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スト魔女二次小説:水音の乙女 ~第2話~ [スト魔女二次小説]

第2話「マレーの花」


シンガポールは雨季だった。

先ほどドザーッと降ったスコールは止み、次にやってくるだろうねずみ色の雲の間に現れた太陽は濡れた地面を温め、せっかく地上に落とした水分を早くも湯気に変えて上空へ戻そうと試みる。おかげで辺りはむせびそうなほどの湿気だ。湿気まみれのムッとする重たい空気は、肩にのしかかってくるような感覚さえ覚える。
しかしマレー人ウイッチ”シィーニー・タム・ワン”軍曹は、そんな湿気にもものともしない乾いた声で整備員達と笑談しながら、早くも乾き始めていた滑走路のアスファルトの上に仁王立ちして、よく冷やした椰子の実ジュースをストローで吸い上げていた。

「この調子であと2、3機落としたら、わたし少尉あたりに特進しないかな!」
「確かに撃墜数でいったら快挙ですよねぇ~。」
「もう6機ですよ。それもたった2ヶ月で」
「シィーニー軍曹はマレーの鏡っす。これでもうブリタニア人にでかい顔はさせないっす」
「むふふ、欧州の有名どころのウイッチと肩を並べる日も近いかも!もしかすると欧州に召還されちゃうかも!」

からからと絶好調のシィーニーに、後ろから皮肉混じりの一言が元の湿気た空気を引き戻した。

「グラディエーターでかね?」

それを言ったのは、ブリタニア人ロジャー・バーン大尉。部品の入った木箱にもたれかけながら嘲笑を浮かべていた。


「相手もお前達に合わせてくれているようで幸いだったな」

そう言い残して、司令部のいる建物の方へコツコツと足音を残して去っていった。引き戻された湿気た空気は、赤道近くだというのにロンドンの霧で湿気たような冷たを感じてしまうのはシィーニーだけではなかった。

「けっ。左遷組みが」

整備兵の一人が地面に唾して毒づいた。
今ここに残っているブリタニア将兵はまさに左遷か島流しに近いようなものだった。
ブリタニアはシンガポールの宗主国だ。ここは東洋艦隊の拠点であり、東南アジア、極東との交易の中継点でもある要衝である。だが、ブリタニア本国が危機迫るなか、ほとんどの艦船もブリタニア将兵も本国へ戻ってしまい、一部の要員だけを残し、シンガポールの防衛は現地植民地兵やインド人兵などに任せっきりとなっていた。しかも兵器機材はほとんどブリタニア本国へ持っていかれてしまい、現地兵は残された超旧式の機材を駆使して防衛の任に就いているというのが実情だった。
そしてロジャー・バーン大尉が言ったように、相手も第1次ネウロイ戦争時に観測されたような鈍重な複葉機型のしか現れてなかった。

「相手に合わせて古臭いのしか残していかなかったのはどっちだ。もっとまとものなの置いてってくれればもっと楽なのに」
「シィーニー軍曹がウイッチとして発現しなかったら、ブリタニアのウイッチを一人残すか、あの古臭いネウロイにシンガポールを明け渡すかすることになってたくせに」

同じマレー人の整備兵たちも口々に左遷ブリタニア人尉官へ向かって口を尖らせた。

「でも、グラディエーターはいいストライカーだよ。形は古臭いけど、実戦部隊に配備されたのは1937年と比較的最近だし、形は同じようでも第1次ネウロイ戦争当時の機体とはぜんぜん違うよ」

ブリタニア製のグラディエーターは、宮藤理論を用いて魔道エンジンと機体が一体型かつ単葉の飛行脚が登場しようとする過度期に設計された機体で、宮藤理論が使いものにならなかったときのため、従来型を発展させて開発した機体だ。結果としては宮藤理論を用いたものは大成功し、世界中のストライカーが追随した。ブリタニアでも同時期に宮藤理論で設計したハリケーンが長きに渡って活躍することになり、グラディエーターは実戦配備されたときから既に時代遅れの機体となってしまった。
シンガポールの現地人部隊に供出されたのは、そのような旧式の、欧州の強力なネウロイには歯が立たないような代物がほとんどだった。

そのとき、基地のスピーカーが雑音交じりの音を上げた。

・・(シィーニー軍曹、ブリーフィングルームに出頭せよ。繰り返す・・)・・

「やだ、なんだろ。なにか悪いことしたっけか。あれかな・・これかな・・・」

思い浮かんでくるのはみんな怒られそうなことばかりだ。足が鉛の玉を引きずっているかのように動くのを拒否しようとする。
でも、ふと目に留まった、滑走路の脇に咲く真っ赤なハイビスカスの花を見て、バーン大尉の一言で気分が沈んでいるだけだと気付いた。

「わたしなくしてここの防衛は成り立たないんだから。何を遠慮する必要があるっての。ここはロンドンじゃない。ハイビスカスの咲くわたしたちの土地なんだから」

シィーニーは胸を張ると、司令部の建物へ向かって大きな足取りで歩いていった。


続く


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ハイビスカスは現代のマレーシアの国花だそうです。
勉強不足で申し訳ないのですが、もしかしてストライクウイッチーズの世界ではシンガポール・マレーは扶桑の勢力圏になってますかね?
本作では我々の世界同様にシンガポール・マレーはブリタニア(イギリス)の、インドシナ(ベトナムとか)はガリア(フランス)の植民地、インドはブリタニアの影響を強く受けているものの独立国、という設定にしてます。
この辺を舞台にするうえで、ヨーロッパの勢力圏がアジアの方にも少しあった方が話を膨らませやすいので。



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