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<第2部:第13章 アロン君の誕生日(4):カーラのイケイケプレゼント> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第362回
<第2部:第13章 アロン君の誕生日(4):カーラのイケイケプレゼント>


その日のお昼休みのこと。わたしはハウルさん、カーラさん、クリスティンさんと一緒に中庭の芝生の上でお弁当を広げていた。
食べ終わった頃、ハウルさんが脇に置いてあった袋をごそごそとしながら怪しい笑みをわたし達に向けた。

「へへー。今日はデザート持ってきたよ。特別製だよ」
「わあ、うれしい、デザート?」

クリスティンさんが両手を顔の横で合わせて何が出てくるのかと期待を込めてハウルさんの手を追った。

「カーラにちょっと景気付けにね」

急に名前が出てきたカーラさんが顔を持ち上げてキョトンとした。

「私に?どういうこと?」
「誕プレ、あげるんでしょ?まだあげてないよね」
「あ、・・・ええ」

今日誕生日でカーラさんがと来れば、その相手は一人しか思い浮かばなかった。

「誕プレ?もしかして、アロン君に?」

てっきり知らないものだと思っていたわたしは、少し驚いてカーラさんを見上げた。

「うん、そうなの。今日、アロン君誕生日なの。・・裕美子知ってるの?」
「今朝、一緒に安全巡視してるとき、本人から聞きました。カーラさん、知ってたんですね」
「うん。ダーニャに聞いて教えてもらった」

恋愛相談所を開設しているダーニャさんは、いろんな人のプロファイルを収集している。誕生日の情報くらいなら当たり前のように知ってるでしょうね。
カーラさん、ちゃんとチェックしてたんだ。

「それで、何あげるの?」

クリスティンさんが尋ねる。

「・・マグカップ。こないだアロン君割っちゃったから、今ないだろうと思って」

マグカップと聞いて、ハウルさんが少し口元を引き攣らせた。割った張本人だものね。

「まだ替わりの持ってないですね。実用的でいいんじゃないですか?」

すぐ立ち直ったハウルさんは、カーラさんをせっついた。

「で、まだあげてないんでしょ?いつあげるの?」
「う・・ん・・」
「悩んでたら今日が終わっちゃうよ。てなわけで景気付け。みんなも食べよ。一口でがばっといってね」

ハウルさんはみんなに銀紙に包まれた大きな丸いものを配った。開けてみると、チョコレートのようだ。

「おっきいチョコレート。これ一口で?」

クリスティンさんがそのチョコレートを目の前にかざした。クリスティンさんの大きな目に負けないくらい大きい。

「かじったりしちゃだめよ」

かじっちゃいけないんだ。

「口に入れるの、たいへん・・」

わたしはここ何年かぼそぼそとしか言わなくなったので、口を大きく開けるのが苦手になっていた。

顎が・・、もうこれ以上は・・、やっと入った。

「ふはっ!おはへ!(お酒)」
「強!なにこれ!」

一足先に口の中に入れたクリスティンさんとカーラさんが口に手を当てて目を丸くした。

「アルコール度90度のテキーラが入ってるのよ」

ハウルさんの説明を待つまでもなく、わたしの口の中でもくしゃっと潰れたチョコの中からぴしゃっと飛び出た液体が、止める間もなく喉を通り過ぎて落ちていった。
それは単なるチョコレートじゃなくて、ウイスキー(テキーラ?)ボンボンだったのだ。

「げほげほ。くっ、口の中と喉とお腹とが熱いです!」

カーラさんが心配顔でハウルさんを見る。

「学校でこれはまずいんじゃない?」
「そう?」

ハウルさんは一向に問題視してなかった。いや、まずいと思います。

案の定しばらくするとみんな顔が赤くなって目が座ってきた。
クリスティンさんがいつものニコニコ顔をぽーっとさせて言った。

「ハウル~、これは強すぎよ~」

わたしも天地が回転を始めた。

「くるくる・・ちょっと、これはやばいかも・・」

これは普通じゃない。ウイスキーボンボンならわたしも食べたことあるけど、後で何となく頭重くなったり、火照って熱くなったりはしたと思う。でも今のこれは、あのレソフィックさんの家でワイン飲んだ時と同じ感覚。そして映画館で配られた怪しい飲み物を飲んだ時と同じ感覚。つまり、完全に酩酊状態に向かってる!

その時、カーラさんががばっと起きあがった。

「プレゼント渡してくる!」

そう言い放つと、ダッシュして何処かへ走って行った。

「やったー!スイッチ入ったよ。がんばってねー」

すっ飛んでいくカーラさんを見てハウルさんは大喜び。そして次いで悪い娘の顔になった。

「むふふ、ちょっと見に行こうよ」

もしかしてあれは、お酒入ると調子良くなって積極的になるあの状態ですか?
カーラさん、いつもお酒の力借りて、ずるいです。それは本当のあなたじゃないですよ。いつも通りの自分で向き合えなくってどうするんですか~。

「さあ見に行くわよ。立てる?裕美子」

わたしがふらついてると見たハウルさんは、ひょいっとわたしを担ぎ上げた。やーん、お姫様抱っこされてる!
軽々と持ち上げられたわたしは、カーラさんとアロン君の会見の場へと連れて行かれた。






外でいつもの二人と一緒に昼食を取っていたアロン君を連れ出したカーラさんは、見えないところまでアロン君を引っ張っていき、木の下で二人きりになると、一言二言会話した後さっとマグカップのプレゼントを手渡した。
勘よく先回りしていたハウルさん率いるわたし達は、茂みから顔だけ3つ縦に並べてその様子を覗いていた。

「あ、渡してる。あっさり渡しちゃってるよ」
「ホントだ。普段からああいうふうに自然にできればねえ」

ハウルさんとクリスティンさんはちょっと拍子抜けした様子。

「でもカーラさん、それいんちきですよぉ。今普通の状態じゃないじゃないですか~」

くるくる回る世の中をこらえて見てるわたしは、いくら積極的とはいってもドーピング状態のカーラさんでは納得いかない。
その時クリスティンさんが手を口に持っていった。

「あ・・あ・・カーラ、なにを・・」

ハウルさんもカーラさんが予想もしてなかったことをしようとしてると気付いた。

「うそ、まさか!」

何が起きてるかというと、カーラさんはアロン君にプレゼントを渡した後、アロン君に急接近して背伸びをしたのだ。

「きゃ!」
「わあ!」

その後カーラさんがやってしまった行動を見て、驚いたわたしとハウルさんはここにいることがバレてしまうほどの大声を出した。
だって、だって、カーラさんはちょっと背伸びをしたかと思うと、アロン君に顔をくっ付けたのだ。いや、くっ付けたのは顔じゃない。
唇。明らかに唇をくっ付けた。
つまり、キスをしたんだ。

「やるう!」
「カーラ、すごぉーい」
「そ、そこまでしますか?!」

思わず出てしまった叫び声でこっちに気付いたカーラさんがこっちを振り向いた。その顔は酔って赤くなった上に、さらに見られたことへの恥ずかしさで朱の色を塗り重ねて、もう真っ赤っか。そしてアロン君への挨拶もそこそこにこっちへ向かって猛ダッシュで走ってきた。

「あんたたち、何つけて来て覗いてんの!」

カーラさんがアロン君に・・カーラさんがアロン君に・・カーラさんがアロン君にキ、キッ、キスしたあ!

カーラさんが走り寄り、ハウルさん含めてわたしも一抱えされると、強力な力でどこかへ引っ張られていった。

『カーラさんがアロン君にキスしたあ・・・うう、なんかくやしい。でも、でも、お酒の力とはいえ、やったもの勝ちだものね。。。。』

これほどの衝撃だというのに、わたしを襲う睡魔は強烈で、このあとカーラさんに何か文句言ったような気がするが、それでわたしの意識はこと切れた。


次回「第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(1):写生大会」へ続く!

前回のお話「第2部:第13章 アロン君の誕生日(3):裕美子のプレゼント」


対応する第1部のお話「第1部:第17章 アロンの誕生日:カーラのプレゼント」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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第1部のアロン君視点と読み合せると一連の流れになるかと思います。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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