<第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(2):カーラさんに与えるチャンス> [片いなか・ハイスクール]
「片いなか・ハイスクール」連載第364回
<第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(2):カーラさんに与えるチャンス>
スケッチ大会の翌日から、バスケの練習試合で来れなかったキャリーと、都合で不参加だったアンザックのフォローが始まった。特にキャリーは、練習試合で負けたライバル校へのリベンジに燃え、練習後は疲れて絵どころではない。
どうやって絵を描いてもらうか、どうやってキャリーの絵を回収するかが、絵画展委員の大きな課題になっていた。
「キャリー、とてもポタ山なんか行く余裕なさそうだわ。どうしよう・・」
カーラさんが顎に手を当てて考え込んでいた。
「キャリーさんの分担のところの景色を写真撮ってきましょう。その写真見てなら、家でも描けるんじゃないでしょうか」
「そっか。大きめにプリントすりゃいいんだよな」
「さすが裕美子さん!それで行きましょう。今日天気いいから、学校終わったら撮ってこよう」
わたしの案にアロン君もリーダーも同意してくれた。カーラさんも顔がほっとする。
「ダーニャの案のおかげで、題材で悩まないのが救いね。でもカメラ今ないでしょう?一度家に帰らないと」
「みんなで行く必要はないんじゃないか?俺、家帰ったらバイクでさっと行って撮ってくるよ」
あらアロン君、積極的。クラスの為に働いて偉いです。
そしたらアロン君はカーラさんの方を向いて彼女も誘った。
「カーラも、行く?」
カーラさんが驚いて顔を上げた。
わたしもちょっとびっくりした。
アロン君がカーラさんのこと、気にかけてる。公式パートナーであるカーラさんと、一緒になる時間を、作ろうとしている。
「え?でも私のうちポタ山とは方向逆だから、遠回りになっちゃうし・・・」
しかもそこでカーラさん、オッケーって言わないの?!
せっかくのチャンス、なんで自分からふいにしようとするの?!
「そっか。カーラの家、日の出台だっけ。俺ん家から見るとポタ山と真逆だね。いいよ、そしたら俺一人でささっとやってくるから」
ほらあ、アロン君引っ込めちゃったじゃないですか。
でもカーラさん、明らかに自分の取った行動を後悔しているのがありありと見て取れた。
やっぱり誘いに乗ろうとしたのかアロンの背中に手を伸ばしたが、やがて手を引っ込めて俯いてしまった。
わたしはふぅっ、とため息をつく。
ここは中立的に見ても、委員長のカーラさんが行動するのは筋。
背中を押すのは本意じゃないけど、道理を通すべきだとわたしは思います。
責任者として、行っていいですよ。
「・・バイクなら行ったり来たりもそんな手間じゃないんじゃないですか?」
わたしの指摘にアロン君はこっちへ振り向いた。
「ま、そうだね」
「カーラさんは責任者ですから、アロン君が間違ったところ撮ってこないようにしないと」
「し、心配だからやっぱり私も行くわ」
カーラさんも今度は逃しなくないみたいだ。
一緒にポタ山行くのはこの際仕方ないと思います。カーラさんには大義があるし、このイベントの実行委員長という立場からも行くことは好ましいことです。
でも・・これはわたしの都合ですが、二人きりの時間は極力短くさせてもらいますよ。
「アロン君、それで写真撮ったらその後すぐカメラ屋に来てください。写真プリントしてキャリーさんところへみんなで届けに行きましょう」
「うん、キャリーのところに届けて催促するのは実行委員全員の責任だからな。みんなで言った方が説得力あるし。俺と裕美子さんはカメラ屋で待ってるよ」
リーダーもわたしの案に乗ってくれたおかげで、わたしの付けた注文は特に怪しいものには聞こえなくなった。
「そうだね、そんな段取りでいくか。じゃあカーラ、帰ったらすぐそっち行くから」
「わ、わかった」
カーラさんが返事をすると、アロン君も納得して、さっそく帰り支度を始めた。
鞄に物を入れてるアロン君の様子を見ていたわたしに、カーラさんが赤い顔してすすっと寄ってきた。顔をそばに寄せると、小さな声で囁いた。
「ユミちゃん、ありがとね」
「?なんですか?」
わたしはとぼけたふりをした。でも心の中は決して穏やかではなかった。
『カーラさん、これは大譲歩だからね!』
今回は色々とあって大変だし、アロン君もあなたと一緒にいられるよう努めてるふうに見えます。アロン君は、カーラさんを受け入れるつもりなんじゃないですか?だからわたしはアロン君を応援したんです。これでアロン君とくっつかなかったら、もうわたし知りませんよ。活かすなら今しかないですよ。・・こんなチャンス、もう与えてあげないんですからね。
・・・ごめん、アロン君。わたしどうしても、あなた達を二人っきりにしておけなかった。できる限りその時間を短縮して、早く戻ってきてもらうようにしてしまった。あなたを応援しなきゃ行けないのに・・・
ごめんね。
ごめんね。
そして再び目線をアロン君の方に向ける。
『アロン君、お願いだから写真撮ったらすぐ来てね。寄り道しないでね』
アロン君の背中を見つめながらそう念じた。
アロン達が帰る時間を予想しながら、家で休んでいた裕美子だが、気はぜんぜん休まらなかった。
「このところカーラさんの行動が目立つな。お酒入ってなければ変に強烈なアタックはしなさそうだけれども、やっぱりそばにいられるだけで好印象与えるもんね。カーラさん可愛い人だし。いい人だし。アロン君も・・なんとなく気付いているんだろうな、カーラさんが好意を持ってること・・」
カーラさんも積極的な行動を見せないし、距離が近くなると否定するような事言ったりするし・・・、不器用なんだろうなぁ。
アロン君はどう?
カーラさんはグループ交際メンバーの中での公式ペアでもあるし、興味ない人にそばでべたべたされるのは嫌うアロン君だから、カーラさんにそういう態度を取らない事を見ても好印象持ってるよね。一緒にいることを許してるし。
・・・そう考えると、実はわたしも随分とアロン君のそばにいる事が多くなったにも関わらず、嫌がられてない。一緒にいても嫌な顔されない。それにこないだアロン君のお誕生日の時も、わたしのやった『ユカリ』に赤い顔になって喜んでた。何となくだけど、わたしも好印象持たれるようになった気がする。わたし、もしかして結構アロン君にとって良いところにいるんじゃないかしら・・。
「だとしたら、嬉しい。物凄く、物凄く、嬉しい!」
これって、告白したら、いい返事貰えるかも・・・
・・・・
・・・・
でも、でも、ダメなんだよね?わたしがいけない人だから。過去に傷を持つ人だから。それはいつか相手の人も不幸にしてしまうから。
おかしいな。最初はこの人の恋人になりたかったはずなのに。手が、もしかすると届くかもというところまで来たかもというのに。
でも仕方ない。全てわたしがいけないんだもの。過去にわたしが起こした事が、全ていけないんだもの。
そろそろカメラ屋に行く時間だった。上着を羽織ると家を出た。
途中でお店に寄って飲み物売り場へ。
『運動して暑いだろうから、冷たいのがいいよね。スポーツドリンクにしとこう』
2Lのスポーツドリンクのペットボトルを買った。キャリーさんへ差し入れしようと思う。
カメラ屋への道中、わたしはこの先がどうなっていくかに思いを巡らせる。
『これからもカーラさんは少しずつアロン君に接近を試みるだろうな・・。わたしはこのまま何の意思表示もすることなく、アロン君が望んでいるなら手助けして、たまにカーラさんを牽制してみたりして、そんなことするだけだったらどうなる?・・・いつかアロン君もカーラさんの気持ちをはっきりと知って、それに答えなきゃいけないときが来る。アロン君はカーラさんを別に嫌ってないし、むしろ好印象を持っている。だから・・優しいアロン君はカーラさんを受け入れる可能性が高い気がする・・』
曲がり角を曲がった。このまま真っ直ぐ行けばカメラ屋。でもまだここから店は見えなかった。
『そうよ、いずれアロン君は誰かのものになってしまう。・・わたしはそれが嫌なの?アロン君を影から支えて、アロン君が好きになった人も一緒に応援するんじゃなかったの?
それが嫌なら・・じゃあ、わたしもアロン君に好きって言えばいい。アロン君はわたしの演技した幼馴染に好印象を持ってたから、わたしのこと嫌いじゃないと思う。もしかすると、少しの間だけでもお付き合いしてくれるかもしれない。・・・この際ダメって言ってくれれば楽になる。でも、もし、もし受け入れてくれたらどうする?その先が怖くない?親密になって、もし昔のこと知られたら?もし何かあって彼を傷つけてしまったら?』
普通は嫌われたらどうしよう、振られたらどうしようということを心配するものである。
だが裕美子は、受け入れられたときの方がむしろ怖かった。それ故に、ずっとずっと告白しにくかったのだ。
カメラ屋が見えてきた。リーダーがいるのが見える。
『あの人はわたしを確実に受け入れてくれるでしょうね。でも、あの人の好意にわたしが答えてあげたとしても・・同じ悩みがあるのね。わたしが何者か判った時、リーダーが不幸になる。・・・結局、わたしは何もできないのか・・』
リーダーはわたしがやって来る姿を認めると、やけにうれしそうに笑顔を向けた。
「やあ、ご苦労様。遅かったですね」
「リーダー、早いですね。そんなに慌てて来なくっても、アロン君達そうすぐには来ませんよ」
「来るまでの間、話でもしていれば暇ぐらいつぶせるかと思って」
「あら、そんな話でしたっけ?わたし家で一休みしてきちゃいました」
「ああ、いやいや、別に約束もしませんでしたから」
「カーラさん、まっすぐこっち来てくれてるかしら」
ほどなくアロン君のバイクがやってきた。
『ほっ。この様子なら寄り道しないで来てくれましたね』
さらにアロン君の後ろにいるカーラさんを見ると、ぎこちなく手でつかまっているだけだった。体を寄せてない。二人の間には拳一つ分弱の空間が開いている。あれで恐くなかったのかな。
『こういうチャンス使ってペタってくっついちゃえばいいのに。酔ってるカーラさなら遠慮なく抱きついてたでしょうに。カーラさんの思い切りのなさも、こうなるとちょっとじれったいわね。ありがたいけど・・・。
ありがたい?
だからってどうだって言うんだろう。わたしがアロン君を何かできるわけでもないのに・・』
次回「第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(3):チャンスは2度もあげません」へ続く!
前回のお話「第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(1):写生大会」
対応する第1部のお話
「第1部:第18章 校外展覧会絵画展(6):行かずして風景を描く」
「第1部:第18章 校外展覧会絵画展(7):再びポタ山」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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第1部ではポタ山でのアロン君とカーラさんの様子を、第2部ではそれを待つ裕美子ちゃんの心境が描かれていましたね。
ポタ山へ向かう二人を送り出す裕美子ちゃんが実は早く帰ってきてもらうようそれとなく釘を刺していたこと、第1部で読み取れたでしょうか?いや、気付かれなかったと思います。
いい仲になってきたことを自覚し始めた裕美子ちゃんですが、素直に受け入れるわけにはいかない事情によって、自然と行動が狭めらえていたのです。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
ぽちっと応援してください。
<第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(2):カーラさんに与えるチャンス>
スケッチ大会の翌日から、バスケの練習試合で来れなかったキャリーと、都合で不参加だったアンザックのフォローが始まった。特にキャリーは、練習試合で負けたライバル校へのリベンジに燃え、練習後は疲れて絵どころではない。
どうやって絵を描いてもらうか、どうやってキャリーの絵を回収するかが、絵画展委員の大きな課題になっていた。
「キャリー、とてもポタ山なんか行く余裕なさそうだわ。どうしよう・・」
カーラさんが顎に手を当てて考え込んでいた。
「キャリーさんの分担のところの景色を写真撮ってきましょう。その写真見てなら、家でも描けるんじゃないでしょうか」
「そっか。大きめにプリントすりゃいいんだよな」
「さすが裕美子さん!それで行きましょう。今日天気いいから、学校終わったら撮ってこよう」
わたしの案にアロン君もリーダーも同意してくれた。カーラさんも顔がほっとする。
「ダーニャの案のおかげで、題材で悩まないのが救いね。でもカメラ今ないでしょう?一度家に帰らないと」
「みんなで行く必要はないんじゃないか?俺、家帰ったらバイクでさっと行って撮ってくるよ」
あらアロン君、積極的。クラスの為に働いて偉いです。
そしたらアロン君はカーラさんの方を向いて彼女も誘った。
「カーラも、行く?」
カーラさんが驚いて顔を上げた。
わたしもちょっとびっくりした。
アロン君がカーラさんのこと、気にかけてる。公式パートナーであるカーラさんと、一緒になる時間を、作ろうとしている。
「え?でも私のうちポタ山とは方向逆だから、遠回りになっちゃうし・・・」
しかもそこでカーラさん、オッケーって言わないの?!
せっかくのチャンス、なんで自分からふいにしようとするの?!
「そっか。カーラの家、日の出台だっけ。俺ん家から見るとポタ山と真逆だね。いいよ、そしたら俺一人でささっとやってくるから」
ほらあ、アロン君引っ込めちゃったじゃないですか。
でもカーラさん、明らかに自分の取った行動を後悔しているのがありありと見て取れた。
やっぱり誘いに乗ろうとしたのかアロンの背中に手を伸ばしたが、やがて手を引っ込めて俯いてしまった。
わたしはふぅっ、とため息をつく。
ここは中立的に見ても、委員長のカーラさんが行動するのは筋。
背中を押すのは本意じゃないけど、道理を通すべきだとわたしは思います。
責任者として、行っていいですよ。
「・・バイクなら行ったり来たりもそんな手間じゃないんじゃないですか?」
わたしの指摘にアロン君はこっちへ振り向いた。
「ま、そうだね」
「カーラさんは責任者ですから、アロン君が間違ったところ撮ってこないようにしないと」
「し、心配だからやっぱり私も行くわ」
カーラさんも今度は逃しなくないみたいだ。
一緒にポタ山行くのはこの際仕方ないと思います。カーラさんには大義があるし、このイベントの実行委員長という立場からも行くことは好ましいことです。
でも・・これはわたしの都合ですが、二人きりの時間は極力短くさせてもらいますよ。
「アロン君、それで写真撮ったらその後すぐカメラ屋に来てください。写真プリントしてキャリーさんところへみんなで届けに行きましょう」
「うん、キャリーのところに届けて催促するのは実行委員全員の責任だからな。みんなで言った方が説得力あるし。俺と裕美子さんはカメラ屋で待ってるよ」
リーダーもわたしの案に乗ってくれたおかげで、わたしの付けた注文は特に怪しいものには聞こえなくなった。
「そうだね、そんな段取りでいくか。じゃあカーラ、帰ったらすぐそっち行くから」
「わ、わかった」
カーラさんが返事をすると、アロン君も納得して、さっそく帰り支度を始めた。
鞄に物を入れてるアロン君の様子を見ていたわたしに、カーラさんが赤い顔してすすっと寄ってきた。顔をそばに寄せると、小さな声で囁いた。
「ユミちゃん、ありがとね」
「?なんですか?」
わたしはとぼけたふりをした。でも心の中は決して穏やかではなかった。
『カーラさん、これは大譲歩だからね!』
今回は色々とあって大変だし、アロン君もあなたと一緒にいられるよう努めてるふうに見えます。アロン君は、カーラさんを受け入れるつもりなんじゃないですか?だからわたしはアロン君を応援したんです。これでアロン君とくっつかなかったら、もうわたし知りませんよ。活かすなら今しかないですよ。・・こんなチャンス、もう与えてあげないんですからね。
・・・ごめん、アロン君。わたしどうしても、あなた達を二人っきりにしておけなかった。できる限りその時間を短縮して、早く戻ってきてもらうようにしてしまった。あなたを応援しなきゃ行けないのに・・・
ごめんね。
ごめんね。
そして再び目線をアロン君の方に向ける。
『アロン君、お願いだから写真撮ったらすぐ来てね。寄り道しないでね』
アロン君の背中を見つめながらそう念じた。
アロン達が帰る時間を予想しながら、家で休んでいた裕美子だが、気はぜんぜん休まらなかった。
「このところカーラさんの行動が目立つな。お酒入ってなければ変に強烈なアタックはしなさそうだけれども、やっぱりそばにいられるだけで好印象与えるもんね。カーラさん可愛い人だし。いい人だし。アロン君も・・なんとなく気付いているんだろうな、カーラさんが好意を持ってること・・」
カーラさんも積極的な行動を見せないし、距離が近くなると否定するような事言ったりするし・・・、不器用なんだろうなぁ。
アロン君はどう?
カーラさんはグループ交際メンバーの中での公式ペアでもあるし、興味ない人にそばでべたべたされるのは嫌うアロン君だから、カーラさんにそういう態度を取らない事を見ても好印象持ってるよね。一緒にいることを許してるし。
・・・そう考えると、実はわたしも随分とアロン君のそばにいる事が多くなったにも関わらず、嫌がられてない。一緒にいても嫌な顔されない。それにこないだアロン君のお誕生日の時も、わたしのやった『ユカリ』に赤い顔になって喜んでた。何となくだけど、わたしも好印象持たれるようになった気がする。わたし、もしかして結構アロン君にとって良いところにいるんじゃないかしら・・。
「だとしたら、嬉しい。物凄く、物凄く、嬉しい!」
これって、告白したら、いい返事貰えるかも・・・
・・・・
・・・・
でも、でも、ダメなんだよね?わたしがいけない人だから。過去に傷を持つ人だから。それはいつか相手の人も不幸にしてしまうから。
おかしいな。最初はこの人の恋人になりたかったはずなのに。手が、もしかすると届くかもというところまで来たかもというのに。
でも仕方ない。全てわたしがいけないんだもの。過去にわたしが起こした事が、全ていけないんだもの。
そろそろカメラ屋に行く時間だった。上着を羽織ると家を出た。
途中でお店に寄って飲み物売り場へ。
『運動して暑いだろうから、冷たいのがいいよね。スポーツドリンクにしとこう』
2Lのスポーツドリンクのペットボトルを買った。キャリーさんへ差し入れしようと思う。
カメラ屋への道中、わたしはこの先がどうなっていくかに思いを巡らせる。
『これからもカーラさんは少しずつアロン君に接近を試みるだろうな・・。わたしはこのまま何の意思表示もすることなく、アロン君が望んでいるなら手助けして、たまにカーラさんを牽制してみたりして、そんなことするだけだったらどうなる?・・・いつかアロン君もカーラさんの気持ちをはっきりと知って、それに答えなきゃいけないときが来る。アロン君はカーラさんを別に嫌ってないし、むしろ好印象を持っている。だから・・優しいアロン君はカーラさんを受け入れる可能性が高い気がする・・』
曲がり角を曲がった。このまま真っ直ぐ行けばカメラ屋。でもまだここから店は見えなかった。
『そうよ、いずれアロン君は誰かのものになってしまう。・・わたしはそれが嫌なの?アロン君を影から支えて、アロン君が好きになった人も一緒に応援するんじゃなかったの?
それが嫌なら・・じゃあ、わたしもアロン君に好きって言えばいい。アロン君はわたしの演技した幼馴染に好印象を持ってたから、わたしのこと嫌いじゃないと思う。もしかすると、少しの間だけでもお付き合いしてくれるかもしれない。・・・この際ダメって言ってくれれば楽になる。でも、もし、もし受け入れてくれたらどうする?その先が怖くない?親密になって、もし昔のこと知られたら?もし何かあって彼を傷つけてしまったら?』
普通は嫌われたらどうしよう、振られたらどうしようということを心配するものである。
だが裕美子は、受け入れられたときの方がむしろ怖かった。それ故に、ずっとずっと告白しにくかったのだ。
カメラ屋が見えてきた。リーダーがいるのが見える。
『あの人はわたしを確実に受け入れてくれるでしょうね。でも、あの人の好意にわたしが答えてあげたとしても・・同じ悩みがあるのね。わたしが何者か判った時、リーダーが不幸になる。・・・結局、わたしは何もできないのか・・』
リーダーはわたしがやって来る姿を認めると、やけにうれしそうに笑顔を向けた。
「やあ、ご苦労様。遅かったですね」
「リーダー、早いですね。そんなに慌てて来なくっても、アロン君達そうすぐには来ませんよ」
「来るまでの間、話でもしていれば暇ぐらいつぶせるかと思って」
「あら、そんな話でしたっけ?わたし家で一休みしてきちゃいました」
「ああ、いやいや、別に約束もしませんでしたから」
「カーラさん、まっすぐこっち来てくれてるかしら」
ほどなくアロン君のバイクがやってきた。
『ほっ。この様子なら寄り道しないで来てくれましたね』
さらにアロン君の後ろにいるカーラさんを見ると、ぎこちなく手でつかまっているだけだった。体を寄せてない。二人の間には拳一つ分弱の空間が開いている。あれで恐くなかったのかな。
『こういうチャンス使ってペタってくっついちゃえばいいのに。酔ってるカーラさなら遠慮なく抱きついてたでしょうに。カーラさんの思い切りのなさも、こうなるとちょっとじれったいわね。ありがたいけど・・・。
ありがたい?
だからってどうだって言うんだろう。わたしがアロン君を何かできるわけでもないのに・・』
次回「第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(3):チャンスは2度もあげません」へ続く!
前回のお話「第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(1):写生大会」
対応する第1部のお話
「第1部:第18章 校外展覧会絵画展(6):行かずして風景を描く」
「第1部:第18章 校外展覧会絵画展(7):再びポタ山」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
Copyright(c) 2009-2016 TSO All Rights Reserved
第1部ではポタ山でのアロン君とカーラさんの様子を、第2部ではそれを待つ裕美子ちゃんの心境が描かれていましたね。
ポタ山へ向かう二人を送り出す裕美子ちゃんが実は早く帰ってきてもらうようそれとなく釘を刺していたこと、第1部で読み取れたでしょうか?いや、気付かれなかったと思います。
いい仲になってきたことを自覚し始めた裕美子ちゃんですが、素直に受け入れるわけにはいかない事情によって、自然と行動が狭めらえていたのです。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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