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<第2部:第10章 夏のエピソード(1):海へ出発> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第325回
<第2部:第10章 夏のエピソード(1):海へ出発>


部屋から持ってきた旅行鞄を玄関の床に下ろした。その横に朝刊がぽんと投げ捨てられたように置いてある。靴を履きながら、1面の下にある今日の運勢を探した。
いつもなら朝見ることはない。朝見てしまうと、書かれている事を気にしてしまって、その日の行動を制約してしまいそうだから。なのでたいてい夕方とか夜に見る。そうするともう終わってしまった1日と比較できて、その日のアドバイスは適切だったかを評価できる。

『そうすると、ほとんどいつも当たってないのよね』

後出しジャンケンのようで、占い師にとってはありがたくないことかもしれない。でも結果が一定であれば、それはそれでいい指標にもなる。12月生まれ欄をみると、

『今日はお出かけは控えた方がよいようです。友達や恋人もあまり相手してくれないかも。一人で静かに読書などがお勧めです』

「今日のわたしにはほとんど無理な注文だわ。・・でもいつも外れるってことから見れば、今日ほど旅行に行くのにいい日もないわね」

それに恋人もたくさん相手してくれるってことになるし。
あ、でも彼は恋人じゃないか。

旅行鞄を担ぎ上げ、玄関のドアに手をかけた。

「それじゃ、行ってきます」
「いってらっしゃい!気を付けてね!お友達いっぱい作ってきてね!」

見送りに玄関まで来ていたお母さんが、ものすごい喜んだ顔をしてこれまた大きく手を振った。

はいはい。なんですかその大げさなしぐさは。
・・まあ、そりゃ喜ぶのもわかりますよ?。
お友達から見放され、学校からも捨てられ、何も信用できなくなって、やり直すためにやってきた新天地のこの分校で、少なくとも見かけ上は何の問題もなく普通の高校生活を送ってこれた。それはわたしというより、周りの人達に恵まれたがらだろう。過去の恐怖に怯えて踏ん切りのつかないわたしを、ぐいぐいと引っ張ってくれている人達がいるからだ。あのどん底の中学時代を一緒に苦しんだ母親からすれば、学校が終わった夏休みにまで、クラスの自主企画にも参加するなんて言えば大喜びもするわよね。

「男の子と仲良くなってもぜんぜん構わないからね!!」

何を言ってるんだか、もう・・
その余計な一言がなければ素直にこっちも喜べるんだけどな。

「お土産なんかいらないからね。お父さんも向こうでのお話が聞ければそれで十分って言ってるし」
「わかりました。・・あの、何度も言ってるけど、学校に内緒の旅行なんだから、はしゃいで言いふらしたりしないでよ?」
「あははは。わかったわかった。手にでも書いとくから」

パタンっと玄関のドアを閉めた。

はぁ~。なんで親の心配を子供がしなきゃいけないのかしら。

エレベータで階下まで下り、マンションの外に出た。
青い空と遠くの入道雲。開放感あふれる夏の暑い日差し。薄手の生地の白っぽいワンピースが日差しを反射する。体も軽く、外で動くことに喜んでいるみたいだ。でも心はそこまで喜んではなかった。
これから大好きなあの人と会える。だけど・・あの人にはもう決まった人がいる。





集合場所の駅前に行くと、カーラさんとシャノンさんがいた。
カーラさんはTシャツとショートパンツに、こないだ買ったストローハット。
シャノンさんは袖のだぶついたTシャツに膝丈のサロペットパンツで、キャップをかぶって風船ガムを膨らましている。本人に言ったらとっても怒られそうだけど、とってもキッズだなぁ。
じきにハウルさんとクリスティンさんもやってきた。みんな手足をさらして健康的なピチピチ少女だ。そんな中でわたしだけがロングスカート。だって日焼け防ぐし、そもそも太ももを露出させるような格好は好きじゃない。

「よーし、みんな到着したね」

ハウルさんはケータイのメールをちゃかちゃかと打ち始めた。
みんなと言ったが、ここには今言った5人の女の子しかいない。C組全員が集合すると目立ってしまうので、いくつかの班に分かれて時間差で出発し、途中の乗換駅で全員が揃うことにしていたのだった。ただアロン君達は別だ。

ちょうどそこにバルンバルンとエンジン音が聞こえてきた。駅前のロータリーに入ってきたのは荷台に荷物を括り付けた3台のオフロードバイク。アロン君とレソフィック君、勇夫君のバイクだった。彼らは電車でなくてバイクでダリ・ビーチまで行くのだった。
電車と違って行く時間が明確に決まってないアロン君に、いきなり朝から会えたことで、やっぱり今日の運勢は当てにしちゃいけないことが決定した。

「うおーっす」
「おはよう。バイクに乗るときは早起きできるんだね」
「なんとでも言ってくれ」
「じゃ、ついでにあんたらのもっと」

ハウルさんはケータイをちゃかちゃかと操作した。

・・(ハウルの班は揃ったので出発しまーす。アロン達バイク班もやってきました。こいつらもすぐ出発させまーす)・・

ハウルさんはC組の連絡用チャットルームにメッセージをアップしたのだった。
アロン君達はバイクから降り、ヘルメットを脱いでミラーのところに引っかけるとこっちにやってきた。
アロン君と目が合った。わああ、嬉しいな。ぺこっとお辞儀した。

「ういっす!」

片手を上げて応えたそれは、わたしにというより、みんなにだった。

「お、おはよ。今日も暑いね」

カーラさんはカクカクとぎこちなく手を上げて挨拶した。

「勇夫、やる気満々ねえ」

勇夫君のバイクを見てハウルさんが笑う。勇夫君のバイクの荷台にはバッグの上から水中メガネとシュノーケルと足ひれが縛り付けてあった。

「あと銛を現地調達して、魚捕まえるんだ。焼いて食おうぜ」
「ほんと?一応期待しとくわ」
「もうすぐ電車くるわよぉ~」
「あ、急がなきゃ!売店でお菓子とか買う時間なくなっちゃう!あんたらもさっさと行きなさいよ。じゃね!」

ハウルさんとクリスティンさん、シャノンさんは改札へ向かっていった。
カーラさんとわたしは鞄を持ち上げると、アロン君たちに一言ずつ声を掛けていった。

「き、気を付けてね。またあとで会いましょ」
「事故起こしたりして問題起こさないでくださいよ」

うーん、言っといて自分でも思うけど、もっと親しみのあること言えないのかしら。
そんなだからアロン君も

「わ、わかってるよ。そんじゃな」

と笑ってはいるが口元を少しひきつらせて返事をしたのだ。


どるるるるっとエンジン音を響かせて、3台は元気に走っていった。


次回「第2部:第10章 夏のエピソード(2):快速シーサイドライン号」へ続く!

前回のお話「第2部:第9章 宿探しと美女の告白と許嫁(8):一度きりの今年の夏を」


対応する第1部のお話「第1部:第14章 夏のエピソード後編(1):臨海学校開校!」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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とうとう第1部との矛盾がでてしまいました。
第1部では地元の駅にC組全員が集合したことになっています。第2部ではご覧の通り分散して出発し、途中駅で集合という話になってます。
第1部ではダリ・ビーチまで行く道中の話は書かれていないので、このまま第2部の設定で話を進めさせていただくことにします。m(_ _)m


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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TSO

copperさん、Ujiki.oOさん、yamさん、いっぷくさん、ネオ・アッキーさん、(。・_・。)2kさん、げいなうさん、ぼんぼちぼちぼちさん、やってみよう♪さん、bitさん、shin.sionさん、niceありがとうございます。
by TSO (2014-09-23 20:29) 

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