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<バレンタイン(8):何かありそうでない夜> [片いなか・ハイスクール]

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「片いなか・ハイスクール」連載第227回
<バレンタイン(8):何かありそうでない夜>


バレンタインの日の夜。アロンの部屋。

「裕美子、今日はありがとう」
「いいえ。喜んでもらえて、よかったです」
「それにしても、裕美子っていろいろよく知ってるよね。チョコも手作りだもんなあ」
「そんなこと、ないですよ。だってチョコも簡単だったでしょ?溶かして、形を作り変えてるだけですから」
「でもいろいろトッピングしたり、中に入れたり・・入れるものも工夫してるし、ケーキみたいのも作ってたじゃん。何度かやったことあるんだよね?」
「まあ・・昔、暇な時間でいろいろやったから・・でも本当に今日のは簡単バージョンですから」
「あれで簡単バージョン?お母さん仕込みだっけ?中学のときの裕美子ってどんなだったのかなぁ」

アロンが裕美子のそばに歩み寄ろうとしたら、

「あ、きょ、今日はお風呂、わたしからでいいんでしたっけ?・・先入りますね」

裕美子は少し慌てたように自分の衣装ケースの方へ着替えを取りに行くと、お風呂場へ直行してしまった。



後番のアロンが風呂から出ると、裕美子はもう寝室に引っ込んでいた。でもドアは開いたままだ。
アロンはドアのところからベッドの方を覗いた。
裕美子はまだ寝てなかったようで、気配を感じたか布団からゆっくり顔を出した。

「・・どうしたの?」
「うん・・今日、おやすみのキス、しなかったなぁと思って・・」
「あ、そう・・ですね」

むくっと体を起こすと、ベッドに横を向いて座った。しかし立ち上がることなくそのまま暗闇でじっとしている。首だけがアロンの方を向いて見ていた。来いってことだろうか。動いたほうがいいのか迷っていると裕美子が口を開いた。

「今日、チョコ、あげてよかったです。なんか、この気持ちを再確認できたみたいで・・」

寝室の入り口に立って中に向いたままアロンもそれに答えた。

「俺もうれしかった。わかってるつもりだったけど、やっぱうれしいかったよ。・・こうやって何度も確かめ合って、もっともっと好きになってくんだね」
「うん。・・・好きって、上限ないんですね。わたし、前よりあなたが・・」

そこまで言って裕美子はうつむいてしまった。

「へへ。俺も、前よりもっと好きになった」

そう言ってアロンが部屋に入ろうとしたら、裕美子が慌てて立ち上がった。

「アロン君、そこにいて。わたしが行くから」

そしてドアのところまで来ると

「目、つぶって」

と静かに言った。

「はい」

アロンは目をつぶった。
裕美子の顔が近付き、すぐ近くで止まった。目をつぶっていても呼吸でわかる。裕美子は一呼吸おいて、唇をくっつけた。5秒ほど静かにくっついていると、離れた。
アロンは目を開けた。
顔を赤くして立ってる裕美子が・・かわいい・・。

「裕美子・・今夜そばにいちゃダメ?」
「え?・・あ、ダメ・・。あの・・まだ生理終わってないの・・ごめんね」
「そ、そっか」
「ごめんね。・・おやすみ」

アロンはにこっとして部屋を出た。
が、好き度がアップしたというのに、これはなかなかつらい。
そしてまた、もやもやしたままソファーに横になるのだった。


次回「バレンタイン(9):やっちゃいました」へ続く!

前回のお話「バレンタイン(7):バレンタイン当日」
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TSO

あいか5drrさん、bitさん、xml_xslさん、綾小路曽根斗麿さん、こさぴーさん、rebeccaさん、toramanさん、F−USAさん、やまさん、shin.sionさん、akechiさん、くぼたんさん、たくさんのniceありがとうございます。
by TSO (2011-08-18 20:30) 

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