<過去との決別(12):出発点> [片いなか・ハイスクール]
ああ、とうとう片いなか・ハイスクール、第1部終了まできてしまいました。
----------
「片いなか・ハイスクール」連載第248回
第1部最終回
<過去との決別(12):出発点>
終業式の日。
卒業した3年生は既になく、2年生の教室では1年間様々な苦楽を共にした仲間と別れを惜しんでいた。
一方クラス替えがないことになった1年生、ことにC組では、また来月同じメンバーと同じクラスで顔を付き合わせるのだと思うと、感傷的な気分などなく馬鹿騒ぎのまま学校は終わった。さらにそれでも騒ぎ足りないか、あるいは形式的なものを優先したか、とにかくC組のみんなは店を予約して、夕方に終業パーティーをやることにしていた。
机の中に何も残ってないことを確かめ、自分としてはかなり黒板から遠い方だったこの席を感慨深げに眺めていた裕美子のところにアロンがやってきた。
アロンはいつもより声を小さくして話しかけてきた。
「今日、3時に2番ストリートのコーヒーショップで待ち合わせして、それで終業パーティーに一緒に行こう」
「え?どうして待ち合わせをするの?一緒に帰って、軽くお昼食べて、一緒に出かければいいじゃないですか」
今、裕美子はアロンのところで同棲しているのだ。帰るところは同じなのだから、待ち合わせなどする必要はないはずである。
アロンは小さい声のまま続けた。
「これからちょっといくところがあって、先に俺帰るから。昼飯はハウル達と食べない方がいいよ。3時の待ち合わせに行きにくくなるかもしれないから。・・その、一人で来てほしいんだ」
裕美子は首を傾げたが、特に疑う様子もなく答えた。
「そうですか。わかりました。言う通りにします」
「ごめんね!ぜったい一人で来るんだよ!」
そして午後2時半。
裕美子はもう待ち合わせのコーヒーショップに来ていた。
店の外にはオープン席がいくつかある。3月終わりの日差しはもう春めいていて、日が当たっていれば上着もいらないくらいである。だが裕美子は迷わずそのうちのやや日陰にあった一つに席を取った。
カフェオレの入ったカップを両手で包んで、その席から見渡せる景色を見ながらあのときに思いを馳せる。そう、ここは思い入れのある席。
『ここはアロン君に彼女としてオッケーもらった次の日、結果的に初デートになった待ち合わせの場所・・』
カップルになったことをハウルたちに報告するためアロンと待ち合わせたところだ。その後ハウルやカーラ、クリスティンがやってきて散々からかわれたっけ。恥ずかしくって、カップも片付けずアロンの手を引っ張って走って逃げたのだった。
『あれからまだ4カ月しか経ってないのに、わたし達とっても親密になった。体は・・キスしか許してないけど、心はすごく繋がってる。おかげで親から離れて暮らすことになっても、苦しいときがあっても、今度は乗り越えることができた。全部、アロン君がそばにいてくれたから。・・とっても今、シアワセ』
まだ熱いカップを手に、この充実した日が訪れるようになったときを思い出した。
『思えばこの1年、わたしの高校1年はすばらしかったわ。あの暗い中学時代に失ったものをすべて取り返して有り余る』
家の外に出ることさえ賭けと思われたようなときが、いったいいつから変化していたのだろう。
『最初は、入学式の日から。もうその日から変わっていってたんだ・・・』
片いなか・ハイスクール 第1部 完
-----
お正月用に振袖でも着た絵を描こうかと思ったのですが、和服が複雑そうで調べるのが億劫で、下書きの下書きでやめてしまったものなのですが・・・
裕美子のあの独特なモアモアくせ毛を上げたうなじが想像できなかったってのが真相かも・・・
次回「第2部:第1章 出発点(1):入学式の日」へ続く!
前回のお話「過去との決別(11):新学期に向けて」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
Copyright(c) 2009-2012 TSO All Rights Reserved
----------
「片いなか・ハイスクール」連載第248回
第1部最終回
<過去との決別(12):出発点>
終業式の日。
卒業した3年生は既になく、2年生の教室では1年間様々な苦楽を共にした仲間と別れを惜しんでいた。
一方クラス替えがないことになった1年生、ことにC組では、また来月同じメンバーと同じクラスで顔を付き合わせるのだと思うと、感傷的な気分などなく馬鹿騒ぎのまま学校は終わった。さらにそれでも騒ぎ足りないか、あるいは形式的なものを優先したか、とにかくC組のみんなは店を予約して、夕方に終業パーティーをやることにしていた。
机の中に何も残ってないことを確かめ、自分としてはかなり黒板から遠い方だったこの席を感慨深げに眺めていた裕美子のところにアロンがやってきた。
アロンはいつもより声を小さくして話しかけてきた。
「今日、3時に2番ストリートのコーヒーショップで待ち合わせして、それで終業パーティーに一緒に行こう」
「え?どうして待ち合わせをするの?一緒に帰って、軽くお昼食べて、一緒に出かければいいじゃないですか」
今、裕美子はアロンのところで同棲しているのだ。帰るところは同じなのだから、待ち合わせなどする必要はないはずである。
アロンは小さい声のまま続けた。
「これからちょっといくところがあって、先に俺帰るから。昼飯はハウル達と食べない方がいいよ。3時の待ち合わせに行きにくくなるかもしれないから。・・その、一人で来てほしいんだ」
裕美子は首を傾げたが、特に疑う様子もなく答えた。
「そうですか。わかりました。言う通りにします」
「ごめんね!ぜったい一人で来るんだよ!」
そして午後2時半。
裕美子はもう待ち合わせのコーヒーショップに来ていた。
店の外にはオープン席がいくつかある。3月終わりの日差しはもう春めいていて、日が当たっていれば上着もいらないくらいである。だが裕美子は迷わずそのうちのやや日陰にあった一つに席を取った。
カフェオレの入ったカップを両手で包んで、その席から見渡せる景色を見ながらあのときに思いを馳せる。そう、ここは思い入れのある席。
『ここはアロン君に彼女としてオッケーもらった次の日、結果的に初デートになった待ち合わせの場所・・』
カップルになったことをハウルたちに報告するためアロンと待ち合わせたところだ。その後ハウルやカーラ、クリスティンがやってきて散々からかわれたっけ。恥ずかしくって、カップも片付けずアロンの手を引っ張って走って逃げたのだった。
『あれからまだ4カ月しか経ってないのに、わたし達とっても親密になった。体は・・キスしか許してないけど、心はすごく繋がってる。おかげで親から離れて暮らすことになっても、苦しいときがあっても、今度は乗り越えることができた。全部、アロン君がそばにいてくれたから。・・とっても今、シアワセ』
まだ熱いカップを手に、この充実した日が訪れるようになったときを思い出した。
『思えばこの1年、わたしの高校1年はすばらしかったわ。あの暗い中学時代に失ったものをすべて取り返して有り余る』
家の外に出ることさえ賭けと思われたようなときが、いったいいつから変化していたのだろう。
『最初は、入学式の日から。もうその日から変わっていってたんだ・・・』
片いなか・ハイスクール 第1部 完
-----
お正月用に振袖でも着た絵を描こうかと思ったのですが、和服が複雑そうで調べるのが億劫で、下書きの下書きでやめてしまったものなのですが・・・
裕美子のあの独特なモアモアくせ毛を上げたうなじが想像できなかったってのが真相かも・・・
次回「第2部:第1章 出発点(1):入学式の日」へ続く!
前回のお話「過去との決別(11):新学期に向けて」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
Copyright(c) 2009-2012 TSO All Rights Reserved
にほんブログ村 |
にほんブログ村 |
☆☆ 災害時 安否確認 ☆☆
下書きでも、素敵ですよ
by タッチおじさん (2012-01-23 16:13)
copperさん、タッチおじさんさん、bitさん、xml_xsさん、niceありがとうございます。
タッチおじさんさん、コメントありがとうございます。
足りない部分を頭の中でそうとう補完していただいたようで、ありがとうございます。和服は難しい。
by TSO (2012-01-28 17:26)