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<第2部:第4章 クラス委員決め(9):ダーニャの相談所> [片いなか・ハイスクール]

東日本大震災被災地がんばれ!


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「片いなか・ハイスクール」連載第272回
<第2部:第4章 クラス委員決め(9):ダーニャの相談所>


終礼のショートホームルームが終わると、ダーニャがアロンのところにやってきた。

「アロン、イザベルにクッキーのお礼言った?」
「え?ういや、ま、まだ・・」
「なんで?もう食べたんでしょう?直接感想言ってあげてって言ったじゃん」
「分かってる!分かってるよ。でもほら、あいつもういねえじゃん」
「は?」

アロンの列の一番前の席はきれいに片付いていた。

「なにこれ、何やってんのあの娘?!」
「俺もこれから道場だから。じゃな!」
「ちょっと!明日朝一で言いなさいよー!」

横の勇夫達がダーニャの迫力に引いていた。するとふっとダーニャと目が合った。ダーニャは勇夫に向かって爽やかににこっと笑った。

「勇夫くーん、今度のクッキーはどうだった?」
「あ?今度のか?今度のはだな・・・」

後ろからレソフィックがすごい勢いで飛んできて勇夫を羽交い締めにして口をふさいだ。

「いや!知らんぞ。く、食ってねえし!」

ダーニャの誘導尋問に気付いたレソフィックが止めに入ったのだ。しかしどう見ても手遅れな感いっぱいである。

「勇夫、道場遅れっぞ!」
「お、おお!」
「じゃな!」

レソフィックと勇夫は一目散に飛んで帰って行った。

「このハイエナ!」

その背中に一言浴びせると、ふうっとダーニャは一息ついた。

「イザベルしょうがないなあ、もう」

とかいいながらダーニャは自分の席に戻ると、黒いノートを出して何やら書いている。
そんな放課後のドタバタを、静かに帰り支度をしながら裕美子は見ていた。




『ダーニャさん、あんなに面倒見て・・イザベルさんと仲いいんだなあ』

自分がいくら根回ししても、それは学校の公式な仕事でのこと。アロンの意思にかかわらず学校の仕事は発生し、それに伴ってアロンは裕美子のところにやってくるけど、それはつまり感情を伴わないともいえる。一方、ダーニャにも手伝ってもらってイザベルがいろいろやっているのは、まさに交際を目的としてのことであって、アロンがそれに答えれば結果は明らか。

イザベルさんのところにアロン君が会いに行くことにはそういう意味ができることになる。けど、わたしと会うのは仕事でのことでしかない。そこにはわたしとアロン君のプライベートな感情など不要な世界。たんたんと仕事をこなせばいいだけ。

『「今日はこの後イザベルと会うんだ」とか言われたり、わたし達の仕事が終わるのを待っているイザベルさんがそばで見てたりしたら、わたし悲しくなっちゃって、もうこのお仕事続けてられなくなるかも・・』

この時点でもう悲しさがこみ上げてきて、鼻の奥がむずむずしてきた。裕美子は鞄を持って教室の出口に向かった。


教室を出ようとしたところで別の組の女の子に呼び止められた。

「あの、すみません。相談所のダーニャさんてどちら?」
「ダーニャさん?・・えっと、真ん中くらいに座ってる、あの黒いノート持ってる人です」
「あの人?ああ、どうもありがとう」
「・・あの、相談所って?」

その子はちょっと恥ずかしげに少し頬を赤らめると、小さな声で答えた。

「恋愛、相談所・・・どうもありがとう」

そう言って前屈みに教室に入っていった。

『恋愛・・相談所?』

ダーニャの席に行って恥ずかしそうに挨拶しているさっきの子を目で追った。

『そうか、ダーニャさんそういうのやってるんだ。それでイザベルさんの仲介に・・』

ダーニャがイザベルの世話を焼いている理由がようやくわかった。

『いずれにしろイザベルさんには応援している仲間がいるのね・・』





翌日。
朝からイザベルの席にはダーニャが張り付いていろいろと話をしている。きっと何かとアドバイスをしているんだろう。
始業時間近くにアロンがやってきてからも、いつもは背を向けていたイザベルが半身横に向けて後ろを気にしていた。

『今日はイザベルさん来そう・・ずっとこっちを伺ってる・・』

朝のホームルームが終わってからというもの、ますますイザベルは後ろを見る比率が増えていた。ダーニャも再びやってきて促しているし、イザベルが行こうかどうしようかじたばたしているのがわかる。
裕美子は気が気ではなかった。にもかかわらず、アロンは勇夫やレソフィック達と話してばかりいていっこうに気付く様子がない。

『男の人って、こういうの本当に鈍いのね・・・教えてあげるか・・』

アロンの隣なだけに、アロンに向けられる目線は視界に入って気になってしょうがない。イザベルを助ける気はなかったが、ちらちら振り向かれるのが嫌でアロンに言ってあげることにした。
そろりと手を伸ばすと、アロンの二の腕をチョンチョンと突っついた。
振り向いたところで、自分ではそんなつもりはないんだが、事務的な声で教えた。

「アロン君、イザベルさん・・目で訴えてますよ」
「え?あっ!ホントだ」

ずっと振り向きもしなかったイザベルが、やや横目っぽいながらも確実にアロンを見ていたのに気付き、アロンは慌ててそばに来ていたレソフィックに助けを求めていた。

「レソフィック、どうしたらいいんだ?」

ごしょごしょとレソフィックと話した後、アロンも意を決したようにイザベルに手をあげた。イザベルはダーニャの陰に隠れたが、押し返されてしまった。アロンは立ち上があると、イザベルの方へ歩いていった。

『ああ・・とうとういっちゃった。なんか・・手助けしちゃったみたい。くっついてほしくないのに・・・』

力が抜けて椅子にぐったりともたれかかってしまった。

この様子に気づいていた集団があった。ハウルとクリスティンとカーラだ。この辺はさすがに女の子である。
しばらくアロンとイザベルがてれてれと話しているのを面白そうに眺めていたと思うと、話が終わってそれぞれの席に戻っていったのにひっついていった。イザベルのところにはクリスティンとカーラが横に来て報告に聞き耳をたてている。アロンの後ろをニタニタしながら付いてきたのはハウルだ。そのまま裕美子の前の席に来て、椅子に後ろ向きに座ると裕美子の机に頬杖して、裕美子に大きな目を向けた。

『この人は何?わたし何かしたっけ?』

裕美子の顔を見たハウルは
「にひひひ・・」
とへんな笑いをした。
何の用事だろうと身構えていたが、ハウルはアロンの方を気にして耳をすましている。

『・・・つまりわたしのところに来たふりをして、アロン君の話に聞き耳を立てに来たのね』

「あんまりいい趣味とは思えませんね」

と裕美子。とはいいつつも会話が聞こえてきてしまうので、結局裕美子も一緒に耳をすませる形となった。

勇夫「なんかイザベルうれしそうだぞ。なに言ったんだ?」
アロン「日曜ショッピングタウンで買い物付き合えって。ついでに俺も例の買い出しするわ」
レソフィック「おまえ、それデートに誘われたんじゃねえの?あの買い出ししたらそれどこじゃねえぞ」
アロン「買い終わったら電話するからさ、荷物取りに来てくれよ」

横で聞いていたハウルは面白そうに大きく開けた口へ、押さえるように片手をもっていった。
顔とか仕草とか可愛いんだけど、この後何言い出すか、何し出すか想像すると素直に受け取れなくなってきた。

「おほっ、イザベルやるわね~。デートだって」

裕美子は顔を曇らせた。

『やっぱり直接行動とる人にはかなわない』

そしてゆっくりとアロンの方を見た。

この人が気になるから・・、それは好きになっちゃったから・・、だからわたしはここに座ってる。・・だとしたら、わたしはアロン君の彼女になりたいはず・・・。遠回しに一緒のお仕事作ったりなんかじゃなくて、わたしも素直にそう言えばよかったんじゃない?お願い事は、毎月お仕事手伝ってじゃなくて、やっぱりお友達になってって、するべきだったんじゃない?

『でも、そんなことわたしに言えただろうか。人に対する不信や疑いを拭いきれないわたしが・・・。それはやっぱり、ハードルが高すぎる。一緒のお仕事を作ったことだけでも、わたしにとっては大飛躍だったんだから』

・・・早い者勝ちだったなら、もうわたしはスタートラインで負けが決まっている。

自分の机に目線を戻すと、机の板に吸い込まれて一体化しそうなくらい気分が沈んだ。

『積極的な人が現れた時点で、わたしの負けだ。いずれ誰かとくっついちゃうよね。隣なんかに座っちゃって、いつもそれを見ることになるのか・・。こんなところに座らなきゃよかった・・・』

裕美子とは正反対に絶えず快晴のハウルは裕美子の席のところから立ち上がった。

「日曜にショッピングタウンか。ムフフフ、様子見にいってみようかなぁ」

裕美子はゆっくり顔をあげると呟くように言った。

「変な趣味。他の人の幸せそうなところ覗きにいくなんて。自分が悲しくなりませんか?」
「だって何するか気になるじゃん。生徒会委員としても監視した方がいいんじゃない?いけない事したり、いけない所行ったりするかもしれないよ」
「いけない事って、何ですか?」

一瞬ほんとに分かんないの?という顔をすると、顔を近付けて耳打ちした。

「エッチなことするかもしれないよ~」

今度は裕美子の方が一瞬止まって、それから驚いた。さすがに顔が熱くなってきた。

「エ、エッチなことって、・・・キ、キスとか?」
「キスなんてぜんぜんエッチじゃないわよ。その先よ~」
「ええ?!」

『その先って、まさかと思うけど、つまり・・・ええー?!』

「こ、こ、高校1年でそんなこと、しますか?」
「体はもう大人だもん。機会あったらやりかねないわよ」
「ハ、ハウルさんも?」
「ムフフフ」

ハウルは意味ありげに笑った。

お、驚いた・・。高1でも、そんなこと考えなきゃいけないんだ。

「・・そんなこと、軽々しくする事じゃないと、思います・・・」
「私も軽々しくすることじゃないと思うけど、本当に好きな人と一緒だったら、私もどうなるかわかんないなぁ」

うう・・そうなんだ。わたしも好きな人と一緒だったらそう思うんだろうか。いや、絶対まだ早すぎると思う。体だって、まだ大人じゃないし・・



その週の残りは、リミッターを越えてしまったのか、極度の拒絶反応に対する自己防衛からか、何にも興味が湧かず、何も感じず、無表情状態が一層際だって大人しくなってしまった裕美子だった。ちょうど中間試験前だったので、まあ都合いいと言えばよかったのだが・・・


次回「第2部:第4章 クラス委員決め(10):アロンの答え、裕美子の答え」へ続く!

前回のお話「第2部:第4章 クラス委員決め(8):本当のお願い」


対応する第1部のお話「第1部:第6章 イザベルのお礼アタック(3)」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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さあ、デートの結果やいかに?
って、第1部読めばもうすぐわかっちゃうんですが・・・
ここでは第1部では見えなかった裕美子の心の中が主題なんですっ。

ところで、日中はまだ暑くってもさすがにもう夏とは言えなくなってきましたね。
トップ絵変えたいんですが、秋用のがなくって、早くどうにかしたいです。

※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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