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スト魔女二次小説:水音の乙女 ~第15話~ [スト魔女二次小説]

第15話「5%の一人」


横川少佐は車の所で待っていた磐城に

「霞ヶ浦に連絡して」

と言うと、磐城は

「はい、であります!」

と元気に返事をして、車に積んであった無線機でどこかを呼び出した。

「15分ですぐ目の前の海岸にタクシーが来るであります。いつでも出られる準備をしていたそうであります」

横川が天音を見下ろして言った。

「それだけ優先事項ってことよ」

天音はポカーンとよく分からんといった様子で眺めるだけだった。

車なら自分達が乗ってきたのがあるのに。




しばらくして、地元の湾内に巨大な飛行艇、磐城いわくタクシーが、轟音と共に水上滑走して進入してきたのを見て、漁港にいた人や漁協の人が何事かと浜辺に出てきた。

山見番所のおじさんが、海軍の人と一緒にいる天音とその両親がいるのを見つけて、驚いた顔をして山から降りてきた。

「やあ一崎さんご一家。天音ちゃん、なんだありゃ。どうしたんだべ?」

沖で轟音をあげている巨人機を指差しておじさんが言った。

「わたしを迎えに来たタクシー、なんですって」
「ええ?」

それは扶桑海軍が世界に誇る飛行艇。通称 二式大艇だった。

飛行艇からゴムボートが下ろされ、いつも天音が湾内の様子を調べるときに使っている桟橋にやってきた。

「一崎さん、行きましょう」
「はい。それじゃおじさん、またね。お父さんお母さん、行ってきます」
「気を付けてね」
「ええ?!マジかい?いったいどうなっちゅう?」
「車、漁協の駐車場に置かせてもらってるであります!のちほど戻ります故、しばらく保管お願いするであります!」

磐城がもやいを解きながら岸に叫んだ。



高台の学校からも、巨大な飛行艇がやってきたことと、その飛行艇に乗り込む天音の姿が確認されていた。

「ええー?天音乗っちゃったよ?!」
「ヤバいよ~。天音やっぱり捕まっちゃったんだよ~」
「パトカーとかじゃなくていきなり飛行機でなんて、どこの島に島流しさ」
「お見舞いに行けるのかな~」



------------------------------



二式大艇は水上から飛び上がると海岸線に沿って飛んだ。向かう先は横須賀。扶桑海軍最大の根拠地だ。初めての飛行機と、その空からの景色に、天音は窓に張り付きっぱなしだった。

『優奈もこんな景色を見てるんだ。この空を、自分の飛びたい方に自分の意志で飛んで行けるんだ』

空から見下ろす海もまた、どこまでも広く続いていた。
船から見る海は力強いけど、こんなにも果てしないものだとは。その雄大さに胸が打たれた。
すごい!

ふと窓に写る顔に気付いた。磐城さんだ。横で天音をじっと見ていた。

「あの、なんでしょう・・」
「サインもらっていいでありますか?」

とたんに横川少佐の縦チョップが磐城の額にはいった。

「あう!」
「だ、大丈夫?」
「うう、だめかもしれないであります・・」
「だいたい、わたしサインを求められるような人じゃないよ」
「いいえ!一崎殿はぜったい凄いはずであります!わたしは訓練中に筑波からも一崎殿の事を沢山聞いてまいりました。二つとしてない力ですよ?!」
「優奈は大袈裟だからなあ」
「実力のほどはこの後すぐ分かるであります」
「まだ、たまたま他にできる人が見つかってないだけだよ」
「もしそうだとしても、世界に披露されるのは一崎殿が世界初になるはずであります。なのでサインを・・あうっ!」

間髪入れず横川少佐のチョップが入った。

「だ、大丈夫?」
「うう、だめであります・・」
「じ、じゃあ、これからやる試験で、本当に凄いものだってみんなが認めるようだったら、サインしてあげるよ」
「本当でありますか?!」
「大したもんじゃないから、そんなことならないと思うけど」
「女に二言はないでありますよ?!」
「変な約束しない方がいいわよ」

横川少佐がうっすら笑みを浮かべて言った。

「凄いことになるのは間違いないから」
「また、横川さんまで・・」

とは言え、天音も少し心配になってきた。
凄いことと言えば、漁に連れて行かれて、村始まって以来の大漁をもたらして漁協を狂喜させた実績がある。仲買人が持ってる車じゃ運びきれなくて、村中の大八車をかき集めて凄いことになった。

もしかしてネウロイが大漁なんてことになったら・・

ぶるぶると首を横に振る。
心配顔の天音の横で、勝ち誇った顔の磐城が対照的だった。

「ところで磐城さんの固有魔法は何ですか?」

気分を変えて天音は聞いた。磐城は胸を張って答えた。

「わたしでありますか?ない、であります!」
「・・え?ウィッチなのに?」
「固有魔法を持ってるウィッチはほとんどいないであります。持ってる人はそれだけでエリートです」
「そうなんですか?」

天音は横川少佐に聞いた。

「その通りよ。普通は肉体強化とシールドが張れるくらいで、固有魔法を持つ人は5%くらいかしらね」
「あの501統合戦闘航空団なんて、全員が固有魔法持ちですよ。強いの当たり前です!」
「優奈は?なんかすごいスタミナだって聞いてるけど・・」
「もともと体力お化けなところに魔法力で強化されてるからで、肉体強化の一つであって、固有魔法ではありません。それでも重宝がられましたけど」
「そうなんだ・・」
「まあ、わたしも固有魔法ではないのですが、魔力の波動というか波を肌で感じることができるという特技があります」
「へえ。なあにそれ?」
「魔法力を発動すると、その人からは目に見えない波動、波が発せられるですよ。それが大気中のエーテルに色んな影響を与えているらしいのです。わたしはその波を感じ取れるです。僅かなもんですが」
「ふーん。なんかよく分かんないけど、凄いね」
「実は今日磐城さんに付いてきてもらった一番の理由は、一崎さんの魔法の波動を見てもらうためよ」
「え?」
「他の人と何が違うのか、ストライカーがなぜ動かないのか、その理由が分かるかもしれない」
「むふふふ。秘密を暴いて差し上げるでありますよ」

手をもみもみして構える磐城に、ひいいいっと天音は後ずさりした。

天音は自分が特別視されてるのを薄々感じ始めてきた。
それはエリートなのか。利用されているだけなのか・・

「まもなく横須賀であります」

窓の外を見た磐城が言った。



続く


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固有魔法保有者の比率5%という数字は適当に出したものです。
普通は肉体強化とシールドだけという設定は見たのですが、比率については本家スト魔女にあるでしょうか。
磐城ちゃんのも固有魔法と違いますのん?という気もしますが、天音ちゃんや他のワールドウィッチーズを引き立てるため、ここは優奈ちゃんともども頑なに”固有魔法ではない!”ということにします。

本作は、二次小説の醍醐味である欲望・願望を叶えるようなタイプのではなく、(あえて)オリジナル作品群の隙間に入り込むような、どちらかと言うとお堅い路線・内容の部類と自覚しております。そんなことができるのもスト魔女の設定の奥深さ懐の深さかなと思います。
そして『水音の乙女』は、スト魔女の世界であまり使われなかった”海”という世界中のあらゆるところと繋がっているところを舞台とする事で、スト魔女の世界観を広げている”ワールドウィッチーズ”達と、天音ちゃん達を通して接触できる可能性を秘めさせています。いつか世界巡りをしたいですね(やるなら2期ですが)。
これからもよろしくお願い致します。



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