<第2部:第2章 初登校日(1):隣の席> [片いなか・ハイスクール]
東日本大震災被災地がんばれ!
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「片いなか・ハイスクール」連載第251回
<第2部:第2章 初登校日(1):隣の席>
『いよいよだわ。昨日はすぐ帰っちゃったから。ほかの人、どんな人だろう』
こんなに学校に行くことを楽しみにしたのはいつ以来だろうか。しかも驚いたことに、まだ見ぬ他のクラスメート達に会ってみたいとさえ思っている。裕美子はドキドキしながら廊下を歩いていた。そのドキドキは本格的に始まる学校生活のせいだけではなかった。
「・・・あの人にもまた会える・・』
教室に入ってみると後ろの席に3人が座っていた。
ドキ!!
『あ、あの人だ!』
最後列(と言っても3列しかないが)の真ん中に気になってしょうがない男の子がいた。
『席ってどう決まってるんだろう』
裕美子は入り口のところにある段ボールと、黒板の説明書きを見た。
『ははぁ・・』
要は段ボール箱の中から座席番号の書いてあるカードを拾い上げ、その番号のところに座るのだ。しかしちょっと箱の中を覗くとカード番号は丸見えだった。
きょろきょろと周囲に目を配ると
『今なら誰も見てないよね。あの人の横の席のカード探しちゃおう。えっと、5のCと・・』
箱に首を突っ込むようにしてカードを探すと、わりとすぐ目的の番号が見つかった。そのカードをじいっと見つめた。
『いいのかしら・・わたしいきなりこんなことして・・』
すると廊下からにぎやかな声が聞こえてくる。
『あの声はたしかハウルさん!早く席つかなきゃ』
やってきたのはハウルとクリスティンの他に女子がもう一人(カーラです)、それに男子が一人すぐ後ろにいた(チャンです)。
「何これ、座席番号だって。どれどれ」
とまじめにカードを取る3人目の女の子。その子は
「えーっと、あの辺かなあ」
と窓の方を指差した。すると、
「ばっかじゃないの。まじめにランダムに席につくんかね。ぶちまけちゃおうよ」
とハウルという人が過激な発言をした。
入り口でもめ始めたハウル達を見ながら
『今日が初登校なのに、もうあんなに親しげにお話してる。同じ中学の出なのかな。グループできちゃってたらどうしょう。入り込めないかも・・・』
と少し心配になった。
実際はハウルとクリスティンが同じ中学なだけで、カーラとは昨日、チャンとは今が初めての会話とは思いも寄らなかった。
ひとまず席につこうと、ワイワイともめているみんなをよそに、ドキドキしながらアロンの席の横へ歩み寄った。机に手を置いて、仲良く話をしているアロン達の方をちらりと見る。
『この人達、きっとわたしと同じことしてここに並んでるんだわ』
直感的にそう思った。
「やめなよ、一応こうやろうとしてるみたいだから、守ろうよ」
「だいじょうぶ?なんか後ろの席から埋まってるみたいだけどー」
絶妙のタイミングで自分達の事を言われて裕美子はびくっとする。
するとすでに並んでいるうちの窓際にいた一人が(レソフィックです)
「上から順に取ったらこうなったぞ。カード入れた奴が間抜けなんじゃねーか?」
と明らかにでたらめなことを言って正当化し始めた。
『うわ!絶対そんなふうに取ってないくせに!』
しかし「そうそう」とレソフィックに同調するアロン達を見て、瞬時に裕美子まで首を縦に振っていた。
「マジ?どれどれ、えー?ぜんぜんちがうじゃん。前の方だよー」
真面目に引いてみたハウルが嘆く声が響く。ハウル達は再び席を巡って嘆いたり笑ったりして騒がしくしている。こっちの座席取りの疑惑を追求する様子はないようでホッとした。
裕美子は自ら勝ち取った席に座った。
『座っちゃった。この男の子への興味だけでわたしこんなことして・・・。いいよね、人生再出発だし、神様許して』
だが座って黒板を向いて初めて気付いた。
『それにしても黒板が遠い。字が見えないかも』
家にこもって本を読むことが多かったせいか、この1年ほどで視力が一段と悪くなっていた。作ったばかりのメガネをかけ直して困った風にしていると、横から会話が漏れ聞こえてきた。
「今日、道場どうする?」
「行かなきゃまずいよ。昨日風強くて埃がかなり入ってたから、今日は床拭いとかないと」
「じゃあみんなが来る前に急いで帰らないとだなあ」
『ふーん、この3人はもともと知り合いなのね。それで仲がいいのか。道場って、何かやってるんだ・・』
次回「第2部:第2章 初登校日(2):彼を想うとできたこと」へ続く!
前回のお話「第2部:第1章 出発点(2):運命の人との出会い」
対応する第1部のお話「第1部:第3章 初登校日(1)」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
これが裕美子ちゃんがアロンの隣に座っていた真相です。この席を選んで座ったということは、付き合い始める直前の第1部155話でアロンに、恋人宣言された翌日の第1部162話でハウルちゃん達に明らかにされるわけですが、ノーマーク状態の第1部17話で既に読者のみなさんも目撃していたのです。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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「片いなか・ハイスクール」連載第251回
<第2部:第2章 初登校日(1):隣の席>
『いよいよだわ。昨日はすぐ帰っちゃったから。ほかの人、どんな人だろう』
こんなに学校に行くことを楽しみにしたのはいつ以来だろうか。しかも驚いたことに、まだ見ぬ他のクラスメート達に会ってみたいとさえ思っている。裕美子はドキドキしながら廊下を歩いていた。そのドキドキは本格的に始まる学校生活のせいだけではなかった。
「・・・あの人にもまた会える・・』
教室に入ってみると後ろの席に3人が座っていた。
ドキ!!
『あ、あの人だ!』
最後列(と言っても3列しかないが)の真ん中に気になってしょうがない男の子がいた。
『席ってどう決まってるんだろう』
裕美子は入り口のところにある段ボールと、黒板の説明書きを見た。
『ははぁ・・』
要は段ボール箱の中から座席番号の書いてあるカードを拾い上げ、その番号のところに座るのだ。しかしちょっと箱の中を覗くとカード番号は丸見えだった。
きょろきょろと周囲に目を配ると
『今なら誰も見てないよね。あの人の横の席のカード探しちゃおう。えっと、5のCと・・』
箱に首を突っ込むようにしてカードを探すと、わりとすぐ目的の番号が見つかった。そのカードをじいっと見つめた。
『いいのかしら・・わたしいきなりこんなことして・・』
すると廊下からにぎやかな声が聞こえてくる。
『あの声はたしかハウルさん!早く席つかなきゃ』
やってきたのはハウルとクリスティンの他に女子がもう一人(カーラです)、それに男子が一人すぐ後ろにいた(チャンです)。
「何これ、座席番号だって。どれどれ」
とまじめにカードを取る3人目の女の子。その子は
「えーっと、あの辺かなあ」
と窓の方を指差した。すると、
「ばっかじゃないの。まじめにランダムに席につくんかね。ぶちまけちゃおうよ」
とハウルという人が過激な発言をした。
入り口でもめ始めたハウル達を見ながら
『今日が初登校なのに、もうあんなに親しげにお話してる。同じ中学の出なのかな。グループできちゃってたらどうしょう。入り込めないかも・・・』
と少し心配になった。
実際はハウルとクリスティンが同じ中学なだけで、カーラとは昨日、チャンとは今が初めての会話とは思いも寄らなかった。
ひとまず席につこうと、ワイワイともめているみんなをよそに、ドキドキしながらアロンの席の横へ歩み寄った。机に手を置いて、仲良く話をしているアロン達の方をちらりと見る。
『この人達、きっとわたしと同じことしてここに並んでるんだわ』
直感的にそう思った。
「やめなよ、一応こうやろうとしてるみたいだから、守ろうよ」
「だいじょうぶ?なんか後ろの席から埋まってるみたいだけどー」
絶妙のタイミングで自分達の事を言われて裕美子はびくっとする。
するとすでに並んでいるうちの窓際にいた一人が(レソフィックです)
「上から順に取ったらこうなったぞ。カード入れた奴が間抜けなんじゃねーか?」
と明らかにでたらめなことを言って正当化し始めた。
『うわ!絶対そんなふうに取ってないくせに!』
しかし「そうそう」とレソフィックに同調するアロン達を見て、瞬時に裕美子まで首を縦に振っていた。
「マジ?どれどれ、えー?ぜんぜんちがうじゃん。前の方だよー」
真面目に引いてみたハウルが嘆く声が響く。ハウル達は再び席を巡って嘆いたり笑ったりして騒がしくしている。こっちの座席取りの疑惑を追求する様子はないようでホッとした。
裕美子は自ら勝ち取った席に座った。
『座っちゃった。この男の子への興味だけでわたしこんなことして・・・。いいよね、人生再出発だし、神様許して』
だが座って黒板を向いて初めて気付いた。
『それにしても黒板が遠い。字が見えないかも』
家にこもって本を読むことが多かったせいか、この1年ほどで視力が一段と悪くなっていた。作ったばかりのメガネをかけ直して困った風にしていると、横から会話が漏れ聞こえてきた。
「今日、道場どうする?」
「行かなきゃまずいよ。昨日風強くて埃がかなり入ってたから、今日は床拭いとかないと」
「じゃあみんなが来る前に急いで帰らないとだなあ」
『ふーん、この3人はもともと知り合いなのね。それで仲がいいのか。道場って、何かやってるんだ・・』
次回「第2部:第2章 初登校日(2):彼を想うとできたこと」へ続く!
前回のお話「第2部:第1章 出発点(2):運命の人との出会い」
対応する第1部のお話「第1部:第3章 初登校日(1)」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
これが裕美子ちゃんがアロンの隣に座っていた真相です。この席を選んで座ったということは、付き合い始める直前の第1部155話でアロンに、恋人宣言された翌日の第1部162話でハウルちゃん達に明らかにされるわけですが、ノーマーク状態の第1部17話で既に読者のみなさんも目撃していたのです。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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by TSO (2012-02-19 22:16)