<第2部:第2章 初登校日(3):歓迎準備> [片いなか・ハイスクール]
東日本大震災被災地がんばれ!
更新に時間がかかってしまいました。
いつもより長文でしょうか。
----------
「片いなか・ハイスクール」連載第253回
<第2部:第2章 初登校日(3):歓迎準備>
終礼が終わり、学校初日が終わった。
無事に終わった。
平和に終わった。
・・・よかった。本当に、本当に再出発なんだ。
裕美子はようやく実感が出てきて、ほーっと一息ついた。
終礼の後、先生が裕美子のところにドスドスとやってきた。
「じゃあ小泉君、悪いけどあと頼んだよ。出来上がりの姿は聞かないでおくから、俺も楽しみにしてるよ」
そうだ、キャリーさんの歓迎の準備をアロン君達の代わりに引き受けたんだった。学校初日が本当に終わるまではもうちょっとかかる。
そんなこと考えて返事をしなかったせいか、先生が少し焦ったように続けた。
「ああ、でもそんなにリキ入れなくていいからほどほどにな。キャリーの歓迎なんて言ってるけど、クラス全員揃ったことを祝いたいだけだから」
裕美子は慌てて答えた。
「わ、わ、わ、分かりました。・・・あの、こ、困ったものですね、大丈夫ですか?変なあだ名、つ、付けられちゃって・・・」
「んー?まあね。でもこれでオレを覚えてくれるならいいんじゃねーか?」
「え?」
裕美子にとっては意外な答えだった。
「早くみんなになじみたいしさ。それにすぐにオレの立派さ加減に気付いて、すぐそんなあだ名忘れられちゃうよ。ワハハハ」
どこからそんな自信が出るのかわからないが、結局ますますこのあだ名で教職員含め浸透したわけだから、立派さ加減は誰も感じられなかったということだろう。今はそんなこと知る由もなかったが、行く末を心配した自分とは裏腹に、ポジティブに捉えて笑っている先生を凄いと思った。
『そっか。わたしは危機感を感じちゃったけど、先生みたいに考える事ができればぜんぜん不安なんてない。考え方一つでこうも変われるんだ。見習わなきゃ・・』
「小泉さーん。やろっかー」
びくうっとした。ハウル達がニコニコしながらやってくる。何の疑いもなく呼び掛けてくる彼女たちにたじろいだが、
『そ、そうだ。わたしは何も怖がる必要ないんだ』
と思い起こして奮い立たせた。
「よ、よろ・・しく、お願いします」
「さてさて、教室飾るんだっけ?どんなふうに飾るの?」
ハウルが身を乗り出して聞いてきた。まっすぐこちらを見る眼差しに緊張した。
「あ、あの、・・・イメージは、なんていうか・・お誕生会みたいな・・」
「ふんふん、なるほど。それじゃ天井に紙テープのリボンとか万国旗が張り巡らされるのね」
「それじゃ運動会みたいよ~」
クリスティンが笑って言った。
「でもキャリーって人、バスケ部なんでしょ?運動部だったら運動会みたいでもいいんじゃない?」
「そうよね。それじゃ材料見つけてこなきゃ。必要なのは紙テープに画用紙?あとセロテープとか糊とかハサミ・・」
「運動会用の万国旗なんか学校でもってるよ、きっと。借りてみたら?」
シャノンとカーラがどんどん具体的なイメージを膨らませていった。それを聞いてハウルが勢いよく立ち上がった。
「よっしゃー!ドジ先生にところ行って借りてこよー。はい立って立って!」
す、すごい・・有無を言わさぬ圧倒的行動力。廊下をみんなと歩く裕美子はもはや自分の意志で足が動いている気がしなかった。
なぜか職員室の手前でクリスティンがハウルを引き止め、職員室のドアはクリスティンが開けた。
「多分ねえ、今の勢いだとドア壊しちゃう気がしたの。私のハウルセンサーは正確なのよ」
カーラが不思議な顔をした。
「壊す?」
「この子、力あり余ってるから。中学ではずいぶん壊したよねえ」
「ええ?!ドアを?」
「バラさないでよ。はあい、ドジ先生ー」
否定しないんだ・・とみんなが心の中で思った。
一方、周りにいた先生達がハウルの通る声に一斉にこっちを向いた。ドジ担任が真っ赤になった。
「そ、それをここで!」
「なあに?ドジ先生って」
隣の1年B組の担任をやっている女の先生が聞いた。すかさずハウルが答える。
「だって先生、超ドジなんだもーん」
周りの先生達がドッと笑った。B組の女先生がとどめを刺す。
「アハハハハハハハハハハ、それはいえてるわねえ」
「本気で笑わんで下さい!お、お前ら何しに来たんだ?!」
「ちょっと学校の備品借りに」
「わ、わかった!あっちで聞こう」
ドジ担任はみんなを回れ右させて急いで職員室を出た。
一行は両手にいろいろなものをぶら下げて教室に戻ってきた。その中にはドジ担任の脳天に落下したくす玉もあった。
「万国旗は手に入ったし、くす玉があって、・・あとはシャンパン?」
「それじゃ進水式でしょ」
さすがに付き合いが長いだけあって、ハウルとクリスティンの掛け合いは絶妙だ。
「その前にそのくす玉、ちゃんと割れるの?」
確かにシャノンの言う通りだ。引っ張ってもドジ担任の頭に落としても割れなかったのだ。さっそく持っていたクリスティンがくるくる回して眺める。
「つなぎ目どこ?」
カーラがくす玉の表面に指を這わせて調べた。
「これじゃない?」
そこにクリスティンが爪を引っかけたりしてカリカリとやる。猫が引っ掻いているみたいだ。
「つなぎ目がぜんぜん離れないわ。何でくっつけたのかしら」
「ドジ先生の頭に当っても割れないんだから、くぎでも使ったんじゃないの?」
カーラも加わって2人で丸い玉に赤道のようにある溝をなんとかこじ開けようとするが、まるで歯が立たない。悪戦苦闘する様にハウルが荒っぽい事を言い出した。
「紐引いて割るのはあきらめて、思いっきり何かにぶつけて開くようにしようか」
「進水式でぶつけて割るのはシャンパンの方よ?」
すかさずクリスティンが応じる。
「あれ船にぶち当てて割るのよね。じゃあここでは壁だ」
「だからぁ、ぶつけて割るのはくす玉じゃなくてシャンパンの方だってば~」
「いいのいいの、ここは歓迎式典なんだから。うーん、なんか無性にぶつけて卵みたいに割りたくなってきた!」
さすがドアを何枚も壊したというだけのことはあるなあと裕美子は呆気にとられた目でハウルを見た。
そこにシャノンが口を出した。
「でもくす玉ってなんかこう、真ん中あたりにぶら下がってて、そこで割れて中身がぱあって出るイメージがあるんだけど。壁に当たってグシャッってなるのはイメージが違うな」
小さいのに、怖じ気づく事なくあのハウルにはっきり物言って凄いなあと、自分より小さいシャノンにも裕美子は感心の眼差しを向けた。
「ふむふむ、よしよし。じゃあ真ん中で割れるようにすればいいよね。やっぱ教壇の当たりかな」
「どうやってそこで割れるようにするの?」
「ぶつかるところを教壇の上辺りに作るのよ。天井からそういうの吊る下げられない?」
裕美子は突拍子もないこと言ってると思った。しかしカーラが腕を組みながら天井を眺め、指で軌跡を描くようにして思慮すると、ホワイトボードに設計図を書き始めた。
「窓側の辺りからくす玉放して、教壇の上あたりまで来たところでぶつかるようにっていうと・・この辺の天井に紐で結んだくす玉の支点をおいて・・・こうゆうふうに振り子みたいにくす玉は飛んできて、ここでぶつかると」
「カーラ凄い!それそれ!私のイメージにピッタリ!」
「本当にやるの?でもこれ相当大きな出っ張りを教壇の上に作らないとよ?」
「作れるかな!」
「・・工作は得意な方だけど」
「カーラちゃん、すごーい!よっしゃー!材料とかは任せて!かき集めてくる!」
まだたハウルが動き出した。本当にじっとしていることがない人だ。
「ハウル待って、一人で行っちゃだめ!」
ハウルを追いかけてクリスティンも教室を出て行った。開け放たれたドアの辺りには埃が舞っていた。
「クリスティンって、ハウルの監視役かなんか?」
ドアを閉めながらカーラが裕美子に問い掛けた。
「え、え?お、お二人とはお知り合いじゃないんですか?」
「昨日の入学式の後に初めて知り合ったけど」
裕美子は凄いびっくりした。だってまるで旧知の仲のように見える。
「そ、そうなんですか?凄い親しげだから、てっきり同じ中学の出なのかと・・・」
「あんな調子だから、誰とだってそう見えるわよ、きっと」
カーラは楽しそうに笑いながら言った。
「それより、あたし達勝手に進めちゃってるみたいに見えるんだけど、裕美子さんいいの?あなたが言い始めだったのに」
カーラが裕美子を気遣った。
他の人に、いやわたしに気を配ってくれるなんて・・
裕美子はカーラという人がすごくいい人に見えて涙が込み上げそうになった。
「いえ・・いいんです・・こんなに楽しそうにやってくれるなんて、わたし、手上げてよかった・・」
「あはは、何感激しちゃってんのよー。きっと何にでも首突っ込みたがるのよ、あの子は」
そうなんだろうか。誰とでもこんなにすぐ親しそうにできるのだろうか。今自分もあたかも昔からの友達のように見えているのだろうか。
シャノンがさっき持ってきたものの山の横に座って物色しながら声をかけた。
「じゃー、くす玉は任せるから。こいずみー、これ飾るのやろー」
また親しげに呼びかけられて、裕美子は嬉しさで胸が詰まった。
『わたし、相手してもらえてる・・無視されてない・・・』
目頭をちょっとだけ拭って、裕美子はシャノンの下に駆け寄った。
シャノンと背の低いもの同士、一生懸命背伸びして万国旗を張り巡らしていると、ドアがばっしゃーんと勢いよく開いた。
「カーラお待たせ!」
ドアはストッパーに当たってピーンと震えている。これは確かに壊しかねない。
ハウルは大量の角材を抱えていた。後からやってきたクリスティンは大工道具一式を持っていた。
「うわ、すごっ!そんなのよくあったわね」
「落ちてた!」
「その工具は?」
「かっぱらった!」
えっ!っとみんなが固まる。
「と思ったら先生に見つかったから、訳言ってちゃんと借りた!」
なんちゅー人だ。見かけはかわいいのに、やってることは豪快極まりない。しかし、しぐさはちゃんと女の子っぽくって不思議な子だ。
「昨日訳あってクラス表貼った掲示板直すの手伝ってね、これその時の廃材だから。工具の場所もその時に知ったの」
「・・大丈夫?本当にちゃんと許可もらったのよね?」
「それは私も見たから大丈夫よ」
クリスティンが請け負ったので、みんなはようやく安心した。
「それじゃ寸法計って切るわよ」
「切りたい、切りたい!」
「えー?違うとこまで切りそうでやだなあ」
「カーラ、やる前にこれしかやっちゃだめって、きつーく言っとくと防止できるわよ」
「子供じゃあるまいし、コントロールできないの?」
「えへへへへ」
30分もすると、タワー型の櫓ができた。
ハウルがその出来に大喜びである。
「カーラ、得意とは言ってたけど凄いね。立派立派!」
「カーラ、でもこれどうやってぶら下げるの?天井に釘打っちゃだめよねえ」
上を見上げながらクリスティンが聞いた。
「脚にベニヤ板打ち付けるから、それを天井にガムテープで貼って固定しよう。これくらいの重さなら落ちないと思うよ。それよりこんなの教壇の上にごっつくない?ドジ先生頭ぶつけないかなあ」
「あ、それやりかねないわよ!」
裕美子がいくつか試作した紙花をシャノンが取り上げて見せた。
「こういうのいっぱい貼り付けたら可愛くならない?こいずみが作ったんだよ」
カーラとクリスティンがそれを手に取って見回した。
「わあ、すごーい」
「裕美子さん器用ねえ」
「そ、そんなこと・・幼稚園のときこんな飾り、つ、作りませんでした?」
「えー?幼稚園児にこんなの作れないよー」
そして櫓が天井からぶら下がり、紙花や紙テープが飾られて、最後にくす玉が窓枠の上の方にセットされると、教室の装飾は終わった。
「できたー!あたし達の初仕事よ。いいできじゃな~い?」
ニコニコ顔で教室を見回すハウルだが、何か一抹の不安を顔ににじませながら教壇の上を見上げるクリスティン。カーラが横にいる裕美子に振り向いて言った。
「裕美子さん、ホントにこれでいいの?」
「く、くす玉はわたしでは何もできませんでしたので、な、何から何までやってもらっちゃって、も、申し訳ないです・・」
「こっちも飾り付けは任せちゃったもんね」
「背伸びしすぎてふくらはぎがパンパンだよー」
「ありがとねー、シャノンちゃ~ん」
「お、おねーさんだよー!あんたらまだ15歳でしょうがー」
「わかったわかった、よくがんばったね~」
頭を撫でるハウルにシャノンがぎゃあぎゃあ言う。
ともかくも何の偏見も特別視もなく、初日からいきなり新しいクラスメイトと楽しく作業できたことが、裕美子にとって予想もしてなかったことで嬉しかった。しかし、心の底ではまだ疑い不安を持つ自分がいることにも気付いていた。
『こんなに楽しいのに。この人達も急に変わってしまうようなことがあるんだろうか・・』
誰一人味方になってくれなかったあの時の恐怖。親しければ親しいほど、その時が怖い・・・
暗い気持ちが広がり、次第に首が下を向いていく。
と、その時、ハウルが裕美子の肩を掴んで引き戻した。
「写真撮っておこう!みんな教壇の下に並んで。私のケータイのカメラでパシャっとやっとくから」
「そうだね。すぐこれ取り払われちゃうんだろうし、記念に撮っとくのもいいよね」
カーラが教壇まで裕美子の手を引いた。
「私真ん中ー」
飛び込むようにシャノンもやってきた。
「セルフタイマーセット!5秒前よー」
ハウルがみんなを弾き飛ばしそうな勢いでこっちに向かって駆けてくる。
『変わってほしくない。このままの友達でいてほしい。あまり深く入り込まなければ大丈夫だろうか・・』
カシャッ!
楽しい一時があった思い出、ひとつ目。
神様、できるならまたひとつ、作る勇気を、下さい。
次回「第2部:第3章 オリエンテーリング(1):班分け」へ続く!
前回のお話「第2部:第2章 初登校日(2):彼を想うとできたこと」
対応する第1部のお話「第1部:第3章 初登校日(3)」、「第1部:第3章 初登校日(4)」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
Copyright(c) 2009-2012 TSO All Rights Reserved
更新が遅くてすみません。漫画も描いてるとどうしても時間がかかりますね。
連載はちゃんと続いてますので、たまにチェックしていただいて、できたらブログ村アイコンをポチッとしていただけると見捨てられてないと励みになりますです。
さて、裕美子視点の初登校日はキャリーの歓迎準備を掘り下げました。文字の方でもハリケーン・ハウルちゃんが踊ってますね。裕美子はまだまだ心が開かない、なんとなく半信半疑な気持ちの状態です。
第1部では翌日キャリーがやってくるところまでありますが、本章はこの歓迎準備をもっておしまいとなります。キャリーの歓迎がどうなったかは第1部のお話を読んで下さい。
次章はオリエンテーリングを裕美子目線で追いかけます。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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「片いなか・ハイスクール」連載第253回
<第2部:第2章 初登校日(3):歓迎準備>
終礼が終わり、学校初日が終わった。
無事に終わった。
平和に終わった。
・・・よかった。本当に、本当に再出発なんだ。
裕美子はようやく実感が出てきて、ほーっと一息ついた。
終礼の後、先生が裕美子のところにドスドスとやってきた。
「じゃあ小泉君、悪いけどあと頼んだよ。出来上がりの姿は聞かないでおくから、俺も楽しみにしてるよ」
そうだ、キャリーさんの歓迎の準備をアロン君達の代わりに引き受けたんだった。学校初日が本当に終わるまではもうちょっとかかる。
そんなこと考えて返事をしなかったせいか、先生が少し焦ったように続けた。
「ああ、でもそんなにリキ入れなくていいからほどほどにな。キャリーの歓迎なんて言ってるけど、クラス全員揃ったことを祝いたいだけだから」
裕美子は慌てて答えた。
「わ、わ、わ、分かりました。・・・あの、こ、困ったものですね、大丈夫ですか?変なあだ名、つ、付けられちゃって・・・」
「んー?まあね。でもこれでオレを覚えてくれるならいいんじゃねーか?」
「え?」
裕美子にとっては意外な答えだった。
「早くみんなになじみたいしさ。それにすぐにオレの立派さ加減に気付いて、すぐそんなあだ名忘れられちゃうよ。ワハハハ」
どこからそんな自信が出るのかわからないが、結局ますますこのあだ名で教職員含め浸透したわけだから、立派さ加減は誰も感じられなかったということだろう。今はそんなこと知る由もなかったが、行く末を心配した自分とは裏腹に、ポジティブに捉えて笑っている先生を凄いと思った。
『そっか。わたしは危機感を感じちゃったけど、先生みたいに考える事ができればぜんぜん不安なんてない。考え方一つでこうも変われるんだ。見習わなきゃ・・』
「小泉さーん。やろっかー」
びくうっとした。ハウル達がニコニコしながらやってくる。何の疑いもなく呼び掛けてくる彼女たちにたじろいだが、
『そ、そうだ。わたしは何も怖がる必要ないんだ』
と思い起こして奮い立たせた。
「よ、よろ・・しく、お願いします」
「さてさて、教室飾るんだっけ?どんなふうに飾るの?」
ハウルが身を乗り出して聞いてきた。まっすぐこちらを見る眼差しに緊張した。
「あ、あの、・・・イメージは、なんていうか・・お誕生会みたいな・・」
「ふんふん、なるほど。それじゃ天井に紙テープのリボンとか万国旗が張り巡らされるのね」
「それじゃ運動会みたいよ~」
クリスティンが笑って言った。
「でもキャリーって人、バスケ部なんでしょ?運動部だったら運動会みたいでもいいんじゃない?」
「そうよね。それじゃ材料見つけてこなきゃ。必要なのは紙テープに画用紙?あとセロテープとか糊とかハサミ・・」
「運動会用の万国旗なんか学校でもってるよ、きっと。借りてみたら?」
シャノンとカーラがどんどん具体的なイメージを膨らませていった。それを聞いてハウルが勢いよく立ち上がった。
「よっしゃー!ドジ先生にところ行って借りてこよー。はい立って立って!」
す、すごい・・有無を言わさぬ圧倒的行動力。廊下をみんなと歩く裕美子はもはや自分の意志で足が動いている気がしなかった。
なぜか職員室の手前でクリスティンがハウルを引き止め、職員室のドアはクリスティンが開けた。
「多分ねえ、今の勢いだとドア壊しちゃう気がしたの。私のハウルセンサーは正確なのよ」
カーラが不思議な顔をした。
「壊す?」
「この子、力あり余ってるから。中学ではずいぶん壊したよねえ」
「ええ?!ドアを?」
「バラさないでよ。はあい、ドジ先生ー」
否定しないんだ・・とみんなが心の中で思った。
一方、周りにいた先生達がハウルの通る声に一斉にこっちを向いた。ドジ担任が真っ赤になった。
「そ、それをここで!」
「なあに?ドジ先生って」
隣の1年B組の担任をやっている女の先生が聞いた。すかさずハウルが答える。
「だって先生、超ドジなんだもーん」
周りの先生達がドッと笑った。B組の女先生がとどめを刺す。
「アハハハハハハハハハハ、それはいえてるわねえ」
「本気で笑わんで下さい!お、お前ら何しに来たんだ?!」
「ちょっと学校の備品借りに」
「わ、わかった!あっちで聞こう」
ドジ担任はみんなを回れ右させて急いで職員室を出た。
一行は両手にいろいろなものをぶら下げて教室に戻ってきた。その中にはドジ担任の脳天に落下したくす玉もあった。
「万国旗は手に入ったし、くす玉があって、・・あとはシャンパン?」
「それじゃ進水式でしょ」
さすがに付き合いが長いだけあって、ハウルとクリスティンの掛け合いは絶妙だ。
「その前にそのくす玉、ちゃんと割れるの?」
確かにシャノンの言う通りだ。引っ張ってもドジ担任の頭に落としても割れなかったのだ。さっそく持っていたクリスティンがくるくる回して眺める。
「つなぎ目どこ?」
カーラがくす玉の表面に指を這わせて調べた。
「これじゃない?」
そこにクリスティンが爪を引っかけたりしてカリカリとやる。猫が引っ掻いているみたいだ。
「つなぎ目がぜんぜん離れないわ。何でくっつけたのかしら」
「ドジ先生の頭に当っても割れないんだから、くぎでも使ったんじゃないの?」
カーラも加わって2人で丸い玉に赤道のようにある溝をなんとかこじ開けようとするが、まるで歯が立たない。悪戦苦闘する様にハウルが荒っぽい事を言い出した。
「紐引いて割るのはあきらめて、思いっきり何かにぶつけて開くようにしようか」
「進水式でぶつけて割るのはシャンパンの方よ?」
すかさずクリスティンが応じる。
「あれ船にぶち当てて割るのよね。じゃあここでは壁だ」
「だからぁ、ぶつけて割るのはくす玉じゃなくてシャンパンの方だってば~」
「いいのいいの、ここは歓迎式典なんだから。うーん、なんか無性にぶつけて卵みたいに割りたくなってきた!」
さすがドアを何枚も壊したというだけのことはあるなあと裕美子は呆気にとられた目でハウルを見た。
そこにシャノンが口を出した。
「でもくす玉ってなんかこう、真ん中あたりにぶら下がってて、そこで割れて中身がぱあって出るイメージがあるんだけど。壁に当たってグシャッってなるのはイメージが違うな」
小さいのに、怖じ気づく事なくあのハウルにはっきり物言って凄いなあと、自分より小さいシャノンにも裕美子は感心の眼差しを向けた。
「ふむふむ、よしよし。じゃあ真ん中で割れるようにすればいいよね。やっぱ教壇の当たりかな」
「どうやってそこで割れるようにするの?」
「ぶつかるところを教壇の上辺りに作るのよ。天井からそういうの吊る下げられない?」
裕美子は突拍子もないこと言ってると思った。しかしカーラが腕を組みながら天井を眺め、指で軌跡を描くようにして思慮すると、ホワイトボードに設計図を書き始めた。
「窓側の辺りからくす玉放して、教壇の上あたりまで来たところでぶつかるようにっていうと・・この辺の天井に紐で結んだくす玉の支点をおいて・・・こうゆうふうに振り子みたいにくす玉は飛んできて、ここでぶつかると」
「カーラ凄い!それそれ!私のイメージにピッタリ!」
「本当にやるの?でもこれ相当大きな出っ張りを教壇の上に作らないとよ?」
「作れるかな!」
「・・工作は得意な方だけど」
「カーラちゃん、すごーい!よっしゃー!材料とかは任せて!かき集めてくる!」
まだたハウルが動き出した。本当にじっとしていることがない人だ。
「ハウル待って、一人で行っちゃだめ!」
ハウルを追いかけてクリスティンも教室を出て行った。開け放たれたドアの辺りには埃が舞っていた。
「クリスティンって、ハウルの監視役かなんか?」
ドアを閉めながらカーラが裕美子に問い掛けた。
「え、え?お、お二人とはお知り合いじゃないんですか?」
「昨日の入学式の後に初めて知り合ったけど」
裕美子は凄いびっくりした。だってまるで旧知の仲のように見える。
「そ、そうなんですか?凄い親しげだから、てっきり同じ中学の出なのかと・・・」
「あんな調子だから、誰とだってそう見えるわよ、きっと」
カーラは楽しそうに笑いながら言った。
「それより、あたし達勝手に進めちゃってるみたいに見えるんだけど、裕美子さんいいの?あなたが言い始めだったのに」
カーラが裕美子を気遣った。
他の人に、いやわたしに気を配ってくれるなんて・・
裕美子はカーラという人がすごくいい人に見えて涙が込み上げそうになった。
「いえ・・いいんです・・こんなに楽しそうにやってくれるなんて、わたし、手上げてよかった・・」
「あはは、何感激しちゃってんのよー。きっと何にでも首突っ込みたがるのよ、あの子は」
そうなんだろうか。誰とでもこんなにすぐ親しそうにできるのだろうか。今自分もあたかも昔からの友達のように見えているのだろうか。
シャノンがさっき持ってきたものの山の横に座って物色しながら声をかけた。
「じゃー、くす玉は任せるから。こいずみー、これ飾るのやろー」
また親しげに呼びかけられて、裕美子は嬉しさで胸が詰まった。
『わたし、相手してもらえてる・・無視されてない・・・』
目頭をちょっとだけ拭って、裕美子はシャノンの下に駆け寄った。
シャノンと背の低いもの同士、一生懸命背伸びして万国旗を張り巡らしていると、ドアがばっしゃーんと勢いよく開いた。
「カーラお待たせ!」
ドアはストッパーに当たってピーンと震えている。これは確かに壊しかねない。
ハウルは大量の角材を抱えていた。後からやってきたクリスティンは大工道具一式を持っていた。
「うわ、すごっ!そんなのよくあったわね」
「落ちてた!」
「その工具は?」
「かっぱらった!」
えっ!っとみんなが固まる。
「と思ったら先生に見つかったから、訳言ってちゃんと借りた!」
なんちゅー人だ。見かけはかわいいのに、やってることは豪快極まりない。しかし、しぐさはちゃんと女の子っぽくって不思議な子だ。
「昨日訳あってクラス表貼った掲示板直すの手伝ってね、これその時の廃材だから。工具の場所もその時に知ったの」
「・・大丈夫?本当にちゃんと許可もらったのよね?」
「それは私も見たから大丈夫よ」
クリスティンが請け負ったので、みんなはようやく安心した。
「それじゃ寸法計って切るわよ」
「切りたい、切りたい!」
「えー?違うとこまで切りそうでやだなあ」
「カーラ、やる前にこれしかやっちゃだめって、きつーく言っとくと防止できるわよ」
「子供じゃあるまいし、コントロールできないの?」
「えへへへへ」
30分もすると、タワー型の櫓ができた。
ハウルがその出来に大喜びである。
「カーラ、得意とは言ってたけど凄いね。立派立派!」
「カーラ、でもこれどうやってぶら下げるの?天井に釘打っちゃだめよねえ」
上を見上げながらクリスティンが聞いた。
「脚にベニヤ板打ち付けるから、それを天井にガムテープで貼って固定しよう。これくらいの重さなら落ちないと思うよ。それよりこんなの教壇の上にごっつくない?ドジ先生頭ぶつけないかなあ」
「あ、それやりかねないわよ!」
裕美子がいくつか試作した紙花をシャノンが取り上げて見せた。
「こういうのいっぱい貼り付けたら可愛くならない?こいずみが作ったんだよ」
カーラとクリスティンがそれを手に取って見回した。
「わあ、すごーい」
「裕美子さん器用ねえ」
「そ、そんなこと・・幼稚園のときこんな飾り、つ、作りませんでした?」
「えー?幼稚園児にこんなの作れないよー」
そして櫓が天井からぶら下がり、紙花や紙テープが飾られて、最後にくす玉が窓枠の上の方にセットされると、教室の装飾は終わった。
「できたー!あたし達の初仕事よ。いいできじゃな~い?」
ニコニコ顔で教室を見回すハウルだが、何か一抹の不安を顔ににじませながら教壇の上を見上げるクリスティン。カーラが横にいる裕美子に振り向いて言った。
「裕美子さん、ホントにこれでいいの?」
「く、くす玉はわたしでは何もできませんでしたので、な、何から何までやってもらっちゃって、も、申し訳ないです・・」
「こっちも飾り付けは任せちゃったもんね」
「背伸びしすぎてふくらはぎがパンパンだよー」
「ありがとねー、シャノンちゃ~ん」
「お、おねーさんだよー!あんたらまだ15歳でしょうがー」
「わかったわかった、よくがんばったね~」
頭を撫でるハウルにシャノンがぎゃあぎゃあ言う。
ともかくも何の偏見も特別視もなく、初日からいきなり新しいクラスメイトと楽しく作業できたことが、裕美子にとって予想もしてなかったことで嬉しかった。しかし、心の底ではまだ疑い不安を持つ自分がいることにも気付いていた。
『こんなに楽しいのに。この人達も急に変わってしまうようなことがあるんだろうか・・』
誰一人味方になってくれなかったあの時の恐怖。親しければ親しいほど、その時が怖い・・・
暗い気持ちが広がり、次第に首が下を向いていく。
と、その時、ハウルが裕美子の肩を掴んで引き戻した。
「写真撮っておこう!みんな教壇の下に並んで。私のケータイのカメラでパシャっとやっとくから」
「そうだね。すぐこれ取り払われちゃうんだろうし、記念に撮っとくのもいいよね」
カーラが教壇まで裕美子の手を引いた。
「私真ん中ー」
飛び込むようにシャノンもやってきた。
「セルフタイマーセット!5秒前よー」
ハウルがみんなを弾き飛ばしそうな勢いでこっちに向かって駆けてくる。
『変わってほしくない。このままの友達でいてほしい。あまり深く入り込まなければ大丈夫だろうか・・』
カシャッ!
楽しい一時があった思い出、ひとつ目。
神様、できるならまたひとつ、作る勇気を、下さい。
次回「第2部:第3章 オリエンテーリング(1):班分け」へ続く!
前回のお話「第2部:第2章 初登校日(2):彼を想うとできたこと」
対応する第1部のお話「第1部:第3章 初登校日(3)」、「第1部:第3章 初登校日(4)」
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更新が遅くてすみません。漫画も描いてるとどうしても時間がかかりますね。
連載はちゃんと続いてますので、たまにチェックしていただいて、できたらブログ村アイコンをポチッとしていただけると見捨てられてないと励みになりますです。
さて、裕美子視点の初登校日はキャリーの歓迎準備を掘り下げました。文字の方でもハリケーン・ハウルちゃんが踊ってますね。裕美子はまだまだ心が開かない、なんとなく半信半疑な気持ちの状態です。
第1部では翌日キャリーがやってくるところまでありますが、本章はこの歓迎準備をもっておしまいとなります。キャリーの歓迎がどうなったかは第1部のお話を読んで下さい。
次章はオリエンテーリングを裕美子目線で追いかけます。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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by TSO (2012-03-20 21:03)