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<第2部:第3章 オリエンテーリング(10):表彰式> [片いなか・ハイスクール]

東日本大震災被災地がんばれ!


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前記事でフライングして載せちゃいましたが、500記事突破記念イラスト。
カップルになったアロン君と裕美子ちゃん(メガネバージョン)です。第2部ではまだまだ先のことですね。

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「片いなか・ハイスクール」連載第263回
<第2部:第3章 オリエンテーリング(10):表彰式>


「C組、気を付け!!」

何事という感じで、それでも背筋がみんな伸びた。そしてなぜかチャンは言った。

「敬礼!!」

ザッ、と呼吸が合って、ぴしっとC組は敬礼した。

「C組、解散ー!」

リーダー、チャンがなぜか仕切って、C組はわああーっと一斉に講堂から走り出した。

学校の講堂で行われた第1回クスス山オリエンテーリングの表彰式。その栄光ある第1回開催で完走できたのはC組だけだった。誇らしげに壇上に上がったA,Bそれぞれの班のリーダー、チャンとジョンは記念の盾を受け取ったが、その喜びのノリのままドジ担任がひそかに吊るしたクス玉のひもを引っ張ると、それはまたもや割れることなく落下し、校長の脳天に命中した。校長は大の字になって気絶してしまった。この責任をドジ担任に一人に任せ、C組のみんなは講堂から逃げ出したのだった。

「いやああ、おいてかないでえぇぇ!」

ひどい靴ずれのまま歩き通して両足を包帯でぐるぐる巻きにしているクリスティンが涙を流して叫ぶ。

「シャルロット、たすけてぇぇ!」

同じく包帯でぐるぐる巻きの右足をかばって片足でぴょんぴょんと跳ねてるのはダーニャ。

「わあああ、まってえぇぇ!」

ひどい筋肉痛でシップを全身に貼りまくっているイザベルは軟体動物のように焦って這っている。
ハウルはクリスティンに駆けよると、人形を担ぐように引っ張って行った。
シャルロットもダーニャに駆け寄って肩を貸した。
イザベルには同じ班でずっとフォローしていたアロンが駆けつけた。後ろから脇の下に手を入れると、そのまま引きずっていった。
裕美子はいいんだろうかとためらいながら、後ろを振り向きつつ流れとともに動いていたが、シャノンが追いつくと
「走って、こいずみ!」
と裕美子の手を掴んで出口へ向かって引っ張っていった。

アンザックと勇夫が講堂の扉にたどり着き、素早く扉を開けた。
どどどどっとC組のメンバーが埃を巻き上げてそこを通過する。
アンザックと勇夫はC組全員の脱出を確認すると、一礼をしながら扉を閉めた。

あっという間である。他のクラスは唖然。こんなところでもC組はその類まれな結束力を見せつけたのだった。





教室に戻ってきたC組のみんなは、機関銃のように相変わらずのドジ担任ぶりを口にしていた。

「まったく何考えてんだ、ドジ担任は!」
「よりによって校長先生に命中させる?!」
「しかしリーダー、校長ほっといて逃げてきたのはまずくないか?」
「はは、さすがについていけなかったよ。それに僕らがいても何もできないし、医務室連れて行くだけならこんなに人数いてもしょうがないだろ」
「だいたいあのクス玉何なんだ、砲丸か?」

しばらくすると隣のB組も教室に戻ってきたようだ。ハウルが様子を聞きに行ってくると、

「あの後他の組もすぐ解散したって。先生達が血相変えて校長先生を医務室へ運び出そうとしたらしいんだけど、講堂の出口辺りで目覚まして『いってぇ!』って叫んだそうよ」

よかった、少なくとも生きてたみたいで・・・


しばらくして、ションボリとしたドジ担任がクス玉を抱えて教室に戻ってきた。ドジ担任はクス玉を本棚の上に置いた。それを目で追っかけながらミシェルが聞く。

「そのクス玉、生きた鳩とか入れてないだろうな」
「ああ、もう何入れたか忘れちゃったよ・・・」

『大丈夫か?!』

みんなは本気で心配した。
ドジ担任は教壇に立つと、いつになく静かなトーンで語りかけた。

「みんな、改めておめでとう。今日はもうこれで終わりだ。良い週末を。怪我してる人はゆっくり休んでくれたまえ」

ホームルームはあっという間に終わった。


帰りがけ、みんなはドジ担任に一声かけていった。とは言っても

「まあそう気を落とすなって。ドジは今に始まったことじゃないだろう?」

ウォルトの言葉のようにたいがいは慰めにもならないようなものではあったが・・・。
裕美子も声かけていこうと、アロン達が先生のところに行く後ろについて行った。
教壇の前に来るなり、いきなり勇夫がすごいことを言う。

「残念だったな、校長死ななくて」

速攻でアロンとレソフィックが勇夫に蹴りを入れる。

「シャレになってねえってんだよ」
「ああ、死ななくてよかったな、だったか」

アロンとレソフィックが続けた。

「まあ栄光の初完走にもう一つ伝説を加えたってもんよ」
「そうそう。永遠に語り継がれるぞ、ドジ担任の名とともに」

『男の人ったら遠慮ないんだから・・』

ものすごい慰め言葉に後ろで聞いていた裕美子もため息をついた。
アロン達が出て行ったので、ドジ先生の前には裕美子だけになった。すると裕美子もかあっとして、何言ったらいいかわかんなくなった。

「あ、あの・・、元気、出して下さい」

短く一言告げると、ぺこっと頭を下げて急ぎ足で教室を出た。後ろからドジ先生に

「ありがとうな」

と言われた。

『わたしも人のこと言えない、ろくな言葉かけられない・・』

自分にもがっかりしながら玄関を出た。
すると、校門のところに立って生徒に挨拶していたのは、なんと校長先生だった。脳天に飛び出たタンコブに白いばってんの絆創膏が眩しい。
アロン達がまた遠慮ないことを言っていた。

「おー、校長先生ピンピンしてんじゃん」
「頭蓋骨陥没かと思ったのに、復活早えーな」
「はっはっは、当たり前だ。これしきでくたばらんわい」
「さいなら、先生」

ニコニコして立っている校長先生に驚いて、裕美子は足が止まってしまった。

「お、小泉君」

裕美子は中学時代の恩師グリア先生の紹介で分校に入った経緯があるので、校長先生にはよく知られていた。

「痛そう・・大丈夫ですか?」
「はっはっは、たいしたことないわい。おかげでいい思い出ができただろう?」
「え?」
「笑って持って帰りなさい。おうちの人にでも話してあげるといい」

肩をポンポンと叩かれて見送られた。






家に帰ると、一足先に帰っていた弟とお母さんがお茶していた。

「ケーキ買ってきたのよ。食べるでしょ?」
「はい」
「手洗ってきなさい」

かばんを部屋に置いて手を洗って戻ってくると、ダイニングテーブルには着かずソファーの方に座った。
そしてそこで前かがみになると・・

「ムフフ・・クスクス・・・」

裕美子は笑い始めた。

「・・・・あはははは」

お母さんとひろきは驚いてケーキを食べている手が止まってしまった。

「ど、どうしたの?」
「ユミねえが笑うなんて・・・」

裕美子がこんなふうに笑うなんて、いったいいつ以来だろう。

『最初は大変なことが起きたと思ったけど・・帰りがけの校長先生の一声で、大変な事件は本当に笑い話になってしまった。本当に捉え方ひとつで根本から変わってしまう。不幸にも、笑いにも、幸せにも・・・』

校長先生には大変なことだったかもしれないが、身をもって楽しい人生の送り方を教えてくれている様に頭が下がった。
お母さんがソファーの前のテーブルにタルトケーキとコーヒーを運んできた。

「何があったの?」
「うふ、・・前にクス玉の話したでしょう?あれがまた出てきたんです。今度は校長先生の頭に落ちて、校長先生倒れちゃったのよ」

お母さんは何が笑い事なのか判らない風だったが、コントのギャグシーンとだぶって捉えたらしいひろきは面白がっていた。

「ヘぇー、高校って面白そうだなー」

裕美子は柔らかに微笑みながら、いろんなフルーツが乗ったタルトケーキを一切れ口に運んだ。

『今日は表彰式の事件で何も考えられなかったけど・・・明日は、アロン君のとこに何を頼みに行こうか、考えよ』


次回「第2部:第4章 クラス委員決め(1):推薦」へ続く!

前回のお話「第2部:第3章 オリエンテーリング(9):わたしもクラスの一員」


対応する第1部のお話「第1部:第4章 表彰式」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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表彰式の前半は第1部で、後半は第2部で、合わせて表彰式の日1日分になりました。
第2部オリエンテーリングの章は第1部に匹敵する長さになってしまいましたね。こんなに書くつもりはなかったのですが・・。
次回は新章です。裕美子の根回しが明らかになります。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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コメント 3

TSO

あいか5drrさん、「直chan」さん、青竹さん、yamさん、(。・_・。)2kさん、toramanさん、タッチおじさんさん、Lobyさん
、bitさん、xml_xslさん、niceありがとうございます。
by TSO (2012-07-08 21:42) 

K-STYLE

こんばんにゃ~ (・◇・)/ かっぱだよ
500記事、おめでとうなのです~
(*・ω・)/☆\(・◇・*)やったね!
記念イラスト、とってもラブラブな雰囲気でステキ~
(*ノωノ)ウラヤマシイ・・・
お話も、楽しく読ませていただきました~
く、靴ずれ、なるととっても痛いですにゃ(;´д`)あう
by K-STYLE (2012-07-09 21:43) 

TSO

ブラザーボブかきもとさん、K-STYLEさん、ほちゃさん、くま・てーとくさん、ぼんぼちぼちぼちさん、niceありがとうございます。





by TSO (2012-07-15 23:57) 

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