<牛丼騒動(5):ワンダーウーマン> [片いなか・ハイスクール]
東日本大震災被災地がんばれ!
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「片いなか・ハイスクール」連載第235回
<牛丼騒動(5):ワンダーウーマン>
額にバンソウコウを貼ったハウル(クリスティンに突き飛ばされて床にぶつけた跡である)がようやくC組の教室にたどり着くと、教壇の前辺りに男女入り乱れての輪ができていた。中心にいたのは昨日救急車で運ばれていったイザベルだった。頭におおきなたんこぶができているが、どうやら死んではないようである。
「あのクス玉そろそろ処分した方がいいんじゃない?お花畑と川が見えたわよ」
いや、もう一歩で危なかったようだ。
ハウルはイザベルを認めると、自分の席も素通りして真っ直ぐにそこへ行った。
「昨日はごめんね、イザベル」
そう言ってすこし頭を下げながらイザベルの様子を伺った。
「ううん。・・・まあ、悪いの私だから」
「あの後救急車で運ばれたんだって?そんなことになってるとは知らなくて・・」
「気を失ったのはクス玉のせいだから。ハウルのは背中にある足型だけよ」
『足形が背中に残ってるんだ(- -;』
その場にいたみんなが同じこと思った。
「じゃあ、足型の方、ごめんなさい」
一段と頭を下げて謝った。
イザベルはふうっと一息つくと、いつものきつい目つきをさらに吊り上げた。
「まったく、普通飛び蹴りなんてする?女の子ともあろうものが!」
「ほら、そこはハウルだから」
後ろからクリスティンがフォローする。フォローになってるか知らんが。
くすくす男どもが笑いをこらえている。
ふんっとイザベルは息を漏らすと、あきらめたように力を抜いた。
「ハウルだから・・ね。でもテラ盛りをぺろりと平らげたらそりゃ噂くらい出るわよ」
周りのみんながかっくんと口を開いた。そりゃマジですげぇ。
「そこもほら、ハウルだから」
もはやクリスティンのはフォローになってない。非常識なことはみんな『ハウルだから』で説明が付くらしい。
「いやでも、本当においしいんだって。笑うんならいっぺん食べてからにしようよ」
コブをなでながらイザベルがハウルを見つめた。
「じゃあおごってちょうだい。それで背中の足型もチャラよ」
ハウルは大きくにっこり笑うと、手を差し出した。
「わかったわ。ありがと!」
イザベルもにやっとしてその手を取った。
「でもテラ盛りはいらないわよ」
みんなが解散するように席に戻り、ハウルも自分の席に行くと、そこにはアロンに肩を支えられて裕美子がいた。
「ユミちゃんにも何かしたの?」
クリスティンが聞く。
「あ、そうね、怒鳴っちゃったっけ」
怯えたように裕美子が切り出した。
「あ、あの・・ハウルさん、わたし知らなくって、ハウルさんが変なこと言われてたこと・・それで・・」
ハウルは両の手を広げると、胸の中に裕美子の頭を包み込んだ。
「うん、わかった。ごめんね、裕美子。怖がらせちゃったみたいで。もう何とも思ってないわよ」
意外とハウルの胸にボリュームのあるのに裕美子は驚いた。が、そこに包まれると、怯えていた気持ちが安らいでいった。
そのまま顔を押し付けながらハウルの胸の中に顔をうずめていく。不安がすーっと引いていく。
わかる。アロンが言った通り、ハウルに裏の顔はない。
「ハウルさん・・・よかった、お友達でいてられて」
少し首を持ち上げて上目遣いにハウルの顔の方を見上げた。
裕美子のメガネは頭の方にずれていた。
「ハウルさん、尊敬します。・・たくさんの人にひどいことされてたのに、一人で跳ね除けて、あっという間に解決しちゃった」
「何を自分の善として守るか、ぶれることなく見失わなければ怖くない。裕美子だってできてるわよ」
付き添いのアロンは何やら顔を赤くしてそれを見ていた。
なんだかハウルの胸に吸い付いてるみたいである。
『なんか裕美子って、ハウルにもすごい好意をもってるんだな・・』
今回は遠まきにおとなしく一部始終を見守っていたレソフィックはカーラに言った。
「今度の広報、今回の牛丼の話に変える?」
「レソフィック君、それやるんだったら遺書書いといた方がいいわよ」
-----
数日経つと、イザベルのタンコブが小さくなるのに合わせるようにハウルへのちょっかいもなくなり、悪い噂がB組へ蔓延する前にA組への殴り込みの話の方が先に広まって、B組の女子がからかいに来るようなこともなかった。
裕美子もいつも通りに戻った。いやむしろ機嫌がよくてよく笑ってる。
「裕美子、元気になったね。よかった」
「あ・・、ごめんね心配掛けて。取り乱しちゃって・・」
「ハウルに嫌われるのはよっぽどいやみたいだね」
「・・うん、とても怖かったです。ハウルさんに突き放されるのも怖いし、ハウルさんがつぶされちゃうかもっていうのも怖かったです」
「終わってみればハウルの圧勝だったけどな」
「あの人ワンダーウーマンですよね。本当に驚いてしまいました」
笑顔で話す裕美子はとてもかわいかった。笑顔でだぜ。ちょっと変わってきたんじゃないだろうか?
裕美子がもっと明るくなったらもっとかわいくって、もっと惹かれてしまうだろうな。あの架空の夏の幼なじみが演技でなくなるかもしれない。
裕美子を眺めながら色々思っていると、裕美子もまた何かを感じつつしみじみと話し始めた。
「・・C組の女の子はみんな好きだけど、それはハウルさんのおかげなんだといつも思うんです。ハウルさんがいなかったら、きっとこんなうまくいってないわ。だからハウルさんを失ったら女の子みんなとの繋がりも変わっちゃって・・だからすごく怖かった」
そして裕美子はそろりと手を伸ばすとアロンの手を取った。
「でも女の子との繋がりがなくなっても、わたしにはまだアロン君がいる。あの不安の日、アロン君がそばにいてくれなかったら、わたしきっとおかしくなっちゃったかもしれない。きっとハウルさんのところにも、行けなかった」
「もうかなり普通じゃなかったもんね。裕美子は普段自分を押し殺してるんだろ。だからきっといろいろ溜まってるんだよ。俺がもっとガス抜きしてやらないとな」
裕美子はにっこり微笑みを返した。
「ね、アロン君、今晩は牛丼作ってみるね」
「え?家で作るの?」
「ハウルさんと作り方いろいろ調べたの。意外とシンプルかもしれないって」
「そうなの?」
「じゃ、ちょっと買い物に行ってきますね」
次回「牛丼騒動(6):玄関でばったり」へ続く!
前回のお話「牛丼騒動(4):ハウル反撃」
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「片いなか・ハイスクール」連載第235回
<牛丼騒動(5):ワンダーウーマン>
額にバンソウコウを貼ったハウル(クリスティンに突き飛ばされて床にぶつけた跡である)がようやくC組の教室にたどり着くと、教壇の前辺りに男女入り乱れての輪ができていた。中心にいたのは昨日救急車で運ばれていったイザベルだった。頭におおきなたんこぶができているが、どうやら死んではないようである。
「あのクス玉そろそろ処分した方がいいんじゃない?お花畑と川が見えたわよ」
いや、もう一歩で危なかったようだ。
ハウルはイザベルを認めると、自分の席も素通りして真っ直ぐにそこへ行った。
「昨日はごめんね、イザベル」
そう言ってすこし頭を下げながらイザベルの様子を伺った。
「ううん。・・・まあ、悪いの私だから」
「あの後救急車で運ばれたんだって?そんなことになってるとは知らなくて・・」
「気を失ったのはクス玉のせいだから。ハウルのは背中にある足型だけよ」
『足形が背中に残ってるんだ(- -;』
その場にいたみんなが同じこと思った。
「じゃあ、足型の方、ごめんなさい」
一段と頭を下げて謝った。
イザベルはふうっと一息つくと、いつものきつい目つきをさらに吊り上げた。
「まったく、普通飛び蹴りなんてする?女の子ともあろうものが!」
「ほら、そこはハウルだから」
後ろからクリスティンがフォローする。フォローになってるか知らんが。
くすくす男どもが笑いをこらえている。
ふんっとイザベルは息を漏らすと、あきらめたように力を抜いた。
「ハウルだから・・ね。でもテラ盛りをぺろりと平らげたらそりゃ噂くらい出るわよ」
周りのみんながかっくんと口を開いた。そりゃマジですげぇ。
「そこもほら、ハウルだから」
もはやクリスティンのはフォローになってない。非常識なことはみんな『ハウルだから』で説明が付くらしい。
「いやでも、本当においしいんだって。笑うんならいっぺん食べてからにしようよ」
コブをなでながらイザベルがハウルを見つめた。
「じゃあおごってちょうだい。それで背中の足型もチャラよ」
ハウルは大きくにっこり笑うと、手を差し出した。
「わかったわ。ありがと!」
イザベルもにやっとしてその手を取った。
「でもテラ盛りはいらないわよ」
みんなが解散するように席に戻り、ハウルも自分の席に行くと、そこにはアロンに肩を支えられて裕美子がいた。
「ユミちゃんにも何かしたの?」
クリスティンが聞く。
「あ、そうね、怒鳴っちゃったっけ」
怯えたように裕美子が切り出した。
「あ、あの・・ハウルさん、わたし知らなくって、ハウルさんが変なこと言われてたこと・・それで・・」
ハウルは両の手を広げると、胸の中に裕美子の頭を包み込んだ。
「うん、わかった。ごめんね、裕美子。怖がらせちゃったみたいで。もう何とも思ってないわよ」
意外とハウルの胸にボリュームのあるのに裕美子は驚いた。が、そこに包まれると、怯えていた気持ちが安らいでいった。
そのまま顔を押し付けながらハウルの胸の中に顔をうずめていく。不安がすーっと引いていく。
わかる。アロンが言った通り、ハウルに裏の顔はない。
「ハウルさん・・・よかった、お友達でいてられて」
少し首を持ち上げて上目遣いにハウルの顔の方を見上げた。
裕美子のメガネは頭の方にずれていた。
「ハウルさん、尊敬します。・・たくさんの人にひどいことされてたのに、一人で跳ね除けて、あっという間に解決しちゃった」
「何を自分の善として守るか、ぶれることなく見失わなければ怖くない。裕美子だってできてるわよ」
付き添いのアロンは何やら顔を赤くしてそれを見ていた。
なんだかハウルの胸に吸い付いてるみたいである。
『なんか裕美子って、ハウルにもすごい好意をもってるんだな・・』
今回は遠まきにおとなしく一部始終を見守っていたレソフィックはカーラに言った。
「今度の広報、今回の牛丼の話に変える?」
「レソフィック君、それやるんだったら遺書書いといた方がいいわよ」
-----
数日経つと、イザベルのタンコブが小さくなるのに合わせるようにハウルへのちょっかいもなくなり、悪い噂がB組へ蔓延する前にA組への殴り込みの話の方が先に広まって、B組の女子がからかいに来るようなこともなかった。
裕美子もいつも通りに戻った。いやむしろ機嫌がよくてよく笑ってる。
「裕美子、元気になったね。よかった」
「あ・・、ごめんね心配掛けて。取り乱しちゃって・・」
「ハウルに嫌われるのはよっぽどいやみたいだね」
「・・うん、とても怖かったです。ハウルさんに突き放されるのも怖いし、ハウルさんがつぶされちゃうかもっていうのも怖かったです」
「終わってみればハウルの圧勝だったけどな」
「あの人ワンダーウーマンですよね。本当に驚いてしまいました」
笑顔で話す裕美子はとてもかわいかった。笑顔でだぜ。ちょっと変わってきたんじゃないだろうか?
裕美子がもっと明るくなったらもっとかわいくって、もっと惹かれてしまうだろうな。あの架空の夏の幼なじみが演技でなくなるかもしれない。
裕美子を眺めながら色々思っていると、裕美子もまた何かを感じつつしみじみと話し始めた。
「・・C組の女の子はみんな好きだけど、それはハウルさんのおかげなんだといつも思うんです。ハウルさんがいなかったら、きっとこんなうまくいってないわ。だからハウルさんを失ったら女の子みんなとの繋がりも変わっちゃって・・だからすごく怖かった」
そして裕美子はそろりと手を伸ばすとアロンの手を取った。
「でも女の子との繋がりがなくなっても、わたしにはまだアロン君がいる。あの不安の日、アロン君がそばにいてくれなかったら、わたしきっとおかしくなっちゃったかもしれない。きっとハウルさんのところにも、行けなかった」
「もうかなり普通じゃなかったもんね。裕美子は普段自分を押し殺してるんだろ。だからきっといろいろ溜まってるんだよ。俺がもっとガス抜きしてやらないとな」
裕美子はにっこり微笑みを返した。
「ね、アロン君、今晩は牛丼作ってみるね」
「え?家で作るの?」
「ハウルさんと作り方いろいろ調べたの。意外とシンプルかもしれないって」
「そうなの?」
「じゃ、ちょっと買い物に行ってきますね」
次回「牛丼騒動(6):玄関でばったり」へ続く!
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by TSO (2011-10-23 17:40)