<第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(9):ペアペア映画鑑賞> [片いなか・ハイスクール]
「片いなか・ハイスクール」連載第357回
<第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(9):ペアペア映画鑑賞>
よく晴れた土曜の昼下がりだった。湿気がないのか、風が爽やかで過ごしやすい。9月に入っていくらも経ってないけど、何となく秋を感じさせる、そんな空気だった。
わたしは片いなか映画館に向かっているところだった。
今日は水色のチュニックを着てきた。だけど生足はやっぱり出したくないから、下に膝丈のソフトデニムパンツを履いてる。ハウルさんは”いい足してるんだから足出せー”って言うけど、恥ずかしいです、太股なんか晒すの。
『それに映画館は冷房が効いて寒いかもしれないし』
言い訳じゃないですよ。正当な理由ですよ。
広い敷地の中に蒲鉾型の倉庫のような建物がぽつりとある所に着いた。それが片いなか映画館だった。
ドライブシアターができそうなほど敷地は広い。というか、かつては本当にドライブシアターをやっていたみたい。野外スクリーンの骨組みだけが残っていた。今は単なる砂利敷きの駐車場になっている。
蒲鉾型の建物の片方の面に、チケット売場と食べ物や飲み物を売ってる店があった。そこが待ち合わせ場所。指定はチケット売場前だ。
待ち合わせ時間まではまだ15分あるというのに、そこにはもうリーダーが待っていた。
「こ、こんにちは!」
わたしを認めるなり、リーダーは元気いっぱいに挨拶した。
「こんにちは。随分早いですね」
「そういう裕美子さんこそ。いつも早めにいらしてますが、いつもこんなに早く?」
「今日は陽気がいいので散歩がてら遠回りして来たんですけど、それでも早く着いちゃいました。単に読みが甘いだけです」
「確かに今日は過ごしやすいですね。なんだ、それなら僕も散歩から付き合えばよかったな。な、なんて・・」
へははは、と後半でリーダーは少し照れ笑いをした。
「わたし、ぼーっとして歩いてるからしゃべらないし、つまらないですよ。・・あら?」
映画のポスターに挟まれた上映スケジュールに目をやったわたしは、第2回上映が夕方5時くらいまで上映枠が大きく一括りになってるのに気付き、疑問の声をあげた。
「今日の映画、2本立てですか?」
リーダーは急に照れくさそうにして笑みを浮かべると、恥ずかしげに言った。
「じ、実はそうなんですよ。ここの映画館、いつも2本立て、3本立てでやってるんです。た、ただセンスが悪いっていうか、組合せがいつも妙で・・・」
近付いてよく見ると、チケットが指定している時間は、海洋ドキュメンタリーとアニメの2本立てになっていた。
「これアニメなんですか?リーダー知ってるアニメですか?」
「え、ええ。一応」
「ふうん。どんなのですか?」
リーダー、顔を赤らめて言った。
「ファンタジーアニメ・・なんです。美少女が主人公の・・・。あっ、そ、そんな子供っぽいの嫌なら、1本目だけで出ちゃえばいいですから!」
「これ、有名なんですか?」
「ええ、有名です。僕もそれの原作者の作品は好きでいくつか読んでるんですが、ハラハラする展開がなんとも・・。あっ!決してそれが見たくて選んだ訳じゃないですよ!」
わたしはへえーっと返事をし、どんな内容なんだろうと、どこかに手がかりでもないかと見回した。
「いい話しなんできっと気に入ると・・・ああ、いやいやいや!」
リーダーすごい照れまくってます。リーダーはどんなお話か知ってるようですね。でもアニメも見てるとは、ちょっと意外でした。それとも原作ファンかな。
「あのリーダー、そのファンタジーの原作はお持ちなんですか?」
「も、持ってますよ!全部揃えてます。ってまだ連載中なんですけどね・・はっ!」
入口の上を見上げたら、そこにそのアニメの大きな看板が掛かってた。これかぁ。ピンクの髪の女の子が可愛く描かれている。
『本当はやっぱりこっち見たさで決めたのかなぁ。女の子、可愛らしいし』
するとリーダー、慌てて弁解した。
「ちっ、違いますよ!今裕美子さんが頭の中で思ってるようなことでは絶対ありませんから!」
看板から目を下ろしたわたしは、くるっとリーダーの方に向き直り、くすっと笑った・・つもりだった。
「今度貸してください。読んでみたいです」
どうやら実際はわたしの思った通りの表情になってなかったようで、呆れてため息をついたふうに見えたらしい。
「は・・ははは・・」
リーダー、まずいものを見られてしまったというような気まずい笑いを浮かべた。
『わたしなんかじゃなくて、ちゃんとリーダーのこと心から慕ってる人と行かせてあげたかったな・・』
気まずそうにしながらも、照れて、どことなく嬉しそうにも見えるリーダーに、わたしは申し訳なく思った。
するとそこに見たことのある人がやってきた。
赤色主体のチェック柄のシャツの上にカットソーを重ね、ショートパンツから出たむちむちした太股が健康的な女の子。その子がわたし達を見て驚きの声をあげた。
「裕美子?リーダー!?」
それはなんとカーラさんだった。
『え?もしかして、カーラさんとアロン君、今日は映画鑑賞ですか?!』
「あなた達、一緒に映画を?」
「カーラじゃないか。あはは・・実はそうなんだ」
照れくさそうに頭の後ろに手をやってリーダーが答えた。
「カーラさんも、もしかして映画を?アロン君と・・ですか?」
「うん。チケットをハウルがくれたの」
カーラが取り出したのはリーダーが持っているのとそっくりの安っぽい券。わたしはリーダーと一緒になってそれを覗き込んでしまった。
「ペアペアチケットです」
「な、なぜこれを?これ、生徒会長が持ってるはずじゃ・・」
「知ってるの?この変に手作り感満載のチケット」
「僕達もこの券で今日は見に来たんだ」
リーダーもポケットから同じような安っぽい券を取り出した。
「この2つはペアなんだ。生徒会長がここの映画館のバイトやってて、それで入手して、そのうちの片方のペアチケットを僕がもらったんだ」
「そうなんだ。でも変な券なのよね。土日の第二上映時間の映画だけが見れるってなってて。それでこの時間、何やってるの?」
「知らないでアロン君と行くお約束したんですか?」
「まあ・・ね。当日のお楽しみにしようってことになって・・」
「はぁ・・。悪戯好きなアロン君らしいですね。それで彼とは午後1時待ち合わせですか?」
「そうよ。まだ15分くらいあるわね」
わたしはリーダーと12時50分の待ち合わせで15分以上早く来たけど、リーダーはもう待ってた。カーラさんも15分待ち合わせより早く来たけど、片やアロン君は・・・
「カーラさん、本当にあと15分きっちり待たされると思いますよ」
「え?何で?」
「アロン君は待ち合わせ時間に、秒単位でピッタリ来る人だからです」
「そうなの?」
「へえ、秒単位でかい?」
カーラさんがわたしをじろりとのぞき込んだ。
「詳しいね。・・・アロン君と、待ち合わせしたこと、あるの?」
さあーっと血の気が引いた。正当なペア相手の人を前に、間違わられるような発言しちゃった!
「あの、あの、委員の仕事とかで・・。ほら、安全巡視をやってもらうのに、たまに朝とかに・・・」
これは本当の事だ。
「あっそうだ!いつも小泉さんに立ち会わせちゃって!つ、次、いつでしたっけ?!」
リーダーが大声で割って入った。
「て、手帳見ないと、わ、分かんないです」
「そうですかー。分かったら教えてくださいね」
こくこくと首を縦に振る。本当は覚えてるのに。
次はアロン君の誕生日の日ですよ。
でもリーダーが話に入ってきてくれたおかげで、カーラさんの疑いは晴れたみたい・・。よかった。
さてそれからは、2本目のファンタジーアニメについて、リーダーからいろいろ話を聞いたりしているうちに、カーラさんとアロン君の待ち合わせ時間の午後1時が近付いてきた。
「そろそろ来るかな」
リーダーが腕時計を見る。
そして期待にもれずというか、わたしの言った通り秒単位で、13時”10秒前”にアロン君は現れたのだった。
「よう。時間ぴったりだな」
「こんちゃ。俺は時間厳守な男なんだ。あれ?なんでリーダー達もいるの?」
片手を上げて挨拶しながらこっちに歩んできたアロン君は、カーラさんの横に居並ぶわたし達を見て不思議そうにした。
「ハウルから割引券もらったんだって?それ出所は生徒会長でさ、もともとペアチケットのペアってやつで、2枚あったんだ。1枚僕がもらってね。それで小泉さん誘って待ち合わせてたんだけど。あとの1枚は会長が使うって言ってたのに、そしたらカーラがいたからさ、ちょっとびっくり。ハウル、変な入手の仕方してないだろうな」
アロン君は一瞬心配顔になった。きっと『あり得る・・・』と思ったに違いない。
わたしはそれより、カーラさんをほっぽってることを怒った。
待ってる間に変な人に絡まれたりしてたらどうするんですか。
「アロン君、女の子待たせちゃダメですよ」
小言うるさいわたしがいることを確認したアロン君だけど、にっと笑われただけ。
カーラさんに至っては、カチンコチンな笑いをたたえて気にする風もなく、
「は、はぁい。ダイジョブよ、時間通りだし・・」
とアロン君を迎え入れた。
「ところで何の映画?券には何も書いてないんだけど。土日のこの時間でのみ有効って」
「その時やってるものってことだな」
アロン君の質問にリーダーが解決しない答えをすると、カーラさんが本日の上映スケジュールを見て、アロン君の聞きたかった回答を指で指し示した。
「今日のこの時間は、アニメとドキュメンタリーの2本立てですって」
「なんだ?その組合せ」
アロン君が怪訝な顔で首をひねる。
「とにかく手に入ったフィルムを手当たり次第上映するんでしょう」
わたしは最近悟った片いなかの独特なルールから、勝手な印象で適当な事を言った。するとリーダーが少し不安気にわたしを伺った。
「もしかして、この映画気に入りませんか?」
嫌がっている風に見えたんだろうか。いい機会だからむしろ見てみたいのだけど。
「いいえ?普段あまり見ない映画ですし、せっかくですから」
リーダーはほっと胸をなで下ろしたようだ。
「よかった。じゃ、入りましょうか」
そう言ってわたしの背中を促した。わたしはリーダーと一足先にシアターへ入っていった。
中はまだ殆どお客さんがいない状態だったので、わたしはスクリーン真っ正面の、首を上下に傾ける必要もない席を選んで陣取った。昔、目が悪いからと前の方の席に座ったら、見上げてるうちに首が痛くなって酷い目にあった事がある。今はメガネの調子もいいので、一番後ろにでも座らない限りどこに座っても見えないなんて事はないと思うし。
アロン君達が入ってくるのを見つけると、わたしは手招きして2人を呼び寄せた。アロン君は大きなポップコーンを持っていた。売店で買ったものらしい。入れ物は大きさといい形といい、まるでバケツ。
「ここの名物のバケツポップコーンですよ」
何のひねりもないその商品名をリーダーが教えてくれる。やっぱり片いなかだなあ。
「いい場所取ったね。横いいの?」
アロン君が聞く。傍らには硬い表情で微笑んでるカーラさん。そうか、ここは嫌だったかな・・。
「・・2人きりがいいなら、お好きなところへ」
でも2人は特段気にならないみたい。
「せっかく取ってくれたし、いいよね?ここで」
「うん」
一緒にいれば2人を見張れるとも思ったけど、イチャイチャされたら、それも見なきゃならないのかと思うと、失敗したような気がする。ああ、もう何でこの2人も今日映画なの?
「アロン、いいもの買ってきたな。裕美子さんもいりますか?」
辺りには甘いキャラメルのいい匂いがただよっていた。アロン君が買ってきたポップコーンはキャラメルシロップかけのだったからだ。
「お昼食べていくらも経ってないから、わたしはいらないですけど・・・リーダーは遠慮しなくていいですよ?」
「じゃ、いっか・・」
でもリーダー、絶対未練もってる。アロン君のポップコーンをさっきからちらちら見て気にしてる。
わたしはリーダーの袖を引っ張った。
「気になるなら買いに行きましょう。始まったら動けないですから」
「え?あはは。ばれちゃった?恥ずかしいな」
バレバレですよ。
それにしてもその大きいの、同じ味で飽きないかしら。買うならアロン君のとは違うのにした方がいいよね?甘い系統のもダメ。
「・・・2人でそれ食べ切れますかね?」
ぽそっとそう呟いたら、アロン君、わたしの言わんとしてることを読み取った。
「確かにこの量ずっとはちょっとくどいんだよね。リーダー、買うなら塩味にしてよ。こっちのもあげるから、いくらか交換しようぜ。いいよね?」
「う、うん。その方が・・楽しめるよね?」
カーラさんの同意も取ってくれた。これで売り場行っても時間かけなくて済む。
「はい。じゃ、そうしましょう。あと5分少々ですよ、リーダー急ぎましょう」
「あ、はいはい」
リーダーを立たせると、ポップコーン売り場に急いだ。
次回「第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(10):アロン君の家に初めてお邪魔」へ続く!
前回のお話「第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(8):各ペアの予定」
対応する第1部のお話「第1部:第16章 改めてカップルで(3):片いなか映画館」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
Copyright(c) 2009-2016 TSO All Rights Reserved
映画館での集合シーンを裕美子ちゃん視点で見た回でした。
挿絵は第1部のときのものです。映画の看板で一番左のものがリーダーお勧めの「おねがい!勇者さま~DEAR MY HEROINE~」。かっぱさんのファンタジー小説が原作のアニメということになっています。この看板の絵、かっぱさん自ら描いたブログトップ絵をお借りしたものです。震災のしばらく後、ブログは閉鎖されてしまったので、今となっては貴重な残っている絵なのかもしれません。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
ぽちっと応援してください。
<第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(9):ペアペア映画鑑賞>
よく晴れた土曜の昼下がりだった。湿気がないのか、風が爽やかで過ごしやすい。9月に入っていくらも経ってないけど、何となく秋を感じさせる、そんな空気だった。
わたしは片いなか映画館に向かっているところだった。
今日は水色のチュニックを着てきた。だけど生足はやっぱり出したくないから、下に膝丈のソフトデニムパンツを履いてる。ハウルさんは”いい足してるんだから足出せー”って言うけど、恥ずかしいです、太股なんか晒すの。
『それに映画館は冷房が効いて寒いかもしれないし』
言い訳じゃないですよ。正当な理由ですよ。
広い敷地の中に蒲鉾型の倉庫のような建物がぽつりとある所に着いた。それが片いなか映画館だった。
ドライブシアターができそうなほど敷地は広い。というか、かつては本当にドライブシアターをやっていたみたい。野外スクリーンの骨組みだけが残っていた。今は単なる砂利敷きの駐車場になっている。
蒲鉾型の建物の片方の面に、チケット売場と食べ物や飲み物を売ってる店があった。そこが待ち合わせ場所。指定はチケット売場前だ。
待ち合わせ時間まではまだ15分あるというのに、そこにはもうリーダーが待っていた。
「こ、こんにちは!」
わたしを認めるなり、リーダーは元気いっぱいに挨拶した。
「こんにちは。随分早いですね」
「そういう裕美子さんこそ。いつも早めにいらしてますが、いつもこんなに早く?」
「今日は陽気がいいので散歩がてら遠回りして来たんですけど、それでも早く着いちゃいました。単に読みが甘いだけです」
「確かに今日は過ごしやすいですね。なんだ、それなら僕も散歩から付き合えばよかったな。な、なんて・・」
へははは、と後半でリーダーは少し照れ笑いをした。
「わたし、ぼーっとして歩いてるからしゃべらないし、つまらないですよ。・・あら?」
映画のポスターに挟まれた上映スケジュールに目をやったわたしは、第2回上映が夕方5時くらいまで上映枠が大きく一括りになってるのに気付き、疑問の声をあげた。
「今日の映画、2本立てですか?」
リーダーは急に照れくさそうにして笑みを浮かべると、恥ずかしげに言った。
「じ、実はそうなんですよ。ここの映画館、いつも2本立て、3本立てでやってるんです。た、ただセンスが悪いっていうか、組合せがいつも妙で・・・」
近付いてよく見ると、チケットが指定している時間は、海洋ドキュメンタリーとアニメの2本立てになっていた。
「これアニメなんですか?リーダー知ってるアニメですか?」
「え、ええ。一応」
「ふうん。どんなのですか?」
リーダー、顔を赤らめて言った。
「ファンタジーアニメ・・なんです。美少女が主人公の・・・。あっ、そ、そんな子供っぽいの嫌なら、1本目だけで出ちゃえばいいですから!」
「これ、有名なんですか?」
「ええ、有名です。僕もそれの原作者の作品は好きでいくつか読んでるんですが、ハラハラする展開がなんとも・・。あっ!決してそれが見たくて選んだ訳じゃないですよ!」
わたしはへえーっと返事をし、どんな内容なんだろうと、どこかに手がかりでもないかと見回した。
「いい話しなんできっと気に入ると・・・ああ、いやいやいや!」
リーダーすごい照れまくってます。リーダーはどんなお話か知ってるようですね。でもアニメも見てるとは、ちょっと意外でした。それとも原作ファンかな。
「あのリーダー、そのファンタジーの原作はお持ちなんですか?」
「も、持ってますよ!全部揃えてます。ってまだ連載中なんですけどね・・はっ!」
入口の上を見上げたら、そこにそのアニメの大きな看板が掛かってた。これかぁ。ピンクの髪の女の子が可愛く描かれている。
『本当はやっぱりこっち見たさで決めたのかなぁ。女の子、可愛らしいし』
するとリーダー、慌てて弁解した。
「ちっ、違いますよ!今裕美子さんが頭の中で思ってるようなことでは絶対ありませんから!」
看板から目を下ろしたわたしは、くるっとリーダーの方に向き直り、くすっと笑った・・つもりだった。
「今度貸してください。読んでみたいです」
どうやら実際はわたしの思った通りの表情になってなかったようで、呆れてため息をついたふうに見えたらしい。
「は・・ははは・・」
リーダー、まずいものを見られてしまったというような気まずい笑いを浮かべた。
『わたしなんかじゃなくて、ちゃんとリーダーのこと心から慕ってる人と行かせてあげたかったな・・』
気まずそうにしながらも、照れて、どことなく嬉しそうにも見えるリーダーに、わたしは申し訳なく思った。
するとそこに見たことのある人がやってきた。
赤色主体のチェック柄のシャツの上にカットソーを重ね、ショートパンツから出たむちむちした太股が健康的な女の子。その子がわたし達を見て驚きの声をあげた。
「裕美子?リーダー!?」
それはなんとカーラさんだった。
『え?もしかして、カーラさんとアロン君、今日は映画鑑賞ですか?!』
「あなた達、一緒に映画を?」
「カーラじゃないか。あはは・・実はそうなんだ」
照れくさそうに頭の後ろに手をやってリーダーが答えた。
「カーラさんも、もしかして映画を?アロン君と・・ですか?」
「うん。チケットをハウルがくれたの」
カーラが取り出したのはリーダーが持っているのとそっくりの安っぽい券。わたしはリーダーと一緒になってそれを覗き込んでしまった。
「ペアペアチケットです」
「な、なぜこれを?これ、生徒会長が持ってるはずじゃ・・」
「知ってるの?この変に手作り感満載のチケット」
「僕達もこの券で今日は見に来たんだ」
リーダーもポケットから同じような安っぽい券を取り出した。
「この2つはペアなんだ。生徒会長がここの映画館のバイトやってて、それで入手して、そのうちの片方のペアチケットを僕がもらったんだ」
「そうなんだ。でも変な券なのよね。土日の第二上映時間の映画だけが見れるってなってて。それでこの時間、何やってるの?」
「知らないでアロン君と行くお約束したんですか?」
「まあ・・ね。当日のお楽しみにしようってことになって・・」
「はぁ・・。悪戯好きなアロン君らしいですね。それで彼とは午後1時待ち合わせですか?」
「そうよ。まだ15分くらいあるわね」
わたしはリーダーと12時50分の待ち合わせで15分以上早く来たけど、リーダーはもう待ってた。カーラさんも15分待ち合わせより早く来たけど、片やアロン君は・・・
「カーラさん、本当にあと15分きっちり待たされると思いますよ」
「え?何で?」
「アロン君は待ち合わせ時間に、秒単位でピッタリ来る人だからです」
「そうなの?」
「へえ、秒単位でかい?」
カーラさんがわたしをじろりとのぞき込んだ。
「詳しいね。・・・アロン君と、待ち合わせしたこと、あるの?」
さあーっと血の気が引いた。正当なペア相手の人を前に、間違わられるような発言しちゃった!
「あの、あの、委員の仕事とかで・・。ほら、安全巡視をやってもらうのに、たまに朝とかに・・・」
これは本当の事だ。
「あっそうだ!いつも小泉さんに立ち会わせちゃって!つ、次、いつでしたっけ?!」
リーダーが大声で割って入った。
「て、手帳見ないと、わ、分かんないです」
「そうですかー。分かったら教えてくださいね」
こくこくと首を縦に振る。本当は覚えてるのに。
次はアロン君の誕生日の日ですよ。
でもリーダーが話に入ってきてくれたおかげで、カーラさんの疑いは晴れたみたい・・。よかった。
さてそれからは、2本目のファンタジーアニメについて、リーダーからいろいろ話を聞いたりしているうちに、カーラさんとアロン君の待ち合わせ時間の午後1時が近付いてきた。
「そろそろ来るかな」
リーダーが腕時計を見る。
そして期待にもれずというか、わたしの言った通り秒単位で、13時”10秒前”にアロン君は現れたのだった。
「よう。時間ぴったりだな」
「こんちゃ。俺は時間厳守な男なんだ。あれ?なんでリーダー達もいるの?」
片手を上げて挨拶しながらこっちに歩んできたアロン君は、カーラさんの横に居並ぶわたし達を見て不思議そうにした。
「ハウルから割引券もらったんだって?それ出所は生徒会長でさ、もともとペアチケットのペアってやつで、2枚あったんだ。1枚僕がもらってね。それで小泉さん誘って待ち合わせてたんだけど。あとの1枚は会長が使うって言ってたのに、そしたらカーラがいたからさ、ちょっとびっくり。ハウル、変な入手の仕方してないだろうな」
アロン君は一瞬心配顔になった。きっと『あり得る・・・』と思ったに違いない。
わたしはそれより、カーラさんをほっぽってることを怒った。
待ってる間に変な人に絡まれたりしてたらどうするんですか。
「アロン君、女の子待たせちゃダメですよ」
小言うるさいわたしがいることを確認したアロン君だけど、にっと笑われただけ。
カーラさんに至っては、カチンコチンな笑いをたたえて気にする風もなく、
「は、はぁい。ダイジョブよ、時間通りだし・・」
とアロン君を迎え入れた。
「ところで何の映画?券には何も書いてないんだけど。土日のこの時間でのみ有効って」
「その時やってるものってことだな」
アロン君の質問にリーダーが解決しない答えをすると、カーラさんが本日の上映スケジュールを見て、アロン君の聞きたかった回答を指で指し示した。
「今日のこの時間は、アニメとドキュメンタリーの2本立てですって」
「なんだ?その組合せ」
アロン君が怪訝な顔で首をひねる。
「とにかく手に入ったフィルムを手当たり次第上映するんでしょう」
わたしは最近悟った片いなかの独特なルールから、勝手な印象で適当な事を言った。するとリーダーが少し不安気にわたしを伺った。
「もしかして、この映画気に入りませんか?」
嫌がっている風に見えたんだろうか。いい機会だからむしろ見てみたいのだけど。
「いいえ?普段あまり見ない映画ですし、せっかくですから」
リーダーはほっと胸をなで下ろしたようだ。
「よかった。じゃ、入りましょうか」
そう言ってわたしの背中を促した。わたしはリーダーと一足先にシアターへ入っていった。
中はまだ殆どお客さんがいない状態だったので、わたしはスクリーン真っ正面の、首を上下に傾ける必要もない席を選んで陣取った。昔、目が悪いからと前の方の席に座ったら、見上げてるうちに首が痛くなって酷い目にあった事がある。今はメガネの調子もいいので、一番後ろにでも座らない限りどこに座っても見えないなんて事はないと思うし。
アロン君達が入ってくるのを見つけると、わたしは手招きして2人を呼び寄せた。アロン君は大きなポップコーンを持っていた。売店で買ったものらしい。入れ物は大きさといい形といい、まるでバケツ。
「ここの名物のバケツポップコーンですよ」
何のひねりもないその商品名をリーダーが教えてくれる。やっぱり片いなかだなあ。
「いい場所取ったね。横いいの?」
アロン君が聞く。傍らには硬い表情で微笑んでるカーラさん。そうか、ここは嫌だったかな・・。
「・・2人きりがいいなら、お好きなところへ」
でも2人は特段気にならないみたい。
「せっかく取ってくれたし、いいよね?ここで」
「うん」
一緒にいれば2人を見張れるとも思ったけど、イチャイチャされたら、それも見なきゃならないのかと思うと、失敗したような気がする。ああ、もう何でこの2人も今日映画なの?
「アロン、いいもの買ってきたな。裕美子さんもいりますか?」
辺りには甘いキャラメルのいい匂いがただよっていた。アロン君が買ってきたポップコーンはキャラメルシロップかけのだったからだ。
「お昼食べていくらも経ってないから、わたしはいらないですけど・・・リーダーは遠慮しなくていいですよ?」
「じゃ、いっか・・」
でもリーダー、絶対未練もってる。アロン君のポップコーンをさっきからちらちら見て気にしてる。
わたしはリーダーの袖を引っ張った。
「気になるなら買いに行きましょう。始まったら動けないですから」
「え?あはは。ばれちゃった?恥ずかしいな」
バレバレですよ。
それにしてもその大きいの、同じ味で飽きないかしら。買うならアロン君のとは違うのにした方がいいよね?甘い系統のもダメ。
「・・・2人でそれ食べ切れますかね?」
ぽそっとそう呟いたら、アロン君、わたしの言わんとしてることを読み取った。
「確かにこの量ずっとはちょっとくどいんだよね。リーダー、買うなら塩味にしてよ。こっちのもあげるから、いくらか交換しようぜ。いいよね?」
「う、うん。その方が・・楽しめるよね?」
カーラさんの同意も取ってくれた。これで売り場行っても時間かけなくて済む。
「はい。じゃ、そうしましょう。あと5分少々ですよ、リーダー急ぎましょう」
「あ、はいはい」
リーダーを立たせると、ポップコーン売り場に急いだ。
次回「第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(10):アロン君の家に初めてお邪魔」へ続く!
前回のお話「第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(8):各ペアの予定」
対応する第1部のお話「第1部:第16章 改めてカップルで(3):片いなか映画館」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
Copyright(c) 2009-2016 TSO All Rights Reserved
映画館での集合シーンを裕美子ちゃん視点で見た回でした。
挿絵は第1部のときのものです。映画の看板で一番左のものがリーダーお勧めの「おねがい!勇者さま~DEAR MY HEROINE~」。かっぱさんのファンタジー小説が原作のアニメということになっています。この看板の絵、かっぱさん自ら描いたブログトップ絵をお借りしたものです。震災のしばらく後、ブログは閉鎖されてしまったので、今となっては貴重な残っている絵なのかもしれません。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
ぽちっと応援してください。
にほんブログ村 |
にほんブログ村 |
にほんブログ村 |
☆☆ 災害時 安否確認 ☆☆
コメント 0