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<第2部:第4章 クラス委員決め(6):やんちゃ坊主達> [片いなか・ハイスクール]

東日本大震災被災地がんばれ!


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「片いなか・ハイスクール」連載第269回
<第2部:第4章 クラス委員決め(6):やんちゃ坊主達>


今日の放課後は消耗品・備品の補充が業者から届く。しかし生徒会の備品入出庫係はみんな都合が悪く、その受け取りは裕美子だけでやることになってしまった。受け取った後、倉庫へ持ち込む力作業に裕美子は同じ組の生徒会委員のチャンではなく、別の人をあてがおうと考えていた。

いつ頼もうかタイミングを計っていたとある授業の合間。

「見て見て!タオルの棍棒!!」

ハウルが真っ直ぐに突っ立った棒状のものを振りかざしてやってきた。

「なあにそれ」

カーラがその棒を見上げる。それからは白いモヤが立ち上っていた。

「これで人殴っても、しばらくしたら凶器は見つからず、謎の傷害事件になるのよ」
「だから、なあにそれって」
「だからタオルだってば」

ハウルはその棒状のものをカーラのほっぺたにくっつけた。

「ひゃ!冷たーい!」

クリスティンがやってきた。

「濡れタオルを凍らしてあるのよ。理科の授業用に液体窒素を準備してたところにばったり出くわしたの」
「むふふ、瞬間で凶器完成よ」
「クリスティン、ハウルにこんなもの渡しちゃ本当に危ないんじゃない?」

カーラもよく分かってきたじゃないか。

「そうねぇ」

とクリスティンが棍棒を持った原始人状態のハウルを見ていたら、そこにばっしゃーんとドアが勢いよく開いた。まるでハウルが開けたときのようだ。が、開けたのは勇夫だった。

「わーはは!謎の凶器登場!」

勇夫は1m以上ある棒を持っていた。そしてそれをぶんんぶんと体の周りで振り回し、最後は脇の下で挟みつつぴたっとポーズを取った。この辺は武道をやっているだけに、形だけはかっこいい。
それを見てさっきまで有頂天だったハウルが真っ先に指差した。

「え?そ、それなに?」
「わーはは!濡らしたバスタオルを液体窒素で凍らしたものだ。お前のは単なる手ぬぐいか?勝ったな!」
「ぬぬぬぬー!」

ハウルが悔しがってる。

「長けりゃいいってもんじゃないわよ!」
「何言ってやんでぇ。短い槍より長い槍の方が有利って、もう昔の人が確かめてるぜ」
「使い勝手とか戦場の状況とか向き不向きとか、戦いを有利に導く要素はいっぱいあんのよ!てやーっ!!」
「ぬはは!やるか?受けて立つぞ」

なんとハウルと勇夫がチャンバラを始めた。




そこにアロンも何か持って教室に入ってきた。こちらは凍ったバスタオルで作った板のようである。冷たいのが気持ちいいらしく、体にくっつけている。

「何やってんだ?」
「ぬははは!手出し無用!」
「えいー!」

ハウルが素早く切り払いにいったところを勇夫ががっちり受けた。ところが棒バスタオルは当たったところでポッキリ折れて、くるくる回って空中に放り出された。

「あっ!」
「もらった!」

ハウルは棒手ぬぐいを勇夫に矢のように投げた。

「うおっ!」

野生動物並の反射神経で勇夫がそれをよけると、それはその後ろにいたアロンに向かって飛んでいった。

「うわ!」

アロンは板状に凍らせたバスタオルを盾にしてそれを防いだ。はじかれた棒手ぬぐいも空中に舞った。
くるくると空中に舞った2つの凍ったタオルは、それぞれ天井の蛍光灯に命中した。当然蛍光灯は割れて、ガラス破片を雨のように教室に振りまいた。

「ぎゃー!」

背後に振ってきたガラスの雨でシャノンが悲鳴を上げる。ダーニャの席の辺りにも降り注ぎ、ダーニャも飛び退いた。
目の前で繰り広げられるその光景を裕美子はびっくりしてただ眺めていることしかできなかった。ハウルと勇夫が大騒ぎして教室に入るなりチャンバラを始め、挙げ句の果てに蛍光灯を2本割るとは、自分の通っていた真面目な中学ではあり得ない。小学校でも当然あり得ない。何?ここ。どこの問題学校?
生徒会委員としては事態を収めなければならないと思ったが、何したらいいのか咄嗟に思いつかなかった。そうしたらアロンが先に動いた。

「バーロー!何やってんだおめーら!みんな危ないからどいて。勇夫、ハウル!ほうきとチリトリ持ってきて掃けー!」

安全委員のアロンは安全確保の視点から行動に出たのだ。二人に指図すると、自らは無事な机をどかし始めた。そこへクリスティンが飛んでくるとアロンにペコペコ謝り始めた。

「ごめんなさい、ごめんなさい。もっと早く私がハウル止めてればこんなことには・・・私のハウルセンサーは正確なのに、こんなことになるなんて・・」
「半分は勇夫のウルトラバカのせいだろ。クリスティンが何で謝るんだよ」

ほうきを持って戻ってきた勇夫をクリスティンは食い入るように見た。

「な、なんだよ。わ、悪いと思ってるよ」
「・・・何かしら。ハウルと似たような匂いがする・・・」
「うぇ?女物のシャンプーとか使ってねえぞ?」

ダーニャが「あっ!」と言って、机の上に置きっぱなしの黒いノートに気付いて取りに行こうとした。ノートはガラス片を被って白くなっている。割れたガラスだらけの中に入ろうとしたダーニャをアロンが止めた。

「危ないよ。あのノートなら取ってこようか」
「う、うん。中、見ないでね」

するとそこに勇夫が、

「あ、そうだアロン。あの精神統一のアレやってみねえ?」

とアロンに言った。

「あ、そうだな。こんなシチュエーションめったにないもんな」

そういうとアロンは靴と靴下をぽいぽいと脱ぎ捨て裸足になった。

「な、何する気?」

ダーニャが怪訝な顔をして聞いた。

「精神集中の鍛錬の一つでさ、精神統一すると火の上とか針の上とかでも怪我することなく平気でいられるっての。最近訓練したんだ」
「え?裸足でこのガラスだらけのところ歩くっての?!」
「おお!」

クラス中で喝采が上がってみんなが見入った。
裕美子は止めようと思った。もうすぐ次の授業の先生がやってくるし、早く教室片付けないと。でも、アロン君を見たい・・・

「うまくいったら次俺な!」

勇夫がそう言うと、アロンは親指を突き出してそれに答え、深呼吸して集中すると、そろりと歩み始めた。みんながごくりとつばを飲み込んで見入る。ぱきっぱきっとたまに音を立て静かにゆっくり歩む。
じきにダーニャの机に到達した。ダーニャの黒いノートを取り上げると「おおおー!」と教室じゅうから歓声と拍手があがった。アロンは静かに答えて同じように戻ろうとしたそのとき、

「うわあ!!」
「どぅわ!!なんだこりゃー!なにやってんだ!」

とチャンと次の授業の先生が入ってきて仰天した声を出した。

「ひ!!」

っとこれに驚いたアロンはここで精神の集中が途切れ、とたんにぷすっと尖ったガラスの一つが足の裏に刺さった。

「いって!いって!」

アレだけ慎重に行ったところを飛び上がってジャンプして2歩でガラス破片地帯を飛び出したアロンだが、精神集中の事切れたこの2歩は容赦なくブスブスとガラスが突き刺さって、自分の席に飛びついて足の裏を出すとひーひー言いながら刺さったガラスを抜いていた。

「ちょ、ちょっと大丈夫?」

と一応アロンを心配するも、まず先に黒いノートを確保するダーニャ。

「たっ、たいへーん!」

保険委員のクリスティンが近寄ってきたが、おろおろするばかりでピューピュー出る血に目を回しそうである。

「どどどどどどどうしよう!穴塞がなきゃ!!接着剤?!瞬間がいい?!」
「た、頼むからそれはやめてくれ!」

アロンの隣の席の裕美子もどうしたらいいんだか分からず、ひとまずさっとポケットティッシュをアロンに差し出した。

「つ、使いますか?」
「あ、ありがとー」
「とりあえずアロンは医務室行け!だれか手貸して」

リーダーが言ってレソフィックとジョンが飛んできた。レソフィックが

「ジョン、そっちの足かついで。あと1人誰か来てリーダーとアロンの手持ってくれ!」

ミシェルが来てリーダーと片手ずつ持つと、プールに投げ込まれそうな格好でアロンはどたばたと医務室に連れてかれた。

一方散らばったガラス片を片付けるハウルと勇夫は目が合うとにらみ合って火花を散らしていた。

「勝負は次回に持越しね」
「なにおー?受けて立とうじゃねえか」

懲りない人たちである。






大騒ぎ状態で始まった授業だったが、掃除も終わって、アロンもバンソウコウをたくさん足の裏に貼っただけでとっとと医務室を追い出され、単元は遅れることなく無事終了した。

話を聞いてやってきたドジ先生は、勇夫とハウルとアロンも呼んで一通り雷を落とすと、反省文書くよう言い渡していた。反省文を書く紙をぺらぺらと振りながら席に戻ってきたアロンは勇夫に向かって口を尖らせた。

「ちきしょう。誰かのせいで俺まで変なとばっちり受けちまった」

勇夫はにへらっと笑っている。

裕美子は今言わないとと思って席を立った。
お仕事だし。だからためらう必要はないし。このことで話しかけても誰も変に思うこともないし。

「あの・・足、大丈夫ですか?」
「ん?ああ、へーきへーき」
「け、けっこうやんちゃ、なんですね」
「え?えへへへ」

照れくさそうに笑った。かわいい・・素敵・・。あ、見とれてちゃダメ。

「えっと・・・あの・・割っちゃった蛍光灯、付け替えないと・・」
「あ、そっか。俺の仕事だっけ、安全委員の。生徒会の備品管理してる人に依頼出すらしいんだけど。どこ行けばいいのか知ってる?」
「はい。あの・・わたしが係りです」
「あ、そうなんだ。ラッキー」
「午前は日が差すからなくても平気でしょうけど、午後の授業には入れておいた方がいいと、思います・・」
「そうだね。今やっちゃうよ。すぐもらえる?」
「はい。・・あの、申請書、書いてください」
「申請書がいるんだっけ。たしか用紙は教室に置いてあるんだよね」

アロンは教室に置いてある申請用ワークシートを取ってきて、蛍光灯欄に丸を付け2本と数を入れると、裕美子に付いて教室を出た。

「倉庫の鍵を取ってこないとだから、まず生徒会室行きます」
「オッケー」


次回「第2部:第4章 クラス委員決め(7):初仕事」へ続く!

前回のお話「第2部:第4章 クラス委員決め(5):イザベルのお礼アタック2回目」


対応する第1部のお話「第1部:第5章 クラス委員」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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ハウルと勇夫のおかげで予想外の消耗が発生。それはつまり裕美子にとっては喜ばしいお仕事が発生したということです。うまくやれるでしょうか。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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タッチおじさん

おはよう! 夏らしい素晴しいイラストですね、
お元気ですか?少し暑さも収まり秋の空が見え始めましたね、
夏の疲れが出る頃です、どうぞご自愛ください(^_-)-☆

by タッチおじさん (2012-09-06 08:03) 

TSO

「直chan」さん、いっぷくさん、toramanさん、青竹さん、タッチおじさんさん、あいか5drrさん、(。・_・。)2kさん、ぼんぼちぼちぼちさん、bitさん、yamさん、niceありがとうございます。

タッチおじさんさん、いつもコメントありがとうございます。
タッチおじさんさんの小説もイラストがどんどん充実していっててすごいですねー。
窓開けて寝てると朝方寒くってびっくりすることがあります。体調崩さないよう気を付けましょう。
by TSO (2012-09-09 00:06) 

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