<第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(15):ゲロ吐き兄ちゃん事件> [片いなか・ハイスクール]
東日本大震災被災地がんばれ!
----------
「片いなか・ハイスクール」連載第295回
<第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(15):ゲロ吐き兄ちゃん事件>
水を1杯飲んで顔を洗った後、裕美子は手探りでバルコニーへ出た。
水を飲んだおかげで気持ち悪いのは治まってきた。バルコニーでは、夜になって少し冷えた風が心地よくそよそよと流れていた。
「ふう。風が気持ちいい。景色がよく見えないのが残念だけど・・。メガネどこへ行ったのかしら」
手すりに肘をついて、よく見えない街の明かりをぼーっと眺めた。そして、さっき見た光景を思い浮かべた。
「アロン君・・・ひどいよ。カーラさんと。私がこんなに苦しいって知ってる?」
裕美子は自分を悔やんだ。好きならそういう行動を取ればいいのに、それをやらないと決めたのだから、誰かといつかこうなるところを見ることになるのは分かっていたことだ。その前兆はこれまでも何度もあったが、今まではたまたまアロンの方から逃げるような格好になっていた。それが今回初めてアロンが受け入れるのを見たのかもしれない。それを目の当たりにすると、やっぱり心に受けるダメージは半端でなかった。
「アロン君、あのままカーラさんとくっついちゃうのかしら・・」
その時、後ろの部屋の方から物音がしたので振り返った。誰かこっちへくる。
「うっぷ、気持ち悪い。外の風あたろう。あれ・・誰かいる」
「誰?」
「あれ?ど、どなたですか?」
「その声は・・、リーダーですね?」
それはリーダーだった。リーダーも酔って気持ち悪くなって起きてきたのだ。リーダーは返ってきたその声や外の街灯の灯に浮かぶ背格好から、バルコニーにいる女子が誰だか気付いた。
「え?もしかして小泉さん?え?ほんとうに?」
裕美子はハウルのいたずらでメガネを外されていたので、リーダーはメガネをかけてない裕美子の顔を初めて見たのだった。
「すみません、メガネ見つからなくて、よく見えないんです」
それまで裕美子の知的な面に惹かれていたチャンだったが、同じ東洋系の顔にしてしかもなんと美少女!チャンの裕美子に対する意識が銀河系一杯に広がった。
「うわあ、かわいい。うっ!」
しかし、それを超えてマゼラン星雲に到達するほどの広さで二日酔いの不快・嘔吐感が上回った。
「おえええ」
よく見えないといってもどうなったかくらいは判別できる。
「きゃあ!大丈夫ですか?!」
駆け寄ってリーダーの背中をさすった。すると窓際にまた人影が現れた。レソフィックだった。
「なんだよ・・誰だそこにいるのは・・うえ!!吐いてやがる!」
近くにやってきてしゃがみ込んでるのが誰だか確認しようとしたら、その顔を見てレソフィックが仰天した。
「うわ!誰だおまえ!」
窓際の騒ぎに気付いて部屋の電気が点いた。そのおかげで窓のそばのちゃぶ台の上にメガネがあるのを見つけ、裕美子は取りに行った。見えないことには何もできない。入れ替わってアロンがやってきた。アロンは吐いている人が誰だか気付いた。
「あ、これリーダーだ。リーダー、大丈夫か?」
「げー!」
「うわー!たのむぜ、ゲロ吐き兄ちゃん。俺の家汚さないでくれよお」
レソフィックが悲鳴を上げる。ゲーゲーやっているリーダーを解放していたレソフィックは、部屋に戻った裕美子に振り向いて言った。
「小泉、お前リーダーの顔見て平気だったのか?」
なおレソフィックはリーダーの背中をさすっていたのが裕美子で、メガネを取りに行ったことは分かっていたが、裕美子のメガネない顔はまでは見てなかった。
「え?どうしてですか?」
振り向いたときはもうメガネをかけていた裕美子、矯正された視力で改めてリーダーの顔を見ると、極楽鳥か歌舞伎役者並みに塗りたくられたものすごい状態になっているのに気付いて仰天した。
「きゃあ!どうしたんですか?それ」
これもまたハウルのいたずらである。経緯は第1部で書いているのでそっちを読んでほしいが、酔っ払っていろいろあって沈没したリーダーに、ハウルがマジックで落書きしたものだった。
「・・・暗かった上にメガネしてなかったから・・わかりませんでした・・・」
アロンが
「見えなくて正解だったと思う」
と言った。確かに他に誰もいないバルコニーでこの顔に迫られたら、びっくりどころではなかったかもしれない。
しかし勇夫とカーラとクリスティンは
「わーははは!!」
「あはははは!!」
と抱き合って涙流して笑っていた。
一方、またもや騒動の発起人であるハウルは、何事もないように座布団を抱いて寝続けていた。
「アロン!なんとかそのゲロ吐き兄ちゃんをトイレに連れてけねえか」
「わかった。おいゲロ吐き兄ちゃん、ベランダはやめよう。ちょっとの間だけがまんしてくれ」
リーダーは力なく頷くと、アロンの肩を借りて立ち上がった。
しかしとたんに
「うぉっ!」
となる。
「う、うわ!がまんしろがまん!」
裕美子は慌てて先回りしてトイレのドアを開けた。
「ナイス小泉!ゲロ吐き兄ちゃんダッシュ!!」
どどどどどっと部屋を横切って、リーダーをトイレに連れ込むと、とたんに尻を突き出してうおおおっとやっている。
勇夫は大爆笑。一方レソフィックは半泣きになってベランダを掃除し始めた。
「頼むよ~ゲロ吐き兄ちゃん。汚さないでくれよ~。勇夫!てめっ、笑ってないで手伝え!」
勇夫の横で一緒になって笑っていたカーラとクリスティンも、さすがに笑うのをやめて手伝いに行った。
一方トイレではアロンがリーダーの背中を叩きながら、
「ゲロ吐き兄ちゃん、出すだけみんな出しちゃえ。小泉、水持ってきてくれる?あ、飲むやつだよ、ゲロ吐き兄ちゃんに。たくさんあった方がいいな」
「は、はい」
アロンに頼まれて台所へ行くと、空いたペットボトルに水を満たし、大きなコップと一緒に持って戻って、それをアロンに手渡した。
「ほれゲロ吐き兄ちゃん。水飲め、大量に飲め」
しばらくトイレに首を突っ込んで胃の中のものを一通り出し切り、その後水飲んだりしたら落ち着いてきたようだ。ふらふらと部屋に戻ってきた。しかし顔は相変わらず極彩色のままなので、カーラやクリスティンが思わずぷぷっと噴出してしまう。レソフィックがベランダから部屋の中に向かって言った。
「復活したか?ゲロ吐き兄ちゃん」
げっそり力ない様子から、おそらくすっかり血の気の失せた顔をしてたのだろうが、塗りたくられた顔は鮮やかな赤や緑でまったく顔色をうかがうことはできない。
「君たち、その呼び方やめてくれないか・・・」
へろへろと座り込んだリーダー。その正面に座っているカーラやクリスティン、勇夫が頬を震わせて笑いをこらえていた。裕美子も顔を両手で覆って目だけ出している。リーダーはコップなどが乗っかったステンレスのお盆を手に取ると、そこに写った自分の顔を見て、
「どうすりゃいいんだ・・・」
と嘆いた。勇夫がこらえきれずぶほっと吹き出す。呆れて笑う気にならないレソフィックは、リーダーのカラフルな顔を眉を寄せて見ながら
「ラッカー薄め液とかで消せそうだけど、持ってねえよ」
と処置なさげに言った。そこにアロン。
「灯油で落ちるんじゃないか?バイクのエアクリーナー洗う用のがあったろ」
「な~る。やってみるか。持ってくる」
リーダーの顔は機械部品洗浄と同じ扱いを受ける羽目になった。レソフィックは取りに行くついでに座布団を抱えて丸くなっているハウルを見下ろすと、つま先で突っついた。騒動の元凶を作った張本人は、これだけ周りが騒いでいてもすやすやと眠ったまま微動だにしなかった。
次回「第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(16):モーニングコーヒー」へ続く!
前回のお話「第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(14):真夜中」
対応する第1部のお話「第1部:第9章 レソフィックの広報記事(4):リーダーも変身?!」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
Copyright(c) 2009-2013 TSO All Rights Reserved
第1部で使った挿絵、今見ても凄まじいデス・・・。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
ぽちっと応援してください。
----------
「片いなか・ハイスクール」連載第295回
<第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(15):ゲロ吐き兄ちゃん事件>
水を1杯飲んで顔を洗った後、裕美子は手探りでバルコニーへ出た。
水を飲んだおかげで気持ち悪いのは治まってきた。バルコニーでは、夜になって少し冷えた風が心地よくそよそよと流れていた。
「ふう。風が気持ちいい。景色がよく見えないのが残念だけど・・。メガネどこへ行ったのかしら」
手すりに肘をついて、よく見えない街の明かりをぼーっと眺めた。そして、さっき見た光景を思い浮かべた。
「アロン君・・・ひどいよ。カーラさんと。私がこんなに苦しいって知ってる?」
裕美子は自分を悔やんだ。好きならそういう行動を取ればいいのに、それをやらないと決めたのだから、誰かといつかこうなるところを見ることになるのは分かっていたことだ。その前兆はこれまでも何度もあったが、今まではたまたまアロンの方から逃げるような格好になっていた。それが今回初めてアロンが受け入れるのを見たのかもしれない。それを目の当たりにすると、やっぱり心に受けるダメージは半端でなかった。
「アロン君、あのままカーラさんとくっついちゃうのかしら・・」
その時、後ろの部屋の方から物音がしたので振り返った。誰かこっちへくる。
「うっぷ、気持ち悪い。外の風あたろう。あれ・・誰かいる」
「誰?」
「あれ?ど、どなたですか?」
「その声は・・、リーダーですね?」
それはリーダーだった。リーダーも酔って気持ち悪くなって起きてきたのだ。リーダーは返ってきたその声や外の街灯の灯に浮かぶ背格好から、バルコニーにいる女子が誰だか気付いた。
「え?もしかして小泉さん?え?ほんとうに?」
裕美子はハウルのいたずらでメガネを外されていたので、リーダーはメガネをかけてない裕美子の顔を初めて見たのだった。
「すみません、メガネ見つからなくて、よく見えないんです」
それまで裕美子の知的な面に惹かれていたチャンだったが、同じ東洋系の顔にしてしかもなんと美少女!チャンの裕美子に対する意識が銀河系一杯に広がった。
「うわあ、かわいい。うっ!」
しかし、それを超えてマゼラン星雲に到達するほどの広さで二日酔いの不快・嘔吐感が上回った。
「おえええ」
よく見えないといってもどうなったかくらいは判別できる。
「きゃあ!大丈夫ですか?!」
駆け寄ってリーダーの背中をさすった。すると窓際にまた人影が現れた。レソフィックだった。
「なんだよ・・誰だそこにいるのは・・うえ!!吐いてやがる!」
近くにやってきてしゃがみ込んでるのが誰だか確認しようとしたら、その顔を見てレソフィックが仰天した。
「うわ!誰だおまえ!」
窓際の騒ぎに気付いて部屋の電気が点いた。そのおかげで窓のそばのちゃぶ台の上にメガネがあるのを見つけ、裕美子は取りに行った。見えないことには何もできない。入れ替わってアロンがやってきた。アロンは吐いている人が誰だか気付いた。
「あ、これリーダーだ。リーダー、大丈夫か?」
「げー!」
「うわー!たのむぜ、ゲロ吐き兄ちゃん。俺の家汚さないでくれよお」
レソフィックが悲鳴を上げる。ゲーゲーやっているリーダーを解放していたレソフィックは、部屋に戻った裕美子に振り向いて言った。
「小泉、お前リーダーの顔見て平気だったのか?」
なおレソフィックはリーダーの背中をさすっていたのが裕美子で、メガネを取りに行ったことは分かっていたが、裕美子のメガネない顔はまでは見てなかった。
「え?どうしてですか?」
振り向いたときはもうメガネをかけていた裕美子、矯正された視力で改めてリーダーの顔を見ると、極楽鳥か歌舞伎役者並みに塗りたくられたものすごい状態になっているのに気付いて仰天した。
「きゃあ!どうしたんですか?それ」
これもまたハウルのいたずらである。経緯は第1部で書いているのでそっちを読んでほしいが、酔っ払っていろいろあって沈没したリーダーに、ハウルがマジックで落書きしたものだった。
「・・・暗かった上にメガネしてなかったから・・わかりませんでした・・・」
アロンが
「見えなくて正解だったと思う」
と言った。確かに他に誰もいないバルコニーでこの顔に迫られたら、びっくりどころではなかったかもしれない。
しかし勇夫とカーラとクリスティンは
「わーははは!!」
「あはははは!!」
と抱き合って涙流して笑っていた。
一方、またもや騒動の発起人であるハウルは、何事もないように座布団を抱いて寝続けていた。
「アロン!なんとかそのゲロ吐き兄ちゃんをトイレに連れてけねえか」
「わかった。おいゲロ吐き兄ちゃん、ベランダはやめよう。ちょっとの間だけがまんしてくれ」
リーダーは力なく頷くと、アロンの肩を借りて立ち上がった。
しかしとたんに
「うぉっ!」
となる。
「う、うわ!がまんしろがまん!」
裕美子は慌てて先回りしてトイレのドアを開けた。
「ナイス小泉!ゲロ吐き兄ちゃんダッシュ!!」
どどどどどっと部屋を横切って、リーダーをトイレに連れ込むと、とたんに尻を突き出してうおおおっとやっている。
勇夫は大爆笑。一方レソフィックは半泣きになってベランダを掃除し始めた。
「頼むよ~ゲロ吐き兄ちゃん。汚さないでくれよ~。勇夫!てめっ、笑ってないで手伝え!」
勇夫の横で一緒になって笑っていたカーラとクリスティンも、さすがに笑うのをやめて手伝いに行った。
一方トイレではアロンがリーダーの背中を叩きながら、
「ゲロ吐き兄ちゃん、出すだけみんな出しちゃえ。小泉、水持ってきてくれる?あ、飲むやつだよ、ゲロ吐き兄ちゃんに。たくさんあった方がいいな」
「は、はい」
アロンに頼まれて台所へ行くと、空いたペットボトルに水を満たし、大きなコップと一緒に持って戻って、それをアロンに手渡した。
「ほれゲロ吐き兄ちゃん。水飲め、大量に飲め」
しばらくトイレに首を突っ込んで胃の中のものを一通り出し切り、その後水飲んだりしたら落ち着いてきたようだ。ふらふらと部屋に戻ってきた。しかし顔は相変わらず極彩色のままなので、カーラやクリスティンが思わずぷぷっと噴出してしまう。レソフィックがベランダから部屋の中に向かって言った。
「復活したか?ゲロ吐き兄ちゃん」
げっそり力ない様子から、おそらくすっかり血の気の失せた顔をしてたのだろうが、塗りたくられた顔は鮮やかな赤や緑でまったく顔色をうかがうことはできない。
「君たち、その呼び方やめてくれないか・・・」
へろへろと座り込んだリーダー。その正面に座っているカーラやクリスティン、勇夫が頬を震わせて笑いをこらえていた。裕美子も顔を両手で覆って目だけ出している。リーダーはコップなどが乗っかったステンレスのお盆を手に取ると、そこに写った自分の顔を見て、
「どうすりゃいいんだ・・・」
と嘆いた。勇夫がこらえきれずぶほっと吹き出す。呆れて笑う気にならないレソフィックは、リーダーのカラフルな顔を眉を寄せて見ながら
「ラッカー薄め液とかで消せそうだけど、持ってねえよ」
と処置なさげに言った。そこにアロン。
「灯油で落ちるんじゃないか?バイクのエアクリーナー洗う用のがあったろ」
「な~る。やってみるか。持ってくる」
リーダーの顔は機械部品洗浄と同じ扱いを受ける羽目になった。レソフィックは取りに行くついでに座布団を抱えて丸くなっているハウルを見下ろすと、つま先で突っついた。騒動の元凶を作った張本人は、これだけ周りが騒いでいてもすやすやと眠ったまま微動だにしなかった。
次回「第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(16):モーニングコーヒー」へ続く!
前回のお話「第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(14):真夜中」
対応する第1部のお話「第1部:第9章 レソフィックの広報記事(4):リーダーも変身?!」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
Copyright(c) 2009-2013 TSO All Rights Reserved
第1部で使った挿絵、今見ても凄まじいデス・・・。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
ぽちっと応援してください。
にほんブログ村 |
にほんブログ村 |
にほんブログ村 |
☆☆ 災害時 安否確認 ☆☆
ヘッダー可愛い~!!色つくと、いいですね~!!(^o^)v
by macinu (2013-07-22 07:16)
ネオ・アッキーさん、shin.sionさん、alba0101さん、CROSTONさん、F−USAさん、有城佳音さん、macinuさん、いっぷくさん、miel-et-citronさん、(。・_・。)2kさん、ゆきママさん、bitさん、niceありがとうございます。
macinuさん、コメントありがとうございます。
使い回しではありますが、ご容赦ください。
by TSO (2013-07-31 23:38)