<第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(16):モーニングコーヒー> [片いなか・ハイスクール]
東日本大震災被災地がんばれ!
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「片いなか・ハイスクール」連載第296回
<第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(16):モーニングコーヒー>
リーダーの顔からペイントが落とされ、血の気と油っ気の失せた肌が現れた頃には東の空が白やみ始めていた。もう一寝入りするにはあまりにも中途半端である。
「コーヒーでも淹れるか」
とアロンがお湯を沸かしにいった。
テーブルの上は昨夜の宴会で散らかったまま。コーヒーカップを置くスペースもないので、裕美子は片付けを始めた。あっ、と気付いてカーラも手伝いにくる。
「裕美子ちゃん、昨日大丈夫だった?」
「え・・え?」
「すぐ酔っ払って寝ちゃったじゃない」
「あ・・はい。起きたとき、ちょっと気持ち悪かったですけど、もう平気です」
「そう、よかった。あんなにいじられてもわかんないんだもん。心配になっちゃった」
「・・いじられ?」
「なんでもないよ!なんでも」
「はあ・・」
横で片付けを手伝うカーラを裕美子は複雑な思いで見た。
『アロン君の横で寝てたのは何だったの?』
寄り添っていた二人。わたしの知らない間に進展してしまったの?
とても心配だった。聞いてみてもいいんだろうか。
「・・わたし寝ちゃった後、どうなったんですか?」
「えへ。結局飲み会みたいになっちゃって、多少あの場面どんなだったっけって話しはしたけど、途中から私も訳わかんなくなって、いつの間にか寝ちゃってた。てへへ」
舌をぺろっと出して悪戯っぽく笑うところなんて、カーラさんかわいい。それで、どうしてアロン君と一緒に寝ちゃったの?そのかわいい笑顔で誘惑しちゃったの?
肝心のところを聞けないまま、カーラは立ち上がってしまった。
「レソフィック君、ゴミ箱どこ?ビニール袋がお菓子の空き袋で一杯になったよ。こんなに食べたっけ?」
「大いに食ったのはハウルと勇夫だ。ゴミ袋はベランダに置いといてくれ」
モヤモヤが取れないまま、裕美子は使ったグラスや皿の山をお盆に乗せると、それを持って台所へ行った。
台所ではアロンがお湯の番をしていた。台所には他に誰もいない。
『一時でもこうして二人きりになれたというのに、何となくアロンが遠く感じる・・』
「シンク、お借りします」
そう言うと、裕美子はジャブジャブと食器を洗い始めた。
「あ、悪いね。つーか、勇夫もっと働かせていいよ」
そこにクリスティンが覗きに来た。
「あ、あの~、何か手伝う?」
「おおサンキュー。そしたらコーヒーカップ持ってってくれる?」
「あ、うん。わかったぁ」
裕美子はさっきグラスを持ってきたとき使ったお盆をさっと拭くと、クリスティンに差し出した。そして食器棚を指差した。
「カップ、その辺にありました」
「ありがと裕美子ちゃん。どうしてそんなにてきぱきと気が回るの?ねえ、アロン君」
「やり慣れてるって感じだな。台所に立つ姿が、なんかすごい自然だよ」
それ、褒めてるんだろうか。なんかでもあまり嬉しくないな。なんでだろ。
家事をいろいろやり慣れてるのは、中学時代に家に引きこもっていたせいでもある。後ろめたい気持ちがどこかにあるんだろうか。
クリスティンも行ってしまって、お湯も沸いたので、アロンもすぐリビングへ戻りそうである。せっかくだったのに、もう少し何か話せなかったんだろうかと、裕美子はシュンとした。そうしたら
「インスタントしかないんだけど、許してもらえる?」
と、持ち上げたお徳用サイズのインスタントコーヒーの入れ物を指差しながら聞かれた。なんで許しを請われるのだろう。
「・・いいんじゃないですか?なんで?」
「味とかこだわってそうだったんで。・・昨日の夕飯とか一ひねりあったし」
お夕食を気に入ってもらえたのは嬉しいけど、でも過剰な印象持たれてる?
「・・別に、その手にしてるのでもまったく構いませんが・・。こだわったのがあって淹れてくれるなら、その方がいいですけど・・・」
「あ、こだわり!あるある」
そう言って、例のやんちゃな少年の笑いを浮かべた。たぶんまたからかうつもりなんだろうな。
「これが一番冷たい水にもすぐ融ける。しかもグラム当たり単価が抜群に安い!味もそこそこだし」
笑ってあげた方がいいんだろうか。
「・・・それでいいです」
受けが悪かったような答えをしたせいか、何となく寂しげにリビングへ帰って行ったように見えた。
コーヒーの匂いにつられて、爆睡していたハウルも目を覚ました。
「顔洗ってくる!私カフェオレがいい。ミルク温めといて」
面倒な注文を追加していった。
それどころか戻ってきたら、
「お腹減ったなー」
と次々に仕事を作り出そうとする。昨晩あんなに食べたのに。
テーブルを囲んでコーヒーカップから立つもやの向こうでみんなは目を合わせた。続いて差し込んできた朝陽に目を細める。
暗いうちから始まったゲロ吐き兄ちゃん騒動からせっかく一息着こうとしたというのに、どうやら落ち着けるのはもう少し先になりそうだと、みんなの直感は告げているのであった。
次回「第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(17):朝食準備」へ続く!
前回のお話「第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(15):ゲロ吐き兄ちゃん事件」
対応する第1部のお話「第1部:第9章 レソフィックの広報記事(4):リーダーも変身?!」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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いまでこそトップ絵やハウルちゃん4コマなどで普通にお目にかかっていますが、第1部において裕美子ちゃんの容姿については、メガネかけてるとか、くるくるした髪の毛してるとかそんなもので、あまり情報がありませんでした。メガネを取った顔がかわいいというのはレソフィック宅での宴会エピソードで初めて知らされます。第1部の前半では裕美子ちゃんは隠しキャラだったので、注目されないようにしてたためでもあります。
メガネ取った顔がどんなだったのか、挿絵で正式にお披露目されるのは第1部第14章「夏のエピソード(後編)」まで待たなければなりませんでした。でも実はその前にバイクで二人乗りしてるアロンと女の子のイラストが公表されていて、その女の子が裕美子ちゃん、それもユカリバージョンだったというのも夏のエピソードで明らかになったのでした。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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「片いなか・ハイスクール」連載第296回
<第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(16):モーニングコーヒー>
リーダーの顔からペイントが落とされ、血の気と油っ気の失せた肌が現れた頃には東の空が白やみ始めていた。もう一寝入りするにはあまりにも中途半端である。
「コーヒーでも淹れるか」
とアロンがお湯を沸かしにいった。
テーブルの上は昨夜の宴会で散らかったまま。コーヒーカップを置くスペースもないので、裕美子は片付けを始めた。あっ、と気付いてカーラも手伝いにくる。
「裕美子ちゃん、昨日大丈夫だった?」
「え・・え?」
「すぐ酔っ払って寝ちゃったじゃない」
「あ・・はい。起きたとき、ちょっと気持ち悪かったですけど、もう平気です」
「そう、よかった。あんなにいじられてもわかんないんだもん。心配になっちゃった」
「・・いじられ?」
「なんでもないよ!なんでも」
「はあ・・」
横で片付けを手伝うカーラを裕美子は複雑な思いで見た。
『アロン君の横で寝てたのは何だったの?』
寄り添っていた二人。わたしの知らない間に進展してしまったの?
とても心配だった。聞いてみてもいいんだろうか。
「・・わたし寝ちゃった後、どうなったんですか?」
「えへ。結局飲み会みたいになっちゃって、多少あの場面どんなだったっけって話しはしたけど、途中から私も訳わかんなくなって、いつの間にか寝ちゃってた。てへへ」
舌をぺろっと出して悪戯っぽく笑うところなんて、カーラさんかわいい。それで、どうしてアロン君と一緒に寝ちゃったの?そのかわいい笑顔で誘惑しちゃったの?
肝心のところを聞けないまま、カーラは立ち上がってしまった。
「レソフィック君、ゴミ箱どこ?ビニール袋がお菓子の空き袋で一杯になったよ。こんなに食べたっけ?」
「大いに食ったのはハウルと勇夫だ。ゴミ袋はベランダに置いといてくれ」
モヤモヤが取れないまま、裕美子は使ったグラスや皿の山をお盆に乗せると、それを持って台所へ行った。
台所ではアロンがお湯の番をしていた。台所には他に誰もいない。
『一時でもこうして二人きりになれたというのに、何となくアロンが遠く感じる・・』
「シンク、お借りします」
そう言うと、裕美子はジャブジャブと食器を洗い始めた。
「あ、悪いね。つーか、勇夫もっと働かせていいよ」
そこにクリスティンが覗きに来た。
「あ、あの~、何か手伝う?」
「おおサンキュー。そしたらコーヒーカップ持ってってくれる?」
「あ、うん。わかったぁ」
裕美子はさっきグラスを持ってきたとき使ったお盆をさっと拭くと、クリスティンに差し出した。そして食器棚を指差した。
「カップ、その辺にありました」
「ありがと裕美子ちゃん。どうしてそんなにてきぱきと気が回るの?ねえ、アロン君」
「やり慣れてるって感じだな。台所に立つ姿が、なんかすごい自然だよ」
それ、褒めてるんだろうか。なんかでもあまり嬉しくないな。なんでだろ。
家事をいろいろやり慣れてるのは、中学時代に家に引きこもっていたせいでもある。後ろめたい気持ちがどこかにあるんだろうか。
クリスティンも行ってしまって、お湯も沸いたので、アロンもすぐリビングへ戻りそうである。せっかくだったのに、もう少し何か話せなかったんだろうかと、裕美子はシュンとした。そうしたら
「インスタントしかないんだけど、許してもらえる?」
と、持ち上げたお徳用サイズのインスタントコーヒーの入れ物を指差しながら聞かれた。なんで許しを請われるのだろう。
「・・いいんじゃないですか?なんで?」
「味とかこだわってそうだったんで。・・昨日の夕飯とか一ひねりあったし」
お夕食を気に入ってもらえたのは嬉しいけど、でも過剰な印象持たれてる?
「・・別に、その手にしてるのでもまったく構いませんが・・。こだわったのがあって淹れてくれるなら、その方がいいですけど・・・」
「あ、こだわり!あるある」
そう言って、例のやんちゃな少年の笑いを浮かべた。たぶんまたからかうつもりなんだろうな。
「これが一番冷たい水にもすぐ融ける。しかもグラム当たり単価が抜群に安い!味もそこそこだし」
笑ってあげた方がいいんだろうか。
「・・・それでいいです」
受けが悪かったような答えをしたせいか、何となく寂しげにリビングへ帰って行ったように見えた。
コーヒーの匂いにつられて、爆睡していたハウルも目を覚ました。
「顔洗ってくる!私カフェオレがいい。ミルク温めといて」
面倒な注文を追加していった。
それどころか戻ってきたら、
「お腹減ったなー」
と次々に仕事を作り出そうとする。昨晩あんなに食べたのに。
テーブルを囲んでコーヒーカップから立つもやの向こうでみんなは目を合わせた。続いて差し込んできた朝陽に目を細める。
暗いうちから始まったゲロ吐き兄ちゃん騒動からせっかく一息着こうとしたというのに、どうやら落ち着けるのはもう少し先になりそうだと、みんなの直感は告げているのであった。
次回「第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(17):朝食準備」へ続く!
前回のお話「第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(15):ゲロ吐き兄ちゃん事件」
対応する第1部のお話「第1部:第9章 レソフィックの広報記事(4):リーダーも変身?!」
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いまでこそトップ絵やハウルちゃん4コマなどで普通にお目にかかっていますが、第1部において裕美子ちゃんの容姿については、メガネかけてるとか、くるくるした髪の毛してるとかそんなもので、あまり情報がありませんでした。メガネを取った顔がかわいいというのはレソフィック宅での宴会エピソードで初めて知らされます。第1部の前半では裕美子ちゃんは隠しキャラだったので、注目されないようにしてたためでもあります。
メガネ取った顔がどんなだったのか、挿絵で正式にお披露目されるのは第1部第14章「夏のエピソード(後編)」まで待たなければなりませんでした。でも実はその前にバイクで二人乗りしてるアロンと女の子のイラストが公表されていて、その女の子が裕美子ちゃん、それもユカリバージョンだったというのも夏のエピソードで明らかになったのでした。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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☆☆ 災害時 安否確認 ☆☆
そうそう気になっていたんだ~この話~(^o^)v
by macinu (2013-07-29 06:56)
いっぷくさん、zyabuzyabusanさん、有城佳音さん、macinuさん、ゆきママさん、bitさん、niceありがとうございます。
macinuさん、コメントありがとうございます。
次回のお話では、macinuさんのまかない道場の技が一瞬出てきます。
by TSO (2013-07-31 23:48)