ちましたよ」
「抱きついてりゃいいじゃん」
「息苦しくて一晩じゅうなんてやってられません」
間髪入れずに返す様にレソフィックが肩を落とした。
「そんな色気なく即答しなくたっていいじゃん」
「それが現実だし。・・・わたし、つまんないですか?」
「でも、アロンにはそんなじゃないんだろ?」
裕美子とレソフィックはアロンの方を向いた。
アロンは裕美子の顔を見て思った。
『確かにお父さんほどじゃないけど、こう見ると俺には結構素直に気持ちを表してるんだな・・』
「お前とのやりとりと比べりゃはるかにかわいくって色っぽいよ」
「ほんと?」
アロンの答えに裕美子の方が傾げた首を起こして聞き返した。
「お父さんの前だともっとかわいくなるんだけどね」
「え、え?それさっきも言ってましたね・・」
「それが16年一緒の家族と、数カ月の彼氏の差なんだろうな」
「そりゃそうだろ、親は生まれたときから知ってんだから。家族と同じにはならんよ」
「裕美子は自然体なほどかわいくなるから。まだ俺の見たことない姿があるのかな」
また裕美子は半開きな口をしてアロンを眺めていた。
「でも寝る前の裕美子は、いつもすごくかわいいと思ってるよ」
「寝る前?なになに?どんなふうに?」
レソフィックが興味しんしんと聞いてきた。
「寝る前、いつもキスするんだよね」
「ちょっ、ちょっとアロン君!」
裕美子が赤くなってきた。
アロンはにやっとレソフィックに向かって笑った。
「裕美子、調子合わせて。内容はちょっと嘘入ってもいいから。今から。いい?」
裕美子はちょっと不思議そうな顔をしてから、目で頷くとアロンの横に座った。
「俺ら寝る前におやすみの挨拶するとキスすることにしてんだ。裕美子のところ行くとさ、風呂上りでいいにおいがして、ほっぺたいい色しててさ。その顔に『おやすみ』って。なっ?」
「はい。わたしも『おやすみなさい』って。返します」
「そしたら裕美子の手を取って引き寄せる」
ちらりと裕美子を見る。意図を察したように裕美子が応答した。
「わたしは引き寄せられて、アロン君の胸に飛び込むわ」
「上を向いた裕美子の顔をしばらく眺めるんだ。たいてい赤い顔してて、そのときがまたかわいいんだ」
「あんまり見つめられて恥ずかしいから、わたしはもう背伸びして、アロン君に顔寄せちゃうの。早くって」
予想以上に色気たっぷりの脚色が入ってきてアロンは少し焦ったが、合わせることにした。
「おでこをコツンてぶつけるまで近付くと、裕美子の鼓動が聞こえてくる」
「わたしにもアロン君の鼓動が聞こえてくる。体温が暖かく感じて、吐息が熱く感じる。わたしは手をアロン君の首に回して、そのときを待つの」
ごくりとレソフィックがのどを鳴らした。真ん中で挟まれてる勇夫まで真っ赤な顔して横目で見ていた。
「そしてようやく二人は唇を交わす」
「わたしはその余韻に浸りながら、彼の胸に抱かれるの。彼の安心できる匂い。ちょっと高鳴った鼓動。うれしさでいっぱいになる」
「俺は裕美子の肩を抱いてベッドの方へ足を進める」
裕美子が、まだやるの?という目線を投げかけた。アロンは調子に乗って続けた。
「そして抱き抱えるとベッドに静かに寝かすんだ」
「・・・。ベッドは狭いから、わたしは体をずらして端に寄って場所を作ると、手を広げて彼を迎え入れるの」
「ひ、一人で寝るんじゃないの?」
アロンが困惑した。
「狭いから遠慮してたらベッドから落ちちゃう。だから横に来た彼にわたしは半身を被せるようにして、手を回して、頬を寄せて、もいっかい『おやすみ』って言ってから目を閉じるの」
アロンが続かなくなってしまった。
アロンは裕美子に近寄ると、そのメガネに手をかけて取ってみた。ほっぺたをいい色に染めて、少し潤ませたような瞳。どこが無感情だって?レソフィックと勇夫もドキッとする色っぽい表情だった。
レソフィックが赤い顔して言った。
「映画よりよっぽど面白れぇ。けど、それ続けられたら寝らんなくなりそうだ。毎晩そんなことしてんだ」
「今のはやりすぎだよ・・。けどどうだ、裕美子もかわいいだろ?」
「わ、わたし演技入ってましたけど」
慌ててアロンからメガネを取り返すと、すちゃっと装着していつもの無表情に戻った。
「さすが小泉だよ。アロンが気に入るわけだ」
「すみません、わたし早く寝たいから帰ります」
裕美子が立ち上がった。
「みなさん、おやすみなさい」
「おー、おやすみ」
「おやすみ」
「・・・」
しばし裕美子は無言で立ち止まったままアロンを見下ろしていると、お尻をちょんとアロンの頭にぶつけて部屋を出て行った。
アロンが当たったところを手で押さえて固まった。
勇夫とレソフィックも沸騰しそうな顔している。
「小泉も色っぽいのがよくわかったよ。それでよく何も起こらないでいられるな」
「それだけオヤジ共の圧力感じるんだよっ!」
次回「バレンタイン(7):バレンタイン当日」へ続く!
前回のお話「バレンタイン(5):彼女は能面?」
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「片いなか・ハイスクール」連載第225回
<バレンタイン(6):俺には見せる顔>
夕食の片付けも終わった後、4人はそのまま勇夫の部屋にいた。
勇夫の部屋にはコタツがあった。4人はそこに足を突っ込んでテレビの映画を見ていた。
テレビを正面にして勇夫。右となりにレソフィック。その向かいがアロンというのが定位置である。裕美子はアロンの横だが、少し遠慮して角のところにいた。
ふと気がつくと、裕美子がうとうとしている。
「アクション映画にも臆さず居眠りしてるぜ。マイペースなねーちゃんだな」
レソフィックが顎をしゃくって指した。
「裕美子、眠い?」
「ふわ?・・・あぁ、コタツって気持ちいいですね」
目の前の湯飲みを取ると、お茶を飲み干した。
「明日早いから、わたしもう戻ります」
立ち上がった裕美子にレソフィックが言った。
「まだ8時ちょっとだぜ」
「今からお風呂ゆっくり入ったら出るの9時頃だし、ちょうどいいです」
「小学生なみだな」
「アロン君は映画見てくんでしょう?」
「うん」
「終わるのは10時半頃か?。そうするともう小泉は夢の中だな」
裕美子は台所へ湯飲みを洗いに行った。
「2人きりって言っても、寝ちゃってるんじゃアロンも何もできねぇな」
「寝顔にキスでもしてやるさ」
「おっ、かっこいーじゃん。さすが同棲先駆者だな。で、そのまま横に潜り込んで?」
洗い終わった裕美子がアロンの横に戻ってきた。
「男の人ってそんな話ばかりですね。あの狭いベッドに2人で寝ること自体現実的じゃないの知ってるくせに」
「でも寝たことあるんだろ?」
「アロン君落ちましたよ」
「抱きついてりゃいいじゃん」
「息苦しくて一晩じゅうなんてやってられません」
間髪入れずに返す様にレソフィックが肩を落とした。
「そんな色気なく即答しなくたっていいじゃん」
「それが現実だし。・・・わたし、つまんないですか?」
「でも、アロンにはそんなじゃないんだろ?」
裕美子とレソフィックはアロンの方を向いた。
アロンは裕美子の顔を見て思った。
『確かにお父さんほどじゃないけど、こう見ると俺には結構素直に気持ちを表してるんだな・・』
「お前とのやりとりと比べりゃはるかにかわいくって色っぽいよ」
「ほんと?」
アロンの答えに裕美子の方が傾げた首を起こして聞き返した。
「お父さんの前だともっとかわいくなるんだけどね」
「え、え?それさっきも言ってましたね・・」
「それが16年一緒の家族と、数カ月の彼氏の差なんだろうな」
「そりゃそうだろ、親は生まれたときから知ってんだから。家族と同じにはならんよ」
「裕美子は自然体なほどかわいくなるから。まだ俺の見たことない姿があるのかな」
また裕美子は半開きな口をしてアロンを眺めていた。
「でも寝る前の裕美子は、いつもすごくかわいいと思ってるよ」
「寝る前?なになに?どんなふうに?」
レソフィックが興味しんしんと聞いてきた。
「寝る前、いつもキスするんだよね」
「ちょっ、ちょっとアロン君!」
裕美子が赤くなってきた。
アロンはにやっとレソフィックに向かって笑った。
「裕美子、調子合わせて。内容はちょっと嘘入ってもいいから。今から。いい?」
裕美子はちょっと不思議そうな顔をしてから、目で頷くとアロンの横に座った。
「俺ら寝る前におやすみの挨拶するとキスすることにしてんだ。裕美子のところ行くとさ、風呂上りでいいにおいがして、ほっぺたいい色しててさ。その顔に『おやすみ』って。なっ?」
「はい。わたしも『おやすみなさい』って。返します」
「そしたら裕美子の手を取って引き寄せる」
ちらりと裕美子を見る。意図を察したように裕美子が応答した。
「わたしは引き寄せられて、アロン君の胸に飛び込むわ」
「上を向いた裕美子の顔をしばらく眺めるんだ。たいてい赤い顔してて、そのときがまたかわいいんだ」
「あんまり見つめられて恥ずかしいから、わたしはもう背伸びして、アロン君に顔寄せちゃうの。早くって」
予想以上に色気たっぷりの脚色が入ってきてアロンは少し焦ったが、合わせることにした。
「おでこをコツンてぶつけるまで近付くと、裕美子の鼓動が聞こえてくる」
「わたしにもアロン君の鼓動が聞こえてくる。体温が暖かく感じて、吐息が熱く感じる。わたしは手をアロン君の首に回して、そのときを待つの」
ごくりとレソフィックがのどを鳴らした。真ん中で挟まれてる勇夫まで真っ赤な顔して横目で見ていた。
「そしてようやく二人は唇を交わす」
「わたしはその余韻に浸りながら、彼の胸に抱かれるの。彼の安心できる匂い。ちょっと高鳴った鼓動。うれしさでいっぱいになる」
「俺は裕美子の肩を抱いてベッドの方へ足を進める」
裕美子が、まだやるの?という目線を投げかけた。アロンは調子に乗って続けた。
「そして抱き抱えるとベッドに静かに寝かすんだ」
「・・・。ベッドは狭いから、わたしは体をずらして端に寄って場所を作ると、手を広げて彼を迎え入れるの」
「ひ、一人で寝るんじゃないの?」
アロンが困惑した。
「狭いから遠慮してたらベッドから落ちちゃう。だから横に来た彼にわたしは半身を被せるようにして、手を回して、頬を寄せて、もいっかい『おやすみ』って言ってから目を閉じるの」
アロンが続かなくなってしまった。
アロンは裕美子に近寄ると、そのメガネに手をかけて取ってみた。ほっぺたをいい色に染めて、少し潤ませたような瞳。どこが無感情だって?レソフィックと勇夫もドキッとする色っぽい表情だった。
レソフィックが赤い顔して言った。
「映画よりよっぽど面白れぇ。けど、それ続けられたら寝らんなくなりそうだ。毎晩そんなことしてんだ」
「今のはやりすぎだよ・・。けどどうだ、裕美子もかわいいだろ?」
「わ、わたし演技入ってましたけど」
慌ててアロンからメガネを取り返すと、すちゃっと装着していつもの無表情に戻った。
「さすが小泉だよ。アロンが気に入るわけだ」
「すみません、わたし早く寝たいから帰ります」
裕美子が立ち上がった。
「みなさん、おやすみなさい」
「おー、おやすみ」
「おやすみ」
「・・・」
しばし裕美子は無言で立ち止まったままアロンを見下ろしていると、お尻をちょんとアロンの頭にぶつけて部屋を出て行った。
アロンが当たったところを手で押さえて固まった。
勇夫とレソフィックも沸騰しそうな顔している。
「小泉も色っぽいのがよくわかったよ。それでよく何も起こらないでいられるな」
「それだけオヤジ共の圧力感じるんだよっ!」
次回「バレンタイン(7):バレンタイン当日」へ続く!
前回のお話「バレンタイン(5):彼女は能面?」
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☆☆ 災害時 安否確認 ☆☆
xml_xslさん、ぼんぼちぼちぼちさん、あいか5drrさん、HAtA.さん、綾小路曽根斗麿さん、こさぴーさん、niceありがとうございます。
by TSO (2011-07-31 19:54)
こんばんは!
カバトット・・・・・カバとトットでカバトット!
個人的にはポールがみたいのですが・・・・
by やま (2011-07-31 20:46)
やまさん、(。・_・。)2kさん、shin.sionさん、niceありがとうございます。
やまさん、コメントありがとうございます。
カバトットはなぜかうちに単行本のマンガあるんです。ポールのミラクル大作戦とはなかなかマニアですね。
by TSO (2011-08-06 21:31)