SSブログ

スト魔女二次小説:水音の乙女 ~第11話~ [スト魔女二次小説]

第11話「推薦者」


新たな脅威、潜水型ネウロイが東南アジアの海に出現した。それはシャムロ湾からインドシナへと被害範囲を広げつつあった。

危険回避のため、インドシナ沖からシンガポールを通過する航路の船は出港を停止するか、ボルネオ島の東を大回りしてシンガポールに向かうか、ジャワ島のスラバヤを経由地として、スマトラ島とジャワ島の間のスンダ海峡からインド洋に出るようなルートを指示されている。その影響は、輸送コストの上昇と着荷の大幅な遅延。試算によるとおよそ1ヵ月後、欧州に到着する物資の量の激減で露になるという。
クロム、ニッケル、ボーキサイト、錫、ゴム、石油、木材などの資源。
香辛料や米、お茶、コーヒー、タバコ、砂糖などの食料。
そして何より、扶桑からの武器弾薬や人員の支援。
今更ながらに欧州は、その重要性を気付かされることとなった。

当初欧州の国々は、大西洋や地中海に同じような潜水型ネウロイが現れることを危惧して、情報収集のためにシンガポールへ調査団を派遣した。東南アジアで今現在も暴れている潜水型ネウロイの被害そのものには、地球の裏側の事件という遠い存在くらいに思っていた。
しかしそのネウロイを排除しないと、最悪扶桑が脱落するかもしれないということに気付いたのだ。

物量的には援欧州の大部分がリベリオンやノイエ・カールスラントなどから来ているとはいえ、少ないながらも扶桑は精鋭部隊・高性能の機材を送り込んでおり、扶桑がいなくなる影響は計り知れない。人類総力戦となっている戦いは、世界のどこのバランスが崩れても、うまく立ち行かなくなるのだ。


ちょうどシンガポールには各国が潜水型ネウロイについての調査団を送っている。メンバーの大部分は海軍の軍人だ。
ブリタニアとカールスラントは、調査団はそのままシンガポールで東南アジアの潜水型ネウロイの討伐について話し合うよう指示を出した。話し合いに応じたのはブリタニアとカールスラント、扶桑、リベリオンの4カ国。シィーニーの尋問が終わるなりすぐ開催されることとなった。





------------------------------



潜水型ネウロイ討伐の会議が始まる前、ブリタニア代表団は、シンガポール司令スミス大佐の執務室で紅茶を飲んで時間をつぶしていた。

会議にはシンガポール司令部からもスミス大佐が同席することになっていた。
スミス大佐は調査団代表のハリソン大佐と笑談していた。

「やはり今度のネウロイは、潜水艦と見立てて対処するんですかな?」
「まずはそうしてみるしかないでしょう。いずれにしろまったく初めての水中型ネウロイだ。刃を交えてみないことには判らんと思います」
「しかし先日ここから出撃した海防艦も対潜能力はあったはずなのに、何の抵抗も、それどころか連絡することさえできずにやられてしまった。本当に潜水艦と見立てて大丈夫ですか?」
「スミス大佐。ここにあった海防艦はかなり古いものでしょう?最新の艦の装備はかなり進んでますよ」

島流し状態の東南アジアの基地に、まともな装備などあるはずもない。それを知っているハリソン大佐は哀れみの目でシンガポール司令の顔を眺めた。

「真ですか。さすがに今回の調査団は潜水艦の専門の方が多くいて助かりますな。私では今回の会議、ついて行くのが精一杯。しかし他の国はどうですかな?」
「カールスラントは問題ないでしょう。あちらも潜水艦隊のメンバーが来てましたから。リベリオンはフィリピン駐留の部隊から来ているから怪しいですな。扶桑の代表団は現地の部隊から人が出ているそうですが、どうなのですか?」
「扶桑のシンガポール根拠地隊のメンバーはそれほど詳しくないと思いますが、本国から来てる中に潜水艦の解る者がいると聞いています」
「ならいいですが。おそらく扶桑には、ここでの戦いの主力になってもらわないとならなくなるでしょうからな」

東南アジア方面の海上に、まともな戦力を出せる国はほとんどない。扶桑、植民地権益をまだ確保しているブリタニア、扶桑から援助を受けているシャムロ王国、ブリタニアの援助を受けるインド連邦くらいである。
東アジアに植民地を持っていたネーデルランドやガリアは、本国がネウロイに陥落されてしまったため、各植民地は野放し状態となり、うやむやの独立を果たしていた。各地に竹の子のように乱立したガリア正統政府すら立ち上がらなかった。
そこにあった武器(もともといずれも旧式ではある)は独立した現地軍が接収したが、動かすこともできないでいる。
そのようなわけだから動けるのは実質、扶桑とブリタニアのみということになる。ただリベリオンは未知数だった。


その時、ビーッ、ビーッ、と建物内でブザーが鳴った。

「ちょっと失礼しますぞ」

そう言ってスミス大佐は執務室の電話を取った。

「司令室を。・・・ああバーン大尉か?私だ。どうした?」

・・(クアラルンプールに爆撃型ネウロイが来襲しました。数5。駐屯部隊が応戦中です。シィーニー軍曹を叩き起こして待機させます)・・

「・・・迎撃には向かわせないのかね」

・・(大佐。クアラルンプールはシンガポールから200キロ圏外です。基本方針としてシンガポールが攻撃目標でない限り向かわせることはできません)・・

「・・よろしい。軍曹を待機させたまえ。接近の兆候があったら出撃を。その時は会議中であっても私に連絡をくれ」

・・(分かりました)・・

ふう~っとため息を付いてスミス大佐は電話を置いた。

「守備的基地の200キロ縛りですか」
「ええ。シンガポール空軍はここの防衛が任務。ここから200キロ圏内に侵入したものは迎撃しますが、その外のネウロイは例え町や村が襲われていようと傍観するだけ。攻勢に出てはいけない植民地基地に敷かれている原則です」
「それにマレー方面で戦力を持っている空軍基地はシンガポールだけだ。ペナン基地から空軍を引き上げたときは、マラヤ政府からずいぶん反対されたものです」
「詳しいですな」
「私の兄が植民地省にいましてな。私も短期間ですが在籍していたことがあるのです」


すると窓の外でガラガラガラと大きな扉を閉める音がした。見ると、滑走路脇の格納庫の扉を急いで閉めようとしていた。
スクランブル機がいるはずの格納庫なのになぜ?
その時、中からブオオオーッとストライカーユニットのうなるエンジン音がし出したが、ガコーンと扉が閉まったことで、エンジン音は籠もるような音に変わった。そして

「出撃させなさいよー!!」

というエンジン音に負けない叫び声が聞こえた。シィーニー軍曹の声だ。
軍曹が無理やり飛ぼうとしたものと思われる。

「後で宥めてやらんとだな」

そう言ってため息をついたスミス大佐は時計を見た。

「そろそろ行きますか」

滑走路には格納庫から漏れ聞こえる「飛ばせてヨー!」と叫ぶシィーニーの声が響いていた。



------------------------------



ブリタニア、カールスラント、扶桑、リベリオンによる対潜水型ネウロイ討伐の会合は、インドシナ沖で暴れているネウロイを潜水艦と見立てて狩るということで意見は一致した。
ただ対潜水艦戦というのは各国とも未経験なうえ、これまであまり研究されてこなかったことからノウハウがなかった。
というのは、ネウロイが海洋に進出してこなかったこともあるが、人間同士の大規模な国と国の戦いが、潜水艦が急速に発達した近年は発生してないからだ。
そのような中で、ブリタニアが提供することになった兵器は際立っていた。

会議室では、議長を務めたカールスラントの調査団団長が纏めをしていた。

「では今後は商船隊を組み、護送船団方式を取るということにします。船団集合地は、南下船団が香港としHK船団と呼称、北上船団がシンガポールでSG船団と呼称します。最短の船団出航は12月15日。これをブリタニア、扶桑、リベリオンの現在の手持ち戦力で護衛します。準備期間が短いですが、各国ともよろしくお願いします。
ネウロイ討伐の根本対策ですが、先ほどの案を元に、各国とも至急選任部隊の編成と展開を検討ください。今後の作戦は、統合軍太平洋方面司令部で調整を取ることとします。
ブリタニアの最新兵器搭載の駆逐艦がシンガポールに到着するのは・・?」

カールスラントの団長がブリタニアの団長に目を向けた。その目はとても友好的なものには見えなかった。

「喜望峰経由ですから、来年初頭、になるでしょう」

ブリタニアの回答を受け、議長が続けた。

「扶桑、リベリオンの部隊展開もそこを目標とします。特に空母派遣の検討はぜひともお願いします。
では。」

カールスラントの団長の敬礼と、それへの答礼で会議は終わった。
各国代表団は会議室を出て行った。

皆が去った後も残っていたのは会場を提供したブリタニアの調査団。
スミス大佐はハリソン大佐に、資料を片付けながら話しかけた。

「カールスラントは不審の目を隠そうともしませんでしたな」
「我々は島国です。近くであのような高性能な潜水艦を見せびらかせられていれば、備えるのは当然でしょう」
「我々が戦っているのはネウロイでしょう?」

嘲笑気味の笑いを隠しハリソン大佐は答えた。

「赤道近くの植民地は隣国も気持ちも大らかになっていいですなあ」

だから君達は左遷組なのだよ、とハリソン大佐は心の中で呟いた。



------------------------------



ブリタニアのシンガポール司令部から扶桑のシンガポール根拠地隊基地へ移動する車の中で、会議に出た扶桑の参謀達も会議を振り返っていた。

「ブリタニアの連中、なんであんなに対潜作戦に詳しいんですかね?水中探信儀の性能差は歴然でしたし、最新兵器まで開発してて」
「前方投射型対潜爆雷『ヘッジホッグ』。説明の通りだとしたら画期的だ。まあ一月後、本物で真価を見させてもらうさ」
「水中探信儀を使いながら攻撃できるというのが凄いアイディアです。普通の爆雷は潜水艦の真上を通過しながら攻撃しますから、探信儀も聴音機も攻撃中は使い物になりませんから」
「それと広範囲な哨戒は電探装備の航空機で行うのが効果的であるとの指摘もあった。研究をしていたとしか思えんな」
「どこかを仮想敵国としてたんでしょうか?」
「どちらも自覚してたようじゃないか。カールスラントのあの険悪な目つきを見なかったのかね?」
「ああ」
「カールスラントのUボートですか」
「ブリタニアの連中、こんなことも起きるのではと思ってたなんて、まるで予見してたかのようなこと言ってましたが?」
「あれは体のよい言い訳に決まっとる」
「しかしネウロイが潜水艦もどきを出すような事態になったことを考えると、それも幸いだったな。それはさておき、問題は航空機での哨戒の件だ」
「基地航空隊の配備はいいだろうが、空母はどうかな。帰ったら軍令部に急ぎ連絡だ」

艦船が装備するソナーの探知範囲は狭いので、船団の前方哨戒や航路の監視、そして索敵活動となると、航空機でないととてもじゃないが広い範囲を見きれない。そして洋上浮上中や浅深度の潜水艦は航空機から見つけやすい、というのがブリタニアの指摘だ。

沿岸航路の監視・哨戒は基地航空隊で賄える。しかし輸送船団の直衛や、陸上から遠く離れた海上での哨戒を航空機で行うとすれば空母、ということになる。地中海方面でのブリタニア空母がまさにそういった任務に就いていた。
しかしブリタニアは全空母を欧州で運用しており、東洋艦隊へ派遣する余裕がなかった。これから新造される小型空母も欧州向けである。
リベリオンでも小型空母の大量建造が始まり、元々扶桑もそれの供与を受ける予定にはなっていた。しかし商船改造空母とはいえ、今日明日に完成するようなものではない。

そこで扶桑の既存の空母の派遣が望まれたのだが・・・



------------------------------



東京の海軍軍令部。

シンガポールでの潜水型ネウロイ討伐の会合結果を受け、専任部隊編成についての話し合いが行われていた。

「いまだ一度でも見つけることができないでいる得体の知れない敵がいる危険海域に、虎の子の空母を派遣するわけにはいかない。それが扶桑海軍の方針だ」
「虎の子の空母を守るのもいいですが、その前にその空母が守るべき国が先にくたばるかもしれないですぞ。石油が入ってこなくなれば空母だって動けなくなります」
「だが我が扶桑の艦隊型空母は打撃力を重視した設計だ。哨戒任務もできなくはないが、オーバースペック、いや余計な装備がありすぎて不効率。損害を受けたら割りが合わん」
「特設航空母艦はどうですか?」
「大鷹級も全て欧州とを往復している艦隊の護衛に就いております。特設といえど手隙の艦などありません」
「カールスラントの客船で本国に帰れなくなったのを譲り受けて空母に改装した『神鷹』がまもなく就役するのでは?」
「あれはカールスラント製のボイラーが扱いきれなくて、機関を換装するらしいではないか」
「そうなると、やはりリベリオンからの護衛空母が来るまでは・・」

会議室は腕組して考える者で一杯になった。

「なら水上機母艦は?特設水上機母艦」

みんなの顔が持ち上がった。
そうだ。特設水上機母艦なら貨物船から2,3週間の改装で投入できる。安価な上、偵察・哨戒という任務ならその程度の船でも十分だ。失っても貨物船ならそれほど惜しくはない。

「しかし徴用していた特設水上機母艦はもう解役してしまって、商船に戻っているのでは?再徴用ですか?」
「艦籍に残っているものがないか至急調べてくれ」



------------------------------



そのころ、欧州ロマーニャで一人の扶桑人ウィッチが扶桑に電話をかけていた。電話の先は横須賀海軍航空ウィッチ教練隊。相手はそこの教官をしている元ウィッチだった。

「潜水型ネウロイが出たというのは本当なのですか?・・・本当なんだ・・・。
それでは、一人の少女を探して欲しいのですけど。3,4年前に私が適性検査をしたことがある娘で、そっちに資料が残っているはずです。その子、固有魔法で水の中を見ることができるんです」



続く


前の話
次の話


Copyright(c) 2009-2016 TSO All Rights Reserved




今回もウィッチ達の登場場面のない、状況を形作る話で終始してしまいました。退屈なのでこの辺にしたいところですが・・。
さて、探ししてほしい少女とは、もちろん天音ちゃんのことでしょう。いよいよお呼ばれされそうです。
電話の主は、そして電話の先は誰でしょうか?(オリジナル設定の中から選びました)

一方シィーニーちゃんは、町が攻撃を受けていても出撃させてもらえません。悲しいかな植民地兵が守るのは彼等の国土ではなく、植民政府の基地。

ブリタニアは対潜兵器の開発をしっかり続けていたようですね。海上封鎖されて餓死寸前に追い込まれた人類同士の世界大戦はこの世界にはなかった筈ですが、したたかな国です。仮想敵国とされたカールスラントも思わず顔に出てしまったようです。

特設航空母艦「神鷹」。我々の歴史では、日本に寄港した後で大戦を迎えてしまい、神戸港で放置状態になったドイツ豪華客船「シャルンホスト」を改造した空母です。高圧高性能のワグナー式ボイラーを積んでましたが、日本では扱いきれず、通常の日本製ロ号艦本式ボイラーに交換するなどしたため、就役まで大変な時間を要したという艦です。本作でも同じ状態のようで。



にほんブログ村 小説ブログ 漫画・アニメ二次小説へ
にほんブログ村
気に入ったらぽちっとしてください。

本作品は二次小説投稿サイトの「ハーメルン」にも同時掲載していきます。

nice!(27)  コメント(0) 
共通テーマ:コミック

nice! 27

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。


☆☆ 災害時 安否確認 ☆☆




この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。