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<第2部:第10章 夏のエピソード(16):誘ってくれたら、応えます> [片いなか・ハイスクール]

「片いなか・ハイスクール」連載第340回
<第2部:第10章 夏のエピソード(16):誘ってくれたら、応えます>


わたしたちは宿に戻ってきた。
スタンドを下ろし、左に傾けてバイクは止まった。
アロン君に抱きつくなんて罰当たりなことしちゃったけど、いい思い出になった。それももう終わりだ。胸いっぱいに詰まったアロン君と二人だけで過ごした時間を思うと、バイクを降りるときの想いはひとしおだった。

「ありがとう、小泉。完璧だった!・・って、小泉って、ナニモノ?」
「はあ?」
「いやぁ、意外性の塊だね」
「さっきから、なんですかそれ・・」

にっとアロン君は笑った。

どういうことかな。まあ悪い方に捉えられたようではないみたいだからいいか。お役に立ててよかった。

「アロン君、もう帰っちゃうんですよね?」
「うん。荷物まとめてこのまま帰るよ。幼馴染と帰ったことになってるから、見られないように道選ばないと」
「わたしも着替えなきゃ」
「それ色っぽくてよかったよ」

わたしはまたかあっと顔が熱くなった。そ、そういえばビキニの格好、パーカーの前全開で、何も隠さずにアロン君の目の前に立ってたんだった。今更ながらに腕を身体に絡めた。

「え、えっち・・人前であんな裸に近い格好させて・・・」
「えええ?!市販品だぜ?デザインも普通だし、パーカーだって一応羽織ってたじゃん!」

そうですけどね、そうなんですけどね、・・・わたしにとっては、露出しすぎです・・・。それでも・・・

「・・・わたしでも、色っぽかった・・ですか?」
「う・・ん。小泉、もっと自信持っていいって」

うふ、大絶賛ですね。

「でも、もうこれみんなの前では着れないですよ。幼なじみが着てたのって気付く人いるかもしれないし」
「あ、そうかあ。また泳ぎに行くっていっても、C組相手のときは着られないのか。もったいないなぁ。もう着ないの?」

わたしは自分の身体を見下ろした。水着もお腹も、細い腕ではぜんぜん隠せてない。あ、そっか、パーカーの前閉めればよかったのか。もう、今更だからいっかぁ・・。

「あ、ありがとう。・・こんなことでもないと、ビキニなんて着ることなかったです。貴重な経験させてもらいました」

でもね、アロン君となら、この水着着てもいいんですよ。わたしたち二人にとっては秘密ではないんですもの。だから・・・あなたが、一緒に泳ぎに行こうって言ったら、着れるんですよ・・。

「・・・そ、その」

うるうるした目でアロン君の方を向いた。最後かもしれないと思って、勇気出して、手で隠すことなく、ビキニ姿で胸を張った。頬は夏の暑さにも負けないほど火照っていた。アロン君も心なしか、赤い顔してる・・。

「す、好きに、なったかも・・・」
「ぇ、え?」
「う、海、・・好きになったかも・・アロン君のおかげで・・」
「ほんと?そ、それはよかった」

誘って、アロン君。今なら、誘ってくれたら、応える。

じいっと、アロン君を見守った。

「まだ今日明日あるじゃん。残りの日楽しめるじゃん。海、いっぱい遊んできなよ。あ、水中眼鏡貸しとこうか?・・くっそー、俺なんで帰っちゃうんだろ」

・・・
ふぅ。
そううまくは、いかないよね・・。

「・・残念、ですね。・・ア、アロン君、いなくなって、寂しいです・・。着替えたら見送るから、待っててくれます?」
「あ、ありがとう。悪いね」

アロン君は荷物を取りに男子が泊っている棟へ、わたしは着替えるために女子の棟へ向かった。





およそ10分後、わたしたちは再び駐車場で落ち合った。アロン君の方が後からやって来た。

「早いね、着替えるの」
「うん・・。あんなちょっぴりしか布がないんだもの。すぐですよ」
「あ、あぁ・・そ、そっか」

アロン君、顔が赤くなってた。かわいい。

バイクに荷物をくくりつけ終わると、アロン君はくるっと回ってわたしに向いた。

「じゃああと1泊、楽しんでな。みんなによろしく」
「はい、気を付けて」

わたしは、さっきまで座っていたバイクのシートを撫でた。

ここに座ってたのは、架空のアロン君の幼なじみ。あれは、もう夢。

「変なことにつき合わせちゃって悪かったね。後でお礼するから」
「ほんと?期待してますね。高ーくつきますから」
「マジ?」

わたしはにこっと笑うと、小さく手を振った。

「そんじゃ」

バオンとエンジンをかけ、大きく手を振ってアロン君は走り去っていった。
後姿を見送り、やがてその姿も見えなくなると、急に寂しい思いで一杯になった。

お礼・・か。

アロン君とは、すごく近くなった気がする。だけど、もうわたしは元のただのクラスメイト。幼なじみでも許婚でもない。
もう、あのようなことは望めない。望んでも、いけない・・。わたしはお荷物にしかならないんだから・・。

「いいじゃない。アロン君の何になれるわけでもないのに、あんなに素敵な時間を過ごせたんだから、あんなにすばらしい思い出を作ることができたんだから。なんの未練があるの?」

そう自分に言い聞かせた。

なのに、なぜ、涙が落ちるんだろう。
どうしてこんなになるほど、好きになってしまったんだろう。


次回「第2部:第11章 ピクニック(1):恐れていた明確なライバル(1)」へ続く!

前回のお話「第2部:第10章 夏のエピソード(15):わたし達の仲を見せつけちゃいます」


対応する第1部のお話「第1部:第14章 夏のエピソード後編(8):ナニモノ?」
☆☆ 「片いなか・ハイスクール」目次 ☆☆



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以上で第2部夏のエピソード終わりです。第1部はこの後みんなのところに戻った裕美子ちゃんの場面がもう少しあります。
さてどうだったでしょうか。こんな重要な二人のシーンを第1部では省いてたなんてずるい、情報操作だー、と言われそうですが・・。裕美子ちゃんを目立たせたくなかった、こうするしか隠し通すだけの技量がなかった、ということです。
次章は、第1部ではアロン君の周りの女の子達を整理する意味合いを持った話となってます。アロン君と関わるC組の女の子達のなかでも、レギュラーメンバーとなるのがハウルちゃんのグループだということを改めて決定付けることが主目的でした。でも第2部は裕美子ちゃん視点なので、その辺は関係なく進んでいきます。


※片いなか・ハイスクール第2部は、第1部のエピソードを裏話なども交えながら本編のヒロイン裕美子の視点で振り返るものです。ぜひアロン目線の第1部のその部分と読み比べてみてください。「対応する第1部のお話」で飛ぶことができます。



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