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<第2部:第3章 オリエンテーリング(7):B班との合流> [片いなか・ハイスクール]

東日本大震災被災地がんばれ!


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「片いなか・ハイスクール」連載第260回
<第2部:第3章 オリエンテーリング(7):B班との合流>


早く先に進みたいリーダーは、中間チェックポイントでの休憩を15分ほどで切り上げて出発した。裕美子とシャノンにはなんとなく物足りない休憩だった。

次の目標は中間チェックポイントから見えたハゲ山である。そこは登ってきたのとは反対側の斜面を下り、森に入って大きな尾根を越えた向こう側にあった。森の中の様子は上からは分からなかった。
尾根を登り下りしなければならないと聞いてシャノンは疲れた顔をしていた。やっぱりまだ山登りをしなければならないとは予想してなかったようだ。
下りの斜面は登ってきたときと同じ巨岩がゴロゴロした急斜面だ。勇夫が降りるルートを探し先導していった。



切り立った崖のようなところを岩と岩の間の隙間を使って難なく下りたところで、勇夫が下から上がってこようとしている集団を見つけた。

「あ、あれB班じゃねえか?」
「ほんとだ。やっと来たわね」

もう少し下ると、大きな岩が突き出て見晴らしのいいところでB班が座り込んでいた。男の子が立ち上がって手を振った。

『あ、アロン君だ』

アロンを認めた裕美子は、さっき落ち込んだ気持ちが急に晴れやかになってきた。このままB班と一緒に行動することはできないもんだろうか。
アロンが先頭の勇夫に声をかけた。

「勇夫、早いなお前ら。ちょっと休憩して行けよ」
「よお、アロン。どうだ?そっち。リーダー、ちょっとキューケイ!」
「なんだよ、チェックポイントで休んだばっかりじゃないか」

リーダーは先に進みたいようだが、レソフィックも休憩というか、情報交換のため留まる方を勧めた.

「情報交換は大事だろ。休む価値あるって。まあちょっと待てや」

リーダーは了承した。

「じゃあ、5分な」

A班もB班に合わせて小休止に入った。



さっそく勇夫とレソフィックはアロンにこの先の状況を質問していた。

「この先どんな道だ?」
「道なんてねぇよ。洗濯板のようにある尾根と谷をいくつも越えるんだ」

アロンの近くに行って話しを聞きたかったが、そばにいたハウルやキャリーのところにカーラとクリスティンとシャルロットがやってきて女子は女子同士で情報交換を始めたので、裕美子は必然的に女子の輪に加わるような形になった。
クリスティンは開口一番、ハウルの暴走を心配していた。

「ハウル!何もなかった?みんなを怪我させたりしてない?!」
「見れば分かるでしょ。みんなピンピンしてるじゃない」
「キャリーさん、本当に迷惑かけてなかった?」
「うん。勇夫君と先行してルート偵察したりして活躍してたわよ」
「本当?勇夫君は大丈夫?ボロボロになってない?」
「ボロボロどころかますます元気よ、あの人。付いていくと面白いのよ。食べられるもの見つけたり、木や岩に登ったり、蔓使ってターザンやったり、お菓子もうじゃうじゃ背負ってるし。でもタダじゃくれないからずいぶんあたしのと交換したわ」

クリスティンが目を丸くした。

「え?!す、すごい!勇夫君、ハウルと一緒にいてひどい目にあったり、もう嫌だーとか叫んだりしてないの?!」
「何言ってるのよー。どこにそんな人いたのよー」
「かつてハウルと2時間も一緒にいた人はみんなそうよ!」

そこにいた女の子達はみんな目が点になってた。

「そ、そんなことより、来た道のこと教えてよ。どんなところだった?」

カーラが本来の目的を思い出した。

「道?うーん、道ってのはなくてね、沢とか川とかをずっと辿って来たのよ。この上の中間チェックポイントの向こう側は岩とか石っころの急斜面で、第2チェックポイントの滝まで沢づたい。滝の横の崖を降りたら、石ゴロゴロの川原をずっと辿るの」
「足元は歩きやすい?」

背が高くて足の長いキャリーでさえも首を横に振った。

「ぜんぜん。沢の横はぬかるんでたり、崖は滑りやすいし、川原は岩や裂け目を飛び越えたり登ったり下りたり、全身運動の連続よ。いいトレーニングだったわ」
「キャリーさんがいいトレーニング?!・・・どうしよう、イザベルさんとか行けるのかな・・」

カーラがシャルロットへ顔を向けた。シャルロットは首を横に振った。

「登ったり下りたりどころか飛び越えたりなんて、イザベル無理なんじゃない?ダーニャも幅跳びは不得意よ。どれくらい飛ばなきゃいけないのか知らないけど。ウォルトなんてまたぐことだって大問題なんじゃない?」
「私もそんな軽業師みたいなのはぜんぜんダメですぅ~。今までは藪と坂道がほとんどだったからなんとか付いていけましたけどぉ・・」

クリスティンがすごい心配顔になった。シャルロットはしゃがんでる裕美子とシャノンを見て言った。

「でもこの子たちもそこ来れたんでしょう?」

ハウルが代わりに答えた。

「この2人、結構運動神経いいのよ。でもさすがにシャノンちゃんはお疲れ気味ね。そっちはなあに?運動苦手な人多いの?」
「あんた達とは比べ物にならないわよ。この2人も運動神経いいっていうなら、みんな運動できる人ばっかりじゃない。こっちは体力はないわ、すぐ疲れるわ、文句は言うわ、水はがぶがぶ飲むわ、オリエンテーリングなんてぜんぜん向いてないわよ。アロンがアウトドア詳しくてカーラが気が利かなかったら、とっくに私らの班は行くところ間違って遭難してるわ。ねえカーラ」

シャルロットがカーラに言った。

「私は別に気なんか利かないけど・・アロン君はその通りね。ジョンはチームまとめるのうまいし、ウォルト君も方向感覚はすごいけど、決定的に運動量がないわ、うちの班」
「そうなんだ。で、なあに?この先って藪と坂道だらけなの?」
「尾根をいくつも横断しなくちゃいけないのよ。登っては下りて登っては下りてって。木が鬱蒼と生えてて視界はないし、下は下草やコケが茂ってるから足元見えないし。でも私らが通った跡を見つければ少しは歩きやすいかもね」
「そうなの。登ったり降りたりがまだ続くのは疲れ気味のシャノンちゃんや裕美子にはきついわね」

裕美子は静かにこのやり取りを聴いていた。

『やっぱりアロン君は頼られてたわね。・・そうか、B班は体力のない人が多いんだ』

クリスティンもハウルが暴れまわってないことを確認すると、座り込んで静かになっていた。向こうではがっくりと岩にもたれてぴくりとも動かないイザベルとウォルト。アンザックとダーニャも座って足を揉んでいる。ジョンはその横に座って水を飲みながら体の様子を聞いているようだった。比較的元気なカーラとシャルロット、男子ではアロンがA班のところに来て必死に情報収集をしているのだ。この元気な人達のサポートでようやくB班は行動できている感じだった。

『なるほど・・この情報交換はすごい重要なんだ。これは競っている暇なんかない。生き残るための協力なんだ。しかもアロン君の班は体力でハンディキャップがある。この場を活用してできるだけ情報を仕入れて、それをうまく使わないと完走どころじゃないんだわ』

圧倒的差をつけてA班がゴールするなんて言っている場合ではなかった。放っておいてもB班はゴールできない可能性が高い。

『わたし達でさえ勇夫さんがお猿さんのようになってルートを見つけたおかげでここまで来れたのに、あの大岩ゴロゴロの川原を、日の落ちた真っ暗な中、体力のない人達がルートを探しながら歩くなんて考えられない。そうなったらきっと、ルートファインディングをしているアロン君は先頭に立って危険を冒すことになるに違いない。下手したらアロン君は大怪我をしてしまう・・』

裕美子はA班をというより、アロンを助けたいと思った。助けなきゃと思った。


そんなとき、A班リーダーのチャンから無情な声が上がった。





「おい、A班そろそろ出発するぞ!みんな敵に情報渡しすぎるなよ」

この言葉に裕美子は憤りとも思える反感を感じた。

『敵って・・・リーダーはまだA班だけが勝つことを・・完走することを望んでる?アロン君たちが疲れ果てて、暗闇で先に進めなくなって絶望に瀕することを望んでいる?C組はみんな仲間じゃないの?!A班だけがゴールするのと、B班も完走できるようにB班を助けてあげるのと、どっちがいいことだと思ってるの?!』

そう思ったとき、勇夫から反発の声が上がった。

「なんでだよ!渡して何が悪い」

『同感!情報を上げるのは当然、そもそもわたし達だって情報を活用すべきだわ!』

裕美子は押さえ込む感情も忘れて叫んでいた。

「もっと情報をあげて、こっちも情報をもらうべきだと思います」
「なに?」
「リーダーは何を優先するんです?」

それまでおとなしかった裕美子が急に反論してきたのでリーダーは慌てた。

「な、何って、完走に決まってるじゃないか」
「リーダー、B班の人の話、少しは聞きました?この先の道、今までとは地形も様子も違いますよ。完走したいならもっと情報聞くべきです」
「でも、ただじゃ情報くれないだろう?」

『ただじゃって、アロン君達が何を見返りに望むというの?彼らは全てを差し出してでもわたし達から教わりたいのよ!』

そこにとうとうアロンもリーダーへ口を開いた。

「30分以上に相当する距離の差をつけられて、その上こっちはゆっくりペースでしか動けないのがいるのに、勝負もなにもあるかよ。その前にクラスメイトって考えないのかよ」

『わたしも同感!ここに至ってまだ勝ち負けにこだわってるリーダーが解らない。アロン君、わたし助ける!』

裕美子はアロンを助けたいという気持ちでいっぱいになった。しかし裕美子の頭脳は感情的になることなく、リーダーへの反論方法を瞬時に、しかも冷静に考えた。

『この人を納得させるには筋の通った説明が効果的だ。リーダーはB班との接触を避けたがるせいで、協力によってわたし達が得るメリットさえ失おうとしている。そこが彼の考えの弱点。そこを衝く!』

裕美子はメガネ越しにリーダーを見据え、それまでにないはっきりした声で訴えた。

「B班はここまで5時間以上かかって来てます。私達が体力に任せて進んでも4時間かかれば18時過ぎますよ。オリエンテーリングエリアはクスス山の東側、太陽はクスス山に隠れて日が暮れるのがきっと早いわ。森の中はあっという間に真っ暗になります。日のあるうちに抜けるためにも道を教えてもらった方がいいです。でないと完走も危ないと思います」

チャンが驚いた顔をしている。おとなしかった裕美子に反論されただけではない。勝負にこだわりすぎたせいで自分達の負っているリスクに目が行き届かなくなっていたことを気付かされたからだ。
チャンが黙りこくった。

『効いてる・・・たぶん伝わったんだ』

やや下を見て静かになったリーダーを見ていた。と、そのとき裕美子はハウルに頭を勢いよくパーンと引っぱたかれた。びっくりして裕美子は頭の中が真っ白になった。

「裕美子、よく言ってくれた!リーダー、ちょっとあなた今まで自論を通しすぎ。あのさ、B班は知らないかもしれないけど、定時連絡のときドジ担任が口滑っちゃって、まだAクラスもBクラスも完走した班がないんだってことがわかったの。それ知ったらもうリーダー目の色変えちゃってさ。俺の班がやるんだ、俺の班がって」

するとB班のカーラも畏敬の念を込めて言った。

「小泉さん、すごいわ。日が暮れてからのことまで考えが及ばなかった。私達、ペースが遅いのに日が落ちたら、もう抜けられないわよ」

2人にほめられた裕美子だが、まだ真っ白になった頭の中が復活してなかった。

『・・ハウルさぁん・・・この人、この人・・・これがクリスティンさんの言ってた危険なハウルさん?・・壊される、仲良くしてると物理的に壊される・・・』

裕美子の意見で危機を気付かされたのはチャンやカーラだけではなかった。アンザックは恐怖さえ感じていた。

「俺、暗いとこやなんだよー。冗談じゃねえよ」

B班リーダーのジョンがチャンに協力を呼び掛けた。そこには貸し借りなんて考え微塵もない心からのものだった。

「このオリエンテーリングの目的はクラス内競争より、クラスの団結なんだろう?力貸してくれよ」

チャンは打ちひしがれたように小さな声で言った。

「俺・・・なんかみみっちいな」

あの自信に満ちたリーダーが背を丸めて縮こまっている。

『わたし、この人を傷つけてしまったのだろうか・・・』

小さくなっているチャンを見た裕美子は、ようやく元に戻ってきた頭でそう思った。
静まり返りそうになったそのとき、ハウルがチャンに発破をかけた。

「リーダー、そう思うなら目標変更!いつまでもくよくよしてないで、ほら」

そうだ、いつだってハウルは前向き。さっきまでリーダーを非難していると思ったら、もう応援している。裕美子もはっとした


『は!ハウルさん。そうか!』

チャンは自分たちの班のリーダーだ。彼を問いつめて戦意喪失させることは目的ではないし、それは班にとってもデメリットだ。彼には新しい目標を持ってまたリードしてもらわなければならない。彼には人を引っ張る力があるのだ。
裕美子はリーダにもう一度問いかけた。リーダーに選んでほしかった答えを求めて。

「リーダー、何を優先しますか?」

幸いチャンは切り替わりも早い男だった。すっくと立ち上がると裕美子の問いに答えた。それは求めていた答えだった。

「わかった・・他のクラスが果たせなかった完走。・・それもクラス全員の完走だ!」

わあ!っと歓声が上がった。

「よく言った、チャン!」

アロンや勇夫たちが喜ぶ。ジョンも、パウロやミシェルも、キャリーやカーラも。シャノンもぱちぱちと手をたたいていた。
裕美子はメガネの奥でうっすらと目を潤ませた。

『なんて気持ちいい人達・・。わたし、この人達の一員なんだ』


次回「第2部:第3章 オリエンテーリング(8):B班を迎えに」へ続く!

前回のお話「第2部:第3章 オリエンテーリング(6):中間チェックポイント」


対応する第1部のお話「第1部:第1章 オリエンテーリング(8)」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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裕美子バージョンのオリエンテーリング最大の見せ場がこのB班との合流の話です。セリフは第1部第1章の7話のそのままですが、第2部ではリーダーに反発した裕美子の気持ちをそのセリフ間に克明に書いています。本文でも書いた通りアロンを助けたいというのが最大の理由なのでした。
第1部だけでは独裁状態のリーダーに頭のいい裕美子が反旗の旗を揚げただけのように見えますが、実は裕美子を認識させるきっかけとして非常に重要なお話でした。やり込められたリーダーはこれがきっかけで裕美子を生徒会委員に呼び込むことになるし、さらに恋心を抱くまでになります。クラスのみんなには頭のいい人と認識されます。そしてノーマーク状態のヒロインが、実は地道にアロンを助けていたという実績の2つ目でもあったのです(1つめはキャリーの歓迎ですね)。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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TSO

「直chan」さん、くま・てーとくさん、bitさん、xml_xslさん、あいか5drrさん、こさぴーさん、toramanさん、(。・_・。)2kさん、ケンケン@さん、niceありがとうございます。
by TSO (2012-05-21 03:27) 

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