SSブログ

<学内ライブ(7):でこぼこが合う人> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第141回
<学内ライブ(7):でこぼこが合う人>


しばらくするとユーリが戻ってきた。

「実行委員の半分近くが18時から1時間であれば集まれそうだ。主だった顔ぶれは来るから決定力はあると思っていい」
なお、この学内ライブ実行委員会は文化委員が中心なのでカーラもいる。

「あんた、本気で?マジでこれで決められるの?」
「少なくとも認められるだけのものが見せられれば、俺は強く推薦するよ。それでうちの生徒が引き立つなら、演出としてはありだと俺は思うけど。自信あるんだろ?」
「・・わざわざあなたが作ってくれたチャンス、無駄にはしないわ」

そしていきなりユーリの腕を取ると、

「もし私のバンドで出場ができたら、もう何曲か歌わせてね!?」
「そ、それは俺では無理だ。それこそみんなが望むかどうかだよ」
「少なくともあなたが望むようがんばるわ」

ユーリは自分が誘惑されていると気付き、顔を赤らめた。


みんなでケーキを頼んでコーヒーブレークをして、相談会はお開きとなった。


別れ際ユーリは美女に向き合うと、肩に手を添えて言った。
「20日楽しみにしているよ」
美女は手を上げてそれに答えた。

3人はユーリが雑踏に消えるまで見送った。


ユーリが見えなくなったところで美女が裕美子の肩をつかんで美女のほうへぐるりと体を回した。

「裕美子、あんた相変わらず計算高い女だね。油断も隙もあったもんじゃないわ」
「な、なぜ?」
「あんた、アロンに代わる新しい矛先としてユーリを連れて来たんでしょう」
「ば・・・ばればれ?」
「ふん、私を手なずけようなんて1万年早いわ。でも・・いい人紹介してくれたと思うよ」

なにやら美女は満足そうである。どうやら裕美子は美女からは無罪放免されたようである。

「はぁ~、なとか手駒にできました」
「なに?」
「なんでもありません」
「今日はありがとう、2人とも。裕美子、アロンはあんたにあげるわ」
「ありがとう、いただきます」
アロンがびっくりして
「え?」
と言って裕美子を見た。

裕美子はアロンの顔を見上げると
「なんて」
とやや低い声で言った。

「俺も手駒にする気だなー」
「でも裕美子。怒っていたのは私だけじゃないんじゃないの?」

そうだった。まだ一つクリアしたに過ぎない。
「・・・帰りますか」
まだ心晴れやまぬ裕美子だった。


美女と別れ、裕美子と2人になるとアロンはその行動を予想して問いかけた。

「さて、これで美女はどうにかなりそうだな。・・小泉、次はもしかしてカーラ?」
「え?」
「カーラ達ともここんとこ別行動してるだろ。珍しいな、ハウル達がこんなふうなもめ方するなんて。でもそれだけ俺が馬鹿なこと頼んだってことだよな」

裕美子はメガネの外からでもわかるほど思いつめたような顔をしていた。しかし出てきた言葉は少し違った。

「ち・・、違うの、アロン君。カーラさん達とこじれたことは、アロン君は悪くないから。そんなに気をもまないでください」
「そうかなあ。できることがあったら言ってよね」
「ありがとう。十分うれしいですよ。あの・・カーラさんは、言えないでいるけど・・アロン君のことが好きなんですよ?だから怒るのも解ってあげてくださいね」
「やっぱり・・そうなんだよね?・・・それで、小泉はカーラと俺の仲を取り持とうとしてるの?」
「それは・・・アロン君もカーラさんのこと好きなら、答えてあげるといいと思います・・」
「幼なじみは・・それでも・・いいのかい?」
「・・・わたしは幼なじみじゃないから。それに、実在しない人のことは気にする必要ないんじゃないですか?」

『小泉は、どう思ってるんだろう』

アロンはこの不思議な子の気持ちも知りたくなった。

「・・今日はご苦労様。次は20日の美女さんのプレゼンだけど、また来てくれますか?」
「ああ、もちろん」
「美女さん、うまくいくといいですね」
「小泉、みんなを気遣って、いい人だなあ。でも、自分のことも大切にしなよ」
「ありがとう。わたしそんないい人なんかじゃないです。・・・アロン君、それじゃ」

2人は別れた。



-----

20日、指定の練習スタジオに行った実行委員達は仰天した。

もはやそこは練習の場ではなく、美女は衣装に化粧までして準備していたのだ。一応照明もスタジオスタッフがついていた。
本気のステージが始まった。
曲目は5曲。それは厳選されていて、圧倒的だった。

19章_7_01挿絵2s.jpg

そして歌い終わった美女は余韻さめやらぬ中で叫んだ。

「以上!、みんな、いい返事待ってるよ!」

ステージのノリの続きそのままに大拍手となった。もはや問答無用で決定したのだ、校外メンバーによるバンド参加が。

お膳立てしたアロンと裕美子は並んで見ていた。
「バンド組んだ状態で見ると、美女って一段とすげえな」
「ハイ。・・・振っちゃっていいんですか?あんなすごい人」
アロンは裕美子を見た。
「言ったろ、釣り合いも必要だって。溝が合う人、長所や欠点のでこぼこを埋め合える人でなきゃって。美女は・・違うんだよな。美女の望む人も俺じゃないよ・・」
「アロン君に、でこぼこがあるの?誰なんだろうね、でこぼこが合う人って・・」

実行委員会の人だかりの中に、2人を遠くから見ているカーラの姿があった。



-----

そして学内ライブ本番。

美女はとりを任された。なんとユーリは5曲も枠を作っていた。
そしてひそかにユーリと美女のバンドだけの打ち合わせで、うまく行けそうならアンコール曲追加と決めていた。

当然アンコールまで行き、ライブは大喝采で終わったのだ。


次回「決戦!(1):カーラの決意」へ続く!

前回のお話「学内ライブ(6):ユーリ、美女を制す」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



Copyright(c) 2009-2010 TSO All Rights Reserved

にほんブログ村 小説ブログ 学園・青春小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 イラストブログ オリジナルイラストへ
にほんブログ村


nice!(13)  コメント(1) 

nice! 13

コメント 1

TSO

takemoviesさん、niceありがとうございます。

挿絵、下書きのままにはなりませんでしたが、下書きに色塗っただけになりました(ギターのお兄さんなんか手も顔もないし~)。
雰囲気、雰囲気が伝われば(^^;
by TSO (2010-10-24 20:23) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。


☆☆ 災害時 安否確認 ☆☆




この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。