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<第2部:第7章 隣町への買い物(4):待ち合わせ> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第303回
<第2部:第7章 隣町への買い物(4):待ち合わせ>


放課後、見回すとハウルもカーラもリーダーもいなかった。もう待ち合わせ場所に行っちゃったんだろうか。校舎の玄関のところで待ち合わせることになっている。横に向くと、やや右に傾げた顔はその先にいるアロンに問いかけた。

「アロン君、・・行きますか?」

立ち上がったアロンは

「ああ、先行ってて。俺、勇夫のところ寄って行くから」

と窓際の勇夫の方へ歩いていった。勇夫の席に行ったのを見届けると、静かにかばんを持って席を立ち、教室から出て行った。




待ち合わせ場所の玄関にはまだ誰もいなかった。

『本当に行くのかしら』

両手でかばんの取っ手を持って、表情もなくぽつんと立つ裕美子であるが、心の中は見かけほど穏やかな心境ではなかった。

『アロン君来なかったらどうしよう。知らない人ばっかりじゃないよね・・・少なくともハウルさんとか、カーラさんはいるはずよね』

一人待たされていると不安が募ってきて潰されそうになってくる。まだ人への恐怖がなくなったわけではないのだ。

しかしすぐにアロンがやってきたのを見てほっとした。

『・・よかった』

やって来たのはアロンだけでなく、勇夫とミシェルも一緒だった。ミシェルは裕美子を見つけると、頭の上から下までさっと一見し、斜め前で立ち止まった。
ミシェルとはオリエンテーリングで一緒の班だったのでぜんぜん知らないわけではない。が、その後は特に接点もなく、190センチ近い長身から見下ろされて、一緒にいるのはなんだか怖い感じがした。

「小泉も帽子買うのかい?」

頭の上の方から話かけられてびくっとし、少し後ろに引きながら目線を合わせず小声で答えた。

「い、いいえ・・。選ぶの手伝うだけ・・です」

脳天の辺りに視線を感じる。
2、3秒であるが沈黙が続いた。その無言の空気に逃げ出したくなった。
しかしほどなく上から声が返ってきた。

「ふーん。俺も別に買いたいものがあるわけじゃないんだけどね。なんかわかんないけど声掛けられたんだ」

それ以上はなにも話しかけられなかったし、ミシェルのコメントに返す言葉も見つからなかった。
誰に誘われたのかとか、何で誘われたと思ったのかとか、よく分からないけど声かけられたようだがそれでどう思ったのかとか、親しくないにしてもクラスメイトだし、それくらいは聞き返してもよさそうなものだが、まったく頭の中は圧力がかかったままのように真っ白なものでいっぱいで、会話の続きは何も浮かんでこなかった。
ミシェルも返答を期待してこちらを待つこともなく、もうとっくに違う方を向いている。




しばらくして、ハウルとクリスティン、カーラ、そしてリーダーがやってきた。
ハウルはそこにいる一団の前に立って一望すると、

「・・・で、なんで勇夫とミシェルもいるの?」

と、肩眉を吊り上げて言った。横にいるカーラとクリスティンも戸惑っている顔をしている。

勇夫がハウルとは違った能天気さで答えた。

「大勢で行くのがいいとかって話らしいじゃん。何人以上になると割引とかあるの?」

ハウルは下から斜め上に向かって弧を描くように首を旋回させ、チャンの顔を見据えた。

「リーダー・・あんたいったい何を言ったの?」
「あ、あれえ?!」

リーダーはすっとんきょうな声を出した。

「俺は勇夫に連れてこられたんだけど。レソフィック行けないから代わりにとかって。なんで帽子なんだ?」

ミシェルは急に呼ばれて理由もわからずここにいるらしい。しかし別に怒った風でもなく、むしろ楽しそうである。裕美子は『よっぽど暇なのかしら』とミシェルの背中を見上げながら思った。
一方、度重なる不測自体にハウルが首をぶるぶる振って叫んだ。

「もう、分けわかんないよ!」

そしてミシェルに、もうどうだっていいわよというように手を投げ出してぶっきらぼうに突っ返した。

「あのね、夏といえば強い日差し、だから帽子なの!海でも行こうと思って!」

カーラがそれを見て引きつり気味になる。
「ああ、ハウルが壊れちゃった」とクリスティンもつぶやいた。

しかしミシェルはあごに手を置いてニヤッと口元を引き上げた。

「海かあ、いいなあ。夏休み入ったら有志募って泊りでいこうか」

それを聞いてリーダーが驚いて問い返した。

「え?学生だけでか?」
「当然だろ?保護者付で行って何が楽しいんだ?よーしハウル、先生に気付かれないように企画しようぜ。比較的近くてきれいな海岸はダリ・ビーチかな」

クリスティンが手を合わせて「あら?いい方に転んだわ」とぶと、ハウルも面白そうという反応を示した。カーラはまだ当惑気味のようである。
裕美子はどんどん飛躍していく話を、冷めたように半ば他人事として聞いていた。だってまさかそこに自分が行くことになるとは、この時点では思ってもみないわけだから。
当初部外者だったはずの勇夫が、あたかも主催者のように音頭を取った。

「じゃ、早いところ行こうぜぇ」


次回「第2部:第7章 隣町への買い物(5):隣町へ移動」へ続く!

前回のお話「第2部:第7章 隣町への買い物(3):正しいお誘い」


対応する第1部のお話「第1部:第10章 リーダー相談する(4):リーダー、引っ掻き回す」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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後半ハウルちゃんたちが到着してからは第1部と同じシーンでしたが、待ち合わせの前半は第2部で追加したシーン。なんてことなく買い物に付き合わされた裕美子ちゃんが、実は本人にとって結構冒険だったということが記されてます。それは次回にも続きます。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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コメント 4

yam

遅れ馳せながら、新年明けましておめでとう御座いますm(__)m
旧年中はお忙しいところ、ご訪問&Nice有難う御座いました。
今年も昨年同様、宜しくお願い致しますm(._.)m
by yam (2014-01-05 22:15) 

タッチおじさん

今年も宜しく!
by タッチおじさん (2014-01-07 15:32) 

copper

明けましておめでとうございます。
訪問とniceありがとうございました。

今年は、TSOさんのように沢山の素敵な作品をブログに掲載できるよう目指して頑張ります。

最後になりましたが、今年もよろしくお願いします。
by copper (2014-01-08 22:41) 

TSO

いっぷくさん、やってみよう♪さん、くま・てーとくさん、yoshihiroさん、(。・_・。)2kさん、yamさん、げいなうさん、じじさん、有城佳音さん、teftefさん、shin.sionさん、タッチおじさんさん、mahimahiさん、copperさん、niceありがとうございます。
copperさん、お久しぶりです。また素敵なイラストとか見せてくださいね。
yamさん、こちらこそ今年もよろしくお願いいたします。
タッチおじさんさん、小説続き楽しみにしてます。今年もよろしくお願いいたします。
by TSO (2014-01-08 23:14) 

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