<第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(4):ヘビーデューティー・ライスクラッカー> [片いなか・ハイスクール]
「片いなか・ハイスクール」連載第310回
<第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(4):ヘビーデューティー・ライスクラッカー>
またまた別の日。わたしとハウルさんたちは、またお茶をしに中庭の丘に上がってきた。
「ユミちゃんのリクエストで、今日は日本茶よー。冷たいのだよ」
カーラさんからカップを受け取ったハウルさんが、冷えた黄緑の緑茶を見てその清涼感に喜んだ。
「わっ、爽やかー」
「ユミちゃん、何もってきたの~?」
クリスティンさんがいつものニコニコ顔を向けた。今日のお茶うけのお菓子は、わたしが用意することになっていた。
「こないだは軟らかいマシュマロだったから、次は思いっきり硬いのがいいとのことでしたので・・」
鞄とは別に手にしていた小さな紙袋からそれを取り出した。醤油味のおせんべいだった。
「わーお。ライスクラッカーだね」
「鬼瓦せんべいです。とっても硬いんですよ」
「へぇ~、どぉれ?」
クリスティンさんに1枚手渡すと、かぷっと咥えた。が・・
「え?!噛めないわよぉ!」
と歯が立たないご様子。わたしは手で4つに割って 、一片を口に入れてばりぼり噛み砕きながら
「割ると食べやすいですよ」
と、ひとかけらクリスティンさんの口に入れた。それでもうんうん言っている。
「ぜんぜん噛めないわ!こ、これが日本のお菓子・・・。解った!これ忍者の携帯食料ね!激しく厳しい野外活動、荒れ狂う天候、長期に渡る隠密行動、そんな任務にもびくともしない携行食、ヘビーデューティー・ライスクラッカー。それが鬼瓦せんべいなのね!」
「がうっ!」とがしゃがしゃ破片を飛び散らせながらハウルさんは食べてた。
「なるほどね。忍者の携帯食料か。確かにいざとなったら、これ投げつければ武器にもなりそうだわ」
「そっか、手裏剣も兼ねてるのね!食料兼武器なんてさすがはオリエント、ミステリアスだわぁ~」
「・・新説ですね。日本人もびっくりです。わたしにはクリスティンさんの方がよっぽどミステリアスです」
カーラさんはおせんべいをお茶に浸してた。
「こうすると軟らかくなるかな」
「それ、おばあちゃんの食べ方です」
「ええー?!」
カーラさん残念そうな顔をしていた。
そこに丘の下へ4人ほど3年生の男子が歩いてきた。バケツや小さいシャベルを持っていた。ハウルさんはその人達に手を振った。
「やっほー」
するとその男子先輩達も手を上げて答えた。どうやら知り合いのよう。先輩達は丘の下からこっちに向かって声を張り上げた。
「穴埋めたぞー」
「モグラの穴は埋めなくていいんだろ?同じくらいの数あったけど」
「ごくろーさーん。ばっちり、 ばっちりー」
穴埋めた?ああ、この人達がパターゴルフ同好会の方たちですか。あら、あの人・・
先輩達が立ち去ろうとしたら、その中の一人がわたしを見て、向こうも気付いた。
「げっ!そのメガネの、生徒会の!」
「な、なに?!」
わたしを指差して叫んだその先輩は、3年の安全委員の人だった。何度か消耗品をもらいに来て、わたしが出庫対応をしたので向こうも覚えていたみたい。騒ぎになりかけている生徒会にばれないうちに証拠を隠滅しようとしていたので、生徒会の人間の前で例の穴を埋めたなどと発言してしまったから慌てているのだ。
わたしはすかさず人差し指を口に当てて、騒がないよう促した。
そしたらハウルさんがわたしと肩を組んで笑みを返した。
「こっちも内緒だよー」
一瞬きょとんとしたが、わたしは味方らしいと理解したようだ。事情の分かった4人は一様に安堵の色を顔に浮かべ、手を振って去っていった。
「ありがとね、裕美子。なんかうまくやってくれてるみたいで、生徒会の方からも詮索してくる様子がなくって助かってるわ」
「・・ハウルさん、学年も男女も関係なくお付き合いしてて、どこ行ってもいつも通りなんですね」
「ん?」
「いえ・・・すごいなぁと思って」
わたしなんか多少知っている人とさえ警戒してしまったり、身構えてしまったりして、必要最小限の話をするのがやっとだっていうのに・・。本当に関心してしまう。
「これ食べられるユミちゃんも方がすごいわよぉ~」
クリスティンさんはまだおせんべいと格闘していた。
次回「第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(5):無意識の危機感」へ続く!
前回のお話「第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(3):頼られるって」
対応する第1部のお話「第1部:第11章 7月のホタル鑑賞(1):2人で行けばよかったんじゃない?」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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第1部でクリスティンちゃんが、ユミちゃんがすごい硬いおせんべいを平気で食べていた、と言ったシーンがありました。それがこのお話です。第2部で登場させていただきました。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
ぽちっと応援してください。
<第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(4):ヘビーデューティー・ライスクラッカー>
またまた別の日。わたしとハウルさんたちは、またお茶をしに中庭の丘に上がってきた。
「ユミちゃんのリクエストで、今日は日本茶よー。冷たいのだよ」
カーラさんからカップを受け取ったハウルさんが、冷えた黄緑の緑茶を見てその清涼感に喜んだ。
「わっ、爽やかー」
「ユミちゃん、何もってきたの~?」
クリスティンさんがいつものニコニコ顔を向けた。今日のお茶うけのお菓子は、わたしが用意することになっていた。
「こないだは軟らかいマシュマロだったから、次は思いっきり硬いのがいいとのことでしたので・・」
鞄とは別に手にしていた小さな紙袋からそれを取り出した。醤油味のおせんべいだった。
「わーお。ライスクラッカーだね」
「鬼瓦せんべいです。とっても硬いんですよ」
「へぇ~、どぉれ?」
クリスティンさんに1枚手渡すと、かぷっと咥えた。が・・
「え?!噛めないわよぉ!」
と歯が立たないご様子。わたしは手で4つに割って 、一片を口に入れてばりぼり噛み砕きながら
「割ると食べやすいですよ」
と、ひとかけらクリスティンさんの口に入れた。それでもうんうん言っている。
「ぜんぜん噛めないわ!こ、これが日本のお菓子・・・。解った!これ忍者の携帯食料ね!激しく厳しい野外活動、荒れ狂う天候、長期に渡る隠密行動、そんな任務にもびくともしない携行食、ヘビーデューティー・ライスクラッカー。それが鬼瓦せんべいなのね!」
「がうっ!」とがしゃがしゃ破片を飛び散らせながらハウルさんは食べてた。
「なるほどね。忍者の携帯食料か。確かにいざとなったら、これ投げつければ武器にもなりそうだわ」
「そっか、手裏剣も兼ねてるのね!食料兼武器なんてさすがはオリエント、ミステリアスだわぁ~」
「・・新説ですね。日本人もびっくりです。わたしにはクリスティンさんの方がよっぽどミステリアスです」
カーラさんはおせんべいをお茶に浸してた。
「こうすると軟らかくなるかな」
「それ、おばあちゃんの食べ方です」
「ええー?!」
カーラさん残念そうな顔をしていた。
そこに丘の下へ4人ほど3年生の男子が歩いてきた。バケツや小さいシャベルを持っていた。ハウルさんはその人達に手を振った。
「やっほー」
するとその男子先輩達も手を上げて答えた。どうやら知り合いのよう。先輩達は丘の下からこっちに向かって声を張り上げた。
「穴埋めたぞー」
「モグラの穴は埋めなくていいんだろ?同じくらいの数あったけど」
「ごくろーさーん。ばっちり、 ばっちりー」
穴埋めた?ああ、この人達がパターゴルフ同好会の方たちですか。あら、あの人・・
先輩達が立ち去ろうとしたら、その中の一人がわたしを見て、向こうも気付いた。
「げっ!そのメガネの、生徒会の!」
「な、なに?!」
わたしを指差して叫んだその先輩は、3年の安全委員の人だった。何度か消耗品をもらいに来て、わたしが出庫対応をしたので向こうも覚えていたみたい。騒ぎになりかけている生徒会にばれないうちに証拠を隠滅しようとしていたので、生徒会の人間の前で例の穴を埋めたなどと発言してしまったから慌てているのだ。
わたしはすかさず人差し指を口に当てて、騒がないよう促した。
そしたらハウルさんがわたしと肩を組んで笑みを返した。
「こっちも内緒だよー」
一瞬きょとんとしたが、わたしは味方らしいと理解したようだ。事情の分かった4人は一様に安堵の色を顔に浮かべ、手を振って去っていった。
「ありがとね、裕美子。なんかうまくやってくれてるみたいで、生徒会の方からも詮索してくる様子がなくって助かってるわ」
「・・ハウルさん、学年も男女も関係なくお付き合いしてて、どこ行ってもいつも通りなんですね」
「ん?」
「いえ・・・すごいなぁと思って」
わたしなんか多少知っている人とさえ警戒してしまったり、身構えてしまったりして、必要最小限の話をするのがやっとだっていうのに・・。本当に関心してしまう。
「これ食べられるユミちゃんも方がすごいわよぉ~」
クリスティンさんはまだおせんべいと格闘していた。
次回「第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(5):無意識の危機感」へ続く!
前回のお話「第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(3):頼られるって」
対応する第1部のお話「第1部:第11章 7月のホタル鑑賞(1):2人で行けばよかったんじゃない?」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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第1部でクリスティンちゃんが、ユミちゃんがすごい硬いおせんべいを平気で食べていた、と言ったシーンがありました。それがこのお話です。第2部で登場させていただきました。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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by TSO (2014-03-31 23:11)