<決戦!(5):裕美子かユカリか> [片いなか・ハイスクール]
「片いなか・ハイスクール」連載第146回
<決戦!(5):裕美子かユカリか>
ホームルーム中のぐったりを通り越して、裕美子が珍しくだらしなく机にうつぶせているので、アロンは気になって声をかけた。
「どうした?小泉。最近疲れてるな、大丈夫?」
裕美子は顔を上げきることなく答えた。
「クリスティンにアロン君とのこと報告したんですけど、彼女にもちょっと言われてしまいました・・・。お友達がどんどん減っていくようで・・・」
「俺とのこと?」
「わたしの・・気持ちを伝えたことです・・・」
「そ、そっか。小泉も人並に感情の浮き沈みがあるんだな」
ようやく起き上がると困り果てた様子である。メガネの向うは涙ぐんでるかもという表情だ。
「アロン君、また幼なじみの格好したら、すぐOKしてくれますか?」
こういう話題を話すこと自体不釣合いな感じのするメガネの裕美子なのに、妙な雰囲気で懇願してくる様は失礼だが異常な感じである。それほどに追い詰められた状態なのだろう。
「本当に参ってるみたいだね」
夏のダリ・ビーチで見せた、メガネを取っただけではなく濡らして真っ直ぐな髪にして、やたらと陽気な幼なじみ『ユカリ』を、いつもの無表情っぽい状態とも違う困り果てた顔のメガネの裕美子から想像するのは、相当に困難である。本当に同一人物か、今でも不思議に思う。
「あの幼なじみ『ユカリ』には実際あの後、本当にいてくれたらって思ったよ。いや、一瞬いるんだって思った。だってあれは小泉だったし、小泉は実在するんだもの」
困惑顔だった裕美子が、ちょっといつもの無表情っぽい状態に戻った。
「でも、あれは小泉が演じたものだって気付いたんだ。ドラマの役柄の人を好きになっても、演じた女優に好きになったわけじゃないってのと同じでさ。」
裕美子はずきっとした。もう結論を言われたと思って立ち上がった。無表情っぽい顔はいつものままだが、声はいっそう沈んでいた。
「・・・恋したのは、わたし本人ではなかったってことですね」
裕美子が歩きだしそうだったので、アロンは引き止めた。
「待った待った、まだ途中だよ。『ユカリ』は演技だったからね。でも今俺が見たいのは小泉本人だから。演じてない小泉が見たいんだ」
裕美子はアロンに振り返った。結論ではないとわかり少しほっとしたが、声は沈んだままだ。
「わたし、自分に自身ないです・・」
「気持ちが沈んでるときだからそんなこと言ってるんだと思うけどさ。その・・・あの『ユカリ』が虚空の人だってわかった後も、小泉はすごく気になってしかたなかったんだ。みんながあの時認めた『ユカリ』を演じた人、あの岩場で水中メガネつけて泳いで喜んでた少女のような人、ドリフトするバイクに振り落とされることなくいとも簡単にさばいた人・・あれは『ユカリ』じゃなくて小泉裕美子だろ?『ユカリ』を凌駕する、この人は実はすっげー人なんじゃないかと思ったんだ。なかなか真実の姿を見せてくれなくて、もやもやしてたんだけど・・でも、今はその人がずっと俺を想っていてくれてたってこと知ったし、自分を見極めてくれって本当の姿を見せようとしてるんだって思うと・・・」
「・・・」
裕美子は起き上がってしゃきっとした。
「忘れてください。さっきの伏せってた人」
そして首を少し傾げてにこっと笑った。この首を傾げるのはこの人の癖のようだ。
「見てもらわないとですからね」
メガネのせいで伝わる表情は半減されてしまうのだが、落ち込んでた気分を持ち上げてくれたことへのうれしさは充分伝わってきた。
「そうそう。実は笑顔が似合う人だったんだよね」
そしてアロンはもう一つ、これも安心させるというよりはそう感じていることをそのまま伝えた。
「クリスティンのことだけど、ハウルもだろうけど、彼女らは小泉を責めてるんじゃなくて、応援してるんだと思うけどな」
「はい・・」
次回「球技大会(1):C組女子バレーの秘密兵器」へ続く!
前回のお話「決戦!(4):裕美子の気持ち」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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<決戦!(5):裕美子かユカリか>
ホームルーム中のぐったりを通り越して、裕美子が珍しくだらしなく机にうつぶせているので、アロンは気になって声をかけた。
「どうした?小泉。最近疲れてるな、大丈夫?」
裕美子は顔を上げきることなく答えた。
「クリスティンにアロン君とのこと報告したんですけど、彼女にもちょっと言われてしまいました・・・。お友達がどんどん減っていくようで・・・」
「俺とのこと?」
「わたしの・・気持ちを伝えたことです・・・」
「そ、そっか。小泉も人並に感情の浮き沈みがあるんだな」
ようやく起き上がると困り果てた様子である。メガネの向うは涙ぐんでるかもという表情だ。
「アロン君、また幼なじみの格好したら、すぐOKしてくれますか?」
こういう話題を話すこと自体不釣合いな感じのするメガネの裕美子なのに、妙な雰囲気で懇願してくる様は失礼だが異常な感じである。それほどに追い詰められた状態なのだろう。
「本当に参ってるみたいだね」
夏のダリ・ビーチで見せた、メガネを取っただけではなく濡らして真っ直ぐな髪にして、やたらと陽気な幼なじみ『ユカリ』を、いつもの無表情っぽい状態とも違う困り果てた顔のメガネの裕美子から想像するのは、相当に困難である。本当に同一人物か、今でも不思議に思う。
「あの幼なじみ『ユカリ』には実際あの後、本当にいてくれたらって思ったよ。いや、一瞬いるんだって思った。だってあれは小泉だったし、小泉は実在するんだもの」
困惑顔だった裕美子が、ちょっといつもの無表情っぽい状態に戻った。
「でも、あれは小泉が演じたものだって気付いたんだ。ドラマの役柄の人を好きになっても、演じた女優に好きになったわけじゃないってのと同じでさ。」
裕美子はずきっとした。もう結論を言われたと思って立ち上がった。無表情っぽい顔はいつものままだが、声はいっそう沈んでいた。
「・・・恋したのは、わたし本人ではなかったってことですね」
裕美子が歩きだしそうだったので、アロンは引き止めた。
「待った待った、まだ途中だよ。『ユカリ』は演技だったからね。でも今俺が見たいのは小泉本人だから。演じてない小泉が見たいんだ」
裕美子はアロンに振り返った。結論ではないとわかり少しほっとしたが、声は沈んだままだ。
「わたし、自分に自身ないです・・」
「気持ちが沈んでるときだからそんなこと言ってるんだと思うけどさ。その・・・あの『ユカリ』が虚空の人だってわかった後も、小泉はすごく気になってしかたなかったんだ。みんながあの時認めた『ユカリ』を演じた人、あの岩場で水中メガネつけて泳いで喜んでた少女のような人、ドリフトするバイクに振り落とされることなくいとも簡単にさばいた人・・あれは『ユカリ』じゃなくて小泉裕美子だろ?『ユカリ』を凌駕する、この人は実はすっげー人なんじゃないかと思ったんだ。なかなか真実の姿を見せてくれなくて、もやもやしてたんだけど・・でも、今はその人がずっと俺を想っていてくれてたってこと知ったし、自分を見極めてくれって本当の姿を見せようとしてるんだって思うと・・・」
「・・・」
裕美子は起き上がってしゃきっとした。
「忘れてください。さっきの伏せってた人」
そして首を少し傾げてにこっと笑った。この首を傾げるのはこの人の癖のようだ。
「見てもらわないとですからね」
メガネのせいで伝わる表情は半減されてしまうのだが、落ち込んでた気分を持ち上げてくれたことへのうれしさは充分伝わってきた。
「そうそう。実は笑顔が似合う人だったんだよね」
そしてアロンはもう一つ、これも安心させるというよりはそう感じていることをそのまま伝えた。
「クリスティンのことだけど、ハウルもだろうけど、彼女らは小泉を責めてるんじゃなくて、応援してるんだと思うけどな」
「はい・・」
次回「球技大会(1):C組女子バレーの秘密兵器」へ続く!
前回のお話「決戦!(4):裕美子の気持ち」
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bitさん、HAtAさん、ケンケン@さん、kuzeさん、xml_xslさん、takemoviesさん、niceありがとうございます。
長らくカーラを応援してくださった方々、申し訳ありませんでした。
ここまでカーラを盛り上げてしまったのは、読者の方の声に反応してしまった結果です。下書きではもっとあっさりしてたのですが、意外とカーラの人気があったことから、いろいろエピソードが追加されたり、もともとあったエピソードにも心理状況の描写が追加されたりして、ますますアロンとの仲に期待が高まってしまった感じです。
(カーラの誕生日や映画を見に行ったり、「カーラの憂鬱」などは実は追加エピソードだったりします)
その分、敗れたカーラの可哀想さが際立ってしまいましたね。
ごめん、カーラ応援団、そしてカーラちゃん。
そしてアロンが裕美子を選ぶのか。これがしばらく焦点となります。
by TSO (2010-11-04 22:24)
秋水司[尖閣動画拡散中]さん、釣られクマさん、PENGUINGさん、niceありがとうございます。
by TSO (2010-11-09 21:55)