<第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(6):ホタル見学ツアー> [片いなか・ハイスクール]
「片いなか・ハイスクール」連載第312回
<第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(6):ホタル見学ツアー>
また別の休み時間。文庫本を読んでる裕美子の後ろを通って、勇夫がアロンのところへ来た。
「アロン、近場でホタルいるところ知ってるんだって?」
「え!?もう知れわたってる。だれから聞いた?」
「ハウルからだけど」
「じゃあカーラ経由か」
聞こえてきた会話に裕美子は
『カーラさん、ハウルさんに話しちゃったのか。あの好奇心旺盛な人に知られちゃったら、じっとしてないよねぇ』
と開いてる文庫本のページに向かって思った。
噂をすればハウルがカーラとクリスティンを連れてやってきた。カーラは少し縮こまって申し訳なさそうにアロンに言った。
「ごめんね、ハウルに話したら大ごとになっちゃって・・」
「ハウル~?マジで?放送室行ってホタル見学ツアーの案内とか流してないだろうな」
「し、してない!させないわ、私がそんなこと!」
「掲示板に見学ツアー募集の張り紙があるって聞いたぞ」
『ああ、アロン君、またからかっちゃって・・』
「ハウル!あんたもうそんなことを?!」
冷静を欠いてるカーラ、ハウルに詰め寄った。
「カーラ、またアロンの大ボラよ」
「うそなの?」
「へへっ。まあね」
「ひ、人が本気で申し訳ないと思ってきてるのに!」
『アロン君、そのタイミングでそれは、カーラさんかわいそうですよ・・』
裕美子は額に両手を当てた。
「ごめんごめん。でも一瞬で数人に広まったじゃないか。秘密にしたいわけわかるだろ?」
「・・・ごめんなさい」
ますますカーラは縮こまってしまった。
「しょうがねぇなぁ。ハウル、秘密守れるか?」
裕美子はぱっと顔を上げた。
『も、もしかしてアロン君、みんなを連れて行くつもり?』
ハウルが胸を張って即答した。
「もちろん!まかせて」
どこからその自信がくるのか。最も拡声器になりそうなハウルの顔見て、疑いの晴れきらないアロンが続ける。
「ほんとか?今時点であと誰が知ってる?」
「ここにいるメンバーで全部よ」
くるっとアロンの席の周りに集まってる人たちの顔を見回すハウルは、アロンの横の席の裕美子と目が合った。
「あ・・」
『ハウルさん、わたしも、わたしも行きたい!』
裕美子は目で訴えた。
ハウルの目線の先を追ったアロンも裕美子の存在に気付いた。2秒ほど裕美子を見たアロンは、急いで他にもいないか周囲を見回した。
『アロン君、わたし、だめなの?』
断られたらどうしようと、少し落ち込みそうになって、声を出して聞いてみた。
「わたし、邪魔ですか?」
するとクリスティンが胸の前に拳を並べて裕美子の援護についた。
「ユミちゃん、口固いから平気じゃない?」
『ク、クリスティンさん、ありがとう!』
クリスティンに感謝の気持ちでキラキラした目を向けかけたところで、
「こないだユミちゃん『鬼瓦せんべい』ってものすごく硬いおせんべいをおやつに持ってきてくれたんだけど、ユミちゃん平気で食べてたのよ」
『・・・』
残念な気持ちが感謝の念を押し流してしまった。
「それは歯が丈夫なんじゃないの?それに物理的に固いのと口が固いのは違うと思うけど」
「そっか」
アロンはずいっと裕美子の方に向き直ると、念を押すように言った。
「リーダーに言うなよ」
なんでみんな、わたし見てリーダーのこと言うんだろう。
「・・・わたしプライベートなことでリーダーとお話することないですよ」
するとハウル、何か思い出したようにリーダーを引き込みそうなことを言う。
「そ、そんなこと言わずたまには会話してみたら?」
「え?」
「ハウルー、これ以上広げたくないんだけど」
アロンが止めにかかった。
「ああ、そっか、ここではだめだ」
「??」
裕美子はさっぱりつかめない。
「いい?小泉、リーダー抜きだよ。リ ーダーが感づきそうになってもごまかしてくれる?」
『アロン君が必要以上に広げたくないと言っていることですからね。勿論たとえリーダーでも秘密にしますよ』
「いいですよ」
裕美子があっさり答えると、なぜかハウルとクリスティンは残念そうな顔をしていた。
「よし、金曜の17時に自転車で学校に集合。夜遅くなってもいいな?家に着くの夜10時頃になるよ」
『え?そんなに遅くなるの?・・そっか、そうだよね。暗くならないとホタルは光らないし、日も長くなってるんだものね。お母さんになんて言って出かけよう・・』
「そしたら、うちに泊ることにしておいで。試験勉強するってことでさ。実際泊っちゃってもいいし」
ハウルがそう言った。
『あ、いい口実だわ』
すると勇夫が自分を指さし
「俺も?」
と聞いた。
「ばか?あんた。女の子だけに決まってるでしょ」
「ばかはねぇだろ!話の流れから俺らもかって思ってびっくりして聞いたんだ」
「思うな!」
慌ててクリスティンが間に入って止めた。
「ハウル、怒こらせちゃだめよ。今、勇夫君は大切なアロン君とのパイプなんだから。ホタル連れってもらえなくなっちゃうわよ」
「だって、うぐぐぐ」
クリスティンがハウルの口を塞ぐ。そんな騒がしいのとは一線を画してカーラがアロンに問うた。
「自転車で行くんだ」
アロンが答える。
「歩くには遠いんだよね。自転車で30分はかかるよ。懐中電灯と虫除けスプレーもな。あとみんなお守り1個ずつ」
「なに?それ」
ハウルが怪訝な顔して聞き返す。裕美子はアロンのいたずらな顔を見て『ああ、またですね』と思った。
「あそこお化け出るらしいんだよね~」
「ひ、ひえええええ~」
クリスティンがかん高い悲鳴を上げた。裕美子がすかさず指摘する。
「からかってますね」
「ジョーク、ジョーク。でもホタルの光は淡いから、ほんとに真っ暗な中で移動するからね」
「夕飯どうするの?食べるには早いし、食べてく時間もないし」
「途中でHighWayのサンドイッチでも買ってもってこうぜ」
「おー、いいね」
勇夫が提案したHighWayとは、片いなかには珍しい全国展開しているフランチャイズのサンドイッチ屋だった。中に挟む野菜はこの辺で採れたものを使っていて、おいしいので人気のある店だ。
「むふふふー、金曜が楽しみ~」
「もう一回言うけど、誰にも言うなよ。ってか、はしゃぎすぎて感づかれるなよ。ハウルはそっちの方が心配だ」
「大丈夫よ~、私目立たないから」
そこにいるみんなが一斉に不安な顔をした。
「クリスティン、頼むぜ。お前だけが頼りだ」
「はぁ~い」
次回「第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(7):お泊りの約束」へ続く!
前回のお話「第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(5):無意識の危機感」
対応する第1部のお話「第1部:第11章 7月のホタル鑑賞(2):見学ツアー」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆
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完全に第1部の同名のお話と同じ場面、同じセリフのシーンでした。
「鬼瓦せんべい」が出てましたね。第1部を書いてたとき、ここでひとつクリスティンワールドを入れてやろうととっさに思いついて加えたやり取りだったのですが、第2部を清書するとき、せっかくだから「鬼瓦せんべい」のエピソードを書こうかと思って考えたのが、先の第2部8章(1)~(4)のお話なのでした。結構無理やり作ってましたもんね。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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<第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(6):ホタル見学ツアー>
また別の休み時間。文庫本を読んでる裕美子の後ろを通って、勇夫がアロンのところへ来た。
「アロン、近場でホタルいるところ知ってるんだって?」
「え!?もう知れわたってる。だれから聞いた?」
「ハウルからだけど」
「じゃあカーラ経由か」
聞こえてきた会話に裕美子は
『カーラさん、ハウルさんに話しちゃったのか。あの好奇心旺盛な人に知られちゃったら、じっとしてないよねぇ』
と開いてる文庫本のページに向かって思った。
噂をすればハウルがカーラとクリスティンを連れてやってきた。カーラは少し縮こまって申し訳なさそうにアロンに言った。
「ごめんね、ハウルに話したら大ごとになっちゃって・・」
「ハウル~?マジで?放送室行ってホタル見学ツアーの案内とか流してないだろうな」
「し、してない!させないわ、私がそんなこと!」
「掲示板に見学ツアー募集の張り紙があるって聞いたぞ」
『ああ、アロン君、またからかっちゃって・・』
「ハウル!あんたもうそんなことを?!」
冷静を欠いてるカーラ、ハウルに詰め寄った。
「カーラ、またアロンの大ボラよ」
「うそなの?」
「へへっ。まあね」
「ひ、人が本気で申し訳ないと思ってきてるのに!」
『アロン君、そのタイミングでそれは、カーラさんかわいそうですよ・・』
裕美子は額に両手を当てた。
「ごめんごめん。でも一瞬で数人に広まったじゃないか。秘密にしたいわけわかるだろ?」
「・・・ごめんなさい」
ますますカーラは縮こまってしまった。
「しょうがねぇなぁ。ハウル、秘密守れるか?」
裕美子はぱっと顔を上げた。
『も、もしかしてアロン君、みんなを連れて行くつもり?』
ハウルが胸を張って即答した。
「もちろん!まかせて」
どこからその自信がくるのか。最も拡声器になりそうなハウルの顔見て、疑いの晴れきらないアロンが続ける。
「ほんとか?今時点であと誰が知ってる?」
「ここにいるメンバーで全部よ」
くるっとアロンの席の周りに集まってる人たちの顔を見回すハウルは、アロンの横の席の裕美子と目が合った。
「あ・・」
『ハウルさん、わたしも、わたしも行きたい!』
裕美子は目で訴えた。
ハウルの目線の先を追ったアロンも裕美子の存在に気付いた。2秒ほど裕美子を見たアロンは、急いで他にもいないか周囲を見回した。
『アロン君、わたし、だめなの?』
断られたらどうしようと、少し落ち込みそうになって、声を出して聞いてみた。
「わたし、邪魔ですか?」
するとクリスティンが胸の前に拳を並べて裕美子の援護についた。
「ユミちゃん、口固いから平気じゃない?」
『ク、クリスティンさん、ありがとう!』
クリスティンに感謝の気持ちでキラキラした目を向けかけたところで、
「こないだユミちゃん『鬼瓦せんべい』ってものすごく硬いおせんべいをおやつに持ってきてくれたんだけど、ユミちゃん平気で食べてたのよ」
『・・・』
残念な気持ちが感謝の念を押し流してしまった。
「それは歯が丈夫なんじゃないの?それに物理的に固いのと口が固いのは違うと思うけど」
「そっか」
アロンはずいっと裕美子の方に向き直ると、念を押すように言った。
「リーダーに言うなよ」
なんでみんな、わたし見てリーダーのこと言うんだろう。
「・・・わたしプライベートなことでリーダーとお話することないですよ」
するとハウル、何か思い出したようにリーダーを引き込みそうなことを言う。
「そ、そんなこと言わずたまには会話してみたら?」
「え?」
「ハウルー、これ以上広げたくないんだけど」
アロンが止めにかかった。
「ああ、そっか、ここではだめだ」
「??」
裕美子はさっぱりつかめない。
「いい?小泉、リーダー抜きだよ。リ ーダーが感づきそうになってもごまかしてくれる?」
『アロン君が必要以上に広げたくないと言っていることですからね。勿論たとえリーダーでも秘密にしますよ』
「いいですよ」
裕美子があっさり答えると、なぜかハウルとクリスティンは残念そうな顔をしていた。
「よし、金曜の17時に自転車で学校に集合。夜遅くなってもいいな?家に着くの夜10時頃になるよ」
『え?そんなに遅くなるの?・・そっか、そうだよね。暗くならないとホタルは光らないし、日も長くなってるんだものね。お母さんになんて言って出かけよう・・』
「そしたら、うちに泊ることにしておいで。試験勉強するってことでさ。実際泊っちゃってもいいし」
ハウルがそう言った。
『あ、いい口実だわ』
すると勇夫が自分を指さし
「俺も?」
と聞いた。
「ばか?あんた。女の子だけに決まってるでしょ」
「ばかはねぇだろ!話の流れから俺らもかって思ってびっくりして聞いたんだ」
「思うな!」
慌ててクリスティンが間に入って止めた。
「ハウル、怒こらせちゃだめよ。今、勇夫君は大切なアロン君とのパイプなんだから。ホタル連れってもらえなくなっちゃうわよ」
「だって、うぐぐぐ」
クリスティンがハウルの口を塞ぐ。そんな騒がしいのとは一線を画してカーラがアロンに問うた。
「自転車で行くんだ」
アロンが答える。
「歩くには遠いんだよね。自転車で30分はかかるよ。懐中電灯と虫除けスプレーもな。あとみんなお守り1個ずつ」
「なに?それ」
ハウルが怪訝な顔して聞き返す。裕美子はアロンのいたずらな顔を見て『ああ、またですね』と思った。
「あそこお化け出るらしいんだよね~」
「ひ、ひえええええ~」
クリスティンがかん高い悲鳴を上げた。裕美子がすかさず指摘する。
「からかってますね」
「ジョーク、ジョーク。でもホタルの光は淡いから、ほんとに真っ暗な中で移動するからね」
「夕飯どうするの?食べるには早いし、食べてく時間もないし」
「途中でHighWayのサンドイッチでも買ってもってこうぜ」
「おー、いいね」
勇夫が提案したHighWayとは、片いなかには珍しい全国展開しているフランチャイズのサンドイッチ屋だった。中に挟む野菜はこの辺で採れたものを使っていて、おいしいので人気のある店だ。
「むふふふー、金曜が楽しみ~」
「もう一回言うけど、誰にも言うなよ。ってか、はしゃぎすぎて感づかれるなよ。ハウルはそっちの方が心配だ」
「大丈夫よ~、私目立たないから」
そこにいるみんなが一斉に不安な顔をした。
「クリスティン、頼むぜ。お前だけが頼りだ」
「はぁ~い」
次回「第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(7):お泊りの約束」へ続く!
前回のお話「第2部:第8章 7月のホタル鑑賞(5):無意識の危機感」
対応する第1部のお話「第1部:第11章 7月のホタル鑑賞(2):見学ツアー」
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完全に第1部の同名のお話と同じ場面、同じセリフのシーンでした。
「鬼瓦せんべい」が出てましたね。第1部を書いてたとき、ここでひとつクリスティンワールドを入れてやろうととっさに思いついて加えたやり取りだったのですが、第2部を清書するとき、せっかくだから「鬼瓦せんべい」のエピソードを書こうかと思って考えたのが、先の第2部8章(1)~(4)のお話なのでした。結構無理やり作ってましたもんね。
※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。
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by TSO (2014-04-28 00:03)