<第2部:第7章 隣町への買い物(6):帽子屋さん> [片いなか・ハイスクール]
「片いなか・ハイスクール」連載第305回
<第2部:第7章 隣町への買い物(6):帽子屋さん>
分校のある町と違って、隣町の駅前は商店街が真っ直ぐと続いて活気があった。よろず屋で済ましてる片いなかと違って、各店は売るものをこれと決めている専門店である。
ハウルとクリスティンが商店街を前にして言った。
「ここの町に来ると便利よねえ」
「私たちの町ももうちょっと気の効いたお店あってもいいよね」
リーダーが片いなかの町を援護した。
「そんなことないぞ。こないだとうとう3番ストリートにコーヒーショップの「スター・フロント」ができたんだぞ。開店のときの長打の列見て、この町こんなに人いるんだって思ったよな」
『スターフロント』は有名なコーヒーショップチェーン店だった。そんな店がよく出店計画の許可を降ろしたものだと思う。
「でもあれ、客の7割は丘の上の短大の学生だったぞ」
「ものめずらしさが終わったら客いなくなって潰れっかな」
アロンとミシェルのコメントに、またもリーダーが援護した。
「君達知らないのか。僕らが学校に行っている昼間、あそこは町のお年寄りが社交場にしてるんだ。きっと簡単には潰れないさ」
やや希望も含んだ答えのようだ。リーダーはこの店をずいぶん気に入ってるみたいだ。
そんな話をしながら商店街を中頃まで進んだところで目的の帽子屋が見えてきた。シルクハットの絵がある看板が建物から出ている。
「あ、あそこね」
カーラが店を指差したところで、ハウルは指をくわえて違う方を向いて引き寄せられていった。
そっちの方向からは甘い匂いが漂ってきてた。見るとクレープ屋だ。店員がこれ見よがしにこっちを見て、クレープの生地を焼いてニヤついているところだった。
すかさずクリスティンががしっとハウルの腕を取って引きずり戻した。
「お買い物の後でお茶しましょうね。だから今はだめよぉ」
「ええ~、私のクレ~プ~」
みんなは帽子屋へぞろぞろと入っていった。
ハウルが目標を見つけて突進していった。裕美子もそれに付いていこうと思ったが、クリスティンに腕を取られた。
「ユミちゃん、あっち見に行きましょう」
拉致されるように腕を組まれると、少し前を行くリーダーに付いて奥へ入っていった。ミシェルもその後ろに続いてきた。
リーダーは茶色のつば広帽を手に取ると、上から見たり下から見たりして吟味し始めた。西部劇なんかでガンマンが被りそうないわゆるカウボーイハットだ。
あんまり似合わないなぁとそれを見てたら、さっきまで腕を組んでたはずのクリスティンがいつの間にか離れていて、急に前方に現れると駆け寄ってきた。
「ユミちゃん、これ似合いそうよ!」
ばさっと頭に被せられた。横にある鏡を見たら、大きなムギワラ帽子だった。鏡の中には裕美子の後ろで嬉しそうに笑ってるクリスティンが映ってた。
「ほら!」
鏡の中に、右上の方からにゅっとミシェルの顔が入ってきた。
「小学生みたいだな」
裕美子はかぁっとして恥ずかしくなって
「小学生?やだ、もっと大人っぽいのにして下さい」
と声を上げ、ムギワラ帽子を持ち上げるとクリスティンに返してしまった。
「そんなことないわよ、かわいいと思うけどなぁ」
クリスティンは突っ返されたムギワラ帽子をもったいなさそうに見た。
ミシェルはその辺にある帽子を手当たり次第に取ると、裕美子の頭にぽんぽんと乗せていった。
「これは?こんなのどうだ?ははは!、お前なんでもけっこう似合うぞ」
棒立ち状態の裕美子に次々と帽子を乗せては変えてと繰り返すミシェルに「遊ばれてる!助けて」と心の中で泣き叫んだ。
最後に被せられたのは海賊船の船長が被ってそうなのだった。
「・・・ひどい」
泣きそうになって言ったつもりだが、外からはあまり感情の起伏もなかったように見えたらしい。
「もうちょっとなんか反応してくれよ」
そこへクリスティンが再び突っ込んできて、どんっとミシェルを突き飛ばして割り込んだ。
「2コ前のはよかったわよ~」
海賊船長ハットを剥ぎ取ると先ほどのを被せた。全周に短いつばが少し垂れるようにあるコットンのソフトハットだった。
なるほど・・まとも。
と、鏡に映る姿を見てまだ2秒、
「ああ!ちょっとリーダーのところ行きましょ!」
一瞬にして鏡に映るのはミシェルのおなかの辺りだけになった。
クリスティンにも遊ばれてるのではと心配になった。
連れてかれた先にはメキシコのてっぺんの尖ったつば広帽をかぶる勇夫とリーダーがいた。
『あ、さっきのカウボーイハットよりよく似合う』
「同じ荒野のガンマンならメキシコのツバ広帽子だろ。インディオの方がアジア人に似てるし、ほら、俺も似合うぞ。よう、アミーゴ」
勇夫のおちゃらけた挨拶にチャンは何でか怒ってた。
「ち、ちきしょー!日本人と一緒にすんなー」
すると勇夫の目に裕美子が止まった。にやっと笑って自分の被ってた帽子を取って裕美子のところにやって来て、
「モンゴロイドまだいるぞー」
と思った通り裕美子に被せた。
「ユミちゃん、ばっちり似合ってる!」
そう叫んだクリスティン。どこから持ってきたのかメキシコ風のマントまで羽織られた。
「かわいい!」
裕美子はゆっくりリーダーの方に向くと「日本人・・嫌いなんですか?」と聞いた。
「な、何言ってるんですか、同じアジア人じゃないですか、そんなことあるわけないですよー!」
そして勇夫を指差した。
「国籍、人種関係なく、こういう輩が迷惑なんです!」
「カウボーイハットは似合わねってアドバイスしてやっただけじゃん。こういうのは人選ぶんだって。ミシェル被ってみ」
勇夫から受け取ったカウボーイハットをミシェルはやや斜めに被って、ついっとつばの先を撫でると、親指でくいっと片目だけ出るように持ち上げた。クリスティンが裕美子の後ろから抱きつくようにかぶさって、
「わあ、ミシェルさん、かっこいいー!」
と黄色い声を上げた。確かにリーダーの時と違ってばっちり決まってる。
「クリスティンも何か試してみろよ」
とミシェルに促されると、
「そうねぇ」
と選んできたのは、ゆったりとした大きなつばのキャペリン。大きな花のコサージュが付いてて、セレブな感じを醸し出している。本人のふんわりとした雰囲気にぴったりとマッチして、どこかの映画女優のようだ。くるりと身を回転させた。
「どーぉ?」
思わず裕美子も見入ってしまった。
「クリスティンさん、すごいお似合い・・」
勇夫がリーダーの背をたたく。
「ほうらリーダー、こういうのが似合ってるっていうんだよ」
「ふええぇ」
「それじゃお似合い同士で」
とミシェルがクリスティンの横に並ぼうとしたら、
「ダメよぉ、そんな埃っぽい荒野の用心棒みたいなの。釣り合わないわよ~」
ときっぱり突き放されてしまった。ミシェル少々涙目である。
「いいですね・・あんな風に似合うのがあって」
裕美子がぽそりと呟く。それを聞いた勇夫は
「小泉はこんなの合うんじゃねえか?」
と取ったのは、最初にクリスティンに被せられ、ミシェルに小学生みたいと言われた大きな麦わら帽子だった。
「・・・」
落胆して声も出なかった。
がっかり・・。でもそれが今のわたしってことなのねぇ・・
そこに向こうからカーラとハウル、アロンがやってきた。
『そういえばアロン君見なかったけど、カーラさんたちといたのか』
少し胸がちくちくした。
カーラはつばの短い角張った小さなストローハットを浅めにかぶってた。リボンが赤くって、よく似合ってる。
「カーラさん、かわいい」
「あら・・ユミちゃん、ありがとう」
ハウルはピンクのベースボールキャップである。これも似合ってるうえ、可愛さに活発な印象をいっそう引き立てていた。
アロンも短めの少し垂れたつばが全周にある薄い帽子を被っていた。勇夫に
「ゴアテックス」
と言うと、くるくると丸めるとポケットにしまってしまった。
「へー、かさばんなくっていいな」
勇夫の感想を聞いて、ニカッと笑った。
「雨の中で被っても水通さないんだって」
とハウルが代わりに解説した。ポケットから少しはみ出てるのを裕美子は触ってみた。
「ツーリングに持ってくんでしたっけ。アウトドアの好きなアロン君らしいチョイスですね」
アロンはポケットからもう一度取り出すと、そのまま裕美子に手渡した。
雨でも平気といってもビニールとはぜんぜん違う。やわらかくて、折り曲げてもあまりくしゃっとなることもない帽子だった。
ふーんと思って触ってると、もう片方の手に持っていた、さっき勇夫に渡された大きな麦わら帽子をアロンがすっと取り上げ、裕美子に被せた。
「あっ・・」
やだ、はずかしい。アロン君にもからかわれちゃう・・子供みたいって・・・
そぉっと見上げると、アロンがなんだか不思議そうな顔で見下ろしてた。すぐにっと笑うと、こう言った。
「夏の林の木漏れ日の下にいそうな女の子って感じ」
口を半開きにしてしばらくアロンを見上げてしまった。次第に頬が熱くなってきた感じがして、急いでぱさっとつばを下げて顔を隠した。
やっぱり大人には見られなかったみたいだけど、なんだか、嬉しかった。
次回「第2部:第7章 隣町への買い物(7):夏の旅行計画」へ続く!
前回のお話「第2部:第7章 隣町への買い物(5):隣町へ移動」
対応する第1部のお話「第1部:第10章 リーダー相談する(5):「また、頼むな」「えー?もういいよ」」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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第1部と同じシーンですが、裕美子視点になって詳しく書き加えております。
クリスティンちゃんはリーダーと裕美子ちゃんをもっと接近させようとしているわけですが、すぐ他の事に気を取られちゃってクリスティン・ワールドに行ってしまうので、ぜんぜんうまくいってませんね。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
ぽちっと応援してください。
<第2部:第7章 隣町への買い物(6):帽子屋さん>
分校のある町と違って、隣町の駅前は商店街が真っ直ぐと続いて活気があった。よろず屋で済ましてる片いなかと違って、各店は売るものをこれと決めている専門店である。
ハウルとクリスティンが商店街を前にして言った。
「ここの町に来ると便利よねえ」
「私たちの町ももうちょっと気の効いたお店あってもいいよね」
リーダーが片いなかの町を援護した。
「そんなことないぞ。こないだとうとう3番ストリートにコーヒーショップの「スター・フロント」ができたんだぞ。開店のときの長打の列見て、この町こんなに人いるんだって思ったよな」
『スターフロント』は有名なコーヒーショップチェーン店だった。そんな店がよく出店計画の許可を降ろしたものだと思う。
「でもあれ、客の7割は丘の上の短大の学生だったぞ」
「ものめずらしさが終わったら客いなくなって潰れっかな」
アロンとミシェルのコメントに、またもリーダーが援護した。
「君達知らないのか。僕らが学校に行っている昼間、あそこは町のお年寄りが社交場にしてるんだ。きっと簡単には潰れないさ」
やや希望も含んだ答えのようだ。リーダーはこの店をずいぶん気に入ってるみたいだ。
そんな話をしながら商店街を中頃まで進んだところで目的の帽子屋が見えてきた。シルクハットの絵がある看板が建物から出ている。
「あ、あそこね」
カーラが店を指差したところで、ハウルは指をくわえて違う方を向いて引き寄せられていった。
そっちの方向からは甘い匂いが漂ってきてた。見るとクレープ屋だ。店員がこれ見よがしにこっちを見て、クレープの生地を焼いてニヤついているところだった。
すかさずクリスティンががしっとハウルの腕を取って引きずり戻した。
「お買い物の後でお茶しましょうね。だから今はだめよぉ」
「ええ~、私のクレ~プ~」
みんなは帽子屋へぞろぞろと入っていった。
ハウルが目標を見つけて突進していった。裕美子もそれに付いていこうと思ったが、クリスティンに腕を取られた。
「ユミちゃん、あっち見に行きましょう」
拉致されるように腕を組まれると、少し前を行くリーダーに付いて奥へ入っていった。ミシェルもその後ろに続いてきた。
リーダーは茶色のつば広帽を手に取ると、上から見たり下から見たりして吟味し始めた。西部劇なんかでガンマンが被りそうないわゆるカウボーイハットだ。
あんまり似合わないなぁとそれを見てたら、さっきまで腕を組んでたはずのクリスティンがいつの間にか離れていて、急に前方に現れると駆け寄ってきた。
「ユミちゃん、これ似合いそうよ!」
ばさっと頭に被せられた。横にある鏡を見たら、大きなムギワラ帽子だった。鏡の中には裕美子の後ろで嬉しそうに笑ってるクリスティンが映ってた。
「ほら!」
鏡の中に、右上の方からにゅっとミシェルの顔が入ってきた。
「小学生みたいだな」
裕美子はかぁっとして恥ずかしくなって
「小学生?やだ、もっと大人っぽいのにして下さい」
と声を上げ、ムギワラ帽子を持ち上げるとクリスティンに返してしまった。
「そんなことないわよ、かわいいと思うけどなぁ」
クリスティンは突っ返されたムギワラ帽子をもったいなさそうに見た。
ミシェルはその辺にある帽子を手当たり次第に取ると、裕美子の頭にぽんぽんと乗せていった。
「これは?こんなのどうだ?ははは!、お前なんでもけっこう似合うぞ」
棒立ち状態の裕美子に次々と帽子を乗せては変えてと繰り返すミシェルに「遊ばれてる!助けて」と心の中で泣き叫んだ。
最後に被せられたのは海賊船の船長が被ってそうなのだった。
「・・・ひどい」
泣きそうになって言ったつもりだが、外からはあまり感情の起伏もなかったように見えたらしい。
「もうちょっとなんか反応してくれよ」
そこへクリスティンが再び突っ込んできて、どんっとミシェルを突き飛ばして割り込んだ。
「2コ前のはよかったわよ~」
海賊船長ハットを剥ぎ取ると先ほどのを被せた。全周に短いつばが少し垂れるようにあるコットンのソフトハットだった。
なるほど・・まとも。
と、鏡に映る姿を見てまだ2秒、
「ああ!ちょっとリーダーのところ行きましょ!」
一瞬にして鏡に映るのはミシェルのおなかの辺りだけになった。
クリスティンにも遊ばれてるのではと心配になった。
連れてかれた先にはメキシコのてっぺんの尖ったつば広帽をかぶる勇夫とリーダーがいた。
『あ、さっきのカウボーイハットよりよく似合う』
「同じ荒野のガンマンならメキシコのツバ広帽子だろ。インディオの方がアジア人に似てるし、ほら、俺も似合うぞ。よう、アミーゴ」
勇夫のおちゃらけた挨拶にチャンは何でか怒ってた。
「ち、ちきしょー!日本人と一緒にすんなー」
すると勇夫の目に裕美子が止まった。にやっと笑って自分の被ってた帽子を取って裕美子のところにやって来て、
「モンゴロイドまだいるぞー」
と思った通り裕美子に被せた。
「ユミちゃん、ばっちり似合ってる!」
そう叫んだクリスティン。どこから持ってきたのかメキシコ風のマントまで羽織られた。
「かわいい!」
裕美子はゆっくりリーダーの方に向くと「日本人・・嫌いなんですか?」と聞いた。
「な、何言ってるんですか、同じアジア人じゃないですか、そんなことあるわけないですよー!」
そして勇夫を指差した。
「国籍、人種関係なく、こういう輩が迷惑なんです!」
「カウボーイハットは似合わねってアドバイスしてやっただけじゃん。こういうのは人選ぶんだって。ミシェル被ってみ」
勇夫から受け取ったカウボーイハットをミシェルはやや斜めに被って、ついっとつばの先を撫でると、親指でくいっと片目だけ出るように持ち上げた。クリスティンが裕美子の後ろから抱きつくようにかぶさって、
「わあ、ミシェルさん、かっこいいー!」
と黄色い声を上げた。確かにリーダーの時と違ってばっちり決まってる。
「クリスティンも何か試してみろよ」
とミシェルに促されると、
「そうねぇ」
と選んできたのは、ゆったりとした大きなつばのキャペリン。大きな花のコサージュが付いてて、セレブな感じを醸し出している。本人のふんわりとした雰囲気にぴったりとマッチして、どこかの映画女優のようだ。くるりと身を回転させた。
「どーぉ?」
思わず裕美子も見入ってしまった。
「クリスティンさん、すごいお似合い・・」
勇夫がリーダーの背をたたく。
「ほうらリーダー、こういうのが似合ってるっていうんだよ」
「ふええぇ」
「それじゃお似合い同士で」
とミシェルがクリスティンの横に並ぼうとしたら、
「ダメよぉ、そんな埃っぽい荒野の用心棒みたいなの。釣り合わないわよ~」
ときっぱり突き放されてしまった。ミシェル少々涙目である。
「いいですね・・あんな風に似合うのがあって」
裕美子がぽそりと呟く。それを聞いた勇夫は
「小泉はこんなの合うんじゃねえか?」
と取ったのは、最初にクリスティンに被せられ、ミシェルに小学生みたいと言われた大きな麦わら帽子だった。
「・・・」
落胆して声も出なかった。
がっかり・・。でもそれが今のわたしってことなのねぇ・・
そこに向こうからカーラとハウル、アロンがやってきた。
『そういえばアロン君見なかったけど、カーラさんたちといたのか』
少し胸がちくちくした。
カーラはつばの短い角張った小さなストローハットを浅めにかぶってた。リボンが赤くって、よく似合ってる。
「カーラさん、かわいい」
「あら・・ユミちゃん、ありがとう」
ハウルはピンクのベースボールキャップである。これも似合ってるうえ、可愛さに活発な印象をいっそう引き立てていた。
アロンも短めの少し垂れたつばが全周にある薄い帽子を被っていた。勇夫に
「ゴアテックス」
と言うと、くるくると丸めるとポケットにしまってしまった。
「へー、かさばんなくっていいな」
勇夫の感想を聞いて、ニカッと笑った。
「雨の中で被っても水通さないんだって」
とハウルが代わりに解説した。ポケットから少しはみ出てるのを裕美子は触ってみた。
「ツーリングに持ってくんでしたっけ。アウトドアの好きなアロン君らしいチョイスですね」
アロンはポケットからもう一度取り出すと、そのまま裕美子に手渡した。
雨でも平気といってもビニールとはぜんぜん違う。やわらかくて、折り曲げてもあまりくしゃっとなることもない帽子だった。
ふーんと思って触ってると、もう片方の手に持っていた、さっき勇夫に渡された大きな麦わら帽子をアロンがすっと取り上げ、裕美子に被せた。
「あっ・・」
やだ、はずかしい。アロン君にもからかわれちゃう・・子供みたいって・・・
そぉっと見上げると、アロンがなんだか不思議そうな顔で見下ろしてた。すぐにっと笑うと、こう言った。
「夏の林の木漏れ日の下にいそうな女の子って感じ」
口を半開きにしてしばらくアロンを見上げてしまった。次第に頬が熱くなってきた感じがして、急いでぱさっとつばを下げて顔を隠した。
やっぱり大人には見られなかったみたいだけど、なんだか、嬉しかった。
次回「第2部:第7章 隣町への買い物(7):夏の旅行計画」へ続く!
前回のお話「第2部:第7章 隣町への買い物(5):隣町へ移動」
対応する第1部のお話「第1部:第10章 リーダー相談する(5):「また、頼むな」「えー?もういいよ」」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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第1部と同じシーンですが、裕美子視点になって詳しく書き加えております。
クリスティンちゃんはリーダーと裕美子ちゃんをもっと接近させようとしているわけですが、すぐ他の事に気を取られちゃってクリスティン・ワールドに行ってしまうので、ぜんぜんうまくいってませんね。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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