<過去との決別(8):もう一人じゃない> [片いなか・ハイスクール]
東日本大震災被災地がんばれ!
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「片いなか・ハイスクール」連載第244回
<過去との決別(8):もう一人じゃない>
観音開きの扉は片方開いていた。
そこから敷地に入り、奥へ続く石の小径の案内で玄関前まで行くと、玄関横の呼鈴を押した。それは電子音のチャイムではなく、ジリリリリという金属のベルを叩いて出る音だった。
しばらくして四十台中頃の女性がドアを開けた。
「はい?」
「失礼します。俺、アロンて言います。分校の小泉裕美子の同級生です。あなたはグリア・ガーランド先生?ここに小泉裕美子来てないですか?」
「あなたが、アロン君?ど、どうしてここへ?」
グリア先生の驚く声が部屋の中にも届く。
先生の後ろに人影が見えた。その人がびっくりした声を上げた。
「アロン君!?」
ああ、聞きなれた声。
聞きたかった声。
それは捜していた声。
人影は恐る恐る歩き出し、外の光が足を照らすところまで歩み寄った。
「裕美子」
その声が合図だったかのように人影はダッシュすると、先生の脇をすりぬけ、玄関へ飛び出した。
「アロン君、ああ、逢いたかった。逢いたかったよ!」
「裕美子!」
二人は抱き合った。お互いが本物であるかを確認するように激しく抱き合った。
「・・・よかった無事で。もう逢えないんじゃないかと思った」
「逢いたかった。・・ごめん・・私はまだあなたを信用しきれてなかったのかもしれない」
「いいんだ。もうそうは思ってないんだろ?もういいんだ」
「どうしてここが?」
「裕美子のお父さんがここを思いついたんだ。住所しか突き止められなかったから、直接来たんだ」
「もしかして、あなた誰にも言わないで来たの?」
今更ながらに驚いた顔をしたグリア先生に裕美子はコクリとうなずいた。
「たっ大変!親御さんに連絡しなきゃ!」
「こっちに向かっているところですよ。俺が連絡します。そうだ、みんなにも知らせなきゃ」
「みんなに?みんなって?」
「C組のみんな。昨日の午後からC組みんな学校サボってるんだぜ。ドジ担任も」
「ええ?!」
目を丸くした裕美子に負けないくらいグリア先生も驚いていたが、すぐに目を閉じ口元に笑みを浮かべた。
「ほら裕美子、思った通り。やっぱりあなたはもう1人じゃないじゃない」
アロンの連絡で最初に到着したのは、ダリビーチからバイクで飛ばしてきたレソフィックだった。
「早すぎだぞ、お前」
「ダリビーチは見繕ってた3,4件だけですぐ見切りつけて、お前の連絡くる前からこっちへ向かってたから」
「フライングしてたわけか」
次に来たのは、驚いたことになんとC組のみんなだった。ドジ担任が運転してマイクロバスで乗りつけてきた。
「そっちもなんか着くの早くないか?」
「ダーニャがタロット占いでぜったいこっち来た方がいいってんで、アロンの連絡があったときにはもう高速乗ってたんだ」
「そっちもフライングかよ。で、なに、ダーニャは恋愛相談所だけじゃなく占いまで始めたの?」
「恋占いに使うのよ。相談所のメニューのひとつなの」
裕美子はC組が勢ぞろいしたことに動揺していた。
「どうしてみんなが?・・・みんなわたしのために?・・・みんな・・知ってるの?何があったか」
オロオロしてるところへハウルがやってくると裕美子を抱擁した。
「隠し事しちゃだめって、何回も言ったでしょ?あなた隠してたことでよかったこと、何もないでしょが」
そしてそれにクリスティンも加わった。
「ハウルを見習いなさい。ここまで開け透けも困るけどね」
それを見ていたアロンはC組みんなの方に向かって言った。
「一番そばで裕美子を支えるのは俺。だけど今回のは俺だけじゃなくて、みんなの力があった方がいいと思った。だからみんなに助けを求めた。だってC組のみんなは仲間だから。正直にすべてを打ち明けられたよ」
それを受けてリーダーがジョンと並んで握りこぶしを上げながら答えた。
「そうさ、仲間だ。これもまた愛の形だ。一人はみんなのために、みんなは一人のために!」
ジョンもにっこりと裕美子に微笑みかけた。
美女も前に出ると手を胸に当てて言った。
「裕美子も頼って、私達を。あんただっていつも助けてくれてたじゃない私達を!」
「レイとかいうやつから、俺たちがアロンと裕美子を守る!」
アンザックがミシェルに目配せしながら言った。ミシェルも隣にいたパウロも力強くうなずいた。
裕美子の顔から涙がつたった。あまり感情を見せないといわれた裕美子がみんなの前で泣いている。激しく。
女の子達が集まってきて裕美子の肩を支えた。ひっくひっくとしゃくりあげながら、裕美子はかろうじて言葉を出した。
「ありがとう・・みんな」
元担任のグリア先生も涙を流していた。ドジ担任も。
グリア先生はハンカチで涙を拭くと、裕美子を取り囲む友人達をもう一度見回した。
「いいお友達持ったね。分校へ行って本当によかった」
そして裕美子に向いて言った。
「もう過去に振り回されてはだめよ。隠すことは何もなくなった。もう怖いことないでしょ。新しい人生は違う方向に向かって切り開かれているわ。みんなと迷わずそっちへ向かいなさい」
次回「過去との決別(9):かつての姿」へ続く!
前回のお話「過去との決別(7):あのとき支えてくれた人」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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「片いなか・ハイスクール」連載第244回
<過去との決別(8):もう一人じゃない>
観音開きの扉は片方開いていた。
そこから敷地に入り、奥へ続く石の小径の案内で玄関前まで行くと、玄関横の呼鈴を押した。それは電子音のチャイムではなく、ジリリリリという金属のベルを叩いて出る音だった。
しばらくして四十台中頃の女性がドアを開けた。
「はい?」
「失礼します。俺、アロンて言います。分校の小泉裕美子の同級生です。あなたはグリア・ガーランド先生?ここに小泉裕美子来てないですか?」
「あなたが、アロン君?ど、どうしてここへ?」
グリア先生の驚く声が部屋の中にも届く。
先生の後ろに人影が見えた。その人がびっくりした声を上げた。
「アロン君!?」
ああ、聞きなれた声。
聞きたかった声。
それは捜していた声。
人影は恐る恐る歩き出し、外の光が足を照らすところまで歩み寄った。
「裕美子」
その声が合図だったかのように人影はダッシュすると、先生の脇をすりぬけ、玄関へ飛び出した。
「アロン君、ああ、逢いたかった。逢いたかったよ!」
「裕美子!」
二人は抱き合った。お互いが本物であるかを確認するように激しく抱き合った。
「・・・よかった無事で。もう逢えないんじゃないかと思った」
「逢いたかった。・・ごめん・・私はまだあなたを信用しきれてなかったのかもしれない」
「いいんだ。もうそうは思ってないんだろ?もういいんだ」
「どうしてここが?」
「裕美子のお父さんがここを思いついたんだ。住所しか突き止められなかったから、直接来たんだ」
「もしかして、あなた誰にも言わないで来たの?」
今更ながらに驚いた顔をしたグリア先生に裕美子はコクリとうなずいた。
「たっ大変!親御さんに連絡しなきゃ!」
「こっちに向かっているところですよ。俺が連絡します。そうだ、みんなにも知らせなきゃ」
「みんなに?みんなって?」
「C組のみんな。昨日の午後からC組みんな学校サボってるんだぜ。ドジ担任も」
「ええ?!」
目を丸くした裕美子に負けないくらいグリア先生も驚いていたが、すぐに目を閉じ口元に笑みを浮かべた。
「ほら裕美子、思った通り。やっぱりあなたはもう1人じゃないじゃない」
アロンの連絡で最初に到着したのは、ダリビーチからバイクで飛ばしてきたレソフィックだった。
「早すぎだぞ、お前」
「ダリビーチは見繕ってた3,4件だけですぐ見切りつけて、お前の連絡くる前からこっちへ向かってたから」
「フライングしてたわけか」
次に来たのは、驚いたことになんとC組のみんなだった。ドジ担任が運転してマイクロバスで乗りつけてきた。
「そっちもなんか着くの早くないか?」
「ダーニャがタロット占いでぜったいこっち来た方がいいってんで、アロンの連絡があったときにはもう高速乗ってたんだ」
「そっちもフライングかよ。で、なに、ダーニャは恋愛相談所だけじゃなく占いまで始めたの?」
「恋占いに使うのよ。相談所のメニューのひとつなの」
裕美子はC組が勢ぞろいしたことに動揺していた。
「どうしてみんなが?・・・みんなわたしのために?・・・みんな・・知ってるの?何があったか」
オロオロしてるところへハウルがやってくると裕美子を抱擁した。
「隠し事しちゃだめって、何回も言ったでしょ?あなた隠してたことでよかったこと、何もないでしょが」
そしてそれにクリスティンも加わった。
「ハウルを見習いなさい。ここまで開け透けも困るけどね」
それを見ていたアロンはC組みんなの方に向かって言った。
「一番そばで裕美子を支えるのは俺。だけど今回のは俺だけじゃなくて、みんなの力があった方がいいと思った。だからみんなに助けを求めた。だってC組のみんなは仲間だから。正直にすべてを打ち明けられたよ」
それを受けてリーダーがジョンと並んで握りこぶしを上げながら答えた。
「そうさ、仲間だ。これもまた愛の形だ。一人はみんなのために、みんなは一人のために!」
ジョンもにっこりと裕美子に微笑みかけた。
美女も前に出ると手を胸に当てて言った。
「裕美子も頼って、私達を。あんただっていつも助けてくれてたじゃない私達を!」
「レイとかいうやつから、俺たちがアロンと裕美子を守る!」
アンザックがミシェルに目配せしながら言った。ミシェルも隣にいたパウロも力強くうなずいた。
裕美子の顔から涙がつたった。あまり感情を見せないといわれた裕美子がみんなの前で泣いている。激しく。
女の子達が集まってきて裕美子の肩を支えた。ひっくひっくとしゃくりあげながら、裕美子はかろうじて言葉を出した。
「ありがとう・・みんな」
元担任のグリア先生も涙を流していた。ドジ担任も。
グリア先生はハンカチで涙を拭くと、裕美子を取り囲む友人達をもう一度見回した。
「いいお友達持ったね。分校へ行って本当によかった」
そして裕美子に向いて言った。
「もう過去に振り回されてはだめよ。隠すことは何もなくなった。もう怖いことないでしょ。新しい人生は違う方向に向かって切り開かれているわ。みんなと迷わずそっちへ向かいなさい」
次回「過去との決別(9):かつての姿」へ続く!
前回のお話「過去との決別(7):あのとき支えてくれた人」
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☆☆ 災害時 安否確認 ☆☆
nice&コメントありがとうございました。
いよいよ新年ですね。
私も過去に振り回されず、前向きにいきたいと思います。
by いっぷく (2011-12-31 01:47)
nice&コメントありがとうございました。
この一年のお付き合いに感謝いたします。
来る年もよろしくお願いします。
ブログを大いに楽しみましょう。
by kawasemi (2011-12-31 14:54)
xml_xslさん、あいか5drrさん、いっぷくさん、toramanさん、「直chan」さん、HAtAさん、くま・てーとくさん、niceありがとうございます。
いっぷくさん、コメントありがとうございます。
本当の深い人生経験からくる言葉にこちらがびびっちゃいます。
kawasemiさん、コメントありがとうございます。
来年も楽しくお勉強させていただきます。
1年Right-Worldがお世話になりました。
世の中は歴史的な激動の年だったと思います。自然災害はやむなかったかもしれませんが、平和は守ってほしい。来年はもっと平和になりますように。
みなさまよい年をお迎えください。
by TSO (2011-12-31 23:39)