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<第2部:第11章 ピクニック(8):お片付けして帰りましょう> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第348回
<第2部:第11章 ピクニック(8):お片付けして帰りましょう>


午後3時過ぎ、まだ日差しはきつかったが、みんなは片付けに入っていた。リーダーだけはまだフラフラしていた。
リーダーに飲ませてたしまった裕美子はかなり気まずい思いをしていた。予想以上にリーダーは具合が悪くなったようで、冷たいゼリーは食べたが、その後また横になってしまった。まあキャパシティのほとんどは昨夜レソフィックによって決壊させられていたから、誰が止めを刺すかという状態ではあったのだが・・・

『リーダー、悪いことしちゃった・・。いくらちょっと一人になりたかったからって、体に障るようなことはすべきではなかったわ・・。お酒の効果はもっと必要迫られたときに使うようにしないと・・・』

危険でも有用な使い方自体は捨てないところがしたたかな裕美子であった。

「リーダー、休んでて。わたしがその分ちゃんとやりますから。はい冷たい手拭い」
「わ、悪いですよ、裕美子さん。僕だって動けます、多分・・」
「ううん、いいんですよ。悪いのはわたしの方です。大丈夫ですから、ゆっくりしてて。はい。」

裕美子は冷やした濡れ手拭いをチャンの額に乗せた。感激のチャンは「すみません」と言って横になった。

「ほう、リーダーの代わりをやるって事は、俺の手伝いするってんだな。じゃあちょっとこのバーベキューグリル、バラしてもらおうか」

まだ熾火が燃えて熱気ムンムンのグリルの横で、勇夫が人差し指でこっちこいと合図してるのを見て
『遠慮はしてくれなさそうですね』
と覚悟しようとしたところで、ハウルが勇夫をドロップキックした。勇夫は前のめりに倒れて鼻っ柱を石にぶつけた。

「しもべのくせに私の友達をこき使おうというの?百年早いわよ」
「いってえ!何すんだ!」
「こんな熱々の危険なところで女の子に作業させようなんて、どんだけ遠慮ないのよ」
「俺ぁ男女平等に扱う主義なんだ!」
「いい心懸けだけど、女の平等は時と場合使い分けるんだからね。読みとりなさいよ」
「本音を堂々と言うなー!」
「じゃあ平等にやろうじゃないの。裕美子、こっちは私やるからいいわよ」
「え?だ、大丈夫ですか?」
「あなたよりは多分私の方が丈夫だろうから。任せときなさい。さて、この熱いのがいけないのよね、冷やしてやるわ」

そう言うとグリルの脚を掴んで持ち上げた。

「うげっ。ハウル何する気だ」
「川にたたき込んで一挙に消し去る」

そう言って川に向かって走り出した。

「うわわ!ま、まて、それ俺も昔やったけどー!!あちっ、炭がこぼれてる!」

ハウルと勇夫は悶着しながら川に向かって走り去っていった。大丈夫だろうかと心配していたら、後ろから現れたアロンがため息混じりに言った。。

「あのまま川に入れたら川が汚れるし、急に冷やすとグリルが歪んだりして、いいことないんだよね」
「あっ、そ、そうなんですね」
「まあいいや、ハウルは勇夫に任せとこう」

そう言ってアロンは自分の片付けを続けた。空き缶や使い終わった紙皿などを分別してゴミ袋に詰めていた。裕美子も手伝おうかと思ったら、カーラがやってきた。

「あ、あ、あの、あたしも、手伝うね」
「おー、サンキュー」

『そ、そっか。アロン君のペアはカーラさんだっけ。ここは譲ってあげなきゃ・・』

そっとそこを離れた。だけど、その行為はものすごく悲しい想いにとらわれるものだった。

『アロン君を応援しなきゃなのに・・。分かってることなのに・・。なのにこの悲しさは何?選ばれたのはやっぱりカーラさんだったから?』

・・・いいえ、誰であってもきっと変わらない。あなたの隣をわたしが埋めてはいけないのだから。





「荷物まとまったかな。忘れ物ないか?」
「大丈夫でーす」
「じゃあ引き上げようか」

片付けを終えたアロン達は駅に向かって歩き出した。バーベキューをした渓谷状のところから駅の方の広くなっているところまでは道があるわけではなく、石ころがごろごろした河原の中を歩いていく。食料や飲み物は消費したので荷物は軽くなったが、その代わりにゴミや空き缶に変化したので、見かけの量(かさ)は結構ある。そんなのを手分けして持っているから歩きづらかった。

「食い物とか減ったって言ったって、みんなの腹の中に移っただけだから、来たときとトータル量は変わってないんじゃねーの?」

レソフィックがそういうとアロンがけたけた笑いながら応じた。

「それじゃ勇夫とハウルが一番持って帰ってるな」
「え?じゃあ私の持ち物もう少し減らしてもよくない?」

と言ってもハウルが持っているのは行きも帰りもデザート用のクーラーボックスだ。カーラがくすくす笑った。
「あんたのはそれ以上減らしようないわよ。中身もずいぶん自分で持ち帰ってるんでしょうし」
「ぶーっ」
「ところで電車の時間、何時だ?」

レソフィックの問いで時計を見た勇夫が急に慌てだした。

「げっ、あと10分後だ。みんな走るぞ!」
「えーっ?」

歩きにくい河原だとういうのに、バーベキューグリルが入ったキャリアを担いで勇夫がずだだだっと走っていくものだから、みんなも仕方なく走って追っかけていった。






来たときは15分ほどかけて行った道のりだったが、走ったおかげで行きの半分くらいの時間で川原を抜け、少しゆとりを持って駅に到着できた。とはいえ暑い真夏である。

「あちーっ。汗止まんねーぞ」
「だってこれ逃したら次また30分後だぞ」
「30分なら待ってもよかったですぅ~」
「ちんたら歩いてりゃ駅で待つ時間そんなになく駅に着いたんと違うか?」
「融通利かないんだから。ちっとはご主人様気使いなさいよ、僕のくせに」
「なんだ、良かれと思って走ったのに!みんな俺が悪いんか!」

裕美子はチャンの方が心配だった。ようやく動けるくらいに回復したばっかりというところで、駅まで走らされたのだ。なんだか顔色がすぐれなかった。

「リーダー、だ、大丈夫ですか?」

しかし朝からぜんぜんいいところを見せられてないので、チャンももう無理してでも気丈に振舞おうとしていた。慰められてばっかりではいられない。

「も、問題ありません」

『わぁ、もういかにも無理してますよぉ。・・あぁ、悪いことしちゃったなあ』






電車に乗ると、行楽地帰りの客が少し乗っていたため、男子と女子に別れて座るようになった。
女子のところではクリスティンがニコニコしてみんなに聞いて回っていた。

「カーラ、今日どうだった?うまくいった?」
「う・・ん。酔ってた間はよくわかんないけど、いっぱい相手してもらった気がする・・」
「酔ってる間はもうベタベタだったよねぇ~」
「そうねー」
「ひっぐ!」

カーラ、真っ赤になって変な声をあげた。

『あぁ、これでカーラさんとアロン君のペアは公認かぁ。ゆるいなりにも、カーラさんは仲間に自分の気持ちを伝えてたし・・・そうなっちゃうよね・・』

裕美子は改めてがっかりした気持ちでいっぱいになった。

『でも、分ってたことだし、応援しなきゃ、アロン君を・・』

「ユミちゃんは?ずっとリーダーと一緒だったけど、いい感じになった?」
「・・ごめんなさい。今日はリーダー具合よくなかったので・・。それに午後のはわたしが原因ですし、面倒見て上げなきゃなのは当然の状態でした。リーダーもこの状況は本意ではなかったと思うし・・今日は、進展なし、です」

『もしリーダーが、本当に好意を寄せてくるようなことがあるんだったら、その時はちゃんと断らないと・・・。でも、今日のようなシチュエーションであったら、断りにくかったろうなぁ・・』

「裕美子、リーダーが酔って調子悪かったのは朝からのことなんだから、気にすることないわよ。悪いのはあっちだから。いつまでチャンスを生かせないでいるつもりかしらねえ」
「そういうハウルはチャンスを生かせたのかしら?ずっと勇夫君と遊んでたけど」
「な、なによ。しもべとして使える奴って再認識したわよ」
「遊んでて楽しかった?」
「そ、そうね。ずいぶん一緒にいたけど、退屈しなかったわ」

クリスティンがハウルにずいっと顔を寄せて迫った。

「間違いないわ!もう決めちゃいなさい。他にいません、ハウルの彼氏になれる人」
「やめてったら。しもべだから、あいつは」
「うふふふふふ。じゃあもうグループ交際は決定でいいわよねえ」
「ク、クリスティン、そういえばレソフィック君とは?」

カーラが一番グレーだった人を思い出した。

「えへへへ、付き合おうって言われちゃったぁ」
「えええええええ!!!」

クリスティン以外の3人が仰天して席から立ち上がってしまった。

「オ、オッケーしちゃったの?!」
「したわよぉ?付き合うって言っても、それらしい仲になるかどうかはこれからのことでわからないけどぉ」
「ふええええ」

カーラが目を丸くしている。

『嫌ああ!クリスティンさんが、よりによってレソフィックさんに、け、汚されるー!』

カーラや裕美子の心配をよそに、クリスティンはいたって平然として言った。

「カーラもユミちゃんも、もっと気楽にお付き合いしてみればいいと思うけどなぁ」

一番何もなかった人が、いきなり先頭を突っ走っているということが分り、立ち上がった3人して顔を見合わせてしまった。






夕方、片いなかの駅に戻ったところで解散となった。
駅の改札を出ると、ハウルが男の子達の方に振り向いて言った。

「楽しかったわ、ありがとうみんな」
「うわ、ハウルどうしたんだ、やけに素直だな!」

いつものようにアロンがいたずらっ子な調子でハウルをからかった。

「あんた、変な印象私に持ってない?いつだって私は思ったとおりのこと言ってるよ?」
するとカーラと、レソフィックまでもがハウルを弁護した。

「そうよ、アロン君。ハウルはいつもこういったことには正直よ?」
「俺もそう思う。いまどき本音で付き合える女友達って、ありがたいと思うぜ」

こうなるとさすがにアロンもこれ以上悪ふざけはできなくなってしまった。

「悪かったよ・・いつものように俺が変にからかってるだけだから・・・。俺はこのグループのカラっとした、へんな言い方だけど女子っぽくないさっぱりした雰囲気が気に入ってるんだ。それはハウルのおかげだと思ってるから。また遊ぼうな。勇夫も喜んでたし」
「ああ。俺も今日はすごく楽しかったよ。ハウルって女っぽくないのな、女言葉でしゃべってるんだけどさ」

勇夫は毎度自分の視点でマイペースである

「あああ、もいういいよ!褒められてんだかなんだか、よくわかんないよ、君達!」

ぜんぜんありがたくなさそうにハウルが突っ返す。はははっと男共は苦笑いした。クリスティンが仕切り直した。

「まあまあ皆さん。一応ペアも決まったみたいだし、これからもよろしくお願いしますね。それで・・ここから愛が芽生えたら、もっといいですね」
「え?ほ、本当に今日のにはそういう魂胆が?」

女の子側が本当にそういったことを考えていたことにアロンは驚いた。はっと横を見ると、そこにはうつむき加減のカーラがいた。そういえば今日はほとんどカーラと一緒だった。カーラは肯定も否定もせずもじもじとしていた。
その様子をメガネ越しに見ていた裕美子は、胸の前に置いていた手をぎゅっと握り締めた。

いつかこうなることは判りきっていた。
だから影でアロン君を支える。それが自分の立ち回り方だと決めたんだ。
でも・・こんなつらい気持ちになるなんて・・・耐えられるんだろうか。

「基本はグループ交際だから。無理に愛人になることないけどね」

ハウルが珍しくぶつぶつと小声で言った。上目っ面にした目線は、微妙に勇夫の方を見ていた。勇夫もハウルをちらっと見た。目が合ったハウルはさっと目線を逸らしてしまった。
しかし勇夫は今日ほとんどをハウルと一緒に遊んでいたことは認識したが、「交際?」とその先のことにはどうも考えが及ばないようで、意味が理解できないような顔をしていた。
カーラも、「そ、そうそう、グループ交際ね」と、それ以上意味はないと言いたげに硬い笑いをアロンに向けた。するとクリスティンがカーラをつっつきながら付け加えた。

「お気に入りの人はいっぱいひいきにしていいですからね」

ハウルがピンと背筋を伸ばすと男の子達に言った。

「とにかくね、また声かけるから。いつでも遊べるように暇しといてよね」
「ハウルらしいや。了解」
とアロン。
「それじゃ、我らがリーダー。締めの挨拶で解散しようぜ」

レソフィックが木にもたれ掛かっていたチャンを前に引き出した。チャンは電車の中でも降りてからも一言もしゃべってなかった。駅まで走って電車に飛び乗ったことで、血の巡りがよくなってアルコールが全身にくまなく回ったようで、手足まで赤くなっていたが、顔はどちらかというと赤黒いような色になっていた。

「お・・おう。あ・・の・・・・・」

ここまで我慢していたものが、口を開けたことで許可が下りたかのように込み上げてきた。

「うえ、げろげろげろげろ」
「うわあ、やったー!」
「きゃあー!」
「わぁぁ、リーダー大丈夫?大丈夫ですか?」

裕美子は真っ先に駆け寄って背中をさすった。今日の自分のエスコート役でありながら、自分のせいでこんな目に合わされたリーダーだ。責任を感じて一生懸命介抱する裕美子だった。



しばらくして何とか治まったリーダーだが、椅子に座ってがっくり首を落としていた。

「まったく誰だ、こんなに飲ましたの」

レソフィックがやれやれという感じで言った。裕美子がそこに、わたしが悪いんです、と言い出そうとしたところで、すっとクリスティンが裕美子をさえぎって前に出た。

「昨日の夜からいっぱい飲ませちゃったんでしょう?」
「でもさあ、醒めかけてたところに今日追い討ちで飲んだんだろ?」
「朝からすっきり醒めていれば、こんなにはならなかったでしょうし、せめて午前中だけでも楽しく過ごせたんじゃないかしら。せっかく楽しみにしてたのにねぇリーダーも。ねえ?昨夜たくさん飲ませたレソフィック君」
「うひ?」
「ユミちゃんも1日介抱じゃなくて、もっと遊びたかったよねぇ」
「え?わ、わたしそんな・・」
「お家までちゃんと送ってあげてね。これ以上女の子の前で恥じかかせちゃ可哀想よぉ、昨夜たくさん飲ませたレソフィック君」

クリスティンはいつものように屈託のないニコニコ顔で話しかけていた。なのに、脅迫してるかのようなオーラをひしひしと感じるのはなぜだろう。そのプレッシャーを感じ取ったレソフィック、青くなってリーダーに肩を貸した。

「と、当然送ってくよ。リーダー、家までもうちょっとだから、がまんな。はっはっは」
「さすがぁ、レソフィック君。あ、夏休み中にデート誘ってね」
「わ、わかった。はっはは」

『クリスティンさん、すごい。レソフィックさんをもう完全に手懐けちゃってる感じ・・』

「じゃあみんな、またね」

ハウルが手を上げた。

「すまなかったな、みんな・・」

リーダーが力なくも挨拶した。

「お、お大事に」

裕美子は腰を折ってリーダーを送った。

「め、めんぼくない」

顔を上げると、横にいたレソフィックと目が合った。

「・・そのうち、補導されますよ」
「ひっ!」

勇夫とアロンの前に行ったとき、アロンに声を掛けられた。

「またな、小泉」

くるっと顔を回してアロンを見た。あの幼なじみの秘密を共有する仲間への気を許した笑顔だった。うれしかったが、その隣に並べられないのだと思うと、複雑な気持ちだった。

「ありがとう。また・・呼んでください」
「じゃあね、ユミちゃん」
「ユミちゃん、またねぇ」

カーラやクリスティンも手を振ってくれた。裕美子はお辞儀をして別れた。






一人帰り道を歩きながら、裕美子はまた物思いにふけった。

準備から始まって、色々あったけど・・。わたしを遊びに連れ出してくれるような女の子のお友達ができて、グループ交際しようなんていう男の人のお友達もできて、高校生活を謳歌している。
ここ来る前には考えられない。誰から見ても普通の高校生になれた。
男の子のお友達の中にはわたしの好きな人もいて・・・、でもその人には他の女の子が彼女になろうとしている。こういう片思いに苦しんでるところも、普通の高校生。
誰からも拒絶され、誰とも顔もあわせたくないと思った日から思えば、なんて贅沢な悩みなんだろう。贅沢な環境なんだろう。これ以上何を望む必要があると言うの?

『・・・・』

なぜ、満たされないの?
なぜ・・涙が、出てしまうの?

『・・・・』

神様、今日まで色々与えてくれて、ありがとう。
でも、まだ恋は、早かったです。
こんなわたしには、きっと、いらなかったものです。
神様、気前よすぎです・・。

『・・・・どう、したら、いいんだろう・・』


次回「第2部:第12章 女の子たちのグループ交際反省会(1):男子を捕捉できず」へ続く!

前回のお話「第2部:第11章 ピクニック(7):あれは二人だけの思い出に」


対応する第1部のお話「第1部:第15章 ピクニック(14):いつでも暇しといてよね!」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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第11章、後1話というところでほのぼの4コマを優先掲載してましたので、間もだいぶ空いたことから緊急アップすることにしました。
裕美子ちゃんとしてはアロン君をカーラちゃんに取られちゃったわけで、でもカーラちゃんのことは認めているし・・と複雑な心境に陥っております。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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