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<第2部:第11章 ピクニック(3):カレシ候補選び?> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第343回
<第2部:第11章 ピクニック(3):カレシ候補選び?>


畑に近い公園に集まったとはいえど、直接畑に出向いて農産物を採ったり買い付けてくるというわけではない。町と畑との境には収穫した農産物を集荷するところがあり、市場に卸されていくだけでなく、そこで直売もしていた。裕美子達はその直売所へ果物を買いに来たのだった。

「甘くて瑞々しい果物ならなんでもいいですから。お好みのものを選んでいいですよ。選別は後でします」
「幾つくらい持ってくればいいのぉ~?」
「うん・・、ハウルさんや男の人達の食べる量が予測しづらくて・・。実物見て調整します」
「オッケー。まずは食べたいもの選らんでくればいいね」

入り口にあったカートを掴んで、それに乗っかって、ガーッと直売所内に突入していくハウルと、
「ダメ!人牽いちゃう!降りなさい!」
と、いつもの緩いイメージをかなぐり捨てて追いかけてくクリスティンを不安げに見送る裕美子。カーラは裕美子の横でぼーっと立っていた。


裕美子は心ここにあらずな感じのカーラを連れて売場を一回りし、ハウル達は選んでこないかもしれないレモンや、ゼラチンや砂糖とかの果物意外の物を揃えた。
向こうからカートをキックボードのようにしてハウルがやってきた。カーラも我に返るほどそのカートにはフルーツの山が積まれていた。

「ハウル、それ多すぎじゃない?だれが食べるの?」
「意外と食べられるんだって。果物はのど越しいいしさー。明日どうせ暑いし」

一緒にいたクリスティンも疑問に思いながらも、ひとまずそのままでやってきた。

「でも水分多いから、トイレに行きたくなりますよ?きっと」
「そしたらいけばいいでしょ。我慢は体の毒よ。近くにトイレくらいあるところ行くんだよね?なけりゃ藪の中でも・・・」

そんな野生児なハウルに、カーラ思いっきり嫌な顔をする。

「やーよ、そんなの」
「でもハウルさん。そのままでなくてちょっと加工しますから、少し減らしましょう」

そう言ってカートの中に転がる大玉のスイカの1つを取り出した。ずっしりくる重さに、これ1つでも十分な量じゃないだろうかと思った。
他にもオレンジ、桃、パイン、青リンゴ、キウイフルーツ、これは・・プルーンかな。

「どうしよう。タッパーとかに入る量じゃなさそう・・」
「洗面器とかでいいじゃん」
「洗面器いー?!」

カーラがまたハウルの凄い感覚にダメ出しする。

「せめてお鍋とか・・」
「あるある、おっきいお鍋もいくつかあるから。それにうちの冷蔵庫大きいから平気だって。でっかいの作って持ってこうよ」
「ハウルの家はみんな食いしん坊だもんねぇ~。でもそんなおっきいの作っても、持っていける人もハウルしかいないわよー」




買出しの後はハウルの家に行った。そこでは裕美子の指導でデザート作りが始まった。作るのはフルーツのゼリー詰め。フルーツが凄い量あるから、ゼリーはほとんどいらないかもしれない。

作りながら、話は明日会う男の人達のことになっていった。

「ところであの連中、誘ったらやっぱり即答だったでしょ。夏休みだってのに彼女いないってのも寂しい話よねぇ」

そっか。アロン君、今彼女いないのね。

と思ったところで、裏事情知らないカーラが開き直ったように言った。

「アロン君除いてね」

そうだった、みんなには許嫁がいることになってるんだった。

「カーラ、近くにいるほうが強いって。幼ななじみいない間にこっちに振り向かせちゃおうよ」

クリスティン達がカーラを応援する。でもカーラも簡単には乗ってこなかった。

「それよりハウルだって彼氏いない寂しい身でしょ。人のこと言えないわよ」
「そうよハウル。あなたにとってもまたとないチャンスなんだから、ね?」

ハウルに矛先が向かうと、クリスティンは容易にそっちへ乗ってきた。

「なぁに、あたしもあの連中から選べっていうの?」

?。何かしら、この流れは。

「だって、わたし見る限り、いままで一番長く遊んでるわよぉ、あの男の子達と。いつもすぐ飽きちゃうか逃げられるかするのに」
「ぷぷっ」

ハウルががばっと立ち上がってカーラを指さした。

「カーラ!今笑ったでしょ!」
「気のせいよ、気のせい」

あは、そうか。ハウルさんについてこれる男子は今までいなかったって言ってましたもんね。だからオリエンテーリングで行動一緒に取ってた勇夫君のこと、凄いってクリスティンさん感心しきりでした。

「もう・・・、確かに今までの中では格段に打たれ強いかも・・誰が私の僕(しもべ)かしら」
「しもべ!」

カーラが思わず叫ぶ。

今回のバーベキューだって、こっちからお願いしておいてしもべ扱いですか?それはアロン君達もたまったもんじゃありませんね。

「まずその考えを改めることからしないと、向こうが振り向いてくれないわよ」

ハウルさん、振り向いてもらうとか、そういうこときっと考えてないんでしょうね。

「クスクス」
「裕美子!笑ってる!」
「き、気のせいです」

あれだけ気の合う勇夫君にハウルさんは何の意識もないのかしら。あまり男の人だからどうとかいうのはなさそう・・

「まったくもう・・。アロンが予約済みとなるとレソフィックか勇夫じゃない。あ、リーダーは生徒会つながりで裕美子とだもんね。でしょ?。リーダー、裕美子に気があるみたいだし」

『え・・・、ええ?!』

急に自分がこの話題に乗っかってることにびっくりした。しかも相手がいるらしい!

「リーダー、一生懸命気を引こうとしてるよね。なんかうまくないけど」

のほほ~んとふんわりした笑顔で、くり抜いてる最中のメロンをクリスティンは口に入れた。

「あっ」

そ、それゼリーに入れる身です!

「あわ、はへひゃっふぁ(あら、食べちゃった)。」

ニコニコしてもぐもぐしてるクリスティンを見て、材料食べちゃったことと、自分が話に出てきたこととに頭が混乱して、裕美子は動きが止まってしまった。
悠々とメロンを食べ終わったところでクリスティンが続きを始めた。

「でもそういう不器用なところあるけど、クラスのまとめ役としては立派よねえ。それで、ユミちゃんはどうなの?」
「あは、そ、そうですね・・」

わ、わたしと?リーダーですって?リーダーがわたしの気を引こうとしてる?そんなことあったっけ?そもそもなんでリーダーがわたしを??

そこに後ろからハウルが飛びかかってきた。それだけでなく頭を腕で挟んで締め上げてきた。

ななななななに???いたたたた!

「気のない返事して。リーダーは好みじゃないの?」
「いたい、いたいです、ハウルさん、ロープロープ!」

お父さんがテレビで見てたプロレスの技だと思い、ロープを探してエスケープしようとした。振り回した手に何か当たったので、さらに伸ばしてそれを掴んだ。すぐそれが服だと分かった。その下の感触にそれがブラジャーだというのもすぐに分かり、誰かの胸なのだとも分かった。ただそこからが違った。

「!?」

なにこの大きさ、ボリューム!
こ、これが自分と同じ性別の人?!
こ、これが、女性の、ム、ム、ムネ??

「はいっ。ハウル、やめなさい」

掴まれてたクリスティンはそのまま身じろぎもせずハウルを注意した。それでハウルはちょっとだけ力を緩めて、隙間から裕美子を覗き込んだ。

「ね、リーダーでいい?悪い人じゃないし、お話し相手くらいならいいよね?それとも好きな人いるの?」

こ、ここまでの話の流れからすると、もしかして、今回のピクニックはやってくる男子達との、カ、カップリングを狙ってるの?そ、それで、わたしのお相手候補がリーダー??
ええー?!

「あ、あの・・リーダーもみんなもいい人です。でも、わたしまだ恋愛するのは早い気がして・・と思うので・・」

リーダーは尊敬、してますよ。で、でも、恋愛の対象じゃない。そ、それに、わたしが好きなのは、ア、アロン君だし・・・

ハウルがじーっと裕美子の瞳を覗き込んだ。頭の中を全て見られてるようで、裕美子は思わず目線をそらした。ハウルはニヤリと笑った。

「ふふーん。思う人いるんだったらちゃんと伝えた方がいいわよ」

な・・、やっぱり、見透かされちゃったみたい・・・。

「で、ハウルどうするんだっけ?」

カーラが話を元に戻したのでハウルは裕美子の頭を解放した。解放された裕美子はデザート作りに戻った。でも耳はみんなの話に集中してる。

「しもべ?」
「あんたの家来じゃなくて、カレシ!レソフィック君か勇夫君2者択一じゃない」

か、彼氏・・やっぱりそういう目的で明日のやるんだ・・・。

さっきから突っ込まれてるハウルは天井を見上げながら思案していたが、困ったような顔をしてクリスティンに聞き返してきた。

「カレシってどんなことしてくれるんだっけ?」
「一緒に遊んだり、おしゃべりしたり、相談に乗ってくれたり・・」
「それじゃ今のまんまじゃない」
「手つないだり、腕組んだり、抱きしめてくれたり・・ときにはチュッってしてくれるのよ」

裕美子はボフッっと顔が熱くなった。カーラもほっぺたを赤くしてハウルの方へ前のめりになった。

「うわー、どっちにしてもらいたい?」

やや引いて逃げるハウル。

「チュウはいいから、どっか食べに連れてってくれたり、遊び行くと冷たいジュース出してくれたり、肩がこってたらもんでくれたりもするのかなぁ」
「なんかカレシじゃない方に軌道修正されてない?」
「別に遊び相手だからって無理に彼氏じゃなきゃってことないでしょ」

あ、そうなんだ。必ずしも彼氏にしなくていいのね。

「相性からいったら勇夫君よねえ」

にこにこしながらクリスティンがカーラに同意を求める。

「そうね・・不思議と行動が一致するというか、あっちも同じくらい突拍子もないことするし・・」
「いさお~?」

ハウルは妙に嫌そうな反応をする。

「じゃ、レソフィック君にしてみる?」

こっちはもっと存外なようだった。

「う~ん・・・なんかあの人は見通しているように見せて裏表ありそうな・・・僕(しもべ)にするなら勇夫かなあ」」
「だからカレシだって」

彼氏だろうが家来だろうが、ハウルさんに着いていけるのは勇夫君以外いなさそうですケド。

裕美子もそう思ったところで、クリスティンに頭を撫でられた。

「うふふ。明日になればわかるわよ。自然と」
「そうするとクリスティンはレソフィック君だけど、彼でいいの?」

カーラの問いに裕美子はビクッとした。オリエンテーリング前後の時の印象がまだ拭えず、いまいちまだレソフィックへの信用が持ててなかった。

あんな人にクリスティンさんを?

ほわほわしたクリスティンが汚されるというか、壊されてしまうような感じがした。

「そうねえ・・相手してくれるかしら?」

だめです!相手してくれてもあんな人とは・・・

「おや、相手してくれたらオッケーなんだ。こないだ3年の先輩の交際申し込み断ったでしょ。あれよりレソフィックの方がいいんだ~。でもあんなのが好みだったっけ?」
「でも・・・膝枕してあげようって思うにはきっかけが足りないかな」

裕美子は驚いて包丁の動きを止めた。

あんな人の傍にいるだけで汚されてしまいそうだというのに・・それも、それも、

「膝枕ですか」

クリスティンさんから膝枕してあげようだなんて・・

カーラがクリスティンの一点をじーっと凝視して凄いことを言った。

「その豊潤な胸に抱いてあげた方が喜ぶわよ」
「いやん。それはもっときっかけが足りないわ」

カーラはクリスティンの大きな胸を見て言ったのだった。裕美子はさっきそれを偶然触ってしまって、自分のものからは想像つかない異次元の感触を実感した後だったから、さらに驚いた。

「き、きっかけがあればやりますか」

きっかけさえあれば、ここであの人を抱いてしまうなんて・・そ、そんなことも許しちゃうんですか・・?

「やってもいいわ。でもどうかな?・・好きになるにはそういう運命的なことがほしいわよね。あるなら喜んでよ?」

よ、喜んで?!ええ?!

「ほえぇ~」

カーラも驚きと感嘆の声をあげて裕美子に目線を向けた。二人して見つめ合ってその驚きを共有した。

わかります。わかりますよ。わたしも驚いてます。

「クリスティン、そういうとこ結構明快なのねえ」

運命なら、喜んで・・か。・・・それはそうか。運命的な繋がりを感じ取れたなら膝枕くらい、胸の中で抱きしめたりくらい、したくなるか・・。わたしだって、アロン君相手なら、きっとそう思うに違いないもの・・。

たくさんあった果物もキューブ状になり、ハウルの家にあった大きな透明な容器にそれを詰めると、隙間を埋めるようにゼラチンと砂糖を溶かした液を流し込んだ。さらにもう一つ、浅い容器にもフルーツを敷き詰めてゼラチンの液を流し込んだ。そしてその上にビスケットを敷き詰めた。

「これで冷蔵庫にしまって、固まったら出来上がりです」
「へ~え、簡単だったねぇ」
「この小さい容器のは後でみんなで食べましょう。だからハウルさん、こっちのは手付けないで明日持ってきてくださいね」
「な、なによ、私が食べちゃうとでも思った?信用してないんだからー」
「ユミちゃん、その判断はとってもグッドよぉ~」
「少なくともかじられたみたいに欠けたのが来そうだよね」
「もう!カーラまでそういうこと言う!」
「うふふふふ。それじゃ冷えるまでお茶でもしましょう。ハウル、紅茶どこだっけ?」


しばらくして、固まった浅い容器の方を取ってきた。
容器から中身を取り出してひっくり返すと、

「わ、フルーツタルトみたいだ」
「タルト生地のかわりにビスケットかあ。これはお手軽なアイディアねえ」
「すみません、大雑把で」
「そんなことないよぉ、ユミちゃん、すごおい」
「クリスティン、紅茶もう一杯!」
「ハウル~、ここあなたのお家よぉ~」


みんなでフルーツタルトもどきを食べると、今日はお開きとなった。

「それじゃ、明日駅でね」
「ハウル、ゼリー忘れずに持ってきてよ」
「クーラーボックスに保冷剤と一緒に入れて持ってきてくださいね」
「ハウル、食べちゃダメだからね!」
「カーラぁ、私そこまで食い意地張ってないわよー」
「私が見張っとくから大丈夫よ~」
「では、失礼します」
「お邪魔しましたー」


帰りの道中、独りになると、裕美子は複雑な心境で色々な事を考えながら歩いた。

『まさか明日のバーベキューがカップリングを目指してのものだったとは・・・。クリスティンさんはハウルさんと勇夫君をくっつけようとしてるみたい。そしてカーラさんにはアロン君を・・・。カーラさんはハウルさんたちには話してたみたいだし、そしたらみんなも応援するよね。』

行動したもの勝ち。何もしなければ取られてしまう。そんなの分かっていたこと。それ以前に、わたしにはそんなことしていい資格がないんだから。
カーラさんとアロン君はいいカップルになるよ。だからわたしも応援しなきゃ・・。

『だけど・・・やっぱり胸が痛い・・』

締め付けられる胸に、目線は地面ばかりを捉えていたが、ふと目を上げた。

『そうだ、わたしにもカップリング候補の相手がいたんだった。ど、どうしよう』

それはC組のリーダーことチャンさん。生徒会にわたしを引き込んだ人。しかもどうやらわたしに好意を持っているらしい。そういえば・・わたしのやることいろいろと褒めたりしてたもんなぁ。
わたしが過去に傷を負っていることで恋人になる資格なんかないといっているのは、アロン君に対してだけじゃなくて、それは他の人であっても同じことだ。だからリーダーであっても同じだ。わたしなんかと一緒になったらリーダーも傷ついてしまう。リーダーも不幸になってしまう。

『もし、そういう申し込みがきちんとあったときは、ちゃんと断らないとだ・・』

こんな所に、わたしいていいんだろうか。わたしのような人はいちゃいけないんじゃないだろうか。

裕美子はだんだん明日のバーベキューが重荷に感じられてきた。


次回「第2部:第11章 ピクニック(4):バーベキュー当日」へ続く!

前回のお話「第2部:第11章 ピクニック(2):恐れていた明確なライバル(2)」


対応する第1部のお話「第1部:第15章 ピクニック(6):女の子達から見ると?」 「第1部:第15章 ピクニック(7):カレシか僕(しもべ)か」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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第1部と同じ場面を裕美子ちゃん視点で振り返えりました。試作品を一足先に食べていたんですね。この部分は第2部加筆です。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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