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<校外展覧会絵画展(9):最後の1枚> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第133回
<校外展覧会絵画展(9):最後の1枚>


次の日、カーラ達はダーニャのところに言って事情を説明した。
ダーニャは意外やあっさりOKした。

「あ、そう。それじゃ譲ってもいいわよ。でもキャリー、ボールしか描かないんでしょ?」
「多分だけどな」
「周りの景色、私描いてもいい?」
「また描くの?」
カーラが驚いた。
「うん。こないだのちょっと気に食わないところあってね」
リーダーも驚いた。
「あんなにうまく描けてるのに?勇夫に爪の垢煎じて飲ませてやれよ」


その日の放課後。
4人はバスケの練習が終わる時間を狙って、練習場へ行った。

「わあ、カーラ!ちょっとプレッシャーだなあ。明日顧問が描く時間取ってくれるそうだから、それまで待ってよ」
「ごめんね、キャリー。でも今日はまた提案があるの」
「提案?」
裕美子が筒から画用紙を出してキャリーに差し出した。
「はい、画用紙。この薄く丸が描いてあるところにバスケットボールを描いてください。下はちょっと欠けさせて」
「へ?風景描くんじゃなかったっけ?」
「実は・・・」

カーラは仕掛けを説明した。
それを聞いたキャリー、申し訳なさそうに言った。
「それじゃあ、ダーニャが面倒じゃない。せっかく描いたのを捨てて、元々わたしのところまで描いて」
「本人は構わないらしいよ。ぜんぜん苦じゃないみたいだから、気にしなくて大丈夫だよ」
チャンが心配を取り除く。
「でも、本当にいいの?そりゃ、あたしはバスケットボールなんて得意だからありがたいけどさ」
アロンがダーニャに代わって答えた。
「借りはバスケの試合で勝って返せってさ。ダーニャが言ってたよ。だからバスケに集中しなよ」
「本当に?・・・」

しばらく4人を代わるがわる見ると、キャリーは力強く言った。
「よしわかった!勝つよぜったい」
チャンがガッツして言った。
「がんばれよ」
「ありがと!特にダーニャにはいっぱいお礼言っといてね」




翌日の日も暮れたころ、アロンは合宿所に現れた。
合宿所とは部活用の臨時寮で、分校が持っていることになっている学生寮とは別の、本校管理の寮だった。試合や夏冬等の休みなど、集中してやりたいときにクラブで使うことができる。
アロンは夕方バイクをひっぱり出すと、合宿所の様子を見に来てみたのだ。ちゃんとバスケ部の顧問が約束通り絵を描く時間を取ってくれたか、キャリーは描けているかを確認するためだ。
プレッシャー与えないよう、遠巻きに確認するつもりだった。

合宿所の近くにバイクを停めてヘルメットを脱いでいると、人が近付いてきた。そっちの方を見ると、現れたのはなんと裕美子だった。
「あれ?小泉」
「こんばんは、アロン君。寮に届け物?」
アロンはにやっと笑った。この人の考えはだいたいアロンと似通っている。
そもそも先生にけしかける案を考えたのは裕美子だ。しかし交渉に行ったとき、血気盛んなバスケ部員以上に、顧問が負けたことを悔しがっていたのを見て、ちゃんと約束を守るか心配したに違いない。
「たぶん、小泉と同じ用事だ」
「様子見に来たんですか?」
「うん。バスケ部、帰ってきてる?」
「ええ。戻ってきて、これからお夕食みたいですね」
「絵描くのは晩飯後か。ちゃんとやるのかな」
「早く練習切り上げて帰ってきたんだから、どうやらちゃんとやりそうですね」
「飯の後は風呂とか、腹いっぱいで寝ちゃったりとかしないかなあ」
「ふふ。バスケ部も信用ないですね。絵描くまで見届けるつもりですか?」
「そうだね。描き始めるところこの目で見るまで安心できないや」
裕美子はメガネ越しでも、珍しく笑ってるのがわかった。
「じゃ、わたしも、お付き合いします」
「なんで?小泉、暇なの?」
「ええ。アロン君と同じくらい暇ですから」
アロンもふっと笑った。そして寮の敷地の端っこにあるベンチへ促した。
「じゃ、座って待ってるか」


「アロン君も律義ですね。・・・カーラさんのためですか?」
「まあ、乗りかかった船だからね。小泉がここにいるのと同じ気持ちからだよ」
「わたしは本屋さんに行ったついでに足を伸ばしたんですけど。本当に描かせるつもりなら、もう帰ってないとなぁと思って」
「本屋?そのついでにしちゃ、けっこう遠いぜ。そうまでしてわざわざ見にくるってことは、結局のところ小泉もバスケ部信用してないんじゃん」
すると裕美子がまた珍しく明るく笑った。
「ほんとだ。アロン君とわたしは同じ気持ちでここにいるんですね」


合宿所の方で人の動きが慌しくなった。夕食が終わって食器を片付けたりしているようだ。
「お夕食、終わったみたいですよ。顧問の先生がみんなに何か言ってます。ほら、画用紙も積み上げてあるし」
「どうやらこの後は、ちゃんとお絵描き時間になりそうな感じだね」
「そうですね。あとはキャリーさん、迷わずバスケットボール描いてくれるかな」
「見届ける?」
「ふふふ。キャリーさんは信用してますから。もう十分ですよ」

キャリーがボールを持って食堂を出ていくのが見えた。
「部屋で描くのかな?」
するとキャリーが玄関に現れた。
「あっ、キャリーが外に出てくるぞ。隠れよう!」
アロンは裕美子の手を引っ張って木の影に隠れた。細い木なので体はぜんぜん隠れない。裕美子はアロンにすり寄った。
「こ、これじゃ、隠れたうちに入らないんじゃ・・・」
「大丈夫。夜で暗いうえに影の中だし、動かなければ気付かれないよ」

見ていると、キャリーは地面を少し掘り下げて、そこにボールをおいた。
「地面にめり込んだボールだ」
「へえ、注文通りですね。実際に少し地面に埋めてみるなんて、キャリーさん本格的だわ」
下の方を少し埋もれさせたボールを熱心に観察しながら、キャリーは玄関前の明かりを頼りに画用紙へ顔を埋めて作業を続けていた。その様子にアロンも胸をなでおろした。
「もう大丈夫だね。引き上げようか」
「う、動いたら見つかりませんか?」
「描き終わるまでこのまんまいるつもり?ゆっくり移動すれば見つかんないよ。離れないでついてきて」

死角を意識しながら2人は移動し、無事合宿所の敷地から脱出した。
「これでキャリーさんの分も揃いますね」
「よかった。これで会場に届けられそうだ。小泉、送っていくよ」

アロンは裕美子をバイクで家まで送っていった。




翌日、キャリーの絵がカーラの元に届けられた。
キャリーのバスケットボールは、得意なだけあってうまく描けてる上、恩返しのつもりかとても丁寧に描いていた。もちろん実際にボールを埋めて描いたおかげだ。
ダーニャが周りの景色を描き足し、なかなか面白い1枚が出来上がった。巨大なバスケットボールが森の中で当たり前のように居座っている。本当にそこに存在するかのようだ。
こうして期日ギリギリ、何とかC組の絵は揃ったのだった。
ホームルームの時間、すべての絵を並べて展示の仕方を話し合った。
展示セッティングの責任者アロンが業者への指示書にまとめ、後は運ぶだけである。


次回「ばれた正体」へ続く!

前回のお話「校外展覧会絵画展(8):次なる手」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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コメント 1

TSO

xml_xslさん、Ainoさん、ケンケン@さん、ほちゃさん、niceありがとうございます。

イラスト、とうとう描けませんでしたね。
元来マンガのコマ割りに苦労したことはないのですが、小説にどっぷり浸かっていると、画面の描写に使う脳味噌が文字と絵では違うみたいです。1コマイラストにしても場面の絵がだんだん浮かんでこなくなってきてるんです。
まいったなぁ。
by TSO (2010-10-11 14:20) 

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