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<バレンタイン(7):バレンタイン当日> [片いなか・ハイスクール]

東日本大震災被災地がんばれ!

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「片いなか・ハイスクール」連載第226回
<バレンタイン(7):バレンタイン当日>


2月14日 日曜日。


「こんちわー」
「呼ばれたから、来てやったぞ」

バレンタインの日。ハウルが家の玄関のドアを開けたら、そこにいたのは勇夫達だった。

「な、なんで一番手が勇夫達なの?アロン、裕美子は?」
「いるよ」

男どもの影に隠された裕美子がひょこっと顔を出した。

「おはようございます」
「ああ、よかった。むさくるしい連中ばっかりだったら家にあげるのためらうところだったわ」
「そりゃひでぇよ」

すぐにカーラとクリスティンもやってきて、予定のメンバーは全員揃った。
ハウルの家のリビングで、なぜか裕美子がお茶を入れて運んできた。

「サンキュー、裕美子」
「なんでユミちゃんが持ってくるのよ」
「そうだよハウル、変だぞ」
「え?いや、こういうのは気が利く人がやるのが一番だから・・」
「ハウルさん、チョコ持ってきましょう」
と、裕美子がハウルを連れていくと、カーラとクリスティンもそれについていった。


しばらく男達はリビングで待っていたが、向こうの方で女の子達がきゃいのきゃいのと騒いでいて、なかなかやって来る気配がない。

「何か盛り上がっちゃってるな」
「先につまみ食いしてんじゃないか。様子見に行く?」
と、しびれを切らしそうな頃、ようやくやってきた。

「はーい、みなさんどうぞ」




カーラからレソフィックと勇夫に大きな箱が渡された。ふたを開けると、バラ積み状態でいろんな形のチョコがたくさん入っていた。ナッツ類が乗ってたり、ドライフルーツや生のベリーが乗ってたりしている。

「わあ、すげー」

勇夫がものすごい喜びようだ。

「おもしれえ。食べていいの?」

レソフィックが一つつまみながら聞いた。

「もちろーん。勇夫のは間違ってないよね?」

なにやら意味ありげにハウルが言う。

「どういう意味だ?・・・うわ、なんだこのとぐろ状のは!」

中から一つ異様なのを見つけた勇夫が叫んだ。

「ヘビ、ヘビ」

にやにやしながらハウルが答える。

「うそだ!これう○このつもりだろ!」
「ヘビだってば~」
「ハウル・・悪趣味。おまえ女かほんとに」
「ヘビだよ~。勇夫なら食えるって。きゃはは」
「へんなの入ってないだろうな」
「形だけよ~。ミルクチョコ100%だから~」
「それがお前への愛の形だって」

レソフィックがにこにこしながら言うが、

「う○こが?!」

と勇夫。

「別に愛じゃないわよ」

とハウルも否定する。

クリスティンが

「これはひろき君への分」

と、これまた大きな箱を持ち出した。

「クール便で送るからね」

裕美子の両親と引っ越してしまったひろきへ、クリスティンは特別製のを作ったのだ。

「こっちはリーダーの。ハウル、明日忘れずに学校持ってくるのよ。本当に大丈夫?」

カーラが信用のない目で見た。

「必要のないものは忘れちゃうから大丈夫かな。だからこっちにもヘビとかいれようよって言ったのに」
「そういうの入れると必要なものに変わるの?」
「楽しみは忘れないのよね~」
「リーダーに失礼です。ハウルは私が明日の朝フォローするわ」

さすがこの辺は手馴れたクリスティンである。
そして裕美子もまた大きな箱を持ってきた。

「はい・・、アロン君」
「でか!中見てもいい?」
「う・・ん」
「それこそ愛の形よ」

とハウルがうれしそうに言う。
アロンはふたを開けてみた。
箱いっぱいの大きなハートだった。しかも上にはホワイトチョコを使って何か書いてある。

「うわぁ」

アロンは真っ赤になった。

「シンプルに・・しました」

裕美子は照れながら言った。

「裕美子ったら、『これは模様です』って言って教えてくれないんだけど、それ字よね?」

ハウルに聞かれたので勇夫は覗き込むと、ははぁと言ってにやっとした。

「漢字だ」
「やっぱ字?で、なんて書いてあるの?」
「『好き』だって」

言ってる勇夫がはずかしくなった。
ハウルが裕美子に飛びついてからかった。

「そんなことだろうと思った!裕美子も一途よねえ~」」

目をキラキラさせてクリスティンとカーラがアロンの反応を見守っている。

「ありがとう。・・どんな形であれ、裕美子の気持ちは分かってるから。伝わってるよ、気持ち」

赤い顔で見つめ合う2人。

「いやーん、そうよね~。いいわあ2人とも!」とクリスティン。
「アロン君、お礼のキッス、キッス!」とカーラも煽る。
「い、いいって!」
「そ、そうです。後でゆっくりしてもらうから」

きゃー!と女の子達がよりそって黄色い声を上げた。

「食べていい?」
「はい」

端だけ割るなんてできないような厚さなのでアロンは迷ったが、かじってみることにした。
ガリンと大きくかじると、なんと中からみずみずしくフレッシュなイチゴが出てきた。

「うわ!」

ほとばしる果汁にびっくりするアロン。

「あんまり甘いのは好きじゃないんですよね?だから酸味のあるイチゴ入れてみました」
「うまい。さっぱりしてて、ほんとうまい」

メガネの奥で照れる裕美子。
レソフィックがすっぱいラズベリーの乗った一口チョコを食べながら、

「これも同じ系統だな。甘酸っぱくてさっぱりしてるね」

するとカーラも頑張った。

「あたしの応用アイディアもあるのよ。・・・これそうなの」

言われたのをレソフィックがぱくっと食べてみると、中にはオレンジの皮の苦みを生かしたマーマレードジャムが入っていた。

「うん、これもいい組み合わせだ。カーラ、あとはウイスキー入れたのがあれば完ぺきだな」
「未青年なんだからお酒はだめよ」
「カーラが言うか」
「わ、私をお酒のことでからかわないでちょうだい!」
「実績があるからなぁー」
「気にしてるのに!」
「や、やめろ!カーラ!」

レソフィックとカーラがじゃれ合ってるのをよそに、ナッツ類の乗ったチョコを頬張っていた勇夫が疑問を口にする。

「小泉って、こういうのどこで教わったんだ?中学は家庭科部とか?」
「そうだよね。料理もすごいけど、こんなお菓子もやるとはねー」

ハウルも同じ思いのようだ。

「い、いえ・・その、お母さんも料理とか得意だから・・・」
「お母さん仕込みかぁ」

ハウルが幸せそうにチョコを頬張りながら言った。

「それじゃ中学では何部だったの?」

すかさずクリスティンが割って入ってきた。

「ハウルはね、何でも屋なのよ!」
「な、なに言うのよ!」
「いろんな試合とか大会で人数足りないとかなると駆り出されるの。文科系でも運動部でもなんでもやったよね」
「すごいじゃない!」

カーラが驚いた。

「でね、私はそれを調整するマネージャー兼、ハウルの暴走を止める係り」
「それは今でも変わらないわね」
「カーラは?」
「あたしホッケー」
「へぇー。やっぱ運動神経いいわけだー」
「んで、裕美子は?」

ハウルが元に戻した。

「え?わ、わたし?」
「アロン、知ってる?」
「そういや聞いたことないね」
「・・わ、わたし、ほら、帰宅部だから・・・あんまりそういう話題なくて・・・」
「え?帰宅部?うそ!」

レソフィックはその答えが意外だったようで大いに驚いた。アロンも同じである。

「俺も運動部だと思ってた。裕美子、同好会だけど軟式テニスやってるじゃん。夏の頃見たけど、結構うまかったから、中学の部活でやってたんだと思ってた」
「遊びでやってたくらいです。たまたま・・」

裕美子を見ながら勇夫の箱からチョコを失敬して口に放り込んだハウルが続けた。

「なんか不思議な娘よねー。裕美子と同じ中学の人って分校にいないから事前情報なくて、よく驚かされるよね」
「そうだよなあ。アロンとこでしょっちゅう小泉見るようになったけど、その度に小泉にはびっくりさせられること多いよな」

勇夫がそう言うとハウルが楽しげに聞き返えした。

「なになに?裕美子、そんなにしょっちゅうアロンのところ行ってるの?」

裕美子から勇夫に気を付けろサインが飛んだ。同棲がばれてはまずい。
このすかさず制止サインが飛んできたあたりを見て、勇夫は身震いした。
『ほんと怖えー!』

アロンもすかさず取り繕う。

「毎日勉強しに来てたんだよな?おかげで俺まで実力テストの結果よかったし」
「あれすごかったよね。毎日行ったの?家庭教師に」
「ほぼ毎日・・な」
「そんな勉強ばっかするから目が悪くなるのよ」
「メガネはいつからかけてるんだ?」

矢継ぎ早にレソフィックから質問が来る。

「め、メガネ?・・小学生のころから・・」
「ふーん。してなけりゃもっともてると思うぞ」

またもやクリスティンが話を引き継いだ。

「もてるっていえば、ハウルももてたよね」

勇夫がからかってるのか本気なのか、驚いて見せた。

「えー?これが?」
「だって、見かけはかわいいでしょ?」
「なによ、見かけはって。失礼ね」
「でも長続きした人はいなかったのよね」
「うるさいわね~。だってどいつもこいつも、ついて来れないだもん。つまんないのよね」
「だから、勇夫君は驚異よ。こんな長く同じ男の子がハウルの回りにいるなんてなかったんだから。ハウルも本当は気に入ってるのよ?」
クリスティンは勇夫に向って言った。

「はあ・・。でもさっきもヘンなの作ってよこしたぞ」
「それでも勇夫君食べたもんね。今までのケースならあそこで終わってたんじゃない?」
「そうだよハウル。勇夫君は大切にしなきゃだよ」

カーラまでも本当にそう思って言った。ハウルはきょとんと勇夫を見た後、言い放った。

「遊び相手としては認めたげる。たしかに貴重だわ。ずっと私の傍で下僕でいてちょうだい」
「やめてくれ!」
「はやく気付くといいね」

とカーラは裕美子に微笑みながら言った。裕美子も

「そうですね」

二人はくすっと笑い合った。


次回「バレンタイン(8):何かありそうでない夜」へ続く!

前回のお話「バレンタイン(6):俺には見せる顔」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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コメント 1

TSO

xml_xslさん、toramanさん、あいか5drrさん、こさぴーさん、F−USAさん、くらいふさん、HAtA.さん、(。・_・。)2kさん、niceありがとうございます。
by TSO (2011-08-07 23:03) 

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