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<第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(3):チャンスは2度もあげません> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第365回
<第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(3):チャンスは2度もあげません>


その後わたし達は、アロン君とカーラさんが撮ってきた写真を四つ切にプリントしてバレー部の練習場に持っていき、キャリーさんに手渡した。キャリーさんも行かずして描くという意図を理解してくれたのだけど、それでもキャリーさんの絵はいっこうにあがってこなかった。というかキャリーさんどころか、バスケ部のみんなが描けてなかった。練習に大半の時間をつぎ込んじゃって誰も絵を描く時間が取れないのだ。
そんなことが許されるのも、うちの学校は実績のある部活動は色々と優先優遇されていて、その中でもバスケ部はレベルがかなり高いからだけど、学校行事をすっぽかしていい訳ではない。

ということで事はキャリーさん個人の問題ではなく、バスケ部全体の問題だとわたしは認識した。そこでわたしは学校側から絵を描く時間を取ってもらうよう催促させることでバレー部顧問の先生を動かす提案をした。リーダー始めみんなもそれに賛同してくれたけど、アロン君とわたしはそれでも十分な時間は確保できないかもと思い、さらにキャリーさんの絵をもっと描きやすいものに変える事をみんなで話し合っていた。

「360度景色の中で、でっかい丸い物体が一つだけあった」

アロン君の思い付いたものにカーラさんが疑問を拭えない表情を浮かべる。

「丸い物体?野外音楽堂のドーム?」
「そう」

アロン君が丸いもに言及したのは、キャリーさんがノートにバスケットボールの落書きをしているのを見かけたので、バスケットボールならすぐ描けるのではと思ったからだ。わたしは公園の運動場でバスケをしてる場面でも描くのはどうだろうかと考えけど、それだとC組のテーマには合わないので、言い出すまでもなく即却下。
C組のテーマとは、山頂からの360度の景色を18人で分担して描き、並べることで山頂からの展望という1つの作品に仕上げるというもので、ダーニャさんの発案だ。アロン君が気付いた丸いもの、野外音楽堂のドームなら、360度の景色の一つになってる。
でもドームを描くんじゃないんだよね?
わたしはすっかり感心した目線をアロン君に投げて言った。

「あれをバスケットボールに見立てる……というかそのまんまボールに挿げ替えるんですか?」
「しゃれだけどな。でもウォルトの極彩色の絵とか、勇夫の幼稚な絵とかもあるし、それっくらいの洒落もいいんじゃない?」
「えー?そんないい加減なの許されるか?」

真面目なリーダーにはその洒落も受け入れがたいみたい。だけど写真のように写実的でなければいけないという決まりはないし、発案者のダーニャさんも言ってたように、担当するところをどう描くかは個人の裁量に委ねられている。それに野外音楽堂は本当にボールのような球体をしていた。地球を模しているんだと思うけど、感性によっては球状のものなら他のものに見える人もいておかしくない。だから決していい加減なことを言ってるとはわたしは思わなかった。

「面白い発想ですね」
「え?」

わたしがアロン君のアイディアに賛同すると、リーダーがびっくりした。
わたしが何か問題が?という涼しい顔をしているのを見て、リーダーは困惑顔のまま無理矢理自分を納得させたようだった。

「そ、そう…ですね。アロン、や、やってみるか」

リーダーもオッケーしたことで、アロン君は早速自分の案を元にした次の行動を示した。

「じゃあリーダーは絵を描く時間の確保だ。顧問の先生にバスケ部員が絵を描く時間を取れるように交渉してよ。野外音楽堂の範囲を書いてたのは誰だっけ。キャリーと交換してもらうお願いをしなきゃ」

カーラさんが顎に手をして割り当てを思い出す。

「確かダーニャよ。彼女絵すごくうまいのよね。せっかく書いた力作なのに、交換してくれるかしら……」
「嫌がるかもなあ。一応当たってみよう。」

絵がとても上手なダーニャさんは、間違いなくC組で最もまともにして、誰が見ても「ほう」と唸らせる写実的な絵を描いていた。それを場所替わってということは、書き直してという事。普通なら嫌がりますよね。

「だめなら丸い物体が他にないか探しに行こうか。でもあったかなあ」

ダーニャさんが断った時にまで考えを巡らせたアロン君の次の手に、わたしは強烈な危機感を持った。

え?探しに行く?ポタ山に?
それ、またカーラさんと?
……カーラさんは責任者だから行かないわけにいかないよね。だ、だけど、また二人っきりというのは……

わたしは今度はすぐさまカーラさんに釘をさした。

「そのときは今度は4人でポコ山行ったほうがいいですね。手分けして探しましょう」

カーラさんはわたしが言ったことの裏事情など気付くこともなく、至極真っ当に話を進めた。

「とにかくまずはダーニャの説得ね。私、事情説明してみるわ」

この説得は並大抵のことじゃありません。一癖も二癖もある人なら何言われるか分かったもんじゃない。ダーニャさんはどうだろう……。あの美女さんと一緒にいる人だからな。

それにしてもC組は本当によくできたクラスです。
いつもの事だから、わたしの表情は少しも変わらなかったのかもしれないけど、わたしはここまでのやり取りに結構感動していた。
一つの目標の為にみんなで知恵を出し合って、問題があれば調整することを惜しまず、自分で出来ることを探して実行しようとする。偉いなあ。
わたしもみんなを支えなきゃ。その大変な説得を手伝ってあげなきゃ。

「わたしも行きますよ」

わたしは自分なりの笑顔を作ってカーラさんに微笑んだ。これは疚しいものじゃなくて、本当にカーラさんを応援してのものですよ。

「ありがと、ユミちゃん」

うああ、そんな笑顔を向けないで。さっきわたしがあなたを邪魔したこと気付いてないんだろうけど、いい人過ぎですよぉ。
罪悪感……半端ないじゃないですか……。

実行委員会の長であるカーラさんだけじゃなく、責任感の塊のリーダーもこの面倒から逃げるつもりはなく、負担を公平にする為にもアロン君も呼び寄せた。

「みんなで行こう。アロンも頼むよ」
「へいへい」

アロン君は一見気の無さそうな返事をしてるけど、その表情からしてこの案の発案者である彼は、もとより人任せにするつもりはないようだった。
わたしは再びアロン君の方をチラリと見て、彼のユニークな面に改めて好意を強くした。

だけど……、さっき、わたしがカーラさんと二人っきりにしないようにしたこと、気付いてるかな……。
気付かれたら……、わたし、嫌われるだろうなぁ……。


次回「第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(4):アロン君がわたしの後ろに見ているもの」へ続く!

前回のお話「第2部:第14章 幼なじみの正体ばれる(2):カーラさんに与えるチャンス」


対応する第1部のお話「第1部:第18章 校外展覧会絵画展(8):次なる手」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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今回も第1部での裕美子ちゃんの何気なさげなセリフが、実はいろいろ裏事情を考えたうえでの発言だったというものでした。そんな自分に自己嫌悪する裕美子ちゃんであります。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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