<牛丼騒動(6):玄関でばったり> [片いなか・ハイスクール]
東日本大震災被災地がんばれ!
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「片いなか・ハイスクール」連載第236回
<牛丼騒動(6):玄関でばったり>
裕美子がアパートの玄関に降りると、なんとカーラにばったり会った。
「あら、裕美子」
「カ、カーラさん」
「なあに?アロン君ところの帰り?」
「え、ええ。そうなの。カーラさんはどうしたの?」
「私?わ、私はレソフィックのところにちょっとね・・・」
「レソフィック君のところ?」
「う、うん。じゃ、またね」
カーラはアパートに入っていった。
「広報のお仕事、まだ終わらないのかしら」
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「アロン君、できましたよ」
台所からお盆にどんぶり2つを乗せて裕美子がやってきた。
「わぁ、楽しみだなあ」
「うん・・、でも、あのお店の味にはなりませんでした」
「裕美子でも再現は難しいか。あれはやっぱり、そう簡単には真似できないんだよ。だから店も人気があるんだよ」
「さすがですねぇ」
テーブルにどんぶりが並べられて、2人は向かい合って座った。
「さて、じゃあ裕美子の作ったの食べよう。うわあ、超テラ盛りだ」
アロン専用の元々大きなどんぶりに、ご飯だけでなく上に乗っている牛どんネタも、家で作ったならではの盛り方だ。
「安いお肉なので量でおごりました。でも柔らかく煮えてるから安いなんてわかんないですよ。お替りもどうぞ」
アロンはぱくっと一口、口に運んだ。
「ほんとだ、うまーい!店の味とは違うけど、俺、これも好きだな」
「おいしい?」
裕美子がうれしそうにアロンを見る。
「うまいうまい。さすがだね」
「よかった」
満面の笑みの裕美子だった。
その日の夜遅く。
お風呂から出た裕美子は、髪をとかし終ると冷蔵庫を覗いた。
「あら?ペットボトルのジュース、もうなかったでしたっけ」
居間にいたアロンは台所に首を向けると
「俺飲んでないよ」
と答えた。
冷蔵庫を閉めながら裕美子はちょっと考えると、
「そっか。ちょっと買いに行ってきますね」
と言って、ハンガーにかかっている上着を取ってパジャマの上に羽織った。
「今?その格好で行くの?俺も行こうか」
「お店すぐそこだし、だいじょうぶですよ」
「そう?気を付けてね。なんかあったら大声で叫べよ」
「だいじょうぶですよ。じゃ、一応携帯電話持ってきますから」
「ずっと電話でしゃべってようか」
「大げさですってば」
くすっと笑うと、裕美子はパジャマに上着を羽織った格好で外へ出ていった。アロンのアパートは便利なことに、よろず屋が歩いて数分のところにある。そしてこの片いなかは日本並みに平和で治安のいいところだった。
裕美子は問題なく買い物を終えると、足取りも軽くアパートに戻ってきた。
カーラはため息をついた。
「あのさ、友達でしょ?もう騙しっこなしにしてよ」
「ごめんなさい!」
裕美子は深々と頭下げた。
「寮出てからアロン君ところに住んでます。その、ほんとにここに空き部屋が出るまでってことで。あの、やましいことしてないです。だから内緒でお願いします」
「ふう~。あなた、優等生なんだかなんだかわかんない人ねぇ。自分のやりたいことは無茶なことでも危ないことでもよくやるよね」
「何もいえません・・」
「うらやましいよ、そういうとこ。私にも少しわけて欲しいわ」
「そ、そういえばカーラさん、レソフィック君ところの帰り?ずいぶん遅くまで・・」
「あなたが言うこと?・・うん・・実は私、レソフィック君と付き合い始めてね・・」
「そうなんですか?!おめでとうございます」
「レソフィック君も知ってるの?あなたがここに住んでること」
「レソフィック君も、勇夫君も、知ってます。隠せませんからあの2人には」
「C組ではあと誰が?」
「美女さんくらいかな」
裕美子の携帯が鳴った。
「アロン君だ。なかなか帰らないから心配してるんだ。・・もしもし?今、玄関ですよ。無事無事」
「裕美子、ちょっと貸して。はあい、アロン君。聞いたわよ」
・・(カ、カーラ?)・・
「玄関でばったりパジャマ姿の裕美子に会ってね。ばれちゃったからね」
・・(わあ、内密にたのむよー!)・・
「この、スケベ。はい、裕美子」
カーラは笑って携帯を裕美子に返した。
「アロン君、エッチかもしれないけど、スケベじゃないですよ。・・アロン君、すぐ戻るから。じゃあね」
「なんか、自然にいい仲ね。そりゃそうか、一緒に寝起きしてるんだもんね」
「ああ、いやいや。ちゃんと別々の部屋で寝てますよ」
「えー?なんで?一晩寄り添っててことないの?一緒に暮らしてるのに」
「うん・・ちょこっとあるけど・・基本的にはけじめつけてます」
「そうなの?・・エッチくらいするんでしょ?」
「あわわ・・し、しないの、そういうこと。だから一緒にいられるんですよ」
「ふわあ、よくがまんできるねえ、2人とも。ふーん?やっぱあなた達、ある意味すごいのね。・・あ、もうこんな時間!また今度詳しく聞きに行くわ。一応ハウル達に黙っとくけど、適当なところで教えとかないとバレたときうるさいと思うよ」
「ありがとう、カーラさん」
「おやすみ、裕美子。アロン君にもよろしくね」
「おやすみなさい。気を付けて」
「ありがと。じゃね」
裕美子が部屋に戻ってきた。
玄関のドアを閉めたところで、ドアに張り付いて中に向かって言った。
「びっくりしました」
「こっちもだよ。カーラにばれちゃったのか」
「カーラさんでよかったですよ。そうそうカーラさん、レソフィック君とお付き合いしてるそうですよ」
「あ、やっぱそうなんだ」
「え?知ってました?」
「このところあの2人なんか波長が合ってたからさ。こりゃひょっとするとくっつくかなって思ってたんだ」
「そうなんだ・・・」
「それじゃカーラも頻繁にこのアパートに来てるんだ」
「そうみたいですね。だから、遅かれ早かれ知られてしまうところだったでしょう」
「そうかー。レソフィックがカーラとねえ。そのうち勇夫のところにハウルが来るようになったら、そしたらみんなに知れ渡っちゃうな」
「ハウルさん達にも知らせておいた方がってカーラさんが言ってましたけど・・」
「話の流れで出てきたら言うくらいで、積極的にばらすこともないと思うけど」
「そうですね」
そう言うと、部屋の中に戻ってきた裕美子はアロンの横にぴったりくっついてしゃがんだ。
また今日は積極的な日?あんまり強弱が激しいと体に悪い気がする。今日のアロンの心臓は激しくばくばくしだした。
そんな気も知らず裕美子はアロンの腕に顎を乗せて甘えた。
「・・ハウルさん、勇夫君のところに来るようになりますかね」
「一年先かもしれないけど、いつか来るよ。あの2人の相性の良さみりゃ、いずれって思うだろ?」
「はい。そしたら、なんか楽しそうですね」
「やかましくって、近所迷惑になりそうだけど」
2人はあははと笑った。
「早くそういう日が来るといいですね」
「そうだね」
そして、ようやくこの日も終わりを告げた。
この日はアロンがベッド。裕美子がソファーだった。
「裕美子。・・・よかったらベッドで、寝ない?」
もし一緒に寝られたら、今日はどんな気持ちだろうか。どきどきできるだろうか。
「まだ交代したばっかですよ」
そう捉えたか。そういう意味じゃなくて・・
「い、いや、俺の横でってこと・・」
裕美子は口を半開きにして顔を赤らめた。そして一度目線を床に落とした後、上目遣いで口を少し尖らせると、答えた。
「・・エッチなことなしですよ」
ざ、残念。ま、当たり前か。
「わかってるって」
「じゃ、行く」
桃色のほっぺたをした裕美子は、枕を持ってベッドにやってきた。
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いよいよ次回は3月のエピソード、そして片いなか・ハイスクール第1期最後の章となります。
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次回「過去との決別(1):レイ・サクラギ」へ続く!
前回のお話「牛丼騒動(5):ワンダーウーマン」
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「片いなか・ハイスクール」連載第236回
<牛丼騒動(6):玄関でばったり>
裕美子がアパートの玄関に降りると、なんとカーラにばったり会った。
「あら、裕美子」
「カ、カーラさん」
「なあに?アロン君ところの帰り?」
「え、ええ。そうなの。カーラさんはどうしたの?」
「私?わ、私はレソフィックのところにちょっとね・・・」
「レソフィック君のところ?」
「う、うん。じゃ、またね」
カーラはアパートに入っていった。
「広報のお仕事、まだ終わらないのかしら」
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「アロン君、できましたよ」
台所からお盆にどんぶり2つを乗せて裕美子がやってきた。
「わぁ、楽しみだなあ」
「うん・・、でも、あのお店の味にはなりませんでした」
「裕美子でも再現は難しいか。あれはやっぱり、そう簡単には真似できないんだよ。だから店も人気があるんだよ」
「さすがですねぇ」
テーブルにどんぶりが並べられて、2人は向かい合って座った。
「さて、じゃあ裕美子の作ったの食べよう。うわあ、超テラ盛りだ」
アロン専用の元々大きなどんぶりに、ご飯だけでなく上に乗っている牛どんネタも、家で作ったならではの盛り方だ。
「安いお肉なので量でおごりました。でも柔らかく煮えてるから安いなんてわかんないですよ。お替りもどうぞ」
アロンはぱくっと一口、口に運んだ。
「ほんとだ、うまーい!店の味とは違うけど、俺、これも好きだな」
「おいしい?」
裕美子がうれしそうにアロンを見る。
「うまいうまい。さすがだね」
「よかった」
満面の笑みの裕美子だった。
その日の夜遅く。
お風呂から出た裕美子は、髪をとかし終ると冷蔵庫を覗いた。
「あら?ペットボトルのジュース、もうなかったでしたっけ」
居間にいたアロンは台所に首を向けると
「俺飲んでないよ」
と答えた。
冷蔵庫を閉めながら裕美子はちょっと考えると、
「そっか。ちょっと買いに行ってきますね」
と言って、ハンガーにかかっている上着を取ってパジャマの上に羽織った。
「今?その格好で行くの?俺も行こうか」
「お店すぐそこだし、だいじょうぶですよ」
「そう?気を付けてね。なんかあったら大声で叫べよ」
「だいじょうぶですよ。じゃ、一応携帯電話持ってきますから」
「ずっと電話でしゃべってようか」
「大げさですってば」
くすっと笑うと、裕美子はパジャマに上着を羽織った格好で外へ出ていった。アロンのアパートは便利なことに、よろず屋が歩いて数分のところにある。そしてこの片いなかは日本並みに平和で治安のいいところだった。
裕美子は問題なく買い物を終えると、足取りも軽くアパートに戻ってきた。
カーラはため息をついた。
「あのさ、友達でしょ?もう騙しっこなしにしてよ」
「ごめんなさい!」
裕美子は深々と頭下げた。
「寮出てからアロン君ところに住んでます。その、ほんとにここに空き部屋が出るまでってことで。あの、やましいことしてないです。だから内緒でお願いします」
「ふう~。あなた、優等生なんだかなんだかわかんない人ねぇ。自分のやりたいことは無茶なことでも危ないことでもよくやるよね」
「何もいえません・・」
「うらやましいよ、そういうとこ。私にも少しわけて欲しいわ」
「そ、そういえばカーラさん、レソフィック君ところの帰り?ずいぶん遅くまで・・」
「あなたが言うこと?・・うん・・実は私、レソフィック君と付き合い始めてね・・」
「そうなんですか?!おめでとうございます」
「レソフィック君も知ってるの?あなたがここに住んでること」
「レソフィック君も、勇夫君も、知ってます。隠せませんからあの2人には」
「C組ではあと誰が?」
「美女さんくらいかな」
裕美子の携帯が鳴った。
「アロン君だ。なかなか帰らないから心配してるんだ。・・もしもし?今、玄関ですよ。無事無事」
「裕美子、ちょっと貸して。はあい、アロン君。聞いたわよ」
・・(カ、カーラ?)・・
「玄関でばったりパジャマ姿の裕美子に会ってね。ばれちゃったからね」
・・(わあ、内密にたのむよー!)・・
「この、スケベ。はい、裕美子」
カーラは笑って携帯を裕美子に返した。
「アロン君、エッチかもしれないけど、スケベじゃないですよ。・・アロン君、すぐ戻るから。じゃあね」
「なんか、自然にいい仲ね。そりゃそうか、一緒に寝起きしてるんだもんね」
「ああ、いやいや。ちゃんと別々の部屋で寝てますよ」
「えー?なんで?一晩寄り添っててことないの?一緒に暮らしてるのに」
「うん・・ちょこっとあるけど・・基本的にはけじめつけてます」
「そうなの?・・エッチくらいするんでしょ?」
「あわわ・・し、しないの、そういうこと。だから一緒にいられるんですよ」
「ふわあ、よくがまんできるねえ、2人とも。ふーん?やっぱあなた達、ある意味すごいのね。・・あ、もうこんな時間!また今度詳しく聞きに行くわ。一応ハウル達に黙っとくけど、適当なところで教えとかないとバレたときうるさいと思うよ」
「ありがとう、カーラさん」
「おやすみ、裕美子。アロン君にもよろしくね」
「おやすみなさい。気を付けて」
「ありがと。じゃね」
裕美子が部屋に戻ってきた。
玄関のドアを閉めたところで、ドアに張り付いて中に向かって言った。
「びっくりしました」
「こっちもだよ。カーラにばれちゃったのか」
「カーラさんでよかったですよ。そうそうカーラさん、レソフィック君とお付き合いしてるそうですよ」
「あ、やっぱそうなんだ」
「え?知ってました?」
「このところあの2人なんか波長が合ってたからさ。こりゃひょっとするとくっつくかなって思ってたんだ」
「そうなんだ・・・」
「それじゃカーラも頻繁にこのアパートに来てるんだ」
「そうみたいですね。だから、遅かれ早かれ知られてしまうところだったでしょう」
「そうかー。レソフィックがカーラとねえ。そのうち勇夫のところにハウルが来るようになったら、そしたらみんなに知れ渡っちゃうな」
「ハウルさん達にも知らせておいた方がってカーラさんが言ってましたけど・・」
「話の流れで出てきたら言うくらいで、積極的にばらすこともないと思うけど」
「そうですね」
そう言うと、部屋の中に戻ってきた裕美子はアロンの横にぴったりくっついてしゃがんだ。
また今日は積極的な日?あんまり強弱が激しいと体に悪い気がする。今日のアロンの心臓は激しくばくばくしだした。
そんな気も知らず裕美子はアロンの腕に顎を乗せて甘えた。
「・・ハウルさん、勇夫君のところに来るようになりますかね」
「一年先かもしれないけど、いつか来るよ。あの2人の相性の良さみりゃ、いずれって思うだろ?」
「はい。そしたら、なんか楽しそうですね」
「やかましくって、近所迷惑になりそうだけど」
2人はあははと笑った。
「早くそういう日が来るといいですね」
「そうだね」
そして、ようやくこの日も終わりを告げた。
この日はアロンがベッド。裕美子がソファーだった。
「裕美子。・・・よかったらベッドで、寝ない?」
もし一緒に寝られたら、今日はどんな気持ちだろうか。どきどきできるだろうか。
「まだ交代したばっかですよ」
そう捉えたか。そういう意味じゃなくて・・
「い、いや、俺の横でってこと・・」
裕美子は口を半開きにして顔を赤らめた。そして一度目線を床に落とした後、上目遣いで口を少し尖らせると、答えた。
「・・エッチなことなしですよ」
ざ、残念。ま、当たり前か。
「わかってるって」
「じゃ、行く」
桃色のほっぺたをした裕美子は、枕を持ってベッドにやってきた。
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いよいよ次回は3月のエピソード、そして片いなか・ハイスクール第1期最後の章となります。
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次回「過去との決別(1):レイ・サクラギ」へ続く!
前回のお話「牛丼騒動(5):ワンダーウーマン」
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かっぱちゃんお久しぶりです。ご無事なようで安心しました。
by TSO (2011-10-23 17:46)