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<第2部:第2章 初登校日(2):彼を想うとできたこと> [片いなか・ハイスクール]

東日本大震災被災地がんばれ!

来週はブログアップできないので本日は2本アップします。
お暇があれば両記事とも覗いていってください。

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「片いなか・ハイスクール」連載第252回
<第2部:第2章 初登校日(2):彼を想うとできたこと>


担任の先生は男で、先生になったばかりの新米教師だった。そして挨拶してものの1分も経たずに、脳天に落下したくす玉のせいでみんなから大爆笑を喰らい、しかも「ドジ担任」とあだ名まで付けられてしまった。

「ぶわーははは!」

と何の遠慮もなしに大笑いするウォルトに、パチパチと手をたたいて喜ぶシャノン。
他のみんなも指差して笑っている。裕美子が行っていた中学は比較的真面目なところだっただけに、教室中のそのノリにいささか当惑した。


「ドジせんせー。ここなんで空いてんの?」

さっそくあだ名を使って先生を呼ぶレソフィック。

『先生まで容赦なく・・・いじめられたらなんか酷いことされそうだわ。大丈夫かしら・・』

裕美子はまた不安に駆られた。

「そこか?そこはキャリー・バルモアという女子の席だ。バスケ部優待生として入学した子で、187cmという長身の持ち主だ。始業式前から本校のバスケ部の春期合宿に参加中で、明日初めてこっちに来ることになっている」
「へー。そりゃでかい。それじゃ前のほうの席には座れないな」

女子にして190センチ近い身長は男子で一番背の高いジョンをも超える。自分との差は30センチ以上もある。

『そんな大きな女の人、また変なんあだ名付けられたりしないかしら・・嫌な思いして追い詰められちゃったら・・・』

その先は考えたくもなかった。お医者さんからも何事も心配しすぎないようにするよう言われていたが、思い付くのは一瞬だ。頭の中ではレソフィックがまだ見ぬ大きなキャリーをからかっている様子が浮かびそうだった。深く考えないように両手を握りしめて必死にこらえた。

「それじゃお前ら3人で明日来るキャリーの歓迎の準備をしろ。朝のホームルームで連れてくるから」

『え!』

人の心配をよそに、ドジ担任は男子3人にキャリーを歓迎の準備をするよう言ったのだ。しかもその中にさっき先生をためらいなくあだ名で呼んだレソフィックが含むまれている。「巨漢入場」とかいう垂れ幕をぶら下げるかもしれない。裕美子の頭の中では半ば勝手にレソフィックがいじめ役に仕立て上げられていた。

「えー?!今日は放課後用事あるんだけどなあ」

隣のアロンが言った。

「そういうことは1週間前に秘書に伝えてスケジュール調整してもらわないと」

勇夫もそれに続いた。

「お前らの席と引き換えだ。やらないんならシャッフルしちゃおうかなー」
「えー?きたねー」

『そ、そういえばこの3人は知り合い同士だっけ。道場行かなきゃって用事もあるって・・・。そっか、替わってあげれば隣の人も助けられるし、キャリーさんがいじめられることもない・・』

今日から人生再出発なんだと裕美子はそう再び思うと、自分でもびっくりするくらいすんなりと行動に出た。

「あの・・わたしやってもいいです」

裕美子は手を上げた。

「女の子の歓迎だし、男の子人が考えるよりはいいかなと思って・・・。教室飾ったりしていいんでしょうか?」

すると思わぬところから声が上がった。

「そーだよ。男に女の子の歓迎なんて、どんな的外したことするかわかんないよ」

なんとあのハウルという子だ。そして

「私もやる。あんたもやってみる?」

とハウルは自分の横の席のシャノンを巻き込み、さらに

「あとその人もやりたいって。推薦でそこの人も」

とクリスティンにカーラを有無を言わさず巻き込んだ。
すごい。一瞬にして作業チームができてしまった。こういう人が世の中には本当にいるんだと、驚きの目でハウルを見つめた。
「へえ、いいのかい?それはにぎやかでいいや」

裕美子は横の3人の方をチラッと見た。

「すまん、ありがとう」

3人が裕美子に手を合わせている。中でも隣の人に感謝されたことが嬉しかった。裕美子はめがねを直して、ニコッとしたつもりだった。

『いつか・・お礼してもらおうかな』

そう思ったからか、出てきたセリフは

「なにか用事があるようですし・・高くつくかもしれないですよ」

というものだった。

『何変なこと言ってるのかしら、わたし』

長らく人付き合いがなかっただけに、会話も表情も思うようにいかない。できれば隣の人とはもっと和やかに会話がしたいのに。
でも、まさか自分がこんな積極的に出られるなんて今更ながらに驚いた。難しいこと考えるより先に行動できちゃった。なぜ?
・・そうだ、隣の人を助けたいと思ったんだ。あっちの二人じゃなくて、隣の男の子を・・。

『顔・・覚えてもらえたかな。アロン君っていうのね、隣の子』


次回「第2部:第2章 初登校日(3):歓迎準備」へ続く!

前回のお話「第2部:第2章 初登校日(1):隣の席」

対応する第1部のお話「第1部:第3章 初登校日(2)」「第1部:第3章 初登校日(3)」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆





座席だけでなくキャリーの歓迎まで、行動にでられたのはアロンを想ってのことでした。でもレソフィックを悪い人と勝手に決めつけた、まるでクリスティンの妄想のような思い込みは今回加筆したものです。
第1部で裕美子は特段レソフィックに妙な印象を持った話はなかったので、せっかくできたネタですから第2部で使ってみようかな。話が違っちゃわなければいいですが・・。

※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。


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コメント 1

TSO

翡翠さん、Yamiさん、bitさん、copperさん、niceありがとうございます。
by TSO (2012-03-10 22:41) 

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