スト魔女二次小説:水音の乙女 ~第9話~ [スト魔女二次小説]
第9話「海のネウロイ その2」
シンガポールからおよそ1000キロ離れたシャムロ湾。そこでブリタニアのタンカーと扶桑の貨物船が行き違おうとしていた。
双方の船は発光信号で挨拶を交わし、調子はどうだいと扶桑の船が語りかけたところだった。ブリタニアのタンカーが「絶好調ー!」と返事を返した直後。
ドバーッっという大音響とともに、タンカーのど真ん中から巨大な水柱が上がった。
「あんれまあ、さすが絶好調やのぉ。あれは何の花火じゃ?うちの船も景気付けにあんなの装備してみたいのぉ」
船橋にいたみんなが感心感心とその見事な水柱に見入って、何人か手を叩いている者もいた。
しかし滝のような水柱が落ちてくると、水霧から姿を現したタンカーは中央から真っ二つに折れており、前後に寸断された船体はほぼ同じ速度で水中に引きずり込まれていった。
唖然と見守る扶桑貨物船の船員達。何が起こったか把握するのに10秒かかった。
「沈没したぞ!」
「んなこたあ見りゃわかる!」
「なんで?絶好調ゆうとったろうが!」
「救助せにゃあ・・」
たまたま乗り込んでいた海軍士官が、船橋の窓に顔を貼り付けて船の残骸が漂う海を凝視し、信じられんといった様子で言った。
「あれは魚雷だ!魚雷攻撃にやられたのとそっくりだ」
「え?ぎょ、魚雷?いったい誰が・・」
その時、
「右舷後方!あれは鯨ですか?」
船橋の右ウイングにいた見張りの一人が大きく指を指した。
「何?」
[!!]
見張りの声に、その方角を見た海軍士官と船長たちは言葉を失った。
その黒い姿。表面に描かれたヘックス模様。そこに響き渡った特有の叫び声のような音・・・
間違いない!
「ネウロイ!!」
そうみんなが叫んだとき、信じられないことが起きた。そのネウロイは水中に身を沈めていったのだ。
「馬鹿な!水の中からネウロイだなんて・・」
みんながネウロイが姿を消した海面を見つめて呆然としているところで、一人海軍士官だけがこの場にいることの危険を感じ取っていた。
海軍士官が叫んだ。
「船長、全速力!回避運動を!通信士、今起こったことを至急打電、救援要請を!」
我に返った船長も叫ぶ。
「き、機関最大出力ー!」
航海士がエンジンテレグラフを全速に入れる。チンチンと出力変更を告げる鐘の音が響いた。
「周囲、警戒を怠るな!」
とたんに先ほどネウロイを見つけた見張り員が裏返った声で叫んだ。
「何かこっちへ向かってきます!」
ネウロイが身を沈めた方向から一筋の白い線がこっちへ向かっていた。見紛うはずもない、雷跡だった。
右ウイングに飛び出した海軍士官は、手摺から上半身ほとんどを外へ投げ出してそれを確認すると、大声で船橋の中へ向いて叫んだ。
「船長、取り舵!魚雷と同じ進路に!270!」
「と、とーりかーじ!進路270!機関室、速力上げ急げー!」
操舵員が舵をぐるぐる回すが、貨物船はなかなか曲がる気配を見せない。ようやく回頭を始めても、何かに邪魔をされてるのはないかと思うほどゆっくりゆっくり動くように感じられた。その遅さがもどかしく、甲板員が近付いてくる雷跡に「うわああ!」と絶叫している。
「舵もどーせー!」
ようやくスピードが乗ってきて、船は魚雷と同じ進路になった。
「来ます!」
左舷のすぐ横を魚雷が並び、ゆっくりと追い越していった。
「外した!」
「このまま逃げ切れ!スピードもっと上げろ!」
水中に沈んだネウロイはどこにいるのか姿が見えない。追いかけているのか、留まっているのか。もしかして追い越して前方で待ち構えているのでは?!見えない恐怖はさらに恐怖を呼ぶ。
煙突からは真っ黒な煙と赤い火の粉が飛び、火事の夜空のようだ。罐の圧力が危険なところに飛び込もうとしても機関長は止めなかった。むしろまだ足らんまだ足らんと機関員にはっぱをかけ、うなる蒸気タービンに機関員はそこにいることへ身の危険を感じそうになるほどだ。
幸いネウロイは追ってこなかったようだ。3時間全速で逃げ、機関が壊れる寸前、貨物船はようやくスピードを落とした。
気持ちが落ち着いてきて、初めて彼らはブリタニアタンカーの乗員を置き去りにしてきたことに気付いた。生存者がいたかどうかは判らないが・・。
乗組員達は後甲板に集まると、ブリタニアタンカーと挨拶を交わした方へ向き、頭を垂れて黙祷した。
------------------------------
かろうじて逃げ切った扶桑貨物船の救助要請を聞きつけ、迎えに出たシンガポール在泊の扶桑海軍の特設砲艦が護衛についてヨタヨタとシンガポールへ向かっている最中に、またもやシャムロ湾ではインドシナやシャムロの商船5隻が次々と沈められた。
ブリタニアはタンカー乗組員の救助・捜索のため、シンガポール基地から海防艦を出撃させた。しかしその海防艦は2日後に消息を絶った。
またブリタニアはシャムロ王国海軍へも救援支援の要請をしていたが、シャムロは自国の船舶の救助でブリタニアタンカーどころではなくなってしまった。
続く
前の話
次の話
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シャムロ湾。現世ではタイランド湾のことです。
タイ王国は第2次大戦当時も日本との関係が深く、海軍の船を日本が建造したりしてました。ので、ここでもシャムロ王国海軍の艦船には扶桑で建造されたものがある、というつもりです。
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シンガポールからおよそ1000キロ離れたシャムロ湾。そこでブリタニアのタンカーと扶桑の貨物船が行き違おうとしていた。
双方の船は発光信号で挨拶を交わし、調子はどうだいと扶桑の船が語りかけたところだった。ブリタニアのタンカーが「絶好調ー!」と返事を返した直後。
ドバーッっという大音響とともに、タンカーのど真ん中から巨大な水柱が上がった。
「あんれまあ、さすが絶好調やのぉ。あれは何の花火じゃ?うちの船も景気付けにあんなの装備してみたいのぉ」
船橋にいたみんなが感心感心とその見事な水柱に見入って、何人か手を叩いている者もいた。
しかし滝のような水柱が落ちてくると、水霧から姿を現したタンカーは中央から真っ二つに折れており、前後に寸断された船体はほぼ同じ速度で水中に引きずり込まれていった。
唖然と見守る扶桑貨物船の船員達。何が起こったか把握するのに10秒かかった。
「沈没したぞ!」
「んなこたあ見りゃわかる!」
「なんで?絶好調ゆうとったろうが!」
「救助せにゃあ・・」
たまたま乗り込んでいた海軍士官が、船橋の窓に顔を貼り付けて船の残骸が漂う海を凝視し、信じられんといった様子で言った。
「あれは魚雷だ!魚雷攻撃にやられたのとそっくりだ」
「え?ぎょ、魚雷?いったい誰が・・」
その時、
「右舷後方!あれは鯨ですか?」
船橋の右ウイングにいた見張りの一人が大きく指を指した。
「何?」
[!!]
見張りの声に、その方角を見た海軍士官と船長たちは言葉を失った。
その黒い姿。表面に描かれたヘックス模様。そこに響き渡った特有の叫び声のような音・・・
間違いない!
「ネウロイ!!」
そうみんなが叫んだとき、信じられないことが起きた。そのネウロイは水中に身を沈めていったのだ。
「馬鹿な!水の中からネウロイだなんて・・」
みんながネウロイが姿を消した海面を見つめて呆然としているところで、一人海軍士官だけがこの場にいることの危険を感じ取っていた。
海軍士官が叫んだ。
「船長、全速力!回避運動を!通信士、今起こったことを至急打電、救援要請を!」
我に返った船長も叫ぶ。
「き、機関最大出力ー!」
航海士がエンジンテレグラフを全速に入れる。チンチンと出力変更を告げる鐘の音が響いた。
「周囲、警戒を怠るな!」
とたんに先ほどネウロイを見つけた見張り員が裏返った声で叫んだ。
「何かこっちへ向かってきます!」
ネウロイが身を沈めた方向から一筋の白い線がこっちへ向かっていた。見紛うはずもない、雷跡だった。
右ウイングに飛び出した海軍士官は、手摺から上半身ほとんどを外へ投げ出してそれを確認すると、大声で船橋の中へ向いて叫んだ。
「船長、取り舵!魚雷と同じ進路に!270!」
「と、とーりかーじ!進路270!機関室、速力上げ急げー!」
操舵員が舵をぐるぐる回すが、貨物船はなかなか曲がる気配を見せない。ようやく回頭を始めても、何かに邪魔をされてるのはないかと思うほどゆっくりゆっくり動くように感じられた。その遅さがもどかしく、甲板員が近付いてくる雷跡に「うわああ!」と絶叫している。
「舵もどーせー!」
ようやくスピードが乗ってきて、船は魚雷と同じ進路になった。
「来ます!」
左舷のすぐ横を魚雷が並び、ゆっくりと追い越していった。
「外した!」
「このまま逃げ切れ!スピードもっと上げろ!」
水中に沈んだネウロイはどこにいるのか姿が見えない。追いかけているのか、留まっているのか。もしかして追い越して前方で待ち構えているのでは?!見えない恐怖はさらに恐怖を呼ぶ。
煙突からは真っ黒な煙と赤い火の粉が飛び、火事の夜空のようだ。罐の圧力が危険なところに飛び込もうとしても機関長は止めなかった。むしろまだ足らんまだ足らんと機関員にはっぱをかけ、うなる蒸気タービンに機関員はそこにいることへ身の危険を感じそうになるほどだ。
幸いネウロイは追ってこなかったようだ。3時間全速で逃げ、機関が壊れる寸前、貨物船はようやくスピードを落とした。
気持ちが落ち着いてきて、初めて彼らはブリタニアタンカーの乗員を置き去りにしてきたことに気付いた。生存者がいたかどうかは判らないが・・。
乗組員達は後甲板に集まると、ブリタニアタンカーと挨拶を交わした方へ向き、頭を垂れて黙祷した。
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かろうじて逃げ切った扶桑貨物船の救助要請を聞きつけ、迎えに出たシンガポール在泊の扶桑海軍の特設砲艦が護衛についてヨタヨタとシンガポールへ向かっている最中に、またもやシャムロ湾ではインドシナやシャムロの商船5隻が次々と沈められた。
ブリタニアはタンカー乗組員の救助・捜索のため、シンガポール基地から海防艦を出撃させた。しかしその海防艦は2日後に消息を絶った。
またブリタニアはシャムロ王国海軍へも救援支援の要請をしていたが、シャムロは自国の船舶の救助でブリタニアタンカーどころではなくなってしまった。
続く
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シャムロ湾。現世ではタイランド湾のことです。
タイ王国は第2次大戦当時も日本との関係が深く、海軍の船を日本が建造したりしてました。ので、ここでもシャムロ王国海軍の艦船には扶桑で建造されたものがある、というつもりです。
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2016-02-14 07:00
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