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<第2部:第10章 夏のエピソード(15):わたし達の仲を見せつけちゃいます> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第339回
<第2部:第10章 夏のエピソード(15):わたし達の仲を見せつけちゃいます>


昼食を食べた海沿いの食堂の前の木陰にC組のみんなはいた。ダーニャさんと美女さんが額に手をかざしてこっちを見てる。
いよいよだ。

わたしはユカリ。明るくて元気なアロン君の幼なじみにして許嫁。

その美女さんの前まで行ってバイクは停まった。アロン君がわたしを紹介した。

「おまたせ。おさななじみのユカリだよ」

わたしは笑顔を作ると、手を挙げてアロン君とイメージした『ユカリ』になってみんなに挨拶した。

「はぁい、アロン君が世話になってるね、ユカリでーす。よろしくね!」

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メガネしてないので今ひとつ表情がわかんないけど、男女入り交じった声で「うわあっ」と反応があった。

「あなたがシャルロットさん?本当に綺麗な人だぁ」

そしてアロン君の背中にすうっと寄せて

「いつの間にかもてるようになっちゃって~」

とからかった。

「ほ、本当におさななじみ?久々の再開なの?」

美女さんが口ごもりながらわたしの方を指す。わたしは少し照れたようになって答えた。

「3年ぶりでース。大人っぽくなったってほめられちゃった、てへ?」

後ろの方から「かわいー!」と声が上がった。やった。これならアロン君の面目も保てるね。

「許婚だって噂だけど」
「ああ、小さい頃の約束だったんだけど、今会ったらもう、惚れ直しちゃって・・。あは、もう1回約束しちゃった!きゃー」
「わ、分かっただろ、美女。ということだからあきらめろ!」
「ごめんね、話は聞いたけど、あきらめてね!」
「行くぞ、ユカリ!」

アロン君はバイクのアクセルをガオッと煽った。

よかった。髪が乾く前に終わった。
よーし、あともう一踏ん張り。行こう、わたしの好きな人と!

わたしはアロン君の肩越しにダリ・ビーチの端のさらに向こうにある岬を指差して叫んだ。

「アロン君、あそこまで行こう、あの岬!二人っきりで!」
「ええ?!」

アロン君びっくりしたような声を出したとたん、アクセルをさらにガバッと開けた。後ろのタイヤが空回りして、Uターンしようとしてたバイクは後ろの方が豪快に横に滑りし出した。アロン君の体が置いてかれないようにとっさに反応した。わたしもバイクの傾きと横滑りに合わせて重心の位置をずらしてバランスを取る。

程なくスライドの収まったバイクは、その勢いのままさっき来た砂の道を凄いスピードで戻っていった。

夏Epi_01m.jpg





舗装路に出、バオーっと岬の方に向かってバイクは風を切って疾走した。そして海沿いの道ではなく、背後の高台へ登る方へ曲がった。
アロン君が少し後ろに振り向いた。

「ごめん、振り落としちゃうかと思った」
「ううん大丈夫ですよ。でもずいぶん豪快な戻り方でしたね」
「へ、平気なの?・・おま、ナニモノ?」
「え?」

高度を上げて見晴らしがよくなったところに、高台の上を走るスカイラインルートがあった。アロン君はその道を岬に向かう方へ曲がった。
本当に岬まで行くつもりかしら。


ダリ・ビーチの北の突端を越えると、その向こうは岩礁地帯になっていて、岬まで続いている。その途中に見晴台のある駐車場を見つけると、アロン君はそこに入っていった。
ここまで走る間に受けた風で、髪の毛はだいぶ乾いて元のカールした状態に戻りつつあった。
一番奥の柵の所まで行って、バイクは止った。スタンドを下ろしたところで、わたしはバイクを降りた。

「ばれなかったかしら」
「完ぺき!っというか、お前、ナニモノ?」
「はあ?」
「どっちが、本当の小泉なの?」

どっちって、さっきの『ユカリ』といつものわたし?

「今のは・・、相当無理してました」

あんなテンション、とても続けてられないよ。やっぱり、わたしにはアロン君の理想の人にはなれないわ・・。
柵の外を見ると、ダリ・ビーチから向かっていた岬まで、海岸線が一望できた。見晴らし台なだけあって、本当に絶景ポイントだ。真下は穏やかなダリ・ビーチと違って、外海から来るうねりが岩礁に当たって砕け、白い飛沫をあげている。

なんか夢のような凄い体験しちゃった。一瞬でもアロン君の恋人のように振る舞うことができて、こんな格好で抱きついちゃった。アロン君、思った以上にがっしりしてたくましい身体してたなぁ。・・恋人のふりしてるときに、1回でもいいから”好きです”って言ってみればよかった。
アロン君の許嫁についても、たぶん悪い印象は残してないよね?
あ、そろそろ戻ってみんなの前に姿見せないと。

「あの、そろそろ戻りますね、わたし」
「ああ、すっごく助かった。・・・ありがとう。宿まで送るよ」

わたしはパーカーのポケットにしまっていたメガネをかけた。そしてアロン君のバイクに今一度またがった。
もうこれが最後となるだろう。何も断りを入れることなく、今までのようにわたしはアロン君の背中にぴとっと寄り添った。手も、アロン君の胴に回した。さっき『ユカリ』を演じてたときと同じように。

「たのしかったですよ。ちょっといい夢、見させてもらいました」


次回「第2部:第10章 夏のエピソード(16):誘ってくれたら、応えます」へ続く!

前回のお話「第2部:第10章 夏のエピソード(14):理想の娘にだってなっちゃいます」


対応する第1部のお話「第1部:第14章 夏のエピソード後編(7):ユカリ」「第1部:第14章 夏のエピソード後編(8):ナニモノ?」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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前回に引き続き第1部と同じシーンを、裕美子ちゃん視点でより細かく書いた回でした。挿絵も全て第1部のときのものです。
裕美子ちゃんの演じた『ユカリ』は、アロン君にとって結構衝撃的なものでした。見た目も含めアロン君の理想に適った娘だったし、演技とはいえ身近にいる裕美子ちゃんとして実在もするのです。態度には見せてませんが、気になる人として注意を向けられていくことになります。でもその辺はアロン君視点の第1部でもあまり書かれていません。少し気になる存在になったとはいえ、まだ裕美子ちゃんはサブキャラの位置に留めておきたかったからです。なので夏のエピソードの次章からしばらくは、またカーラちゃんがアロン君のそばに戻ってきます。
当時の読者コメントからもカーラちゃん応援がありましたから、作者の目論見はうまくいったということでしょうか。
だいぶ長くなった夏のエピソードも次回で終わりにする予定です。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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