スト魔女二次小説:水音の乙女 ~第8話~ [スト魔女二次小説]
第8話「海のネウロイ その1」
シンガポールで上下にスタッキングした新型ネウロイが現れ、下半分を海に落っことして、上だけがジャングルのどこかにあるネウロイの巣に戻ったと思われる事件が起きて1週間が過ぎた。
撃墜はできなかったものの、新型ネウロイの性能を調べ、交戦経験もあるシィーニーは、欧州から取材や、あわよくばスカウトでも来ないかとを首を首長竜にして待っていたが、残念ながらそのようなネウロイが欧州には現れる気配なく、シンガポールのブリタニア司令部でももうあの事件のことは忘れ、解決したものとして扱われようとしていた。
欧州召還の話がないとすれば・・・
その日の定例ミーティングを終えたシィーニーは、執務室へ戻るバーン大尉を廊下で捉え、愛想よく笑いながら問いかけた。
「バーン大尉?、新型機の話はどうなったんですかぁ?」
スタッキングネウロイはシンガポール方面では初となるビームを放つネウロイとなったが、非力なグラディエーターでそいつに威力偵察攻撃を仕掛ける見返りとして、大尉が新型ストライカーの導入を口約束した件の事だ。しかし大尉の冷めた目は少しも変化しなかった。
「あ?ネウロイ撃墜できなかったじゃないか」
「そ、そんなあ!でもぉ、最低限のお仕事はしましたよお。上の奴しか攻撃してこないとか、その火力とか、運動性能とか」
「所定の仕事以上の仕事をしてこそボーナスは弾むというものだ」
「でもでもぉ?、あんなビーム砲装備のネウロイがうじゃうじゃ来るようになったら、グラディエーターじゃ太刀打ちできませんよ?。当てがあるって言ってたじゃないですか?」
執務室に入ろうとする大尉にシィーニーは一生懸命すがった。
「鬱陶しいな、この暑いのに。わかった、ついでがあるからちょっと聞いてやる」
バーン大尉は執務室に入ると電話を取った。
「コロンボ基地を・・・」
大尉が机の上のシガーケースから紙巻タバコを1本取ったのを見るや、シィーニーはささっとポケットからエマージェンシーキットのオイルライターを出して火を点けようとするが、オイルが切れているらしくてまったく火が点かない。ぺろっと舌を出して愛想笑いをしたが、大尉の冷たい目線が冷凍ビームのようなじと目になってシィーニーに降り注がれた。
「ここが南国でよかったな。北方の戦線で墜落したらお前は焚き火もできず冷凍保存されて、発見されるのは10年後だ。・・ああ、シンガポール司令部のバーン大尉だ。やあ、君か。あいかわらず元気そうだな。セイロンカリーが体にいいんだそうじゃないか。・・ははは、ココナッツならこっちにもあるよ」
シィーニーを相手にする時とはえらい違いな親しげな語り口調で電話先の人と話し始めた。
「それで、こないだ頼んでいたものだが・・・・・そうか!今度の連絡機で?。じゃあ来週早々に着くな。いつもすまんな!」
シィーニーは身を乗り出した。
「来週には新型機が到着するんですか?やった!」
バーン大尉はシィーニーなぞ視界の外に置いたまま話し続けた。
「うん、うん、そうなのだ。やっぱりアッサムティーよりセイロンティーの方が私の好みでな。基地にはカルカッタから来るアッサムか、インドシナのコーヒーしかなくて辟易していたのだ。いや楽しみだ。今度改めて礼をするよ。それでは・・」
電話を置こうとした手をガッとシィーニーが掴んだ。
「あの、新型機・・。まさか大尉、ブリタニア軍連絡網で紅茶の輸入の相談だけってことは・・」
シィーニーとしては命にかかわるところだけに真剣さが違うようで、その形相に大尉も引きつり、受話器をもう一度耳に当てると、相手を再び呼び出した。
「ところで、相談していたそっちの予備機の件なんだが・・。そう、機種転換で・・・・・。もう送ってくれてる?定期補給船に・・・。そうかありがとう。君はいつも仕事が早くて大変助かる、特に今」
そう言ってちらりと大尉はシィーニーに目をやった。いつものあどけない顔に戻って、期待で口を大きく開けていた。
受話器を置いたバーン大尉は、左側の唇だけを上に上げていつもの卑屈いた笑顔に戻ると、さも得意げにシィーニーに言った。
「聞いての通り、実は前々から根回ししていたのだ」
「そ、そうだったんですか、さすが大尉?」
「当たり前だ。もっと崇めろ。そして喜べ、新型機が来るぞ」
「やったーっ!」
バーン大尉は胸を張って言い放った。
「グラディエーターの新しい型、グラディエーターMk.Ⅱだ。インド連邦軍ウイッチにハリケーンが装備されるので、機種転換で余る予備機を譲ってもらえるよう頼んでいたのだ。今度入港する定期連絡船で到着するぞ」
シィーニーは顎が外れようかというほどぱかーんと口が大きく開いて、塞ぎようもなかった。
「グラディエーターMk.Ⅱ??それもインド軍のおさがりですか?!それよりこっちにもハリケーン下さいよ!ハリケーンだってもう今では古いってのに!」
ハリケーンは宮藤理論を取り入れ、魔導エンジンをストライカー内に収めたブリタニア初の戦闘脚だった。初期の欧州撤退戦でブリタニアの名だたるウィッチたちも使用した名機だが、さすがに今でも飛ばしている人はいない。
「出力アップしたMk.Ⅱなら今のより強力な防御シールドが張れるぞ、はっはっは」
「大尉のばかぁー!」
シィーニーは泣きながら走って司令部を後にした。
------------------------------
シンガポールでそんなことが行われていた時、1000キロ離れたシャムロ湾の中央で、ブリタニアのタンカーと扶桑の貨物船が行き違おうとしていた。
続く
前の話
次の話
Copyright(c) 2009-2016 TSO All Rights Reserved
シィーニーちゃん再登場?。ハリケーンでさえも分けてもらえない可哀相な植民地兵ですが、これからもいっぱい出てもらおうと画策中です。天音ちゃん達との共闘をどう実現しようか。
グラディエーターには艦上機型のシーグラディエーターもあるのですが、天音ちゃん達が乗艦するのは空母ではないので、海上で一緒に行動するのは難しいでしょうか。乗り換えちゃえばいいのかもしれないですが。
ハリケーンは「いらん子・・」のエリザベス・ビューリングが使ってた機体です。その時(1939年)でさえも穴吹智子に「二線級の飛行脚じゃない」と言われてるんですから、これでさえ相当な旧式です。
ちなみに本作は1945年末の設定で書いてます。
なおシィーニーちゃんはこの後、他のブリタニアの戦闘脚(これも新しいとは言いがたいですが)も使う予定です。これもストライクウィッチーズには出たことがない機体なはずです。
にほんブログ村
気に入ったらぽちっとしてください。
本作品は二次小説投稿サイトの「ハーメルン」にも同時掲載していきます。
シンガポールで上下にスタッキングした新型ネウロイが現れ、下半分を海に落っことして、上だけがジャングルのどこかにあるネウロイの巣に戻ったと思われる事件が起きて1週間が過ぎた。
撃墜はできなかったものの、新型ネウロイの性能を調べ、交戦経験もあるシィーニーは、欧州から取材や、あわよくばスカウトでも来ないかとを首を首長竜にして待っていたが、残念ながらそのようなネウロイが欧州には現れる気配なく、シンガポールのブリタニア司令部でももうあの事件のことは忘れ、解決したものとして扱われようとしていた。
欧州召還の話がないとすれば・・・
その日の定例ミーティングを終えたシィーニーは、執務室へ戻るバーン大尉を廊下で捉え、愛想よく笑いながら問いかけた。
「バーン大尉?、新型機の話はどうなったんですかぁ?」
スタッキングネウロイはシンガポール方面では初となるビームを放つネウロイとなったが、非力なグラディエーターでそいつに威力偵察攻撃を仕掛ける見返りとして、大尉が新型ストライカーの導入を口約束した件の事だ。しかし大尉の冷めた目は少しも変化しなかった。
「あ?ネウロイ撃墜できなかったじゃないか」
「そ、そんなあ!でもぉ、最低限のお仕事はしましたよお。上の奴しか攻撃してこないとか、その火力とか、運動性能とか」
「所定の仕事以上の仕事をしてこそボーナスは弾むというものだ」
「でもでもぉ?、あんなビーム砲装備のネウロイがうじゃうじゃ来るようになったら、グラディエーターじゃ太刀打ちできませんよ?。当てがあるって言ってたじゃないですか?」
執務室に入ろうとする大尉にシィーニーは一生懸命すがった。
「鬱陶しいな、この暑いのに。わかった、ついでがあるからちょっと聞いてやる」
バーン大尉は執務室に入ると電話を取った。
「コロンボ基地を・・・」
大尉が机の上のシガーケースから紙巻タバコを1本取ったのを見るや、シィーニーはささっとポケットからエマージェンシーキットのオイルライターを出して火を点けようとするが、オイルが切れているらしくてまったく火が点かない。ぺろっと舌を出して愛想笑いをしたが、大尉の冷たい目線が冷凍ビームのようなじと目になってシィーニーに降り注がれた。
「ここが南国でよかったな。北方の戦線で墜落したらお前は焚き火もできず冷凍保存されて、発見されるのは10年後だ。・・ああ、シンガポール司令部のバーン大尉だ。やあ、君か。あいかわらず元気そうだな。セイロンカリーが体にいいんだそうじゃないか。・・ははは、ココナッツならこっちにもあるよ」
シィーニーを相手にする時とはえらい違いな親しげな語り口調で電話先の人と話し始めた。
「それで、こないだ頼んでいたものだが・・・・・そうか!今度の連絡機で?。じゃあ来週早々に着くな。いつもすまんな!」
シィーニーは身を乗り出した。
「来週には新型機が到着するんですか?やった!」
バーン大尉はシィーニーなぞ視界の外に置いたまま話し続けた。
「うん、うん、そうなのだ。やっぱりアッサムティーよりセイロンティーの方が私の好みでな。基地にはカルカッタから来るアッサムか、インドシナのコーヒーしかなくて辟易していたのだ。いや楽しみだ。今度改めて礼をするよ。それでは・・」
電話を置こうとした手をガッとシィーニーが掴んだ。
「あの、新型機・・。まさか大尉、ブリタニア軍連絡網で紅茶の輸入の相談だけってことは・・」
シィーニーとしては命にかかわるところだけに真剣さが違うようで、その形相に大尉も引きつり、受話器をもう一度耳に当てると、相手を再び呼び出した。
「ところで、相談していたそっちの予備機の件なんだが・・。そう、機種転換で・・・・・。もう送ってくれてる?定期補給船に・・・。そうかありがとう。君はいつも仕事が早くて大変助かる、特に今」
そう言ってちらりと大尉はシィーニーに目をやった。いつものあどけない顔に戻って、期待で口を大きく開けていた。
受話器を置いたバーン大尉は、左側の唇だけを上に上げていつもの卑屈いた笑顔に戻ると、さも得意げにシィーニーに言った。
「聞いての通り、実は前々から根回ししていたのだ」
「そ、そうだったんですか、さすが大尉?」
「当たり前だ。もっと崇めろ。そして喜べ、新型機が来るぞ」
「やったーっ!」
バーン大尉は胸を張って言い放った。
「グラディエーターの新しい型、グラディエーターMk.Ⅱだ。インド連邦軍ウイッチにハリケーンが装備されるので、機種転換で余る予備機を譲ってもらえるよう頼んでいたのだ。今度入港する定期連絡船で到着するぞ」
シィーニーは顎が外れようかというほどぱかーんと口が大きく開いて、塞ぎようもなかった。
「グラディエーターMk.Ⅱ??それもインド軍のおさがりですか?!それよりこっちにもハリケーン下さいよ!ハリケーンだってもう今では古いってのに!」
ハリケーンは宮藤理論を取り入れ、魔導エンジンをストライカー内に収めたブリタニア初の戦闘脚だった。初期の欧州撤退戦でブリタニアの名だたるウィッチたちも使用した名機だが、さすがに今でも飛ばしている人はいない。
「出力アップしたMk.Ⅱなら今のより強力な防御シールドが張れるぞ、はっはっは」
「大尉のばかぁー!」
シィーニーは泣きながら走って司令部を後にした。
------------------------------
シンガポールでそんなことが行われていた時、1000キロ離れたシャムロ湾の中央で、ブリタニアのタンカーと扶桑の貨物船が行き違おうとしていた。
続く
前の話
次の話
Copyright(c) 2009-2016 TSO All Rights Reserved
シィーニーちゃん再登場?。ハリケーンでさえも分けてもらえない可哀相な植民地兵ですが、これからもいっぱい出てもらおうと画策中です。天音ちゃん達との共闘をどう実現しようか。
グラディエーターには艦上機型のシーグラディエーターもあるのですが、天音ちゃん達が乗艦するのは空母ではないので、海上で一緒に行動するのは難しいでしょうか。乗り換えちゃえばいいのかもしれないですが。
ハリケーンは「いらん子・・」のエリザベス・ビューリングが使ってた機体です。その時(1939年)でさえも穴吹智子に「二線級の飛行脚じゃない」と言われてるんですから、これでさえ相当な旧式です。
ちなみに本作は1945年末の設定で書いてます。
なおシィーニーちゃんはこの後、他のブリタニアの戦闘脚(これも新しいとは言いがたいですが)も使う予定です。これもストライクウィッチーズには出たことがない機体なはずです。
にほんブログ村
気に入ったらぽちっとしてください。
本作品は二次小説投稿サイトの「ハーメルン」にも同時掲載していきます。
☆☆ 災害時 安否確認 ☆☆
コメント 0