<12月(6):金曜日(その3)> [片いなか・ハイスクール]
「片いなか・ハイスクール」連載第169回
<12月(6):金曜日(その3)>
「わあ!」
裕美子は急に驚いてアロンのコートから飛び出てしまった。
「ど、どうしたの?」
「今・・・キスしそうだった」
「キス、しちゃダメなの?」
そう聞くと裕美子は少しもじもじして答えた。
「・・わたし、まだキスしたことなくって・・」
「ほんと?・・そっか、それであの時もほっぺたでいいって言ったんだ」
「・・・」
「だれにあげるの?ファーストキス」
「え?それはもちろん・・アロン君がいい」
「ほんとに?いつ?」
「うん・・いつがいいかな・・」
「今はだめなの?」
「・・だって、今は苦そうですよ、コーヒーで。無糖でしょ?」
「俺は甘い思いしそうだね」
もじもじしていた裕美子だが、何か思いついてひょいっと顔を上げた。
「そうだ。私もうすぐ誕生日なんです。だからお誕生日にプレゼントに・・」
そこまで言うとまた首を下に向けて、そして小さな声で言った。
「・・キスをください」
「そんなのでいいの?誕プレ」
再びひょいっと顔を上げると、少し抗議するような口調で突っかかってきた。
「そんなの?、さ、最高のプレゼントじゃないですか。他、何もいりませんからね、貧乏学生なんですから。ほんとになんか買ったりしちゃだめですよ」
アロンだって”そんなの”とは言ってみたものの、裕美子とのキスで、しかもファーストキスをいただけるともなると、重みはぜんぜん違ってくる。
「わかった。よーく歯磨きしとくよ。いつ?誕生日」
「12月25日。クリスマスの日」
「そりゃおめでたいね。キリストと同じかあ。賑やかなときでいいね」
「いつも家族とクリスマス兼ねて祝ってもらってるの」
「じゃあ、その時間はちゃんと取っとかなきゃ。俺が会うのは昼間かな」
「どうするか考えておきますね。ああ、どきどきしてきました」
珍しく素直に感情が裕美子の顔や体から伝わってきた。
裕美子は胸に手をやってその鼓動を確かめているかのようだ。
そのうれしそうな顔をしばし見ていたアロンだが、ふと頭によぎった考えを小声で聞いてみた。
「裕美子の処女も誕生日にあげるの?」
「え?えええ?!」
びっくりに何かが入り混じった赤い顔でアロンを見据えると、うつむいてしまった。
しまった、こういったこととは無縁そうな人である。激しく拒否られるか、想定外エラーを起こしてしまうかもしれない。
心配になったところで、裕美子がうつむき加減な顔をわずかに持ち上げると、もじもじと答えた。
「・・そ、それは・・・・・・じゃあ、アロン君の誕生日に・・・」
「!」
まさかまっとうに答えが返ってくるとは思いもよらず、思わず大声で聞き返してしまった。
「ほ、ほんとうに!」
「9月ですよね」
「1年近く先だね。・・・ほんとに?」
「あと1年したら、もう少し成長してますよね・・・その方が、いいでしょ?」
なんだかやけに具体的なことを言っている。本当に考えているんだろうか。
この人もそういうことに思いをめぐらせることができるんだ、と思うと、いつもにない恥らったしぐさが妙にかわいく見えた。
「ほんとに・・本気?」
「もう・・・、そのときにならないとわかりません!」
どん!と両手で突き飛ばされた。
「・・・・・でも、相手は・・・他に、考えられないし・・」
あっちを向いて肩をすぼませて恥ずかしげに言うその姿から、最後のセリフだけは本当に間違いなさそうだ。
「コーヒー飲んだ?」
裕美子は空き缶を差し出した。
それを受け取ろうと手を伸ばしたところで、空き缶ではなく、それを持っている手を掴むと、自分のほうに引寄せて胸の中にそのきゃしゃそうな体を包み入れた。
「まずはクリスマスの日からね」
「・・は、はい」
そう裕美子は答えると、アロンと自分の体の間に入れた手が少しずれた。それは控えめながらもアロンを抱き返えしたようだった。
次回「誕生日とクリスマス(1):消化試合の過ごし方」へ続く!
前回のお話「12月(5):金曜日(その2)」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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<12月(6):金曜日(その3)>
「わあ!」
裕美子は急に驚いてアロンのコートから飛び出てしまった。
「ど、どうしたの?」
「今・・・キスしそうだった」
「キス、しちゃダメなの?」
そう聞くと裕美子は少しもじもじして答えた。
「・・わたし、まだキスしたことなくって・・」
「ほんと?・・そっか、それであの時もほっぺたでいいって言ったんだ」
「・・・」
「だれにあげるの?ファーストキス」
「え?それはもちろん・・アロン君がいい」
「ほんとに?いつ?」
「うん・・いつがいいかな・・」
「今はだめなの?」
「・・だって、今は苦そうですよ、コーヒーで。無糖でしょ?」
「俺は甘い思いしそうだね」
もじもじしていた裕美子だが、何か思いついてひょいっと顔を上げた。
「そうだ。私もうすぐ誕生日なんです。だからお誕生日にプレゼントに・・」
そこまで言うとまた首を下に向けて、そして小さな声で言った。
「・・キスをください」
「そんなのでいいの?誕プレ」
再びひょいっと顔を上げると、少し抗議するような口調で突っかかってきた。
「そんなの?、さ、最高のプレゼントじゃないですか。他、何もいりませんからね、貧乏学生なんですから。ほんとになんか買ったりしちゃだめですよ」
アロンだって”そんなの”とは言ってみたものの、裕美子とのキスで、しかもファーストキスをいただけるともなると、重みはぜんぜん違ってくる。
「わかった。よーく歯磨きしとくよ。いつ?誕生日」
「12月25日。クリスマスの日」
「そりゃおめでたいね。キリストと同じかあ。賑やかなときでいいね」
「いつも家族とクリスマス兼ねて祝ってもらってるの」
「じゃあ、その時間はちゃんと取っとかなきゃ。俺が会うのは昼間かな」
「どうするか考えておきますね。ああ、どきどきしてきました」
珍しく素直に感情が裕美子の顔や体から伝わってきた。
裕美子は胸に手をやってその鼓動を確かめているかのようだ。
そのうれしそうな顔をしばし見ていたアロンだが、ふと頭によぎった考えを小声で聞いてみた。
「裕美子の処女も誕生日にあげるの?」
「え?えええ?!」
びっくりに何かが入り混じった赤い顔でアロンを見据えると、うつむいてしまった。
しまった、こういったこととは無縁そうな人である。激しく拒否られるか、想定外エラーを起こしてしまうかもしれない。
心配になったところで、裕美子がうつむき加減な顔をわずかに持ち上げると、もじもじと答えた。
「・・そ、それは・・・・・・じゃあ、アロン君の誕生日に・・・」
「!」
まさかまっとうに答えが返ってくるとは思いもよらず、思わず大声で聞き返してしまった。
「ほ、ほんとうに!」
「9月ですよね」
「1年近く先だね。・・・ほんとに?」
「あと1年したら、もう少し成長してますよね・・・その方が、いいでしょ?」
なんだかやけに具体的なことを言っている。本当に考えているんだろうか。
この人もそういうことに思いをめぐらせることができるんだ、と思うと、いつもにない恥らったしぐさが妙にかわいく見えた。
「ほんとに・・本気?」
「もう・・・、そのときにならないとわかりません!」
どん!と両手で突き飛ばされた。
「・・・・・でも、相手は・・・他に、考えられないし・・」
あっちを向いて肩をすぼませて恥ずかしげに言うその姿から、最後のセリフだけは本当に間違いなさそうだ。
「コーヒー飲んだ?」
裕美子は空き缶を差し出した。
それを受け取ろうと手を伸ばしたところで、空き缶ではなく、それを持っている手を掴むと、自分のほうに引寄せて胸の中にそのきゃしゃそうな体を包み入れた。
「まずはクリスマスの日からね」
「・・は、はい」
そう裕美子は答えると、アロンと自分の体の間に入れた手が少しずれた。それは控えめながらもアロンを抱き返えしたようだった。
次回「誕生日とクリスマス(1):消化試合の過ごし方」へ続く!
前回のお話「12月(5):金曜日(その2)」
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むじん君運転ですみませんです。
bitさん、niceありがとうございます。
前回の場面の続き、ラブラブな2人のかなり危ない会話でした。
次回は久々にいつものメンバーが登場します。
by TSO (2011-01-20 23:36)
xml_xslさん、kuzeさん、Shin.Sionさん、あいか5drrさん、niceありがとございます。
あいか5drrさん、はじめまして。
イラストや漫画もたくさん載せたいですが、時間がかかりすぎて本編が進まなくなるので(既に1ヶ月遅れになりましたし。これからも遅れる予定(^^))、たまーにアップされるでしょう。
by TSO (2011-01-23 21:13)