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<第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(19):リーダー告白失敗> [片いなか・ハイスクール]

東日本大震災被災地がんばれ!


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「片いなか・ハイスクール」連載第299回
<第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(19):リーダー告白失敗>


さて、中途半端に打合せを切り上げ、というか投げ出して遊びに行ってしまったため、結局レソフィックは海賊事件記事を完成させられず、手伝いに来たメンバーを中心に登場人物紹介で第1回記事をでっち上げた。

そのトンデモ人物紹介記事に目を通したのがまだ広報委員の間で留まっていたころ、生徒会に出ていたリーダーと裕美子は、記事集め特権で一足先に見ていた2年のキッカ先輩らに舐めるように見回されていた。

「チャン君、酔わせてみたいわね」
「それよりあたしは小泉さんのメガネを取ってみたいわ」

2年女子生徒会委員の不穏な視線に気付いた裕美子は、会議が終わったら捕まる前にとっとと出ようと決心した。

「それでは今日の会合を終わります。あ、安全巡視終わってない組はせかしておいてくださいね。まだ半分も完了報告きてませんよ」

がたがたがた

みんなが席を立った。すぐに裕美子はリーダーの袖を引っ張ると、生徒会会議室から脱出した。裕美子に誘われるように出たので、リーダーは何か勘違いしそうだった。

「こ、小泉さん、どうしたんですか?そんなに慌てて」
「・・なんか、よからぬ企みを持つ人の気配があったもので・・」
「へえ?そうですか?小泉さん、勘が鋭いんですね」

生徒会から追っかけてくる人もないとわかると、裕美子は少しほっとしたように、肩の力を抜いた。


『安全巡視終わってない組か。うちの組もまだだわ。・・・防災・安全委員、アロン君のお仕事ね』

生徒会の終わり際に出た話しだ。ふと裕美子は思いついた。

『フォローついでに、一緒にやってしまおうか』

これも定期的にやらなければならない委員のお仕事。もしお手伝いすることを許されれば、また一緒になれる確実な時間を増やすことができる・・

これはいいことに気が付いたと、メガネの奥で密かに笑みを浮かべた。ちょうど教室に着いたところだった。
入り口のドアをくぐったところで、リーダーが裕美子に話しかけてきた。いつもの調子とは違う、やや上ずった声であった。

「こ、小泉・・さん」
「はい?」
「あ、あの・・」

廊下と窓の外をチラチラ交互に見ながら、チャンらしくない歯切れの悪いその様子に、裕美子は心配そうに傾げた顔をチャンに向けて問い直した。

「・・どうか、しました?」

舌を噛みそうな口調で、ようやくリーダーは続きを口にした。

「ここ小泉さんて、頭いいだけじゃなくて、・・じ、実はけ、けっこう、魅力的な、人・・だったんですね」
「?。ど、どうしちゃったんですか?」
「あの夜見かけた・・・、小泉さんの顔が・・・その、頭に焼き付いちゃって・・俺・・」
「あの夜?」
「レソフィックの家で・・・、夜中に・・ベランダで・・・、小泉さんメガネ取ってて・・・」
「ああ、あのリーダーのゲロ吐き兄ちゃん事件のときですね?」
「がーん!」
「がーん!」
「がーん!」
「がーん!」

それまで赤らんでいたリーダーの顔が、あのときハウルがいたずらしたペインティングのように一瞬極彩色の顔になり、急速に青一色に変わっていった。そしてその後は崩れかけた土塀のように表情もなくなった。
裕美子もその異様な変化の仕方に、何かやってしまったと気付いた。

「ご、ごめんなさい。わたし何か言ってしまいました?」
「・・そ、それが小泉さんの頭に埋め込まれた俺の印象?」

これはまずかったと裕美子もちょっと引きつった顔になった。

「だ、だいじょうぶですよ。あれはお酒のせいだから、リーダーの尊厳は・・一応・・その・・」
「いや、いいんです。出直してきます」

リーダー、足早に自席の鞄を取ると、とぼとぼと寂しげに帰っていった。

『な、なに?今の・・リーダー、わたしが魅力的って・・・も、もしかして、好意をもたれてた?・・』

さすがに疎いという裕美子であっても、なんとなくそれに気付いた。口ごもってたし、なんか恥ずかしそうにしてたし・・

『うわー、最悪なタイミングでひどいこと口走っちゃった!』

たたっと窓に走り寄った。

落ち込んでしまった人が・・・精神を傷つけられた人が・・・もし・・、もし!

ものすごい不安に駆られた裕美子は窓から半身を乗り出し、校庭を見下ろした。
すると、ちょうど玄関からチャンが出てきた。相変わらず寂しそうな後姿をしている。ふと、歩きながら振り返ってC組の教室を見上げた。
裕美子は大きく手を振った。遠い上にメガネもしているので、裕美子の不安で一杯な表情はチャンからはよく見えなかったろう。しかし感情の起伏の薄い裕美子らしからぬそのしぐさに、チャンは気に掛けてもらっていることを感じ取ったようだ。立ち止まったチャンは、にっこりと笑って片手を軽くあげてそれに答えると、再び校門に向かって歩き出した。

少し、歩き方が変わったただろうか・・。

そして校門を出るとき再び振り向いて、まだ裕美子が窓のところにいるのを認めると、片手を大きく上げて挨拶をし、垣根の向こうに消えていった。


リーダーは、きっと大丈夫。


大して根拠があるわけではないが、裕美子はそう感じた。そして

「ごめんね、リーダー」

裕美子は小さくそう声を出して言った。

『こんなわたしでも、気に掛けてくれる男の人がいるんだ。リーダーはちゃんとした人だし、うれしい。でも、わたしが好きなのは、アロン君なんです』


・・・アロン君も、わたしに興味をもってくれるようなことが、あるんだろうか。


次回「第2部:第7章 隣町への買い物(1):安全巡視」へ続く!

前回のお話「第2部:第6章 レソフィック宅の宴会(17):朝ごはん」


対応する第1部のお話「第1部:第9章 レソフィックの広報記事(5)それで、広報の記事は?」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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第2部第6章ようやく終わりました。こんなにかかるとは思いませんでした。第6章の初回アップが2013年1月8日ですから、間に4コママンガなど挟んだとはいえ、8ヶ月もかけたことになります。
裕美子視点の話は、下書きのときに同時に書いていて、後でこれは第1部、こっちは第2部に回そう、と切り分けているのがほとんどです。ですが本章では第1部と話がかぶらないところをかなり新規に書き起こしました。この先もこんな進め方になりそうです。連載ペースが遅いことも相まって、第2部が終わるのはいつになることやら。

※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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コメント 1

TSO

いっぷくさん、CROSTONさん、ネオ・アッキーさん、(。・_・。)2kさん、hiroさん、くま・てーとくさん、macinuさん、niceありがとうございます。
by TSO (2013-09-15 13:35) 

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