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<第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(1):写生大会> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第363回
<第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(1):写生大会>


9月の終わり、校外展覧会絵画展の準備が始まった。
ここ片いなか出身の有名な絵の先生が毎年秋に絵画展覧会をやっている。それに合わせて地元の学生も絵を描いて、作品を一緒に展示するのが恒例行事となっていた。
分校ではこの時期になると、この行事を取り纏める校外展覧会絵画展実行委員会が組織される。主体となるのは文化委員だ。そしてこれをサポートするのは生徒会委員と、防災・安全衛生委員だった。各クラスの文化委員が長となって作品の作成と回収、展示までの責任を担う。C組ではカーラさんが委員長ということになる。防災・安全衛生委員はアロン君だ。彼は展示会場の設営部分を中心にサポートする。

議事進行をする委員長のカーラさんと、その横に立つサポートのアロン君を目の隅に入れ、わたしはこの行事が二人の距離をさらに縮めるのではと危惧していた。

あの日、あれだけのことをしたのだから、これを機に二人の仲が急激に進展してしまうのかな。今回は一緒に仕事する仲なんだから、ますます二人は深く関わり合うことになってしまうんだわ。

もっともこの行事に防災・安全衛生委員が参加するようになったのは、わたしが生徒会で年間行事への各委員の関わり方に偏りがあったのを解消する提案をしたからだ。やたらと多かったレソフィック君のやる広報委員の関わりを減らし、アロン君のやる防災委員が参加する行事を増やしたのだ。生徒会委員は全ての行事に参加するので、必然的に防災委員、つまりアロン君と一緒にできる仕事も増えることになる。それがまさかこんなところでカーラさんとアロン君を引き合わせる事になろうとは・・
二人の運命なのかなぁ・・・


写生大会にしてクラスみんな一斉に描くということと、題材と場所の選定の話は、第1部18章第1話をご覧ください。

そしてスケッチ大会の模様は、第1部18章 第2話第3話第4話第5話をご覧ください。






ポタ山の山頂は360度の展望がある。それを生かして一人20度の風景を受け持って、C組18人全員で360度の景色を描く。
それがC組の目指す作品だった。誰がどの方角を描くかはくじで決められ、 裕美子は珍しくハウル達と別れ別れになり、一人黙々と目の前の景色と向かい合っていた。

わたしの隣はジョンさん。男性誌のモデルをやっているほどスタイルの良いジョンさんは、その見た目で分校の女子に大変な人気の人だが、そんなことを鼻にかけることもなく、気配りもよく利く人なので、休憩に立つときなど、こんな地味なわたしにも声を掛けていってくれる。

「下書き終わって、これから絵具で色付けかい?水汲んできてあげようか?」

たぶん他のクラスの女子に見られたら、わたしは後ですごい嫌がらせを受けたりするかもしれない。そんな誤解を受けそうなほどジョンさんは親密な人のように接してくれるのだが、C組ではどういうことかこの美男子もごく普通に取り扱わられていて、わたしに嫉妬するような人もいなければ羨ましがられることもない。

「あ、ありがとうございます。でも、大丈夫です。もうお水は持ってきてあります」

わたしはお尻の横にある水筒を手にした。

「なんだ、それ飲み水じゃないのか」

そこにミシェルさんがやってきた。

「ジョン、ちょっくらエスケープしねえ?」

ミシェルさんもまた分校の女子に人気の高い人だ。比較的真面目なジョンさんよりプレイボーイなテイストが入った感じの人。

「俺も休憩しようと思ってたところだ」
「あっちに片いなか短大の女子大生が来てたぜ。行ってみねえ?」

わたしはメガネを直してギロっとミシェルさんを睨んだ。

「休憩はいいですが、エスケープしすぎないでください」
「へへっ。俺もうほとんど出来上がっちゃったし、もともと今日は休日。残りは自由行動でもいいだろ?」
「4時までに回収ですよ。行方不明だったら取立て係のアロン君差し向けますから」

ミシェルさんの顔が少し引きつった。






C組メンバーは続々とポタ山にある音楽堂に集まってきた。美女さんが歌いに行ったという噂さを聞き付けてやって来たのだ。

ポタ山の野外音楽堂で、美女さんはそこの音響を確かめるようにゆったりとバラードを歌っていた。
C組の皆が集まってくると、何の伴奏もつけずに、彼女は多彩なテンポの曲を自らの歌声とボディドラムリズム、そしてC組皆の手拍子だけで、まるでコンサートのクライマックスのように盛り上げて歌いあげた。
人の心を動かすとは正にこういう事を言うんだろう。普段話をしている時はキツイイメージばかりが先行してしまうのに、歌になったとたん、同じ口から出てるとは思えないほど多彩な感情が音色に乗って訴えかけてくる。これはもう天性の才能なんだ。

わたし達展覧会実行委員も客席の後ろに並んで、一緒にその盛り上がりに混じっていた。
でも終始カーラさんは少し俯き加減で元気がなかった。原因は分かってる。絵を回収しているとき、ここポタ山は夜景の名所だから今度どう?、と美女さんがアロン君を誘ったことだ。カーラさんの目の前で。それもカーラさんを威嚇するように見つめて。
もちろんアロン君は断った。もう決まった人、許嫁がいるんだから、そんな誘いには乗らないと。でも美女さんは承知の上で誘っているのだ。

夏休み前に、美女さんはアロン君に恋人にならないかと告白(というより要請?)したことから、アロン君は架空の幼なじみの許嫁がいるという設定を作って美女さんを断った。そしてその許嫁をこの目で見るまでは信用しないという美女さんを納得させるため、アロン君はわたしを許嫁に変装させて会見の場を設け、美女さんだけでなくC組全員にアロン君の幼なじみが実際にいるということを植えつけることに成功した。
それでも美女さんは諦めてないんだ。普段そばにいない幼なじみの許嫁なんかまったく相手にしてない。その存在を忘れさせてあげるわ、と言わんばかりに。
アロン君に好意を寄せてるらしいカーラさんも許嫁の存在は気になるようだけど、彼女は美女さんよりアロン君の近くにいて親しくしている。それはアロン君がカーラさんに気を許してるからでもある。ただ美女さんはそれも承知の上なんだ。だからカーラさんも威嚇したんだ。

「美女の歌って、やっぱりすごいわ」

歌い終わって興奮最高潮の音楽堂で、カーラさんが敵わぬ相手に圧倒されていた。

「本当だね。引き込まれていくよね」

アロン君はカーラさんの心の内の感情には気付かずに、その場のノリのままの素直な感想を言った。

「かなわないなあ・・・」

カーラさんはぽそりと小声でそう呟く。

「ん?」

アロン君は聞き返したが、カーラさんはうつむいたまま返事をすることはなかった。
あの完璧なる容姿の美女さんがまだアロン君から手を退いてないと分かり、そこへ圧倒的な美女さんの歌声を見せつけられて、自分に自信が持てなくなったってしまったのだ。
でもわたしはアロン君がそれほど美女さんに興味を持ってないことを知ってるし、美女さんよりカーラさんの方がよっぽど気を許せる友達として認識していることを知っている。完璧な容姿体形、自信に溢れて、セクシーな仕草に大人びた色っぽい声。普通の人が見れば美女さんは完璧。だけど多分わたしでさえアロン君には、美女さんより好まれている。アロン君が見てるのは見かけじゃないんだ。歌という美女さんの類まれな才能は素直に認めているけど、それはアロン君の琴線には引っ掛かってない。
だからそんながっかりする必要は全くないんだけど。
だからわたしはそれが分かってほしくてカーラさんを諭した。

「美女さんの歌は特別ですよ」

それはアロン君にも聞こえたらしく、その言葉の意図も大筋感じ取ってくれた。

「ああ。美女は歌に関しては抜きんでたものがあるよね。歌と容姿だけだけど」

ほら、歌と容姿だけって。それがアロン君の美女さんへの感情。アロン君にとって美女さんは恋愛対象ではないんですよ。だから・・

「カーラさんの得意分野は歌じゃないんでしょ?相手の得意分野で比べちゃだめですよ」
「そ、そっか」

その言葉にカーラさんは少し顔を明るくした。
すると今まで入ってこれずに横で聞いているだけだったリーダーが、ここぞと拳をグーにしてわたしに言った。

「裕美子さんは、歌意外のところで全部美女に勝ってますよ」

はあ?

わたしは自分の体を見下ろした。まだ成長途上とはいえ寸胴胴長な典型的日本人体形。
歌を取ったところで、彼女にはあのあだ名の基になってる本職のモデルに引けを取らない完璧なスタイルと間違いない美人顔が残るじゃないですか。これのどこでわたしが勝っていると?何をもってそのような戯れ言を。

ゆっくりとリーダーの方に顔を上げた。

「あの人、あだ名が美女なんですよ。真実味がなくてお世辞にもなってません」
「メガネ取った裕美子さんは十分かわいいと思ったけどなあ」

メガネ取っただけでグレードアップするなら、世の多くのメガネ使用者がモデルになってます。

「リーダーは酒でも勝負しちゃだめだぞ」

アロン君はチャンさんに向かってニヤニヤしながら言った。

そういえば美女さんはお酒も強かったっけ。


次回「第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(2):カーラさんに与えるチャンス」へ続く!

前回のお話「第2部:第13章 アロン君の誕生日(4):カーラのイケイケプレゼント」


対応する第1部のお話「第1部:第18章 校外展覧会絵画展(5):美女は諦めてない」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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第1部ではぽつぽつと出演し、最後にさりげなくカーラちゃんを応援しているかのように見えた裕美子ちゃん。
第1部でも裕美子ちゃんが幼なじみの代役をやったことは既に読者もご存じの状態ですが、そんな裏事情を知っている裕美子ちゃんがこんなことを考えてカーラちゃんに声を掛けていたのかというのをご認識の上で、第1部を読み返してみると面白いかもしれません。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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