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スト魔女二次小説:水音の乙女 ~第26話~ [スト魔女二次小説]

第26話「芳佳、危機に気付く」


坂本と竹井の話が東南アジアの潜水型ネウロイ関連の話と分かると、ミーナも真剣な顔に変わって会話に聞き耳を立てた。

「水中探信が出来るウィッチのことだな?」

≪ええ。一崎天音一等飛行兵曹よ。彼女の魔導波の周期は、ナイトウィッチと真逆ですごく長い波長だそうよ≫

「やはりそうか。海軍の飛行脚だと僅かに反応するのに、陸軍の歩行脚がうんともすんとも言わないというのを聞いたとき、もしやそうではないかと思っていたんだ」

≪心当たりがあるの?≫

「宮藤博士と魔導波の検波装置を改良してるとき、私達も何人かのウィッチをサンプリングして魔導波の周期を調べたことがあってな。ナイトウィッチは周期が特に短くて波形を装置で視覚化すると櫛みたいになるから、櫛形なんて言ってた。扶桑はナイトウィッチが少ないから夜目の利く者を変わりに使うことが多いが、彼女らも周期が短くなる傾向があるんだ。
それに魔法力の出力の弱いウィッチやあがりの近いウィッチも、長周期の魔導波を出さないという傾向もある。
それで夜間偵察や夜間攻撃による奇襲、それにとにかく数を揃えたかった陸軍は、ストライカーの設定を短周期の方に大きく振ってそっちの精度を上げる代わりに、長周期の検波を切り捨てたんだ。その結果が今の歩行脚さ。陸軍の飛行脚もそういうセッティングにしてるから、その子は陸軍のストライカーユニットだと反応しないと思うぞ」

≪そんな開発秘話があったんだ≫

「宮藤博士はウィッチがそんなふうに常識化できるはずがないと言って、長周期の検波を切り捨てることに反対だったんだ。だから海軍のストライカーユニットは多少精度が落ちても広く検波出来るように幅を残してある。後から個別にチューニングすればいいと言ってな。例えば宮藤のような治癒魔法使いは、短い波長から普通のウィッチじゃ出さないような長い波長までとても広いレンジの魔導波を出す」

≪ふうん。でもその海軍のストライカーユニットをもってしても、その子はやっと反応するかどうかだそうよ≫

「予想以上に長周期なんだな。でも検波装置も新素材を取り入れたりして進化しているから、新型は感度も範囲も上がってると思うぞ。キモは魔導波の検波装置だ」

≪なるほどね。分かったわ、新型の検波装置でチューニングを試すのね≫

「けっこう難しいところだから、腕のいい技師がいるぞ」

≪ありがとう。横川教官に伝えておきます。ナイトウィッチ、考えといてね?≫

「だーめだ」

≪ケチ。じゃあね≫

「ああ、またな」

受話器をミーナに返すと、電話機の横に羊羹が一切れ乗った皿が置いてあった。

「坂本さ~ん、お父さんの話なんかしてどうしたんですか? はい、これは坂本さんの分です」

羊羹を持ってきたのは宮藤だった。先程の電話の会話に出てきた宮藤博士は、この宮藤芳佳の父上だ。詳しくはここの読者ならご存じだろうから割愛する。

「おお、すまんな」
「訓練が終わって疲れてるだろうから、みんなに配ってるんですよ」
「そうかそうか。こんなことにはよく気が回るんだな」
「こんなことって、どういうことですか?」
「はっはっは、まあ今は問うまい」
「それで、何の話だったんですか?」
「うむ。お前の父君とストライカーユニットを開発しているときの話がちょっと参考になってな。今、扶桑の新人のウィッチでストライカーユニットに反応しないのがいるんだ」
「わたしが前に魔法力が強くなりすぎてリミッターに引っかかったときみたいなのですか?」
「あれとはまた違うんだ。……ところで宮藤。羊羹は自分で作ったのか?」
「はい。残り少ない小豆を炊いて……」

本職の職人が乗り込んで作っている給糧艦「間宮」の“間宮羊羹”のようにはいかないが、宮藤はずいぶんと作り慣れているようで、素人が作るにしては味も見た目もよくできた羊羹が小皿に乗っている。楊枝ではなくケーキ用の小さなフォークが添えられているのは、ここはベルギカなのだからしょうがない。

「他に扶桑からのもので残り少ないのはないか?」
「うーん、大豆もですねぇ。こないだ味噌を仕込んだのにかなり使いましたし、残りのほとんどは納豆にー。あとは豆腐用に少し残してあるだけです」
「ベルギカまで来て味噌なんか仕込んだのか。|糀《こうじ》はどうした?」
「もちろん頼んどいたんですよ~。|麦糀《むぎこうじ》ですけど、坂本さん大丈夫ですよね? もしかして|米麹《こめこうじ》使った甘めの方が良かったですか?」
「そんなもんまで頼んでいたのか。ストライカーの部品とか、そっちには気が回らんのか」
「あ、そっちですか? えへへへへ」
「だめだこれは。お前の震電はこっちじゃ殆ど使われない機種だから、他の部隊から分けてもらうとかの融通がきかんというのに」
「扶桑からの補給が滞るかもしれないのね?」

ミーナが重要なことを確認した。

「そうなんだ。さすがはミーナだな。宮藤、今度の補給を受けたら、次は暫く来ないかもしれんぞ。今喜望峰を回ってる輸送船団の積み荷を調べておいた方がいい」
「ええ? どういうことですか?」
「扶桑との連絡航路上にネウロイが出現しているんだ。それも水中に潜る奴が」
「水の中に潜るネウロイ?!」
「輸送船が次々と沈められていて、これが退治できるまで船が出られないんだ」
「まずいですよ坂本さん、次の次の便には梅干しとかを頼んでるんです!」
「お前にはそっちの補給のことしか頭にないのか!」
「わあ! すみませ~ん」
「まったく、お前という奴は……」
「そ、それで、新人ウィッチさんと扶桑からの補給になにか関係が?」
「ああ。その新人ウィッチだが、固有魔法で水の中を見る能力があるんだ。その子がいれば水中のネウロイを見つけられると期待されている。だからなんとしてもストライカーで飛べるようにしてやりたいんだが……」

坂本は何か手はないものかと腕組した。
宮藤から羊羹を受け取ったミーナも、やはり何かいい方法はないか考えつつ一切れ口に運んだ。アフタヌーンティーの時にも宮藤はたまに羊羹を作って出すが、今日のはそれよりも甘みが強いのは訓練後の疲労回復用だからだろうか。
こういう細かい気配りが戦闘の時にもできるとねえ……

「魔導波の検波装置だなんて、随分マニアックなところね。前線じゃまずいじることないところだわ。シャーリーさんなら分かるかしら」
「あいつがチューンするところは、その後の魔力増幅装置とか出力配分とかだからな。分からないだろう。細かい数値を見ながら調整しなければならんところだから、大変なんだ。お、宮藤。補給品リストのチェックか?お前も危機感出てきたか」
「坂本さん、味噌醤油、鰹節とか煮干も次の次の便です! これは欧州全体で扶桑食の危機ですよ! 扶桑から来てる人達全般の士気にかかわります! なんならわたし扶桑に帰って、その子抱えて飛ぶってのはどうですか?」
「みやふじ~! お前の観点はまだそこから離れられないのかー!」
「でも、でも~~っ」

相変わらず噛み合わない坂本と宮藤のやりとりに、苦笑いのミーナが止めに入る。

「まあ、士気にも影響が出るということは確かね。あながち間違いではないわよ、宮藤さん。その前にストライカーや弾薬類がいつまで持つか見てもらいたかったけど」
「す、すみませ~ん」
「まったく。宮藤にそれを求めるのが間違いだったな。服部に調べさせるか 。……しかし細かい数値を見ながらの調整か。ふむ。最近再会したいい適任者がいたじゃないか。手伝ってもらうよう頼んでみるか」

顎に手をして思慮した坂本は、ミーナの方に振り向いた。

「ミーナ、ちょっと扶桑に電話をしたい。借りていいか?」
「あらどうぞ。横須賀鎮守府?」
「いや。陸軍航空審査部だ」
「陸軍?」

坂本はふっと笑った。電話の向こうから扶桑語の応答が聞こえてきた。

「ああ、私は海軍横須賀の坂本美緒少佐だ。黒江大尉はいるかな?」



続く


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相変わらず主人公が登場しませんね。
前回登場を予告しておりました本家スト魔女の主人公とは、言わずと知れた宮藤芳佳さんでございました。
そして坂本さんの発言を見るとまたまた本家スト魔女の人が出できそうです。その人と共に本作主人公も・・・
世界と繋がっている海を舞台とする天音ちゃんだからできること、目指すはワールドウィッチーズオールスター?!



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