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スト魔女二次小説:水音の乙女 ~第16話~ [スト魔女二次小説]

第16話「腕試し」


横須賀に着くと、葉山少尉という二十歳過ぎくらいの若いお兄さん風の士官が待っていた。
接岸した二式大艇から横川少佐が降りるとき、その手を優しく引いて桟橋へ導いた。

「待たせてしまったかしら?」
「いいえ。思ったより早く説得できたんですね。こちらの準備は万端です」

磐城と天音はまるで子供でも扱うように、実際子供なのだが、ひょいと持ち上げられて桟橋に降り立った。

「いつもすまないであります!」
「君はよく転落するからねえ」
「あ、ありがとうございます」
「一崎さんですね?お待ちしていました」




葉山少尉の案内で、さっそくみんなは外海に近い岸壁に連れて行かれた。そこには士官制服を着た人が3人ばかり立って待っていた。参謀飾緒を着けた人もいる。脇に校長先生くらいの歳の作業服姿の小柄なおじさんが釣り糸を垂らしていた。港の関係者かな?
葉山少尉が湾の方に手をかざした。

「この湾内のどこかに特殊潜行艇という小さな潜水艦がいるんだが、一崎さん、見つけられるかな?」

海軍はこの試験のため、予め特殊潜行艇「甲標的」を潜伏させておいたのだ。
天音は鉄の潜水艦など探したこともなかったが、まずはやってみることにした。

「水辺にまで降りたいんですが・・。この岸壁じゃちょっと高すぎるんです」
「それじゃボートの上ではどうだい?」
「それでも構いません」

岸壁には大きなカッターが接岸していた。みんなはそこに乗り移った。岸壁に残った磐城と釣りをしているおじさんが、カッターを上から見下ろしている。

「じゃあ、始めます」

天音はそう宣言すると、ぴょこっと耳としっぽが出てきた。長い尾を顔の前に持ってくると、その先端を掴んだ。

『人類を救えるのか、試すよ』

念を押し込むようにしっぽを見詰めた。天音の体が淡く光り、しっぽの先端が膨らむ。

「おおおお~」

岸壁の上の磐城が天音の魔導波を感じ取って唸った。
天音が尻尾を船縁から海に落として泳がす。
尾が長く延び、次第にそれは船から離れていく。青白く光る魔導針の丸い輪の点滅が水の上からも見えていた。
横川少佐はその様子を興味深く見守っていた。

船から2m弱といったところで、尾の先端がピカッと光った。水の中に青白い波紋がさーっと渡っていった。天音が探信魔導波を発信したのだ。

「こここ、これは・・なんて独特な・・・。すごいであります!」

岸壁の上の磐城が興奮気味の声をあげる。よほど特殊な波を感じ取っているらしい。
目を瞑って反響音に聴き入る天音は、目を閉じたまま呟いた。

「うわ、湾は広いのになんて狭苦しい・・」
「どういうこと?」

横で様子をつぶさに観察していた横川少佐が聞いた。

「ブイとか錨、ロープ、いろんな細かいものが湾の中にごちゃごちゃと沢山あって、整理されてない路地裏を見てるようです」
「そういうのが邪魔?」
「いいえ。有るというのが分かるだけなので、邪魔にはなりません。あ・・・、ふ~ん」

やってみて天音にはすぐにわかった。

「まさか、そこのおじさんが釣り糸を垂らしてる先に付いてる物のことを言ってるわけじゃないですよね?」

磐城が横を向くと、作業服のおじさんが糸を巻き上げた。その先には、玩具がくっついていた。

「こ、これは驚いた!」

おじさんが唸ると、磐城がおじさんの肩を力いっぱいひっぱたいた。なんとも乾いたいい音が響く。

「おじさん、何やってるですかー。それは潜水艦じゃなくて、海底軍艦だし~。遊びじゃないでありますよ」
「ははは、すまんすまん。君も押川春浪のファンかね?」
「回転ドリル衝角って本当に作れたらいいでありますね~」

心なしか横川少佐と葉山少尉の顔が青ざめているように見える。

「それは置いといて・・」

天音はまだ返ってくる反響を注意深く聞き取る。
水中になんの支えもなく浮かぶ大きな空き缶のような塊。よく回転して上下ひっくり返らないものだと思った。
手を伸ばして、岸壁の沖に並ぶブイを右から数えていく。

「4,5,6・・。6番目のブイのそば、水深5mにあるのがそうじゃないですか?」
「おおお!」
「すごい!」

居合わせた3人の士官と、釣りをしていたおじさんがまた驚きと感心の声を上げた。
葉山少尉も手を叩いて賛辞を送る。

「あとあっちの桟橋の先に真新しい車が沈んでますけど。転落したんでしょうか」

地元の金持ちのボンボンが夜中、ロマーニャから輸入した高級スポーツカーを桟橋のところで走らせて車ごと海に落ちた事件は、一部の港湾関係者には公然の秘密だったものの、圧力によって報道されることはなかった。だから田舎の漁村からやって来た小娘が知っているはずなど絶対ない。有り得ない!

「これはすごい!、想像以上だ!」
「合格でしょう!すぐに入隊手続きを!」

喜び勇む参謀や士官たちに横川少佐が割って入った。

「待って。一崎さんの意志の確認が先よ」

横川少佐は天音の正面に立った。

「どうしますか?」

海中から引き上げたしっぽを持って、微弱に揺れるカッターの上で横川を見上げる天音。

「わたし、役に立ちますか?」
「役に立つなんてもんじゃないわ。あなたの他にいません」

天音の顔がぱっと明るくなった。しかし横川は冷や水を浴びせるようなことを言った。

「でも、行くところは戦場です。仲間が死ぬかもしれない。あなただって無事では済まないかもしれない」

一瞬顔がこわばったが、目は逸らさなかった。

「でも、優奈はそこで戦っているんですよね?」
「そうです」
「わたしが行かなかったら、もっと多くの人が、傷つくんですよね?その、軍人に限らず」
「・・正直に言えば、今あなたが出来ることはネウロイを見つけることだけ。それを引き継いでネウロイを倒すのは私達訓練を受けた軍人たちです。倒せるのかどうかもまだ実績がない。倒せなかったら、扶桑は干上がってしまうでしょう。でも私達はそれ以前にネウロイを見つけることさえできないでいたのです」
「横川さんは、ネウロイを倒せないかもと思ってるんですか?」

横川少佐は胸をど突かれたように感じた。覚悟を聞いているつもりだったが、逆に強敵を前にした私達の覚悟を問われたのだ。見定めようとしている。
ど突かれた胸が、身体が、反骨するように熱い熱を吹き上げた。
いいでしょう。応えてあげる。

「この身と引き替えにしてでもぶっ倒す」

静かにして明瞭な答え。優しい顔に見合わぬ強い決意を、横川の目に読み取った。
これが、扶桑のウィッチなんだ。
天音が口を大きく曲げて微笑んだ。

「お手伝いします」

そして頭を下げた。

「よろしくお願いします」

横川は天音の手を取った。

「ありがとう」

そして岸壁の上の作業服のおじさんの方に振り向いた。

「私が彼女を訓練します。神川丸出航までに南遣艦隊にお届けします。司令」
「え?」

天音もおじさんを見上げた。

「この方があなたの配備先となる南遣艦隊のトップ、結中将。扶桑皇国南西方面艦隊の司令官よ」
「ひえ?!」
「結 譲(ゆい ゆずる)だ。よろしく、一崎君。私達も最善を尽くす。君の力を貸してくれ」

カッターに降りてきた結司令は、人懐っこい笑顔で手を差し出した。
恥ずかしそうにその手を取ると、力強く握り返えされた。小柄な体とは思えぬエネルギーを感じた。

「やっぱり一崎殿は英雄でありますね!でわ、早速今のうちにサインを!」

どこから持ってきたか、色紙を持って磐城が飛んできた。その顔を横川が手のひらで押さえて止めた。

「待ちなさい!その前に、一崎さんの魔力の波動がどんなだったか報告を」
「ふが・・。はい、であります」

さして高くもないが、つぶれてよけい低くなった鼻をなでると、磐城は感じ取った天音の魔導波を説明し始めた。

「おほん。一崎殿の魔力が出す波動は、他のウィッチが出す波とはだいぶ異なります。波の周期が非常に長いです。同じ探査系魔法でもナイトウィッチの波の周期は逆に非常に短かったので、一崎殿が水の中の様子を捉えられるというのは、そういったところが関係するのかもしれません。それとストライカーが反応しないのも、ストライカーの魔導波センサーと魔力増幅装置の有効レンジ範囲の外になるからじゃないでしょうか」
「なるほど。飛行脚が僅かに反応するのは、陸上用より飛行脚の方がレンジ幅が広いか、下ぶれしているかもしれないのね。こんど調整してみましょう」
「わたしでも飛べるんですか?」
「試してみないと解らないけど、調整できる範囲にあれば飛べる可能性が高まるわ」

わたしも優奈と同じ空を飛べるかもしれないんだ。飛んでみたい。あの広い世界を。

「横川少佐!もういいでありますね?サイン!」
「ああ・・しょうがないねえ。一崎さんがくれるって言うなら、ね」
「一崎殿!もうあなたの力は凄いものだってみんな意義ありませんです。覚悟よろしいか?」

磐城は再び色紙を差し出して迫った。

「わ、わかったよう。サインすればいいんでしょ?」
「ちゃんと『磐城さんへ』って入れて下さいまし」
「え、ええ~?」

天音は戸惑いながら左上に『磐城さんへ』と書くと、少し考えた末、慣れない手つきで右下にちっちゃく、答案用紙に名前を書くように『一崎天音』と書いた。『磐城さんへ』の方が字が大きい。色紙の真ん中はがら空きである。
受け取った磐城は。それを見てむーっと考え込んでしまった。

「ご、ごめんね、バランス悪くて。こんなの書いたことないから・・・」

磐城は急にくいっと顔を上げると、天音の顔を見入った。

「一崎殿。唇荒れてるですね?冬の空気が乾燥してるからですよ。わたし欧州土産で『りっぷくりぃむ』という唇を潤す、いいものを貰ってるであります」

ちょっとつけてあげるでありますと言って、ポケットから取り出したスティック状のリップなんちゃらを、素早く天音の唇に塗った。

「ちょっ、ちょっと待って!それ・・」

横川が言うより早く、磐城はいきなり色紙を天音の顔に押し付けた。

「ぶはっ!な、なにするの?!」

色紙を見た磐城は、にまーっと満面の笑みを浮かべた。

「やったであります!一崎殿のサイン第一号にして、キスマーク入り!どこぞのアフリカの星のサインより超レアであります!」

口をゴシゴシこすった天音の腕に、真っ赤な色が付いた。

「な、なにこれ~?」
「”葉山より”とかいう箱に入っていた横川少佐の私物の口紅であります。さすがほぼ上がりを向かえたウィッチ!もしかして結婚間近?」
「い~わ~きいっぴそ~っ!!」
「色紙隠してくるであります!」
「待ちなさい!磐城一飛曹ー!!」

二人は土煙だけを残して猛スピードで桟橋を岸の方へ向かって追いかけっこしていった。
後に残されたは天音と顔を真っ赤にした若い士官、そして南遣艦隊の参謀達と司令長官。
締めるのは司令の勤めだろうか。

「で、でわ、着任する日を楽しみにしているよ、一崎君。・・・あの二人が戻るまで、食堂にでも連れて行って何か食べさせておあげ。士官食堂で構わんから」
「は、はっ!」

海軍て、こういう所なんだ・・。

扶桑皇国南遣艦隊は、初顔合わせの日から天音に間違った印象を教えてしまったのであった。





続く


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急遽思い付きで作られて登場した、引っ掻き回す役の磐城ちゃん。一騒動やってくれた他に、天音ちゃんの魔法の秘密も解き明かしてくれました。本家スト魔女キャラの横川和美も相当いじってしまいましたね。(^^;
面白いキャラなので、まだどこかで出演できるといいですね。

結司令が釣竿で泳がしていた海底軍艦。原作者の押川春浪が小説を書いたのはなんと1900年。日露戦争の頃です。回転ドリル衝角を持った海底軍艦”轟天号”は、円谷英二特撮の1963年の映画で登場させたのが最初なので、磐城ちゃんはいったいいつの海底軍艦の話をしてたのでしょう??

どこぞのアフリカの星のサイン・・。
第31統合戦闘飛行隊アフリカ(ストームウィッチーズ)所属、501のエーリカ・ハルトマンと人類最強を争うスーパーエース、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユのことですね。サインはしない主義なので滅多なことでは手に入らないそうであります。それ以上のサインと言うことですね。少なくとも天音第1号のサインというのは世に一つでしょうから。

さて本話では天音ちゃんの魔法力が軍用に使えるか腕試しされたわけですが、どうだったでしょうか。今後の活躍が期待持てるように書けていればいいのですが。

しかしまだ実戦には出ません。
この後は、神川丸乗組員との訓練を描くつもりです。


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