<第2部:第10章 夏のエピソード(3):特急の通過を待ってます> [片いなか・ハイスクール]
「片いなか・ハイスクール」連載第327回
<第2部:第10章 夏のエピソード(3):特急の通過を待ってます>
駅に着いたタイミングで席に座る人の交代をした。次に座ったのはハウルさん、クリスティンさん、カーラさん、イザベルさん。シーサイド線の駅の停車時間は長く、5分から10分くらい停まっているので、男子達は駅のホームに出て体を伸ばしていた。
その次の停車駅は小さな駅だったが、特急の通過待ちで15分くらい停まるとのこと。
漁港の近くだったので、駅のホームには海産物を扱ってる出店が出ている。電車が入ってきたとたん、出店では何か焼きはじめ、煙が立ち上りはじめた。窓際の席に座っていたハウルさんが煙の匂いを嗅いでガバッと起き上がると、窓を全開にした。
「何アレ。・・・イカの丸焼きだって!美味しそう、行ってくる!」
そう言うと、全開にした窓から身を乗り出してホームに飛び降り、出店に走っていった。なおシーサイド線の駅は日本の電車のようにホームがドアと同じ高さにあるわけではなく、ほぼ線路と同じ高さ。だから窓から飛び降りるとなると結構な高さがある。
ホームに下りて背伸びしてたリーダーが、飛び降りてきたハウルさんを見て、大仰天。
「お!おまっ!おまっ!・・」
あまりの想像外の出来事に、リーダー指さすが声にならないでいる。
「食い物に命張ってるなあ」
と呆れ顔のミシェルさんやジョンさん達もホームに降りていった。
「あたし達も降りよっか」
カーラさんも席を立って、クリスティンさんやわたしを誘った。クリスティンさんは
「はいどうぞ」
と足を横にずらしてボックス席の間を開けた。みんなではてなマークを頭上に上げていると
「窓から出るんじゃないの?」
とニコニコして言った。
「そんなことハウル以外やらないよー」
「あらそぉ?それは残念」
いつもハウルさんのそばにいるだけあって、感覚がおかしくなっちゃってるのかしら。
イザベルさんは席に座ったまま動かない。
「行かないんですか?」
「行かない。余計なことしないで体力温存しなきゃ」
ホームに下りると、海の方を見てみようと、端の柵の所に行ってみた。
柵の向こうは斜面になっていて、5mほど下に道路が走っている。その道路の向こうは崖で、その下に入り江と漁港があるのが見下ろせた。
ははぁ、あの漁港で揚がった魚介を売ってるのね。
ふと道路を見ていると、3つの点がやってくるのが見えた。
あっ、あれもしかして・・。
「カーラさん、あれ、バイクですか?」
近くにいたカーラさんを呼ぶと、一緒に近付いてくる点を見守った。間違いない。後ろに荷物をくくりつけたバイク、アロン君達だ。
「アロン君達だよ。気付くかな」
カーラさんが手を振る。わたしも一緒に道路の方に身を伸ばして手を振った。
気付いたのかどうか分からないけど、先頭を走っていた赤いバイク(勇夫君だ)は、迷わずこの駅に方に曲がってきた。あとの2台もそれについて行った。
「こっちに来たよ」
カーラさんは嬉しそうにわたしの方へ笑顔を向けると、改札の方に歩き始めた。やっぱりアロン君が来たから喜んでるのかな。わたしも、勿論喜んでるもの。
改札の所で外を覗いてると、ハウルさんが串に刺さった焼きイカを喰わえてやってきた。
「どうしたの?」
「アロン君達らしいバイクが今来たのよ」
カーラさんが答えてすぐ、向こうに勇夫君を先頭にしてアロン君とレソフィック君がやってきた。
「あ、お前らの電車、今この駅に停まってんのか?」
「そうなの。特急の通過待ちよー」
3人は入場券で改札の中に入ってきた。勇夫君はハウルさんが喰わえているイカを見て、
「あーっ、見つけてやがったか」
と何だか悔しそうに言った。
「だってこれ見よがしに焼いてるの見せつけてんだもん。団扇で煙を電車の方に向かって扇いでたわよ」
「ちきしょー」
アロン君は改札をくぐると、わたしの横にやってきた。見上げてその顔を見る。嬉しくてほころんでしまう。
「手、振ったの見えました?」
「ああ、見えたよ。もう一人はカーラ?」
「はい。それでここ寄ったんですか?」
「んにゃ。ここは勇夫の希望で元々寄る予定だったんだ。近くの港で揚がった新鮮な魚介が食えるってんでさ」
カーラさんが寄ってきた。
「そ、そ、それじゃ、あたし達と会えたのは、ぐ、偶然?」
あら、どうしたのかな、ぎこちなくなって。
「そうだね。だってそんなに長く電車が停まってるとは思ってなかったし」
レソフィック君も話に加わってきた。
「勇夫がさ、ここで旨いもん食って、後でハウルに自慢してやるって言ってたんだ。けど、まさか先越されてたとはなあ」
「考えてみりゃ、こんな人もろくに降りない駅なのに、駅のホームに出てる屋台が有名なんて変だったよな。からくりは停車時間が長いからってことか」
「おー、無事やってきたな」
ジョンさんやミシェルさん達も気付いてこっちにやってきた。みんなに囲まれてしまったので、わたしは輪の外にはみ出されてしまった。残念。せっかくわたしのところに来てくれたのに。
・・来て、くれたのかなぁ。だとしたら、嬉しいな。学校のお仕事で一緒になるの普通になったから、気を許してくれてるのかも。
カーラさんは?
カーラさんもアロン君の輪からはみ出されてしまっていたが、レソフィック君に話しかけられてた。
「カーラもせっかくだから何か食えよ。貝とかも旨いらしいぞ」
「ハウルに付き合ってたら、こっちが太っちゃって危ないわ。さっきだって電車の中でお腹の贅肉確かめ合うのが流行っちゃって危うかったんだから」
「なんだそれ。カーラの腹、出てんのか?」
「し、知らない!」
「へへへー。ま、今しらばっくれてても、ダリ・ビーチで水着になったら鑑定してやるから」
ばちーんと痛そうな張り手がレソフィック君の背中に向けて炸裂し、ベーッと舌出した。
カーラさん、レソフィック君とは随分素直に感情を出すんだな。
そのうち特急電車が通過し、ホームにアナウンスが流れた。
・・(間もなく快速電車が出発します。乗車遅れませんようお気をつけ下さい)・・
「次は宿か?」
「そうだな」
「気を付けてね」
わたし達も電車に戻ることにした。その前にアロン君の前を通ったので一言。
「事故起こさないで下さい」
「は、ははは・・」
『また、やっちゃった・・。なんで、もっと優しい言葉、掛けられないのかしら・・』
「勇夫!そのツブ貝の串焼き、1個でいいからちょうだい!」
「なにー?じゃあそのイカの串焼きくれよ」
「しょ、しょうがないな。ゲソのところあげてもいいでゲソ」
ばくっと勇夫君がイカの足に噛みついた。
「あ!1本だけよ!」
「無理だ、ドケチ!」
3本くらい食い千切った。
「勇夫、それじゃツブ貝2コ!」
「ハウル~、早く~」
クリスティンさんが窓から身を乗り出しての呼び掛けに焦ったハウルさんは、勇夫君が持ってる串に噛みついた。
「あっ!3つ取った!」
「うふはいなー(うるさいなー)」
ハウルさんは3つ引き抜いたうち、一番外側のを口から取ると、勇夫君の口に突っ込んだ。
「うはっ!唾液付いてる!」
「大丈夫、間接キッスだし!」
ハウルさんはだーっと走ると、電車の扉の所には行かず、窓に直行した。そして窓から手を伸ばしたカーラさんとクリスティンさんに引き上げられた。
それを見ていたアロン君が呆れてた。
「戦時中の列車じゃねえんだぞ」
勇夫君は何だか顔を真っ赤にして咀嚼も疎かになって立ち尽くしていた。ハウルさんの間接キッスが刺激的だったみたい。
3人に手を振られて、わたし達の快速電車は、一足先に駅を後にした。
次回「第2部:第10章 夏のエピソード(4):ダリ・ビーチで露店に寄ってます」へ続く!
前回のお話「第2部:第10章 夏のエピソード(2):快速シーサイドライン号」
対応する第1部のお話「第1部:第14章 夏のエピソード後編(1):臨海学校開校!」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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イカ娘のようなセリフがありましたが・・
ハウルちゃんは人生謳歌してますね。うらやましい。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
ぽちっと応援してください。
<第2部:第10章 夏のエピソード(3):特急の通過を待ってます>
駅に着いたタイミングで席に座る人の交代をした。次に座ったのはハウルさん、クリスティンさん、カーラさん、イザベルさん。シーサイド線の駅の停車時間は長く、5分から10分くらい停まっているので、男子達は駅のホームに出て体を伸ばしていた。
その次の停車駅は小さな駅だったが、特急の通過待ちで15分くらい停まるとのこと。
漁港の近くだったので、駅のホームには海産物を扱ってる出店が出ている。電車が入ってきたとたん、出店では何か焼きはじめ、煙が立ち上りはじめた。窓際の席に座っていたハウルさんが煙の匂いを嗅いでガバッと起き上がると、窓を全開にした。
「何アレ。・・・イカの丸焼きだって!美味しそう、行ってくる!」
そう言うと、全開にした窓から身を乗り出してホームに飛び降り、出店に走っていった。なおシーサイド線の駅は日本の電車のようにホームがドアと同じ高さにあるわけではなく、ほぼ線路と同じ高さ。だから窓から飛び降りるとなると結構な高さがある。
ホームに下りて背伸びしてたリーダーが、飛び降りてきたハウルさんを見て、大仰天。
「お!おまっ!おまっ!・・」
あまりの想像外の出来事に、リーダー指さすが声にならないでいる。
「食い物に命張ってるなあ」
と呆れ顔のミシェルさんやジョンさん達もホームに降りていった。
「あたし達も降りよっか」
カーラさんも席を立って、クリスティンさんやわたしを誘った。クリスティンさんは
「はいどうぞ」
と足を横にずらしてボックス席の間を開けた。みんなではてなマークを頭上に上げていると
「窓から出るんじゃないの?」
とニコニコして言った。
「そんなことハウル以外やらないよー」
「あらそぉ?それは残念」
いつもハウルさんのそばにいるだけあって、感覚がおかしくなっちゃってるのかしら。
イザベルさんは席に座ったまま動かない。
「行かないんですか?」
「行かない。余計なことしないで体力温存しなきゃ」
ホームに下りると、海の方を見てみようと、端の柵の所に行ってみた。
柵の向こうは斜面になっていて、5mほど下に道路が走っている。その道路の向こうは崖で、その下に入り江と漁港があるのが見下ろせた。
ははぁ、あの漁港で揚がった魚介を売ってるのね。
ふと道路を見ていると、3つの点がやってくるのが見えた。
あっ、あれもしかして・・。
「カーラさん、あれ、バイクですか?」
近くにいたカーラさんを呼ぶと、一緒に近付いてくる点を見守った。間違いない。後ろに荷物をくくりつけたバイク、アロン君達だ。
「アロン君達だよ。気付くかな」
カーラさんが手を振る。わたしも一緒に道路の方に身を伸ばして手を振った。
気付いたのかどうか分からないけど、先頭を走っていた赤いバイク(勇夫君だ)は、迷わずこの駅に方に曲がってきた。あとの2台もそれについて行った。
「こっちに来たよ」
カーラさんは嬉しそうにわたしの方へ笑顔を向けると、改札の方に歩き始めた。やっぱりアロン君が来たから喜んでるのかな。わたしも、勿論喜んでるもの。
改札の所で外を覗いてると、ハウルさんが串に刺さった焼きイカを喰わえてやってきた。
「どうしたの?」
「アロン君達らしいバイクが今来たのよ」
カーラさんが答えてすぐ、向こうに勇夫君を先頭にしてアロン君とレソフィック君がやってきた。
「あ、お前らの電車、今この駅に停まってんのか?」
「そうなの。特急の通過待ちよー」
3人は入場券で改札の中に入ってきた。勇夫君はハウルさんが喰わえているイカを見て、
「あーっ、見つけてやがったか」
と何だか悔しそうに言った。
「だってこれ見よがしに焼いてるの見せつけてんだもん。団扇で煙を電車の方に向かって扇いでたわよ」
「ちきしょー」
アロン君は改札をくぐると、わたしの横にやってきた。見上げてその顔を見る。嬉しくてほころんでしまう。
「手、振ったの見えました?」
「ああ、見えたよ。もう一人はカーラ?」
「はい。それでここ寄ったんですか?」
「んにゃ。ここは勇夫の希望で元々寄る予定だったんだ。近くの港で揚がった新鮮な魚介が食えるってんでさ」
カーラさんが寄ってきた。
「そ、そ、それじゃ、あたし達と会えたのは、ぐ、偶然?」
あら、どうしたのかな、ぎこちなくなって。
「そうだね。だってそんなに長く電車が停まってるとは思ってなかったし」
レソフィック君も話に加わってきた。
「勇夫がさ、ここで旨いもん食って、後でハウルに自慢してやるって言ってたんだ。けど、まさか先越されてたとはなあ」
「考えてみりゃ、こんな人もろくに降りない駅なのに、駅のホームに出てる屋台が有名なんて変だったよな。からくりは停車時間が長いからってことか」
「おー、無事やってきたな」
ジョンさんやミシェルさん達も気付いてこっちにやってきた。みんなに囲まれてしまったので、わたしは輪の外にはみ出されてしまった。残念。せっかくわたしのところに来てくれたのに。
・・来て、くれたのかなぁ。だとしたら、嬉しいな。学校のお仕事で一緒になるの普通になったから、気を許してくれてるのかも。
カーラさんは?
カーラさんもアロン君の輪からはみ出されてしまっていたが、レソフィック君に話しかけられてた。
「カーラもせっかくだから何か食えよ。貝とかも旨いらしいぞ」
「ハウルに付き合ってたら、こっちが太っちゃって危ないわ。さっきだって電車の中でお腹の贅肉確かめ合うのが流行っちゃって危うかったんだから」
「なんだそれ。カーラの腹、出てんのか?」
「し、知らない!」
「へへへー。ま、今しらばっくれてても、ダリ・ビーチで水着になったら鑑定してやるから」
ばちーんと痛そうな張り手がレソフィック君の背中に向けて炸裂し、ベーッと舌出した。
カーラさん、レソフィック君とは随分素直に感情を出すんだな。
そのうち特急電車が通過し、ホームにアナウンスが流れた。
・・(間もなく快速電車が出発します。乗車遅れませんようお気をつけ下さい)・・
「次は宿か?」
「そうだな」
「気を付けてね」
わたし達も電車に戻ることにした。その前にアロン君の前を通ったので一言。
「事故起こさないで下さい」
「は、ははは・・」
『また、やっちゃった・・。なんで、もっと優しい言葉、掛けられないのかしら・・』
「勇夫!そのツブ貝の串焼き、1個でいいからちょうだい!」
「なにー?じゃあそのイカの串焼きくれよ」
「しょ、しょうがないな。ゲソのところあげてもいいでゲソ」
ばくっと勇夫君がイカの足に噛みついた。
「あ!1本だけよ!」
「無理だ、ドケチ!」
3本くらい食い千切った。
「勇夫、それじゃツブ貝2コ!」
「ハウル~、早く~」
クリスティンさんが窓から身を乗り出しての呼び掛けに焦ったハウルさんは、勇夫君が持ってる串に噛みついた。
「あっ!3つ取った!」
「うふはいなー(うるさいなー)」
ハウルさんは3つ引き抜いたうち、一番外側のを口から取ると、勇夫君の口に突っ込んだ。
「うはっ!唾液付いてる!」
「大丈夫、間接キッスだし!」
ハウルさんはだーっと走ると、電車の扉の所には行かず、窓に直行した。そして窓から手を伸ばしたカーラさんとクリスティンさんに引き上げられた。
それを見ていたアロン君が呆れてた。
「戦時中の列車じゃねえんだぞ」
勇夫君は何だか顔を真っ赤にして咀嚼も疎かになって立ち尽くしていた。ハウルさんの間接キッスが刺激的だったみたい。
3人に手を振られて、わたし達の快速電車は、一足先に駅を後にした。
次回「第2部:第10章 夏のエピソード(4):ダリ・ビーチで露店に寄ってます」へ続く!
前回のお話「第2部:第10章 夏のエピソード(2):快速シーサイドライン号」
対応する第1部のお話「第1部:第14章 夏のエピソード後編(1):臨海学校開校!」
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イカ娘のようなセリフがありましたが・・
ハウルちゃんは人生謳歌してますね。うらやましい。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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