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<第2部:第4章 クラス委員決め(2):備品入出庫係> [片いなか・ハイスクール]

東日本大震災被災地がんばれ!


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「片いなか・ハイスクール」連載第265回
<第2部:第4章 クラス委員決め(2):備品入出庫係>


その日の放課後は、各委員それぞれの初会合があった。
アロン達のことを気にかける暇もなく、裕美子のところにチャンがやってきた。自ら生徒会委員(正)を買って出て、裕美子を生徒会委員(副)として指名した人だ。

「1年間よろしく。あなたならきっとうまくやってくれます」
「え?そ、そんなこと・・・わたし経験なくって・・」
「そうなんですか?あなたのような聡明な人ならぜったいやってたと思ったのに」
「ごめんなさい。足手まといになっちゃうかも・・」
「そんなことありませんよ。生徒会委員なんて別に誰だってできることです。でもただ単にやるだけじゃなくて、本当に理解してできるかっていうと、そこは人を選びます。小泉さんは間違いなくできる人です」

この人は本気でそんなことを言ってるのだろうか。

「あの、おだてても何も出ませんけど・・・」
「え?いやだなあ、本当にそう思ってるんですよ。さあ、行きましょうか」

裕美子は目をぱちくりさせた。オリエンテーリングでずっと一緒だったから、この人がこういうことで人をからかうようなことはしないと分かってる。だとすると・・・
裕美子もそろそろもう周りが中学の人達とは違うんだということを体で感じるようになってきた。

誰もわたしの過去を知らない。わたしを疑う人もいない。・・・もう本当に気にする必要ないのね?

チャンの後ろを着いていくと、1年間生徒会でこの人と活動していくんだということに、今更ながらに気付いた。

『そっか。この人とはこれからずいぶん関わっていくことになるんだ』

このままアロン君との間に進展がなかったら、高校1年の生活でこの人は男の人の中で一番深く関わることになる可能性がある。

『・・・これがアロン君だったらなあ。いつわたしはアロン君と仲良くなれるんだろう』

チャンには悪いが、望んでいる人ではないという気持ちはもちろんあった。でも真面目ないい人なのも知ってる。

『足引っ張らないようお仕事、がんばろう』




生徒会室は間に合わせや何かの空き教室などではなく、専用にあてがわれていて、3部屋もあった。用途によっていつでも生徒会活動のために使えるようになっている。ドジ先生が言っていたように本当に生徒会には力があるみたいだ。
チャンと出席した裕美子は1年生が集まっている末席に並んで座った。小じんまりした人数の少ない分校のせいか、2,3年生はみんな顔見知りや過去生徒会経験者のようで、和やかな雰囲気だ。そこに新しく入った1年生メンバーが加わり、今年度の生徒会が発足した。

「1年C組のチャン君と小泉さんは、今年のオリエンテーリング完走したんだって?」
「はい。それに僕達は同じ班でした」
「今年は場所が変わって、怪我人が出る可能性があるからやめた方がいいんじゃないかって意見も結構あったんだけど、実際どうだった?」

B組の人が答えた。

「危険なことはいくらでもありました。だから私の班は日が暮れたらもう動かないようにして救助を待ったんです。つまりリタイヤですけど・・・」
「そういうところチャン君達はどうしたの?」
「僕らはもう一方の班と落ち合ったときにルート情報を交換しあったから、危険も最小リスクでいけたんです。小泉さんは記録係でしたが、もう一つの班はその正確な記録にすごい助けられたそうです」

みんなが裕美子を見たので、裕美子は硬直してしまった。

「それはいいね。生徒会もいろいろ記録を残さなきゃいけないんだが、こりゃ小泉さんは書記の第一候補だな」

上級生の人達が一様に頷いた。

「助け合って総力で物事を解決するのは、分校がいつも目指していることだ。僕らも改めて見習っていこうじゃないか」

そう言ってまとめたのは3年生のユーリ先輩。1年生からずっと生徒会委員を務めてるそうだし、てっきり生徒会長なのかと思ったら・・

「それじゃ生徒会長、進行頼むよ」

といって別の3年生に譲った。生徒会長は前年の生徒会長が指名してみんなが同意すると決まるそうだ。
生徒会長はいったいどこの出身なのか、日焼けした顔の不思議な人だった。





その後新生徒会長の進行で、生徒会委員で請け負っている仕事の説明とその担当決めが行われた。
その中の一つに裕美子の目は爛々と輝いた。それは備品入出庫係だった。

「教室で発生する消耗品があるやん?。分かりやすぅところでホワイトボードのマーカーや蛍光灯なんかよ。こういう消耗品や備品は倉庫に保管されとうやけど、生徒会が管理しちゅうや。それも単に物を保管してるだけやのうて、各消耗品の在庫数を把握して、足りんちゅうなりそうやったら発注して補充もする。しかも減った分をなんじゅう単純に補充すりゃええじゃのうて、その月にぎょうさん消費されようもんを優先して数を揃えなきゃなんなんよ」

すると2年女子のキッカ先輩が補足した。

「毎月補充に使える予算が限られてて、その中で過不足なく物品を揃えておかなければならないのよ。過去にはほしくてもなくなってしまってひと月待たされたりした物もあったわ」
「なんだか商売みたいですね。離島のお店みたいだ」

1年A組の正委員が言った。

「ほんにそうらね。だかぁ欠品出すちゅうと防災委員からようお小言をもらうんよ。一月我慢してもらわなのうなるけんね。ああ、消耗品の申請と受け取りするうは各クラスの防災委員なんよ」

裕美子はえっ?と顔を上げた。
防災委員、つまりC組ではアロンのことだ。

「防災委員は教室の消耗品や備品が必要になったら生徒会の備品入出庫係に申請を出して、備品入出庫係は在庫調整のうえ倉庫から出して防災委員に渡すんだ」

また2年女子のキッカ先輩が口を挟んだ。

「申請された数を素直に出しちゃダメよ。さっきも言ってたけどいつ補充できるかも勘案しながら出庫しないと、月の途中で在庫切れってこともあり得るから」

生徒会長はふふんと笑って続けた。

「備品入出庫係は各学年から1名ずつじゃ。やりとう人おる?」

裕美子はわなわなと震えるように胸の辺りまで手を持ち上げた。進行役の生徒会長はそれには気付かなかったようで、キッカ先輩に声を掛けた。

「キッカ君、去年とった杵柄でもう1年どうや?」

なるほど、キッカ先輩は去年この係りだったようだ。どうりで発言回数が増えるわけである。

「えー?もういいです。在庫切れ起こして胃が痛くなっちゃった」

しかもどうやらさっきの在庫切れを起こしてしまった人は自分のことだったようだ。わはははと上級生達は笑っていたが、1年生はみんな恐れおののいてしまった。しかし裕美子は顔の辺りまで来ていた手を

「は、はい」

と言って一挙に頭の上まで引き上げた。とうとう手を上げきった。これを見た横のチャンが驚いている。当然他の1年に手を上げる人はいなかった。

「あれ?小泉君は書記じゃなかったっけ?」
「あの、そっちの方が興味が湧くので・・いいでしょうか?」

他の上級生も意外そうな顔をしていた。

「なかなか見かけによらず挑戦的なんだね。いいじゃないか」
「やりたいことやるのが一番。やってもらおうよ」
「そいたらよぉキッカ君、今年やらなんでもいいやけど、引継ぎは頼むらぁよ」
「は~い」

やった、アロン君との接点!ぜったいやってくる接点!
すごい。心が浮き立つ。こんなのいつ以来?
そして、この和やかな雰囲気の生徒会にも安心感があった。
チャンが小声で話し掛けてきた。

「需要を予測してなんて面白そうだけど、結構神経使うみたいですね。大丈夫ですか?」
「・・怖いけど、がんばります」

怖いけどなんて言っているが、びくびくしている様子はぜんぜんなかったので、チャンは裕美子に感心してしまった。

「そうですか。応援しますよ。困ったら僕にも相談してくださいね」

裕美子は『いい人だなあ』とリーダーを見上げた。

『ここに誘ってくれたのはこの人でしたね・・今度は、お礼言わなきゃ』

「あ、・・あ、ありがとう、ございます」

チャンの笑う顔に、お礼言ってよかったと心から思う裕美子だった。


次回「第2部:第4章 クラス委員決め(3):イザベルのお礼アタック」へ続く!

前回のお話「第2部:第4章 クラス委員決め(1):推薦」


対応する第1部のお話「第1部:第5章 クラス委員」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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裕美子との関係が怪しくなってからたびたび出てきたアロンと裕美子の消耗品補充場面。そうなるべくみんな裕美子が狙って作ったものだったんですね。しかもそれだけじゃなかったという話はまた後日。
生徒会の先輩達で何人か名前の出た人がいましたが、第1部でも登場したのはユーリだけです(第1部20章)。妙な方言の生徒会長など第2部で出番がまたあるかは今のところ未定です。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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TSO

ぼんぼちぼちぼちさん、Lobyさん、青竹さん、toramanさん、「直chan」さん、あいか5drrさん、Mackさん、(。・_・。)2kさん、bitさん、yamさん、xml_xslさん、niceありがとうございます。
by TSO (2012-07-28 22:34) 

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