<第2部:第7章 隣町への買い物(2):放課後のお誘い> [片いなか・ハイスクール]
「片いなか・ハイスクール」連載第301回
<第2部:第7章 隣町への買い物(2):放課後のお誘い>
金曜日の朝。アロンがやってきたのは7時45分ちょうどだった。走って教室に入ると時計を見て
「よし、間に合った!」
と大きく息をついた。
先に来ていた裕美子はぼそっと言う。
「遅刻」
「え?時間通りじゃん」
「45秒遅刻」
「秒?!」
「女の子待たせちゃダメって言ったのに・・・」
「ん、んな!待たせたって、45秒だろ?」
「わたし、10分以上ここで待ってます」
「10分以上?そんな早く来てたの?・・で、それも俺のせいなの?」
裕美子はじい~っとアロンを見た。
すてき・・。今、わたしは彼を見つめていても、何もとがめられることもない・・・。
しかし穴が開くように見つめられたアロンは、待たされたことを抗議されていると受け取ったようだ。
「わ、悪かったよ、待たせて。俺のためにわざわざ早く学校来てくれたのに。だから、そんな目で見ないでくれ」
あら、とがめられてしまったわ。・・そんな目って、わたし恐い目で睨んでたんでたのかしら・・
目線をそらして口に拳を当て、咳払いを一つすると、安全巡視のチェックカードを取り上げた。
「それでは、さっさとやってしまいましょう」
「へ、へ~い」
アロンは片方の肩に背負っていたザックを自席へ降ろしに行くと、すぐ裕美子が待っている側に戻ってきた。
「それじゃ、消火器から。アロン君、確認してください」
「へいへ~い」
10分程で巡視は終わった。
「やあ、終わった終わった」
「・・こんな、10分で終わっちゃう程度の作業・・・」
せっかく二人きりになれると思って手伝ったのに、ぜんぜん物足りないわ。
しかしまたアロンは自分が文句言われていると思ったようだ。
「す、すまん。この程度のことにわざわざ早く来て付き合わさせて・・」
やる前からチェックの入っていたカードを見下ろした裕美子は、見上げることなく言った。
「また・・次回も、一緒にやることにしましょう」
「ええー?!い、いや、それはわりーよ!んな面倒なのにまた付き合うのなんて!」
「・・すぐ終わるけど、面倒なことって、思ってるなら、またズルされるかもしれないし・・」
「し、信用ねえんだなぁ・・俺」
「実物見ないでチェック入れてたってリーダーが知ったら・・」
「いいいい言わないでください!!」
顔を上げてアロンの方を向いた。
「10分ですよ。わたしも負担ありませんから」
「何でそんなに・・マメだというか、真面目だというか。もしかして俺と一緒にいたいんじゃねぇの?」
さらっとすごいこと言ってきた!え?!ば、ば、ばれちゃった?気付かれちゃった?!
さすがに顔が赤くなるのが自分でもわかった。
「そ、そうだと言ったらやる気出ますか?望むなら言ってあげますよ。い、いい加減な報告されるよりましです」
アロンをよく見ると困ったような顔をしていた。
「前科があるからしばらく監視が入るって事だよな・・」
裕美子は何も言わずじっと見つめていた。
「付き添うかは任せるよ。・・まあ、一人でやるよりはモチベーション上がるかなあ・・・」
一人よりわたしとやる方がいいって、こと?
チェックカードを鞄にしまいながら裕美子は小さな声で言った。
「・・ちゃんと真面目にやってるアロン君を見たいから、次回も付き合います」
そして席に座ると、文庫本を取り出して、栞のはさんでいるページを開いた。始業時間まであと20分もある。
ちらっと見上げた。
「一人よりやる気、出るんですよね?」
「これで仕事じゃなけりゃぁなあー」
アロンは伸びをしながら窓の方に歩いていった。
と、そこにガラッと扉を開けて入ってきたのはリーダーだった。こんな朝早くにアロンがいることに少し驚いた顔をした。
「どうしたんだ?二人とも」
裕美子が答えた。
「アロン君、今月の防災委員の安全巡視まだやってなかったから、今日早く来てもらってやってたんです」
「そっか。ごめん気が付かなくて。俺に言ってくれりゃ、俺がアロンとやったのに」
するとアロンはリーダーの方を向いて急にニヤニヤしだした。
『あ、からかうつもりだ。・・もう、いたずらっ子なんだから』
案の定、
「巡視中にさ、消火器倒しちゃって中身ぶちまけちゃった。始末書書いてくれる?」
「ええ?!!」
もう、みえみえのうそ言って・・・
「アロン君、教室に中身飛び散った形跡もないのに、そんな冗談通じませんよ」
と突っ込んだものの
「じょ、冗談か!」
リーダーかなり焦ってた。
「ははは、通じてたみたいだぜ」
裕美子もつい苦笑いしてしまう。あわててリーダー取り繕った。
「な、何を、誰がそんな子供じみた嘘に・・・。アロン、来月は何日にやるか決めとこうぜ」
「夏休み直前でいいだろ?朝やるのは眠いなあ、ふぁわああ」
アロンは眠そうに答え、リーダーの威厳はまるっきりなしである。
裕美子は手帳を開くと、夏休み直前で生徒会の事務局の集計に間に合う日をチェックした。
「じゃあ20日月曜でいいですね?」
「小泉さん、今度こそ僕がやりますから」
『任せてもらえた方が嬉しいんだけど・・でも無理に断ったら今度こそ気があることがバレちゃうかも・・』
目が不満な心の様子を写すが
「そうですか?」
表面上はクールに返した。どのみち眼鏡越しの顔は表情なかった。
「ところで小泉さん。今日放課後寄り道できますか?」
『??』
急に脈略のない話題に飛んだので、裕美子はまったく掴めなかった。
「今日の放課後ですか?」
『今日、生徒会でなにか特別なことあったっけ?』
まだ登校してきたばっかりである。なので今日の話題から発展した話であるはずがない。とすると生徒会関係くらいしか接点は思いつかなかった。
しかしリーダーは思いもよらないプライベートな理由をあげた。
「ハウルが帽子を買いにいくらしいんですけど、僕もほしいのがあって、店紹介してもらうんです。隣の駅ですけど、行く時間ありますか?」
初めて聞く話しだわ。そんな私的なところになんで呼ばれるんだろう。
「リーダーとハウルさんが買いに行くところに、なんでわたしも?」
横で聞いていたアロンもコメントした。
「せっかく2人でいくのにじゃましちゃ悪いんじゃねえの?」
あ、なるほど、そういう考え方もあるのね。そういうことには疎いから、ぜんぜん思いつかなかったわ。
しかしこれにはリーダー慌てた。
「ち、違うよ!カーラも行くんだ。だから小泉さんもって思って。それにアロン。お前もたぶん誘われるぞ。みんなで行くのが好きみたいだからな」
「なんだそりゃ。何で俺まで」
カーラさんも行くことになってるの?アロン君も呼ばれる?
「というわけで小泉さん。行けますか?」
どういう集まりなんだろう。帽子買いに行くって・・でも誘われるであろうアロン君も飲み込めないでいるってことは、アロン君にも唐突な話ってことよね・・
「・・なんなんでしょう。アロン君、行きますか?」
「俺?うーん、そういやツーリング先で使う帽子買おうか考えてたんだよな。行ってもいいけど・・」
アロン君は行くんだ、ついでもあるし・・。でも、わたしにはぜんぜん用事がないんだけど。
・・・行ったらアロン君とおしゃべりできるかな。
よく知っている人たちが来るようだし、アロンの顔をもう少し見る時間ができるということで、行くことにした。
「そうですか・・みんな行くんだったら行こうかな」
「決まりですね!じゃ、放課後!」
満足そうにリーダーは去っていった。その後姿にアロンが
「なんだありゃ」
と納得いかない顔で言った。
「なんなんでしょう」
とりあえず、アロン君が来るならいいですけど。
次回「第2部:第7章 隣町への買い物(3):正しいお誘い」へ続く!
前回のお話「第2部:第7章 隣町への買い物(1):安全巡視」
対応する第1部のお話「第1部:第10章 リーダー相談する(3):リーダー自ら誘う」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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第1部で何度か出てきたアロン君と裕美子ちゃんによる安全巡視ですが、なぜ始まったのかという事の始まりが記されてましたね。これも裕美子ちゃん狙ってやってたということだったわけですね。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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<第2部:第7章 隣町への買い物(2):放課後のお誘い>
金曜日の朝。アロンがやってきたのは7時45分ちょうどだった。走って教室に入ると時計を見て
「よし、間に合った!」
と大きく息をついた。
先に来ていた裕美子はぼそっと言う。
「遅刻」
「え?時間通りじゃん」
「45秒遅刻」
「秒?!」
「女の子待たせちゃダメって言ったのに・・・」
「ん、んな!待たせたって、45秒だろ?」
「わたし、10分以上ここで待ってます」
「10分以上?そんな早く来てたの?・・で、それも俺のせいなの?」
裕美子はじい~っとアロンを見た。
すてき・・。今、わたしは彼を見つめていても、何もとがめられることもない・・・。
しかし穴が開くように見つめられたアロンは、待たされたことを抗議されていると受け取ったようだ。
「わ、悪かったよ、待たせて。俺のためにわざわざ早く学校来てくれたのに。だから、そんな目で見ないでくれ」
あら、とがめられてしまったわ。・・そんな目って、わたし恐い目で睨んでたんでたのかしら・・
目線をそらして口に拳を当て、咳払いを一つすると、安全巡視のチェックカードを取り上げた。
「それでは、さっさとやってしまいましょう」
「へ、へ~い」
アロンは片方の肩に背負っていたザックを自席へ降ろしに行くと、すぐ裕美子が待っている側に戻ってきた。
「それじゃ、消火器から。アロン君、確認してください」
「へいへ~い」
10分程で巡視は終わった。
「やあ、終わった終わった」
「・・こんな、10分で終わっちゃう程度の作業・・・」
せっかく二人きりになれると思って手伝ったのに、ぜんぜん物足りないわ。
しかしまたアロンは自分が文句言われていると思ったようだ。
「す、すまん。この程度のことにわざわざ早く来て付き合わさせて・・」
やる前からチェックの入っていたカードを見下ろした裕美子は、見上げることなく言った。
「また・・次回も、一緒にやることにしましょう」
「ええー?!い、いや、それはわりーよ!んな面倒なのにまた付き合うのなんて!」
「・・すぐ終わるけど、面倒なことって、思ってるなら、またズルされるかもしれないし・・」
「し、信用ねえんだなぁ・・俺」
「実物見ないでチェック入れてたってリーダーが知ったら・・」
「いいいい言わないでください!!」
顔を上げてアロンの方を向いた。
「10分ですよ。わたしも負担ありませんから」
「何でそんなに・・マメだというか、真面目だというか。もしかして俺と一緒にいたいんじゃねぇの?」
さらっとすごいこと言ってきた!え?!ば、ば、ばれちゃった?気付かれちゃった?!
さすがに顔が赤くなるのが自分でもわかった。
「そ、そうだと言ったらやる気出ますか?望むなら言ってあげますよ。い、いい加減な報告されるよりましです」
アロンをよく見ると困ったような顔をしていた。
「前科があるからしばらく監視が入るって事だよな・・」
裕美子は何も言わずじっと見つめていた。
「付き添うかは任せるよ。・・まあ、一人でやるよりはモチベーション上がるかなあ・・・」
一人よりわたしとやる方がいいって、こと?
チェックカードを鞄にしまいながら裕美子は小さな声で言った。
「・・ちゃんと真面目にやってるアロン君を見たいから、次回も付き合います」
そして席に座ると、文庫本を取り出して、栞のはさんでいるページを開いた。始業時間まであと20分もある。
ちらっと見上げた。
「一人よりやる気、出るんですよね?」
「これで仕事じゃなけりゃぁなあー」
アロンは伸びをしながら窓の方に歩いていった。
と、そこにガラッと扉を開けて入ってきたのはリーダーだった。こんな朝早くにアロンがいることに少し驚いた顔をした。
「どうしたんだ?二人とも」
裕美子が答えた。
「アロン君、今月の防災委員の安全巡視まだやってなかったから、今日早く来てもらってやってたんです」
「そっか。ごめん気が付かなくて。俺に言ってくれりゃ、俺がアロンとやったのに」
するとアロンはリーダーの方を向いて急にニヤニヤしだした。
『あ、からかうつもりだ。・・もう、いたずらっ子なんだから』
案の定、
「巡視中にさ、消火器倒しちゃって中身ぶちまけちゃった。始末書書いてくれる?」
「ええ?!!」
もう、みえみえのうそ言って・・・
「アロン君、教室に中身飛び散った形跡もないのに、そんな冗談通じませんよ」
と突っ込んだものの
「じょ、冗談か!」
リーダーかなり焦ってた。
「ははは、通じてたみたいだぜ」
裕美子もつい苦笑いしてしまう。あわててリーダー取り繕った。
「な、何を、誰がそんな子供じみた嘘に・・・。アロン、来月は何日にやるか決めとこうぜ」
「夏休み直前でいいだろ?朝やるのは眠いなあ、ふぁわああ」
アロンは眠そうに答え、リーダーの威厳はまるっきりなしである。
裕美子は手帳を開くと、夏休み直前で生徒会の事務局の集計に間に合う日をチェックした。
「じゃあ20日月曜でいいですね?」
「小泉さん、今度こそ僕がやりますから」
『任せてもらえた方が嬉しいんだけど・・でも無理に断ったら今度こそ気があることがバレちゃうかも・・』
目が不満な心の様子を写すが
「そうですか?」
表面上はクールに返した。どのみち眼鏡越しの顔は表情なかった。
「ところで小泉さん。今日放課後寄り道できますか?」
『??』
急に脈略のない話題に飛んだので、裕美子はまったく掴めなかった。
「今日の放課後ですか?」
『今日、生徒会でなにか特別なことあったっけ?』
まだ登校してきたばっかりである。なので今日の話題から発展した話であるはずがない。とすると生徒会関係くらいしか接点は思いつかなかった。
しかしリーダーは思いもよらないプライベートな理由をあげた。
「ハウルが帽子を買いにいくらしいんですけど、僕もほしいのがあって、店紹介してもらうんです。隣の駅ですけど、行く時間ありますか?」
初めて聞く話しだわ。そんな私的なところになんで呼ばれるんだろう。
「リーダーとハウルさんが買いに行くところに、なんでわたしも?」
横で聞いていたアロンもコメントした。
「せっかく2人でいくのにじゃましちゃ悪いんじゃねえの?」
あ、なるほど、そういう考え方もあるのね。そういうことには疎いから、ぜんぜん思いつかなかったわ。
しかしこれにはリーダー慌てた。
「ち、違うよ!カーラも行くんだ。だから小泉さんもって思って。それにアロン。お前もたぶん誘われるぞ。みんなで行くのが好きみたいだからな」
「なんだそりゃ。何で俺まで」
カーラさんも行くことになってるの?アロン君も呼ばれる?
「というわけで小泉さん。行けますか?」
どういう集まりなんだろう。帽子買いに行くって・・でも誘われるであろうアロン君も飲み込めないでいるってことは、アロン君にも唐突な話ってことよね・・
「・・なんなんでしょう。アロン君、行きますか?」
「俺?うーん、そういやツーリング先で使う帽子買おうか考えてたんだよな。行ってもいいけど・・」
アロン君は行くんだ、ついでもあるし・・。でも、わたしにはぜんぜん用事がないんだけど。
・・・行ったらアロン君とおしゃべりできるかな。
よく知っている人たちが来るようだし、アロンの顔をもう少し見る時間ができるということで、行くことにした。
「そうですか・・みんな行くんだったら行こうかな」
「決まりですね!じゃ、放課後!」
満足そうにリーダーは去っていった。その後姿にアロンが
「なんだありゃ」
と納得いかない顔で言った。
「なんなんでしょう」
とりあえず、アロン君が来るならいいですけど。
次回「第2部:第7章 隣町への買い物(3):正しいお誘い」へ続く!
前回のお話「第2部:第7章 隣町への買い物(1):安全巡視」
対応する第1部のお話「第1部:第10章 リーダー相談する(3):リーダー自ら誘う」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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第1部で何度か出てきたアロン君と裕美子ちゃんによる安全巡視ですが、なぜ始まったのかという事の始まりが記されてましたね。これも裕美子ちゃん狙ってやってたということだったわけですね。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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by TSO (2013-12-30 21:48)