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<第2部:第11章 ピクニック(7):あれは二人だけの思い出に> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第347回
<第2部:第11章 ピクニック(7):あれは二人だけの思い出に>


その後しばらく派手に川原じゅうを走り回って追っかけっこしてエネルギーを発散したことで、裕美子も落ち着きを取り戻し(というか半ば諦め)、川の中に逃げたハウルはついでに服に付いたビールを洗い流し、走ってお腹が空いたみんなは仕切り直してバーベキューを再開した。

『はぁ。まさかアロン君にパンツ見られてたことがあったなんて・・。恥ずかしい。・・・でも他の男の人じゃなくてアロン君だけみたいだったようだから・・』

そうでなかったら、今日はもう帰っちゃったかもしれない。

「みんなただならぬ仲になってよかったわねぇ、うふふふふ」

と若干引っ掻き回したふうのあるクリスティンであるが、こっちは満足そうであった。
ハウルが陽向から戻ってきた。

「ああ、服乾いた乾いた。陽向はかんかん照りだからすぐ乾くねー。お肉ちょうだ~い。あ、勇夫何それ」
「生ソーセージ。食うか?」
「もちろーん、焼いて焼いて」
「アロン君の作ったお肉が一番おいしいわあ。ビールに合うねえ。もっと飲む?」
「へえ、カーラ、結構いける口だね」
「アロン君のお肉がいけないのよー、おいしいんだもん。はい、おビール」
「サーンキュ。おおっと泡がこぼれる」

肩をくっつけ合ってビールをつぎつぎし合ってるアロンとカーラを見て、裕美子は少々膨れっ面をしていた。



『カーラさん、どこからか急にべたべたするようになったわね・・。か、顔近いですカーラさん。うわっ、アロン君の顔撫でないで・・・。仲いい姿見るの、つ、つらいわ』

「裕美子さん、肉取ってきましたよ」

グリルのところから戻ったリーダーが裕美子の横に座った。朝から定位置になってる。

「あ、すみません。・・あの、またこんなに豚バラ肉の持ってきちゃって・・」
「僕これ旨くてついつい。ははは」
「リーダー、太りますよ。もしかして豚の角煮とかも好きですか?」
「角煮?大好きですよ。あはは、よくわかりましたね。あのトロットロになった脂身が特にいいですよねー。裕美子さん、角煮も作られるんですか?」
「作れますよ。もしかすると日本風な作り方で本場と違うかもしれませんが」
「それはそれでかえって興味そそられるなあ。・・・こ、今度、食べてみたいなあ、・・・なんちゃって!」
「はぁ。それじゃ、機会あれば」
「やった、わはは、楽しみだな。脂身たっぷりあるところがいいな」
「リーダー、将来はメタボリックの危険ありそうで心配です」
「将来?ぼ、僕の将来を気にしてくれるんですか?」
「え、ええ?」
「いや、ははは。は、恥ずかしいな・・」

『やだ、なんか変なふうに捉えられてないかしら』

「あつっ!!」

グリルのところでカーラが叫んだ。アロンがすかさず近寄る。

「わあ、カーラ大丈夫か?!」
「焼き網に触っちゃった」
「すぐ冷やした方がいいよ。勇夫、氷あったっけ」
「川でいいんじゃねえか?すげえ冷てえぞ」
「ア、アロンくぅん、川でいいわ。川、いこ」
「あ、うん。急ごう」

『なっ、あんなくっ付いて・・・いつものカーラさんじゃないみたいだわ』

「うふふふ、カーラ積極的だわ~。いい傾向ねえ」
「アルコール入ったからじゃねえか?」
「?、そうなのぉー?」
「俺の家でも飲んでから凄かったじゃんか。変なんカクテル作ってアロン酔わそうとしてたし」
「そうだったわねぇー。目回したアロン君と添い寝しちゃってたっけぇ」

『ええー?』

クリスティンとレソフィックの会話を聞いた裕美子は、一瞬驚いたが、すぐあの夜のことを思い出した。あの夜みんなが酔いつぶれて寝てる中、一人目を覚まして暗い部屋の中を這って歩いた時のことだ。仰向けに寝てたアロンにぴったり寄り添って寝ていたカーラを見た。

『あれ、やっぱり、そういうことだったの。カーラさん、アロン君を誘惑してたんだ・・・。でも、普段見かけないということは、レソフィック君が言うように、酔ってるときだけってこと?』

そういうことか。だけどそれはそれで、いつもとぜんぜん違ってものすごい積極的で、完全にアロン君自分のものにしちゃってて・・見てるの、つらい・・・。

「レソフィック君、お肉以外はないのぉ?」
「あ、野菜あるぜ。玉ねぎとかカボチャとかトウモロコシとか」
「まあ、カボチャ焼きましょう?」
「あいよ。えっと、カーラどこに置いたかな、野菜の袋。あー、小泉その袋取って」
「はい」
「わぁーい、カボチャ、カボチャ。ここにカボチャ置いてぇ、ここにナスとピーマン置いてぇ。・・・はい、カボチャの馬車を曳くお馬さんでぇす。カボチャの馬車には王子様とお姫様が乗ってるのよ」
「クリスティン、カボチャ切らないと火通らないぞ」
「あら。じゃあ火強くすればいいんじゃない?」

そう言って、木炭ではなく着火用の油の染みた特殊な炭を投入した。途端にごうごうと炎があがり、カボチャとナスが火炎に包まれる。

「たっ、大変!王子様とお姫様が火炙りになってるわ!お馬さんも焼き肉になっちゃう!!・・い、いえ、焼きナスですか?それは美味しそう・・。で、でも王子様とお姫様が!あれえ~」
「クリスティン、カボチャの馬車の設定を捨ててくれ・・」





「昼になったら一段と暑いですねえ」

2人だけになったグランドシートの上でリーダーが裕美子にニコニコしながら語りかけた。リーダー、ようやくのこと二日酔から醒めたようだ。大量に用意したお肉も大方みんなの胃袋に納まり、余裕のできたみんなはそれぞれ散らばって河原のあちこちで遊んでいた。
アロンはカーラに引っ張られて下流の方へ行き、川を渡った向こう岸にいる。ハウルも勇夫と下流の方に行っていたが、川の生き物を追いかけながら少しずつ上流へ向かって移動しているようだ。クリスティンはレソフィックとペアで心配していたが、川の中にある大きな石に座って仲良くおしゃべりに夢中のようで、少し意外だった。
そんなわけでバーベキュー道具のそばにいるのは裕美子とリーダーだけになっていた。いつの間にかハウルの家で話していた通りの組合せになっていた。

『クリスティンさんがその時になれば分かるって言ってたけど、本当にそうなったわ』

「喉乾きましたね。こんな時は炭酸ものがよさそうだな」

そう言ってリーダーは出ていたはずのコーラのペットボトルを探したが、空のしか見つからなかった。

『わたしのペア相手は予言通り、リーダーか・・。リーダーはわたしと一緒でうれしいのかしら』

鼻歌を鳴らしながらコーラが荷物に埋もれてないか探しているチャンを見ると、ストレスには思ってないんだろうというのは分かった。でも朝からずっとチャンが横にいて何かと話しかけてくるのを相手していると、気を使うのか、何となく一人になりたいと思うようになった。
裕美子は脇にあったレソフィックのクーラーボックスに手を伸ばした。バコッとクーラーボックスを開けて中を見ると、まだ缶ビールがごろごろしていた。

『レソフィックさん、いつか補導されますよ』

そう思いながらも裕美子は1缶取り出すと、プシッとプルタブを開けて、新しいコップに注ぎ始めた。リーダーがびっくりする。

「ビールも炭酸飲料ですね。テレビで宣伝してますけど、たっぷり泡立てたほうがおいしいんですって。はい。どうでしょう?」

見事にクリーミーな泡がたったコップをリーダーに差し出した。

「う・・うおっ、う・・旨そうですね、それじゃいただきます。・・・うん?う、旨い!ホントにうまい」
「ほんとうですか?違うんだ。あ、いい飲みっぷりですね、はいどうぞ」

直ちにとくとくと減った分を補充する裕美子。

ここからは第1部の通り。ますます機嫌のよくなったリーダーに裕美子は間髪入れずビールを注ぎ入れ、一線を越えてしまったリーダーはスイッチが切られたかのようにぶっ倒れてしまった。

「面白いですね、お酒って。自分で飲むのはちょっとアレだけど、人の考えを聞くのには舌が滑らかになっていいわ。自白剤みたい」

赤い顔で、しかし満足そうな顔をして寝入るリーダー。でもやっぱりちょっと可哀相な気がした。クーラーボックスで冷やしたお手拭を額にのせてあげると、その顔に向かって小さくささやいた。

「ごめんね、リーダー。あなたもいい人だけど、わたしにはやっぱりあの人が特別すぎちゃって・・・。だから、ごめんなさい」

裕美子は立ち上がった。

「さて、リーダーから解放されたし、ちょっと涼んでこよう」





水辺の木陰のところで川から来る冷えた空気にあたって涼んでいたら、向こうからやってきたのはアロンだった。

『あれ?アロン君はカーラさんと一緒にいたはず。おトイレかしら』

「やあ。リーダーも寝てたね。暇になっちゃったんだろ」

『リーダーも?ですか。もしかしてカーラさんも寝ちゃったんですかね』

「暇になったというか、暇にしたというか・・ちょっと面白かったのでお酒勧めちゃったんです」
「えー?帰り大丈夫かな」
「アロン君に注意してもらったおかげで、わたしは寝ずに済みました」

『それって、リーダーと楽しく飲んでたんじゃなくて、遠ざけるために一方的に飲ませてたってことか??』

「・・小泉、けっこう容赦ないんだな。」

『自分の周りをコントロールするのに長けてるとは思ったけど、リーダーまでも・・・。相変わらず機嫌損ねると恐そうだな。こんな小さいのに面白いやつ』

体も小さくて静かで目立たないが、その存在を意識すればするほど奥が深くて印象強くなる。アロンは目の前の少女を少し他のクラスメイトとは違った目で見るようになってきた。

「・・・そうそう、あの幼馴染やってもらったやつだけど、レソフィックや勇夫にも正体ばらしてないんだ」
「え?どうしてですか?」

それは裕美子にとって結構意外だった。もともと架空の幼なじみというのを考え出して、それを信じ込ませるように結託して口裏合わせていたのはこの3人だ。この3人だからこそさもありそうに作り話が通せたとも言える。それが美女に会わせるという話になってしまって、実際に幼なじみとなる人物を用意しなくてはならなくなる事態になり、3人では解決できないでいたところに、アロンが裕美子に幼なじみ役を依頼したというのが経緯だが、その後も裕美子がやったというのをレソフィックと勇夫に知らせてないという理由が分からない。幼なじみは架空の人だということは2人は知っているのだから、誰がやったのかは気になるはずだ。

「どうしてってわけでもないけど・・なんとなく小泉の秘密って感じがしてさ」

『確かに幼なじみに変装するために髪を濡らしてストレートヘアにしました。髪が濡れるとくせ毛が真っ直ぐになることはみんなには知られないようにしていたので、秘密といえば秘密だけど・・。だから?わたしに気を使ったってこと?・・・それともアロン君が、幼なじみをわたしがやったということを秘密にしたい、ということじゃないよね?・・・もしそうだとしたら、あの容姿の女の子がどこかにいるということを、あの2人に対してまでも信じ込ませようということになる。・・でも、そんなことする意味あるかしら』

「でも、秘密にしてもらっても、もうわたしやりませんよ」
「うん、もう頼んだりしないよ。ずいぶん自分勝手なことで迷惑かけたからね。だからあれはちょっと面白い思い出ってことで、小泉が完璧に演じた、もう見ることない幼馴染と一緒にしまっとくよ」

『つまりわたし達2人だけの秘密にしちゃうってこと?アロン君の中に思い出としてわたしを記憶に残していってくれるというの?・・うれしい。すごく嬉しい。本当にいいの?アロン君はそれを望んでるの?それ、わたしも共有していいの?』

「・・わたしも、ちょっとドキドキした思い出として、少しもらっていいですよね?」
「もちろん」

『いいんだ。共有していいんだ。一緒に過ごしたあの時間を、アロン君の彼女となる人も知らない、2人のだけの秘密の思い出として、共有していいんだ』

泣きそうになるくらい嬉しかった。何よりアロンの記憶の一遍として自分が残るだろうということが嬉しかった。裕美子はアロンに微笑みかけた。それは珍しく感情の通り笑顔となってアロンに届いた。だからアロンも笑って返した。ドキンドキンと心臓が高まる。

『好きな人と、想い人と、通じ合ってしまった。その笑顔は、今わたしに向けられているのね』

裕美子は舞い上がりそうであった。

『あ、そうだ』

「あの、デザートがあるんです。もうすぐおやつ時だから。食べませんか?」
「へえー、すごい。小泉のは期待できるからなー」

『よかった。わたしの作るものにアロン君は期待してくれるようになった。これまで一生懸命アピールしたもんね。恋人にはなれないんだから、こういうことで喜ばせてあげられるなら、わたしも嬉しい。それに今日のはみんなで準備したし、他の女の子も胸張れますし。・・ハウルさんは微妙だけど』

「ちゃんとみんなと作ったんですよ」

『一応そういうことにしとこう』






次回「第2部:第11章 ピクニック(8):お片付けして帰りましょう」へ続く!

前回のお話「第2部:第11章 ピクニック(6):回想、またまた裕美子の恥ずかしいシーン」


対応する第1部のお話「第1部:第15章 ピクニック(13):女の子達のデザート」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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第1部と合わせて裕美子ちゃんとリーダー2人きりのシーン完成です。
なおハウルちゃんと勇夫君、カーラちゃんとアロン君、クリスティンちゃんとレソフィック君が何してたかは第1部15章「(9)ハウルと勇夫はどうなった?」「(10)カーラとアロンはどうなった?」「(12)それじゃクリスティンとレソフィックにまとめてもらいましょう」にあります。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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