<校外展覧会絵画展(7):再びポタ山> [片いなか・ハイスクール]
「片いなか・ハイスクール」連載第131回
<校外展覧会絵画展(7):再びポタ山>
家に帰ったアロンはデジカメを持つと、バイクを出してカーラの家に行った。
「アロン君、わざわざありがとう」
「いいよいいよ。小泉の言う通りバイクなら15分もかからないんだ」
折りたたんであったステップを出すとアロンは先にまたがった。
「乗っていいよ」
「えっと、どうすれば・・背、高いねこのバイク」
「オフロード用だからね。大丈夫だよ、バイクは足で支えてるから」
「よいしょ。うわぁ高い・・。アロン君、こわいわ・・ど、どこつかんだらいいの?」
「俺の腰のところ掴むといいよ」
カーラは夏を思い出そうとした。
『夏、ユカリさんてどうやって乗ってたっけ。ぴたってくっついてる風でもなかった気がするし、とっても自然だった。やっぱり乗り慣れてたのかな・・』
「いい?行くよ」
アロンはバイクを少し走らせた。
「うわわ、怖い!ちょっとゆっくり行こ!」
「カーラ、ひざの内側で俺を挟むんだよ。ニーグリップっていうんだ」
カーラは赤くなりながら、手だけでなく、膝も使ってアロンを挟むようにすると、特に体は密着させなくても体が安定した。
『アルコール入ってるカーラなら、きっと聞くまでもなく抱きついてるだろうにな。なんでそんなに変わっちゃうんだろ。こないだはキスまでしてきたのに』
しらふだと妙に控えめなカーラを背中で感じながらアロンは思う。
「し、失礼します・・・ほんどだ・・。走っても怖くなくなった」
「よし、じゃ行こう」
「うん」
しばらくして安定したと見るや、アロンは少しスピードをあげた。
「・・・・ユカリさんってバイク乗り慣れてる感じだったね」
カーラがしみじみと言う。
「え?」
アロンは一瞬焦った。
「そ、そういえばそうだったね」
アロンはややごまかしも兼ねて勢いよく言った。
「よーし、慣れたら景気よく行くよ。OK?!」
「お、お手柔らかに!」
ばるるるっと一路ポタ山目指してバイクを走らせた。
ポタ山にはおよそ20分で到着。中腹の駐車場にバイクを止めると、歩いて山頂へ向かった。
「今日はこないだより遠景が霞んでるぜ」
「描く手間が省けていいんじゃない?確かキャリーの担当範囲は町の展望があるところだったから」
ポタ山はその展望ゆえ、デートにもよく使われる。山頂への道でも数組のカップルがいた。
『私もあんなふうに腕組んで歩きたいなあ。せっかく2人きりなのに・・』
手の届くところにアロンはいる。その気になれば腕くらいすぐ掴める。いきなりやったら嫌がられるかな・・。
展望台への最後の道のりは、丸太を土止めにしたなだらかな階段である。
階段脇のベンチにもカップルが仲良く座って楽しそうにしている。カーラはうらやましそうにそれを横目で見ていた。しかしアロンは気に止める様子もなく階段を登っていってしまった。
カップルを気にしながらカーラが階段を登っていると、登り始めてすぐ、アロンの声がすぐ傍でした。
「カーラ、そこ危ない」
「え?わあああ!」
カーラが足を掛けた丸太の階段が腐って朽ち果てていて崩れたのだ。
カップルを見ていたので、足元に気付かず思いっきり体重を乗せてしまった。
とっさにアロンがカーラの腕を掴むと、ぐいっと強く引っ張った。カーラももう片方の足が慌てて丸太の端っこを蹴ったので、前かがみになりながらも頭から飛び込むような姿勢でアロンに突進した。
アロンは片足を引きながらカーラの突進を受け流すと、もう片方の腕でカーラの首回りをかこむように引き込み、カーラがはがれ落ちないよう抱き抱えて受け止めた。
「危なかった!よそ見してたから気付いてないなと思って、近くに寄っといてよかった」
カーラがアロンの胸から顔だけあげた。しばらくぽかんとしたが、次第にその顔が紅潮していった。
そして慌ててアロンから体を引きはがした。
「だ、抱きついちゃった!ご、ごめんなさい!」
アロンはまだ取ったカーラの腕を掴んだまま
「大丈夫だった?」
と聞き返した。
「あ、ありがとうアロン君・・ごめん、思いっきりタックルした気がする」
「そうでもないよ。引きながら受け止めたから」
「・・・ごめんなさい・・抱きついちゃって・・・」
「平気だって。俺ってなんかカーラと一番スキンシップとってるよね。酔ってるときが大半だけどさ・・」
カーラは一瞬恥ずかしさで蒸気機関車のようになった。
「よ、酔ってるときは普通じゃないから!何やってるんだか自分でもわかんないし!」
妙にムキになって、アロンを指さしながら言った。
「あんなときのこと、本気にしちゃだめよ!」
きょとんとするアロン。
カーラも落ち着きを取り戻すと、すぐ顔を曇らせた。
「ヘ、ヘン・・だよね。呆れるでしょ・・」
「元気があって、その方がカーラらしい感じするけど?・・・」
『酔ってるときのはやっぱ勢い余ってるだけなのかなあ・・』
アロンもカーラを読み取るのに必死である。
「歩ける?」
「あ、大丈夫」
アロンがカーラに手を差し出すと、やや堅いながらもさすがにその手を拒むことはしなかった。
「海賊事件のときは、もっときわどいところ俺もカーラに助けてもらったっけ」
「・・・あの岩場で落ちそうになったとき?あれ、ユミちゃんとだったし・・」
そう言ってカーラはふと思った。
そうだ、裕美子とだった。
『ユミちゃん、不思議とアロン君の近くによくいる気がする・・。別に呼んでるわけじゃない、呼びよせてるわけじゃない、意図的でもない・・けど・・必然的にいなきゃいけなかったりする。・・・そういえばこないだの映画も、今日も・・・偶然だけど、ユミちゃん、いる』
展望台への階段を登りきった。
展望台は、台というより山頂の丘一帯のなだらかな傾斜部分がそっくり広場になっている。天気はいいが、遠くは霞んでいた。
「方向はどっち?」
「えっと、こっちよ。ほんとにわかっててここ来た?」
「えへへ、危なかったかも。カーラに来てもらってやっぱりよかった」
「えー?」
キャリーの担当範囲は、下に噴水のある広場が見え、その背後は数本の木があって、あとは町が霞んで見える展望のいいところ。アロンはデジカメを構えて撮り始めた。
「確かに町は霞んでて細かく描けないから、今日の方が楽かもな」
何枚か撮るとアロンはカーラの横にやってきた。
「日がまぶしいね。見える?」
アロンが体で影を作ってデジカメの画面を見せた。肩がぶつかるほど横に来たのでカーラは体をこわばらせた。
「こんな感じでどう?どれも代わり栄えしない写真だけど。もうちょっと違うアングルがあるかな?」
「う、ううん、いいと思う。こ、これプリントしましょう」
「じゃあカメラ屋行くか。リーダー達、もう着いてるかな?」
「リーダー、それでユミちゃん口説いてると思う?」
「はあ、あり得るな」
カメラ屋ではリーダーが早々と待っていた。しかし裕美子はまだいなかった。
「裕美子さん来ないなあ。アロンとカーラが来るまでの間、いろいろ話ができると思ったのに」
大分経ってようやく裕美子が現れた。
「やあ、ご苦労様。遅かったですね」
「リーダー、早いですね。そんなに慌て来なくっても、アロン君達そうすぐには来ませんよ」
「来るまでの間、話でもしていれば暇ぐらいつぶせるかと思って」
「あら、そんな話でしたっけ?わたし家で一休みしてきちゃいました」
「ああ、いやいや、別に約束もしませんでしたから」
『しまったあ!ちゃんと約束しとけばよかった!』
リーダー心の叫びである。
「カーラさん、まっすぐこっち来てくれてるかしら」
ほどなくアロンのバイクがやってきた。
「お待たせー。待った?」
「わたしも今来たところです」
アロンとカーラは向き合うとニヤっとする。
「あんまり一緒にいた時間はないみたいね」
次回「校外展覧会絵画展(8):次なる手」へ続く!
前回のお話「校外展覧会絵画展(6):行かずして風景を描く」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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<校外展覧会絵画展(7):再びポタ山>
家に帰ったアロンはデジカメを持つと、バイクを出してカーラの家に行った。
「アロン君、わざわざありがとう」
「いいよいいよ。小泉の言う通りバイクなら15分もかからないんだ」
折りたたんであったステップを出すとアロンは先にまたがった。
「乗っていいよ」
「えっと、どうすれば・・背、高いねこのバイク」
「オフロード用だからね。大丈夫だよ、バイクは足で支えてるから」
「よいしょ。うわぁ高い・・。アロン君、こわいわ・・ど、どこつかんだらいいの?」
「俺の腰のところ掴むといいよ」
カーラは夏を思い出そうとした。
『夏、ユカリさんてどうやって乗ってたっけ。ぴたってくっついてる風でもなかった気がするし、とっても自然だった。やっぱり乗り慣れてたのかな・・』
「いい?行くよ」
アロンはバイクを少し走らせた。
「うわわ、怖い!ちょっとゆっくり行こ!」
「カーラ、ひざの内側で俺を挟むんだよ。ニーグリップっていうんだ」
カーラは赤くなりながら、手だけでなく、膝も使ってアロンを挟むようにすると、特に体は密着させなくても体が安定した。
『アルコール入ってるカーラなら、きっと聞くまでもなく抱きついてるだろうにな。なんでそんなに変わっちゃうんだろ。こないだはキスまでしてきたのに』
しらふだと妙に控えめなカーラを背中で感じながらアロンは思う。
「し、失礼します・・・ほんどだ・・。走っても怖くなくなった」
「よし、じゃ行こう」
「うん」
しばらくして安定したと見るや、アロンは少しスピードをあげた。
「・・・・ユカリさんってバイク乗り慣れてる感じだったね」
カーラがしみじみと言う。
「え?」
アロンは一瞬焦った。
「そ、そういえばそうだったね」
アロンはややごまかしも兼ねて勢いよく言った。
「よーし、慣れたら景気よく行くよ。OK?!」
「お、お手柔らかに!」
ばるるるっと一路ポタ山目指してバイクを走らせた。
ポタ山にはおよそ20分で到着。中腹の駐車場にバイクを止めると、歩いて山頂へ向かった。
「今日はこないだより遠景が霞んでるぜ」
「描く手間が省けていいんじゃない?確かキャリーの担当範囲は町の展望があるところだったから」
ポタ山はその展望ゆえ、デートにもよく使われる。山頂への道でも数組のカップルがいた。
『私もあんなふうに腕組んで歩きたいなあ。せっかく2人きりなのに・・』
手の届くところにアロンはいる。その気になれば腕くらいすぐ掴める。いきなりやったら嫌がられるかな・・。
展望台への最後の道のりは、丸太を土止めにしたなだらかな階段である。
階段脇のベンチにもカップルが仲良く座って楽しそうにしている。カーラはうらやましそうにそれを横目で見ていた。しかしアロンは気に止める様子もなく階段を登っていってしまった。
カップルを気にしながらカーラが階段を登っていると、登り始めてすぐ、アロンの声がすぐ傍でした。
「カーラ、そこ危ない」
「え?わあああ!」
カーラが足を掛けた丸太の階段が腐って朽ち果てていて崩れたのだ。
カップルを見ていたので、足元に気付かず思いっきり体重を乗せてしまった。
とっさにアロンがカーラの腕を掴むと、ぐいっと強く引っ張った。カーラももう片方の足が慌てて丸太の端っこを蹴ったので、前かがみになりながらも頭から飛び込むような姿勢でアロンに突進した。
アロンは片足を引きながらカーラの突進を受け流すと、もう片方の腕でカーラの首回りをかこむように引き込み、カーラがはがれ落ちないよう抱き抱えて受け止めた。
「危なかった!よそ見してたから気付いてないなと思って、近くに寄っといてよかった」
カーラがアロンの胸から顔だけあげた。しばらくぽかんとしたが、次第にその顔が紅潮していった。
そして慌ててアロンから体を引きはがした。
「だ、抱きついちゃった!ご、ごめんなさい!」
アロンはまだ取ったカーラの腕を掴んだまま
「大丈夫だった?」
と聞き返した。
「あ、ありがとうアロン君・・ごめん、思いっきりタックルした気がする」
「そうでもないよ。引きながら受け止めたから」
「・・・ごめんなさい・・抱きついちゃって・・・」
「平気だって。俺ってなんかカーラと一番スキンシップとってるよね。酔ってるときが大半だけどさ・・」
カーラは一瞬恥ずかしさで蒸気機関車のようになった。
「よ、酔ってるときは普通じゃないから!何やってるんだか自分でもわかんないし!」
妙にムキになって、アロンを指さしながら言った。
「あんなときのこと、本気にしちゃだめよ!」
きょとんとするアロン。
カーラも落ち着きを取り戻すと、すぐ顔を曇らせた。
「ヘ、ヘン・・だよね。呆れるでしょ・・」
「元気があって、その方がカーラらしい感じするけど?・・・」
『酔ってるときのはやっぱ勢い余ってるだけなのかなあ・・』
アロンもカーラを読み取るのに必死である。
「歩ける?」
「あ、大丈夫」
アロンがカーラに手を差し出すと、やや堅いながらもさすがにその手を拒むことはしなかった。
「海賊事件のときは、もっときわどいところ俺もカーラに助けてもらったっけ」
「・・・あの岩場で落ちそうになったとき?あれ、ユミちゃんとだったし・・」
そう言ってカーラはふと思った。
そうだ、裕美子とだった。
『ユミちゃん、不思議とアロン君の近くによくいる気がする・・。別に呼んでるわけじゃない、呼びよせてるわけじゃない、意図的でもない・・けど・・必然的にいなきゃいけなかったりする。・・・そういえばこないだの映画も、今日も・・・偶然だけど、ユミちゃん、いる』
展望台への階段を登りきった。
展望台は、台というより山頂の丘一帯のなだらかな傾斜部分がそっくり広場になっている。天気はいいが、遠くは霞んでいた。
「方向はどっち?」
「えっと、こっちよ。ほんとにわかっててここ来た?」
「えへへ、危なかったかも。カーラに来てもらってやっぱりよかった」
「えー?」
キャリーの担当範囲は、下に噴水のある広場が見え、その背後は数本の木があって、あとは町が霞んで見える展望のいいところ。アロンはデジカメを構えて撮り始めた。
「確かに町は霞んでて細かく描けないから、今日の方が楽かもな」
何枚か撮るとアロンはカーラの横にやってきた。
「日がまぶしいね。見える?」
アロンが体で影を作ってデジカメの画面を見せた。肩がぶつかるほど横に来たのでカーラは体をこわばらせた。
「こんな感じでどう?どれも代わり栄えしない写真だけど。もうちょっと違うアングルがあるかな?」
「う、ううん、いいと思う。こ、これプリントしましょう」
「じゃあカメラ屋行くか。リーダー達、もう着いてるかな?」
「リーダー、それでユミちゃん口説いてると思う?」
「はあ、あり得るな」
カメラ屋ではリーダーが早々と待っていた。しかし裕美子はまだいなかった。
「裕美子さん来ないなあ。アロンとカーラが来るまでの間、いろいろ話ができると思ったのに」
大分経ってようやく裕美子が現れた。
「やあ、ご苦労様。遅かったですね」
「リーダー、早いですね。そんなに慌て来なくっても、アロン君達そうすぐには来ませんよ」
「来るまでの間、話でもしていれば暇ぐらいつぶせるかと思って」
「あら、そんな話でしたっけ?わたし家で一休みしてきちゃいました」
「ああ、いやいや、別に約束もしませんでしたから」
『しまったあ!ちゃんと約束しとけばよかった!』
リーダー心の叫びである。
「カーラさん、まっすぐこっち来てくれてるかしら」
ほどなくアロンのバイクがやってきた。
「お待たせー。待った?」
「わたしも今来たところです」
アロンとカーラは向き合うとニヤっとする。
「あんまり一緒にいた時間はないみたいね」
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前回のお話「校外展覧会絵画展(6):行かずして風景を描く」
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☆☆ 災害時 安否確認 ☆☆
こんばんは~
アロンとカーラはハプニングでいい感じになるのに、
その後がなかなか続かなくて歯がゆいですね(笑)
by ケンケン@ (2010-10-04 17:36)
ども!HAtAです。
10月2日の記事にコメントをくださったのに
気づきませんでした。ごめんなさい!
今日の記事に返事を載せておきましたので
よければ見てください。
本当にスミマセンでした!!
by HAtA (2010-10-05 16:38)
ケンケン@さん、HAtAさん、あすぱいさん、xml_xslさん、Ainoさん、K-STYLEさん、niceありがとうございます。
Ainoさんお久しぶりデス!また活動期に入りそうですね!
ケンケン@さん、コメントありがとうございます。
なるほど歯がゆい・・と感じてらっしゃる。
カーラとアロンの関係が読者にどう映っているのかはずっと気にしているところです。でも、そろそろ・・・
HAtAさん、わざわざコメントありがとうございます。
いいんですよ、TSOのブログの使い方がヘンなんです。新しい記事に書くべきでしたね。
TSOはブログシステムを間借りしてるだけで「日記」を書いているわけではないので、過去記事にも平気でコメント増やしてます。
なのでその記事に言いたいことがあればぜひ、その記事のコメントへ書き込んでいただいてかまいませんので。まだもらうコメントはスカスカですから、管理ページで過去記事でも追えると思いますし。
by TSO (2010-10-11 14:05)