<第2部:第1章 出発点(1):入学式の日> [片いなか・ハイスクール]
東日本大震災被災地がんばれ!
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「片いなか・ハイスクール」連載第249回
<第2部:第1章 出発点(1):入学式の日>
家の外に出ることさえ賭けと思われたようなときが、いったいいつから変化していたのだろう。
『最初は、入学式の日から。もうその日から変わっていってたんだ・・・』
新しい道へ切り替わったのは、入学式のとき。正にあの時、全てが始まったんだ。
「ここなら全ての人が初めて会う人ばかりよ。白紙のページからスタートできる。あなたがそのページを自分の筆で書いていけるのよ」
「はい・・」
「がんばって!教室見てきたら?」
「はい」
母親に背中を押されて裕美子は校舎に向かった。
4月初旬。日本と同じ季節に入学式シーズンを迎えた。
ここは片田舎にある学校。もっと都会に本校を持つ高校の第一分校だ。発展中途半端な町に、のどかな田園風景と里山が隣り合わせる、のんびりとした高校。
『中学のしがらみを全て排して、わたしはここからスタートできる』
入り口に貼られたクラス表で自分のクラスと教室を確認すると、ぱらぱらと新入生が歩く廊下を伝ってそこへ向かった。
裕美子が割当たったのは1年C組。1年生の教室は2階に並んでいた。開け放しのドアから覗いた教室の中は眩しかった。明るく日差しが注ぐ教室はまだ何のけがれもないようだ。
『ここで普通の高校生にように楽しくおしゃべりをしたり、勉強をしたりできるのだろうか。月並みに誰かを好きになったりすることがあるのだろうか』
学校生活が遠い昔のようで今ひとつ想像ができなかった。
そろそろと教室に入ってみる。
教室の中では窓辺にすらりと背の高い男の人が2人立って外を見ていた。裕美子に気付いていないようだ。男の人が妙に大人びて見える。
『高校生ってこんなに大人なんだ』
と、後ろからどやどやっと女の子2人が入ってきた。
「なんか狭くない?」
「こんなもんですよぉ」
やけに陽気に一塊になって歩きながら入ってきた2人は裕美子の前までやって来た。裕美子はびっくりして後ずさりしてしまった。何しろ知らない人とまともに面と向かうことが久しくなかったうえ、人に対する恐怖心もあったのだ。
しかしその娘は明るく元気に裕美子に声を掛けた。
「はーい、あたしハウル。あなたC組?よろしくー」
ハウルと名乗った子は左手を差し出した。一塊になっているわけだ。右手はもう一人の女の子を抱えていた。
裕美子はちょっとたじろぎ躊躇した。しかしハウルという子は裕美子に向かってにっこりとすると、さらに左手を大きく開いて突き出した。
「よ・・よろしく。小泉です」
と裕美子はぎこちなく握手する。そもそも普通は右手で握手するものだ。
『左利きかしら』
「この子はアシスタントのクリスティンよ」
ハウルは右腕で抱ええている子を指して言った。
「アシスタントじゃありません。ごめんねそうぞうしくて。クリスティンです、よろしくね」
「は、はい・・よろしくお願いします」
「窓の外見てみよう。こんちゃー、お二人さん。あ、なんかいい男じゃん!。この組いいとこカも。ハウルでーす。こっちは僕のクリスティン」
「しもべじゃありません!」
『すごい・・。でも普通に声かけられちゃった。握手まで・・・握手するのって普通かしら』
握手した手を見て思った。
『この人達にとってわたしは本当に普通のただの人なのね』
黒板の方を見ながら、ハウル達の声をバックに裕美子は新しい環境を感じていた。
次回「第2部:第1章 出発点(2):運命の人との出会い」へ続く!
前回のお話「第1部:過去との決別(12):出発点」
対応する第1部のお話「第1部:第2章 入学式」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
ライトノベルのキャラクターとしてはハウルちゃんの方がよっぽど適格でしょう。
そんな片鱗をどこかでアップしたいとも思っています。
その前に「片いなか・ハイスクール」のパロディというか、行間を埋める話やあることないことを4コマで描けたらと思って「ハリケーン ハウルちゃん」を第2部と同時進行で始めました。はたして続けられるかどうか。
そんなハウルちゃんがいながら「片いなか・ハイスクール」はなんで地味な裕美子とアロンだったのか。
それは始めの頃のコメントでも書きましたが、もともと別の物語のキャラクター達を使って学園ものを書いたらというので始めたお話だったからです。その中でアロンと裕美子はもともとカップルでした。しかも裕美子はあのユカリのような明るい性格で、押しかけ女房的というぜんぜん違う設定。
がらりと裕美子の設定を変えて「片いなか・ハイスクール」に挑んだのは、簡単にはくっ付けたくなかったからです。しかしアロンと裕美子がカップルになるのは既定事項。それをひた隠しひた隠し話を進めるのは意外と大変でした。1年近く引き伸ばしたかったけど、半年程度が限界でしたからね。
そんな裏話もできたらという第2部です。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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「片いなか・ハイスクール」連載第249回
<第2部:第1章 出発点(1):入学式の日>
家の外に出ることさえ賭けと思われたようなときが、いったいいつから変化していたのだろう。
『最初は、入学式の日から。もうその日から変わっていってたんだ・・・』
新しい道へ切り替わったのは、入学式のとき。正にあの時、全てが始まったんだ。
「ここなら全ての人が初めて会う人ばかりよ。白紙のページからスタートできる。あなたがそのページを自分の筆で書いていけるのよ」
「はい・・」
「がんばって!教室見てきたら?」
「はい」
母親に背中を押されて裕美子は校舎に向かった。
4月初旬。日本と同じ季節に入学式シーズンを迎えた。
ここは片田舎にある学校。もっと都会に本校を持つ高校の第一分校だ。発展中途半端な町に、のどかな田園風景と里山が隣り合わせる、のんびりとした高校。
『中学のしがらみを全て排して、わたしはここからスタートできる』
入り口に貼られたクラス表で自分のクラスと教室を確認すると、ぱらぱらと新入生が歩く廊下を伝ってそこへ向かった。
裕美子が割当たったのは1年C組。1年生の教室は2階に並んでいた。開け放しのドアから覗いた教室の中は眩しかった。明るく日差しが注ぐ教室はまだ何のけがれもないようだ。
『ここで普通の高校生にように楽しくおしゃべりをしたり、勉強をしたりできるのだろうか。月並みに誰かを好きになったりすることがあるのだろうか』
学校生活が遠い昔のようで今ひとつ想像ができなかった。
そろそろと教室に入ってみる。
教室の中では窓辺にすらりと背の高い男の人が2人立って外を見ていた。裕美子に気付いていないようだ。男の人が妙に大人びて見える。
『高校生ってこんなに大人なんだ』
と、後ろからどやどやっと女の子2人が入ってきた。
「なんか狭くない?」
「こんなもんですよぉ」
やけに陽気に一塊になって歩きながら入ってきた2人は裕美子の前までやって来た。裕美子はびっくりして後ずさりしてしまった。何しろ知らない人とまともに面と向かうことが久しくなかったうえ、人に対する恐怖心もあったのだ。
しかしその娘は明るく元気に裕美子に声を掛けた。
「はーい、あたしハウル。あなたC組?よろしくー」
ハウルと名乗った子は左手を差し出した。一塊になっているわけだ。右手はもう一人の女の子を抱えていた。
裕美子はちょっとたじろぎ躊躇した。しかしハウルという子は裕美子に向かってにっこりとすると、さらに左手を大きく開いて突き出した。
「よ・・よろしく。小泉です」
と裕美子はぎこちなく握手する。そもそも普通は右手で握手するものだ。
『左利きかしら』
「この子はアシスタントのクリスティンよ」
ハウルは右腕で抱ええている子を指して言った。
「アシスタントじゃありません。ごめんねそうぞうしくて。クリスティンです、よろしくね」
「は、はい・・よろしくお願いします」
「窓の外見てみよう。こんちゃー、お二人さん。あ、なんかいい男じゃん!。この組いいとこカも。ハウルでーす。こっちは僕のクリスティン」
「しもべじゃありません!」
『すごい・・。でも普通に声かけられちゃった。握手まで・・・握手するのって普通かしら』
握手した手を見て思った。
『この人達にとってわたしは本当に普通のただの人なのね』
黒板の方を見ながら、ハウル達の声をバックに裕美子は新しい環境を感じていた。
次回「第2部:第1章 出発点(2):運命の人との出会い」へ続く!
前回のお話「第1部:過去との決別(12):出発点」
対応する第1部のお話「第1部:第2章 入学式」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
ライトノベルのキャラクターとしてはハウルちゃんの方がよっぽど適格でしょう。
そんな片鱗をどこかでアップしたいとも思っています。
その前に「片いなか・ハイスクール」のパロディというか、行間を埋める話やあることないことを4コマで描けたらと思って「ハリケーン ハウルちゃん」を第2部と同時進行で始めました。はたして続けられるかどうか。
そんなハウルちゃんがいながら「片いなか・ハイスクール」はなんで地味な裕美子とアロンだったのか。
それは始めの頃のコメントでも書きましたが、もともと別の物語のキャラクター達を使って学園ものを書いたらというので始めたお話だったからです。その中でアロンと裕美子はもともとカップルでした。しかも裕美子はあのユカリのような明るい性格で、押しかけ女房的というぜんぜん違う設定。
がらりと裕美子の設定を変えて「片いなか・ハイスクール」に挑んだのは、簡単にはくっ付けたくなかったからです。しかしアロンと裕美子がカップルになるのは既定事項。それをひた隠しひた隠し話を進めるのは意外と大変でした。1年近く引き伸ばしたかったけど、半年程度が限界でしたからね。
そんな裏話もできたらという第2部です。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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by TSO (2012-01-29 23:50)