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<第2部:第4章 クラス委員決め(10):アロンの答え、裕美子の答え> [片いなか・ハイスクール]

東日本大震災被災地がんばれ!


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「片いなか・ハイスクール」連載第273回
<第2部:第4章 クラス委員決め(10):アロンの答え、裕美子の答え>


アロンとイザベルのデートがあったはずの週末が明けてからも、イザベルはアロンのところに来るわけでもないし、後ろを振り向いて見ていたりすることもなかった。しかし以前のように全くかち合わないようにしているかというとそうでもなく、すれ違ったりすればちょっと声を掛け合ったりはしているみたいだ。普通のクラスメイト同士の自然な感じである。

その日もアロンは始業時間近くにやってきた。自分の席に行くのにイザベルの前を通ると、伸びをしていたイザベルは手を降ろしついでに片手だけ残して「おはよ」っと挨拶した。アロンも「おっす」と返している。
翌週に中間試験を控え、裕美子は自席で参考書を眺めていたが、目の隅に入ったそんなやりとりにふっと思いが巡った。

『極自然にふるまってるっていうことは、それだけ打ち解けてるってことなんだろうか・・。でもそれならもっと二人で一緒にいるところを見かけてもいいんじゃないのかな』

わずかな時間二人このことを考えると、再び参考書に戻っていった。





週が開け、中間試験も終わると、勉強で気を紛らわす時間がなくなった。
裕美子も拒絶反応状態が徐々に元に戻ってきて、次第にアロン達のことが気になりだした。

アロン君、イザベルさんとの仲、どうなったんだろう・・・

『もうすぐ教室のホワイトボードマーカーがなくなるから、消耗品補充の時にでも聞いてみようかな。・・・でもこんなこと聞くの変かな・・』

だがその結果は意外なところからわかった。





チャンより先に生徒会室に行って、次の消耗品の補充をどうするか考えていたところ、隣の会議室から漏れ聞こえる声に耳が止まった。

「レソフィック君に声かけるのやめちゃったの?」
「うん・・なんか行こうとしてることがばれちゃったみたいなの。ほらよく一緒にいる子、アロン君にも。私だってことは知られてないんだけど・・」
「あ、それで行きづらくなったんだ」
「そう。・・ダーニャさんによると、レソフィック君はそれでも付き合おうと思ってるなら声かけてくるくらいじゃないとって言ったらしいんだけど・・。もう勇気なくなっちゃった」

『え、ええ!あのレソフィックさんにアタックしようという人が?・・そ、それも生徒会からそんな人が?!・・・』

そ、それにこの声、ま、まさか・・・?

聞き覚えのあるその声に、信じられなかった裕美子は恐る恐る隣の会議室を覗き込んだ。
そこにいたのは2年生の先輩達。そしてレソフィックのところに行こうとしてた人は、やっぱり聞こえてきた声の通りの人。

同じ備品入出庫係のキッカ先輩だった。

その時、何気にキッカ先輩が顔を上げた。するとちょうどその目線の先に裕美子がいて、キッカ先輩と目が合ってしまった。
キッカ先輩は目が合っただけでなく、裕美子が尋常ならざる眼差しで凝視してるのに気付いて、急に顔をかあっと赤くした。

「ここここ小泉さん!き、聞いてた?!」

えっ?と、そこにいた2年生の生徒会の女子が一斉に会議室のドアの方を向いた。そのうちの一人が裕美子を指差した。

「あ、小泉さん、レソフィック君と同じ1年C組じゃない?」
「ええええー?!」

キッカ先輩が血相を変えて裕美子のところに突進してきた。

「あああー!言わないで!聞かなかったことにしてえ!!」

肩をつかまれてがくがくと揺さぶられた。

「だ、大丈夫ですよ。だ、だ、誰にも言いませんんん」

『き、キッカ先輩、これ危ない、赤ちゃんにこれやったら揺さぶられ症候群!』

「ほんと?誰にもよ!レソフィック君には絶対よ!」
「はい゛、はい゛」

脳みそに危険を感じるほど激しく揺さぶられたが、キッカ先輩はすぐそれをやめ、裕美子の肩を掴んだままハアハアと息を荒げてがっくり首を落とした。
荒げた息を沈めるのにずいぶん時間がかかったが、ようやく落ち着いてきたところで聞いてみた。

「レソフィックさんの、どんなところがいいんですか?」

他の2年生の先輩がからかうように言った。

「この子は金髪の男の子が好みなのよねー」

少しだけキッカ先輩は顔を上げた。

「そ、それだけじゃなくて、大人なところが・・」

『大人?・・大人というか、ずるがしこそうというか・・・』

オリエンテーリングでいろいろあったのでぼそっと言いそうになったが、すぐアロンに言われたことを思い出し、

『ううん、よく目が行き届くっていうことよね。悪い物の見方変えなきゃ』

とその言葉を飲み込んだ。

「そういえば、レソフィック君の片割れのアロン君にもアタックしてた子いたんだよね?」
「うん。アロン君もレソフィック君と同じアウトドア派でしょ?なんか趣味が合わないみたいでまとまらなかったみたいよ」
「あらま」

裕美子はびっくりして思わず「えっ!」と声を出してしまった。
その声でキッカ先輩は体を起こすと裕美子の顔を見た。

「アロン君も知り合い?」
「え、あ・・はい。同じ組ですし・・」
「アロン君にも言っちゃだめだからね!」
「わ、わかってます」

『それが、アロン君の答え?・・イザベルさんへの答え?』

そ、そうなんだ。それでイザべルさん、アロン君のところに来なくなったんだ。・・・くっつかなかったんだ。

もやもやしていたものが急に晴れたような気がした。ところがその晴れ間をキッカ先輩が一瞬にして豪雨に変えた。

「アロン君も茶目っ気あってかわいいよね。付き合ったら楽しいかなあ」

『や、やめて下さい先輩。もうこんな思いするのいやです!』

心の中で叫ばられている事も知らず、キッカ先輩は裕美子に質問を続けた。

「小泉さん。クラスの中ではどう?1年C組は美形ぞろいだからクラスの中も大変でしょ」
「え?さ、さあ・・」
「奪い合いとかになってるんじゃないのぉ~?」
「ア、アロン君にアタックしてた人がいたのは知ってたけど・・・、他ではそういう話は聞いたことなくて・・」
「モデルのジョンとか、テニス部新生のミシェルとか、女子では超美人のシャルロットとか、萌え萌えのクリスティンとかいて、学校中ではうらやましがられてるのに」

『ええー!具体的な名前が次々に・・全然知らなかった』

「そ、そうなんですか?」
「ハウルって子も可愛いよね。よく学校中走り回ってるの見るけど、あれトレーニング?陸上部かなんか?」
「クラスの中ではカップリングされてないの?」
「さ、さあ・・ぜんぜんわかりません・・・」
「灯台下暗しなのかな。クラスの中入っちゃうとせっかくの美形もわかんなくなっちゃうのかしら」
「そんなはずないわよ」
「小泉さん鈍いんじゃないの?」
「ちょっと、本人の前で失礼じゃない?」
「い、いえ、本当にわたし、そういうのうとくって・・・気付かないだけなのかも」

一人の子が首を伸ばして会議室の外を気にした。誰もいないのを確認すると、

「でも、あの組だと正委員のチャン君なんていたって並よねぇ」

他のみんなが、にぱぁっと笑った。

「ここでは目立ってるけどね」
「他の組行っても、そんな上位ランクに入んないわよ」
「でもなんか目に付くよね」
「うるさいだけなんじゃない?」
「あははは」

なんか、いないからって好き放題言われちゃって・・・。女の子ばっかり集まるとなんかいやだな。

裕美子はいじめで苦しんだだけに、陰口を叩くのも好きじゃなかった。

「・・チャンさんはC組でもリーダーとして、じゅ、十分目立ってると、思いますけど・・・」
「でも女の子の中で、もててるわけじゃないんでしょ?」
「・・わかんないです。わたしうといから・・・」
「じゃ、私今度はアロン君にアタックしてみようかしら」

裕美子はまた「えっ!」と声を出してしまった。

「カラオケにでも誘ってみようかなぁ」
「そ、そういう趣味、持ってないと思います・・アロン君」

裕美子は本当のところ知るわけもないのだが、これ以上誰かが寄ってきてほしくない気持ちが先に出て、そんなことを言ってしまった。

「え?そうなの?アウトドア派だから?」
「きっとキャンプファイヤーでフォークダンスとかならしてくれるんだよ。あははは」

向こうの部屋に男子生徒会委員の人達が入ってきた音がした。それでこの女の子達の語らいも終わった。裕美子はちょっと安心したような気になった。

『アロン君とイザベルさんがくっつかなかったということは、アロン君はイザベルさんを断った、つまりふったってことよね』

それに気付いたら急に不安な気持ちが湧いてきた。それはアロンがフリーになったという安堵の気持ちを吹き飛ばし、背筋をブルッと震わせた。

『それでイザベルさんは平気なの?大丈夫なの?』

それは振られたイザベルを心配してのことだった。
自分がそうであるように、好きな人に対する想いというのは普通の感情ではない。好きになるということは、その人を普通ではなくしてしまう力がある。もし想いを遂げられなかったとき、思い詰めた心は何をしでかすか分からない。

『振られちゃったイザベルさんは大丈夫なの?』

でも、朝いつもと変わらず挨拶しているシーンを思い出した。

『・・・そうか。イザベルさん、大丈夫だったのね』

自分はアロン君に振られちゃったらどうなるだろう。・・・きっとすごい悲しむに違いない。あんなにいい人に突き放されたら・・・想像するのもやだ。なんでイザベルさんはあんな平静でいられるんだろう。
でもわたしも実はアロン君をそんな知ってるわけじゃない。本当にいい人なんだろうか。
恋は盲目ともいう。物事を冷静に見ることができなくする力がある。真実が見えてないかもしれない。もし相手がひどい人であることが見えてなかったら・・・
それに気付いたときその失望は・・、それよりそんな人に心を奪われた自分にひどくがっかりするだろう。
でも、やっぱり予想通りすばらしい人だったら?
そんな人への思いが叶わなかったら?・・・
好きの度合いが強ければ強いほど、心に受ける傷は大きい。うん。きっと、このときの方がダメージが大きいに違いない。
アロン君は、きっといい人だと思う。僅かな時間だけど、一緒にいて感じる彼は、冗談でよくごまかすけど核心については変に飾ることもなく本音で言ってくれて、正義感を感じる。盲目になってるのかもしれないけど、それもいずれ判る。
でもわたしを受け入れてくれるかはまた別の話だ。
両想いでなければ片方は傷つく。それはしょうがないかもしれない。でも両想いでくっついたとしたら、相方に裏切られたとき、立ち直れるだろうか。
片想いで振られるよりそれは、人をだめにするのだ。
わたしは、それで壊れてしまって立ち直れなかった人を知っている。
そして裏切るのは相手とは限らない。自分の方かもしれない。だって、わたしはその要素を持っている。

ホッとしたのも束の間、色恋沙汰のゆく果てを思い出した。

そうだ、好きだのなんだのって、その残酷な先があることをすっかり忘れていた。何を今まで夢中になってたんだ。
わたしがいろんなことして、アロン君と仲良くなったとしても、その先もし万が一付き合えるようなことになったとしても、こんな過去を持ったわたしは相手をがっかりさせるだけだ。それはアロン君自身にとって・・・不幸なだけだ。

『わたしはアロン君を、幸せにできる?』

裕美子は自分の問いに自分で答えた。

『・・・わたしはきっと、アロン君を裏切ってしまう』

裕美子がなかなか会議室から出てこないので、キッカ先輩が心配して覗きにきた。

「どうしたの?会議始まるよ」


その日の生徒会では、連絡事項として学校から注意のプリントが後で届くので、届いたらそれを配るようとの達しがあった。それは本校の近くのカラオケで事件があって、分校でも注意するようにというものだという。
この片田舎には呑み屋がカラオケセットを置いているくらいで、カラオケボックスなどもないからいらぬ心配なのだが、ショッピングタウンまで遠征すればカラオケ屋もあるので、本校からの強い指示があったのだろう。
さっきアロンをカラオケにでも誘ってみようかと言っていたキッカ先輩は、うへっと舌を出していた。





次の日、朝のホームルームでドジ担任がホワイトボードに何か書こうとしたら、そこに10本くらいごろごろあったマーカーがことごとく書けず、ようやく1本だけ色の出るのがあって、消耗品補充係のアロンが睨まれるというのがあった。さすがに次の授業までには揃えておかないとなので、ようやくアロンからホワイトボードマーカーの補充の申請が裕美子のところにやってきた。
喜ばしいアロンと一緒になれる公式なお仕事だというのに、二人の仲を進展させられないんだという気持ちを持ってしまった裕美子はなんだか複雑な心境だった。

裕美子は備品保管庫の鍵を生徒会室へ取りにいったとき、例の注意のプリントが届いているのを見つけ、ついでにそれも取ってきた。

「あれ?なんだい、その紙の束」

裕美子はアロンにその1枚を渡して見せた。そしてついでに聞いてみた。

「アロン君は、こういうところ行くんですか?」

さっと目を通したアロンはプリントを返しつつ答えた。

「俺?いや、俺は盆踊りでも踊るより屋台で何か食ってる方が好きな方だから、そういうところ行っても飲み食いする方に専念しちゃうんで積極的に行く趣味はないなぁ」

それを聞いたらほっとした。

『そう。じゃあ先輩の誘いに乗ることもなかったですかね』

昨日キッカ先輩がカラオケに誘ってみようかと言ってたのをまだ気にとめていた裕美子は、これで胸のつかえが取れた。
受け取ったプリントを束に戻していると、アロンがいたずらをして喜んでる子供のような顔を裕美子に向けた。

「なんで?なんか俺、カラオケ屋に入り浸ってそうな風に見える?あ、もしかして小泉はよく行くんだろ。へえー、見かけによらず不良だったりして?」

『・・・もしかしてわたしをからかってるのかな?』

好きな人が自分を相手してくれてる。からかわれてるというのに凄い嬉しかった。

でも、わたし達は付き合うことはできない・・・。
付き合ってはいけない・・・。

そう思ったせいか裕美子の表立った反応はまたもや冷めたものになってしまった。
つまらなさそうにチラッとだけアロンの方を見て、起伏のない返事を返した。

「・・・行くわけないじゃないですか。店もないのに」


次回「第2部:第5章 俺の家は家族(1):アンザック君ち行こう」へ続く!

前回のお話「第2部:第4章 クラス委員決め(9):ダーニャの相談所」


対応する第1部のお話
「第1部:第7章 ダーニャの恋愛相談所(1)」
「第1部:第7章 ダーニャの恋愛相談所(2)」
「第1部:第7章 ダーニャの恋愛相談所(3)」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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レソフィックにアタックしようとしてたのはキッカ先輩だったんですねえ。この話をレソフィック側から見たのが「第1部:第7章 ダーニャの恋愛相談所」にあります。第2部で何の気なしに作った、裕美子がレソフィックをよく思っていないという設定も何気に生かされて面白いです。
さて裕美子が変な考えに至ってしまいました。こうなってしまうのは、もちろん過去のつらい経験のせいです。
しかし第1部の後ではぜんぜん盛り上がりませんねえ。いくら上下に激しく揺れ動こうとも、第1部じゃそんなこと知ることもなく最終的にどうなるか分かってるし。
そこに至るまでに裕美子の中では勝手に落ち込んだり、悪い方に傾いたりしてたということで、誰も知る由も無かった行ったり来たりする彼女の心の中の変化を、まあ見守ってやって下さい。

※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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やま

おはようございます
朝夕は寒くなってきましたね。
風邪などには注意してください。

by やま (2012-10-15 07:11) 

TSO

bitさん、HAtAさん、くま・てーとくさん、いっぷくさん、ネオ・アッキーさん、タッチおじさんさん、ぼんぼちぼちぼちさんマチャさん、yamさん、つるぎうおさん、(。・_・。)2kさん、ふぢたしょうこさん、あいか5drrさん、やまさん、「直chan」さん、青竹さん、Lobyさん、niceありがとうございます。

やまさん、コメントありがとうございます。
布団の中が気持ちい季節になってきました。特に朝が・・・出たくないよー(^^;
by TSO (2012-10-23 21:56) 

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